これからの登山情報収集術 第2回 花谷泰広さん直伝、インターネットを賢く活用する方法

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文・写真=吉澤英晃

登山を安全に楽しむためには情報収集が欠かせません。書籍や雑誌も存在しますが、今では本を読まない、インターネットだけで充分、という方もいるでしょう。しかし一方で、インターネットの情報をうのみにするな、という声もよく耳にします。

安全に山を登るための情報収集の方法について考えていく本企画。第二回に登場するのは、登山家、山小屋の運営者、山岳ガイドとしてマルチに活動している花谷泰広さん。プロの立場から山登りに必要な情報を集めるコツからステップアップの方法まで、詳しく教えて頂きました。

⇒第1回 ITジャーナリストに教わる信頼性の高い情報を集めるコツ【高橋暁子さん】

花谷泰広

1976年生まれ。2012年のキャシャール峰(ネパール、6770m)南ピラー初登攀で、登山界のアカデミー賞とも呼ばれるピオレドール賞を受賞。世界的な登山家でありつつ、甲斐駒ヶ岳黒戸尾根の七丈小屋の運営管理者、山岳ガイドとしても国内外でマルチに活動している。

 

インターネットを積極的に利用して、たくさん情報を見る

ライター吉澤:安全に登山を行なうためには、コースについて下調べすることが大切です。全体の行程や登山道の状況などを調べるとき、インターネットや紙媒体、特にガイド本などがありますが、どのように情報を集めればいいと考えますか?

花谷さん:今はインターネットを使うのがベストでしょう。便利なサイトがいっぱいあって、「ヤマケイオンライン」「ヤマレコ」「YAMAP」、個人ブログなどもある。ガイド本や雑誌が掲載している情報は古いものが多いけど、インターネットならつい先日の情報も入手できる。世の中のほとんどの情報を調べることができるのだから、これを使わない手はないと思うな。

ライター吉澤:インターネットは主観的、ガイド本などは客観的とよく言われます。その点は注意しなくても大丈夫ですか?

花谷さん:本だから正しいということはないと思っていて、インターネットも含めてひとくくりの情報として見たほうがいいです。そして本も含めて文章になっている情報は、全て主観的だと思っています。書いている人の主義主張や編集部の見せ方とかがあるから、その主観的な情報から平均的な情報を得ようとするなら、いろんな情報源に当たって自分で判断するしかないと思うんですよね。

よくインターネットの情報は誇張が多いとも言われるけど、そもそもいくらでも自己主張が可能なメディアですからそれも当然。だからたくさん調べないといけないし、情報を得ようとするこちら側が賢くならないとダメだよね。ひとつの情報をうのみにしないことです。

ライター吉澤:インターネットでヒットする山行記録に関して言うと、なかには難易度の高いコースを単独で計画したものや、通常1泊2日の行程を日帰りで歩いたものなど、経験の浅い初心者が参考にするにはやや危険だなと思うものも見受けられます。

花谷さん:それも受け取る側の問題だと思っています。書いている人は悪くなくて、そういう記録もあるよねっていう姿勢で見ないといけない。例えば大切な人と気合を入れてデートするとき、ひとつの口コミを信じてレストランを予約して想像していた味と違っても、口コミは非難できないでしょ。それと全く同じ。失敗したくないのなら、やっぱりすごく調べるよね。

 

必要な情報は期間を指定して絞り込む

ライター吉澤:たくさん情報を集めようとしてキーワードだけで検索すると、何千万ものサイトがヒットします。どれくらい調べればいいのでしょうか?

花谷さん:何個以上見ろとは一概に言えないけど、ポイントはいくつかあります。まず古い情報を見ても意味がないから、できるだけ最新の情報を手に入れましょう。それと季節の変わり目は登山道の状況が一変する可能性があるから、違う年の情報も見ておくといいです。例えば5月に計画を立てるのなら前年の5月の記録を見ておくとか。「ヤマケイオンライン」や「ヤマレコ」「YAMAP」は年や月を指定して記録を検索できるし、Googleにもサイトを公開された期間で絞り込む便利な機能がついています。

また情報のなかで一番客観性を保っているのは写真なので、たくさん見ておくといいです。岩場やハシゴ場などの危険箇所を細かくアップしている人もいるから、必要な情報は大体得ることができます。動画も客観性が高いですね。コメントなどは極力無視して、映し出される背景からどういう場所なのかを見ておくだけで素晴らしい資料になります。ここでもひとつの情報に固執せず、たくさん見ることが大事です。

それと山はよく過去の事故から学ぶっていうけど、こういう事故があったとか知っておくこともすごく大事だと思います。インターネットで検索すると敗退記とかもヒットするから、見ておくといいですね。

Youtubeの検索結果画面。登山コースを紹介する動画が数多くアップされている

 

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プロフィール

花谷泰広

1976年生まれ。2012年のキャシャール峰(ネパール、6770m)南ピラー初登攀で、登山界のアカデミー賞とも呼ばれるピオレドール賞を受賞。世界的な登山家でありつつ、甲斐駒ヶ岳黒戸尾根の七丈小屋の運営管理者、山岳ガイドとしても国内外でマルチに活動している。https://www.hanatani.net/

安全登山について考える。これからの登山情報収集術

登山を安全に楽しむためには情報収集が欠かせません。今や情報はインターネットから入手するのが当たり前の時代。書籍や雑誌という紙媒体も存在しますが、本を読まない、インターネットだけで充分、という方もいるでしょう。しかし、インターネットの情報だけを鵜呑みにするな、という意見もよく耳にします。なぜインターネットの情報を信じてはダメなのか? 書籍や雑誌はもう役に立たない? 全4回に渡るこの連載では、ITジャーナリスト、山岳ガイド、書籍の著者の方々に話を聞きながら、安全に山を登るための情報収集の方法について、改めて考えていきたいと思います。

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