美しい霧氷の林を抜けて、氷の上を歩こう。くじゅう中岳と結氷した御池へ

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九州本土最高峰、くじゅう中岳。その山頂直下にある御池は、冬には凍結し、氷の上を歩くことができる。霧氷で白く輝く絶景とともに、氷上歩きを楽しもう。

御池を天狗ヶ城から見下ろす。コバルトブルーの瞳のよう(写真=池田浩伸)

 

くじゅう中岳(1791m)は九州本土最高峰であり、1700m級の山々がひしめき合うくじゅう連山のほぼ中心部にあることが山名の由来です。

連山の盟主である久住山は、広い山頂部からたおやかな尾根を久住高原へと落とした優しげな山容で、四季を通じて登山者が多い山ですが、そんな久住山に比べて中岳の頂上部は狭く荒々しい岩肌のアルペン的で男性的な山容を持っています。

また、双耳峰である天狗ヶ城とは美しい吊尾根でつながり、その懐には涸れることがない火口湖の御池(みいけ)を抱き、山岳宗教の聖地であった一帯は神秘的な雰囲気が漂う場所です。

夏であれば、美しいコバルト色の瞳も厳冬期となれば湖面は結氷して条件が合えば氷上歩行が可能になります。

冬山の装備を整えて氷上歩行にチャレンジしてみましょう。

 

モデルコース:牧ノ戸峠~扇ヶ鼻分岐~中岳(往復)

行程:
【日帰り】牧ノ戸峠(30分)沓掛山(45分)扇ヶ鼻分岐(30分)くじゅう分れ(30分)中岳(30分)くじゅう分れ(30分)扇ヶ鼻分岐(45分)沓掛山(20分)牧ノ戸峠(計約4時間20分)

⇒中岳周辺のコースタイム付き登山地図

 

くじゅう中岳と御池での氷上歩行

ポピュラーな登山口の牧ノ戸峠から、中岳までを往復することにします。

牧ノ戸峠は標高1330mに位置し、冬期はタイヤチェーンの携行が必要な場合もあり、事前に道路状況の確認をしておきましょう。

登山口から舗装された歩き難い道が沓掛(くつかけ)山の肩まで続いています。冬は雪が踏み固められ更に歩きにくいのですが、20分ほどの辛抱です。

途中のあずま屋からは、タデ原湿原を見下ろし遠くには双耳峰の由布岳も望むことができます。

ここから、ひと登りで沓掛山の肩に到着です。南の展望がひらけ雄大な広がりを見せる高原の奥に、噴煙を上げる阿蘇山がそびえています。

沓掛山からは、どっしりとした三俣山がみえます。お気に入りの撮影ポイントです(写真=池田浩伸)

 

岩の間を縫うように沓掛山まで進むと、稜線には一筋の道が雪を纏ったくじゅう連山へとのびています。飯田(はんだ)高原や三俣(みまた)山、星生(ほっしょう)山、扇ヶ鼻などを一望できる場所です。私のお気に入りの場所でもあり毎回この場所でくじゅうの名峰たちにレンズを向けます。

慎重に岩場を下って、緩やかな草尾根を西千里浜目指して進みます。

霧氷の中に小さく登山者の姿が見える。扇ヶ鼻分れ手前付近(写真=池田浩伸)

 

すべての樹木が霧氷に覆われている(写真=池田浩伸)

 

強い北風によって霧や雲がぶつかってできる霧氷で、稜線の樹木には氷の花が咲いたような美しい景色に出会えます。

傾斜が緩み平坦な道に変わると西千里浜です。北風は星生山が遮ってくれて日差しを暖かく感じる場所です。

西千里浜までくると、やっと久住山が姿を現す。左に星生崎が衛兵のようにそびえ立つ(写真=池田浩伸)

 

星生山から巨岩が積み重なる星生崎への鋸歯の稜線を見ながら進むと、シュッと尖ってピラミダルな久住山が現れます。久住山を守る衛兵のように厳つい姿の奇峰・星生崎の基部を通って窪地に下ると久住山避難小屋があり、休憩ポイントです。(*冬期トイレ使用不可)

10数名が入れるテーブルとベンチだけの小屋です。混雑時は、ザックは小屋の外においてお弁当や飲み物だけを持ち込み、限られたスペースを皆さんで共有しましょう。

ここからは、風も強くなるので防風対策を再度整えて小屋を出ます。

くじゅう分れを過ぎると、石がゴロゴロとした登りになります。すぐに、左へ行く中岳と久住山への分岐ですが、ガスが出ていると小さな標識を見落としてしまいます。間違えて久住山方向に進んでも、その先にも中岳への分岐があり心配いりません。

右側の深いくぼみは空(から)池と呼ばれます。標高の高い御池は涸れることがないのに対して、一滴の水もないことが由来です。不思議です。

空池の縁を進むと、突然凍りついた御池が現れます。全面結氷を確認して氷上歩行を楽しみましょう。ソリ遊びやアイススケートを真似る人たちの楽しげな声が響きます。

全面結氷した御池を歩く登山者達(写真=池田浩伸)

 

中岳へは岩場の急斜面です。アイゼンをきかせ岩を掴んで登ります。

南に阿蘇山・祖母(そぼ)山などの名峰と北には特徴的な山容の由布岳があり九州本土最高峰からの展望を楽しめます。

下山は往路を戻り、牧ノ戸レストハウスで温かいコーヒーもおすすめです。

 

※積雪期の山は、雪の状態や天候によって、難易度、コースタイムが大きく変わります。計画時には必ず出発前後の天候やエスケープルート、山小屋などの避難できる場所を確認しておきましょう。

 

プロフィール

池田浩伸

佐賀県佐賀市在住。8年間NPOで登山ガイドや登山教室講師を務めた後、2019年くじゅうネイチャーガイドクラブに所属し、阿蘇くじゅう国立公園をメインに登山ガイドや自然保護活動を行なう。著書に『九州百名山地図帳』『分県ガイド 佐賀県の山』(山と溪谷社・共著)がある。

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