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北海道に新たなロングトレイルプロジェクト! 「屈斜路カルデラ外輪山トレイル」とは?

NIPPONのロングトレイル ~「屈斜路カルデラ外輪山トレイル」~
ガイド・記録 2020年02月18日

北海道に新たなロングトレイルのプロジェクト「屈斜路カルデラ外輪山トレイル」がスタートしました。国内外各地のロングトレイルを歩いてきた、ロングトレイルハイカーの齋藤正史さんが現地を視察。これから広がる新しいトレイルの構想について関係者を取材しました。この様子を3回に渡って紹介していきます。

 

2019年10月5日、北海道東部の美幌町では、前日からの雨が止むことなく降り続いていた。

新たなトレイルを体験する2日間のイベント、「屈斜路カルデラ外輪山トレイル 2days」の 2日目は、美幌峠から藻琴山まで、トレイル調査で刈り込んだルートの約4㎞を歩くイベントが予定されていた。

バスで移動してきた30人ほどの参加者、関係者とともに美幌峠に降り立つと、強風で打ち付ける雨が、行く手を阻むように僕たちを出迎えたのだ。霧が濃く、外輪山から見下ろせるはずの屈斜路湖の姿はおろか、10m先さえ見えない視界だった。

イベント当日は生憎の天気。霧が濃く、屈斜路湖は見えなかった(写真=齋藤正史)


それでも、本州の込み入った地形とは全く違う、そのダイナミックで穏やかな地形を体感すると、広大なアメリカのゆったりしたトレイルが瞬時に思い出されたのだった。もし、この霧が晴れていたら、朝日は、夕日はどんな具合に見えるのだろうと考えながら、僕は歩いていた。

実際、後日関係者から届いた、晴れた日の写真には、僕が期待していた以上に、アメリカのトレイルに似た美しくダイナミックな景色が広がっていたのだった。これから延びていく、新たなトレイルを考えると、ワクワクと期待が膨らんでいくのだった。

 

屈斜路湖は世界有数のカルデラ湖。どんなトレイルが作られるのか?

僕がこの「屈斜路カルデラ外輪山トレイル 2days」のイベントについて、連絡をいただいたのは、確か2019年の春頃だったと記憶している。信越トレイルの代表理事で、北海道大学教授の木村宏さんからのご紹介だった。

10月に2日間で開催される「屈斜路カルデラ外輪山トレイル2days」のイベントで、ロングトレイルについての話をして欲しい、という依頼だった。

津別町のチミケップ湖原始林公園には、クマゲラ、キタキツネ、エゾリスなどの野生動物が生息(写真提供=津別町)


話を聞いたとき、失礼ながら、美幌町が北海道のどこにあるのか、わかっていなかった。グーグルマップで確認すると、どうやら北海道の東部、北根室ランチウエイのすぐ近くにあるようだった。

僕は、2019年6月に全線オープンとなった「みちのく潮風トレイル」を、9月から11月まで、2か月かけてスルーハイキング(単年で一気に歩きとおす歩き方)する計画を立てていて、既に関係各所への連絡や手配を始めていた頃だった。

しかし、海外のロングトレイルを歩いているのではなく、日本国内、しかも東北地方を歩いているのだから、むしろ北海道は遠くない距離だ。

北の大地にどんなトレイルが作られるのだろう、という好奇心も手伝って、「みちのく潮風トレイル」を一時中断して北海道に行き、再び戻ってきて「みちのく潮風トレイル」を歩くという予定を組んだのだった。

女満別空港の近くにあるひまわり畑。絶好の撮影スポット(写真提供=大空町)


では、「屈斜路カルデラ外輪山トレイル」とはどのようなルートで、どのような構想なのか。まずは探ってみたい。

「屈斜路カルデラ外輪山トレイル」は、阿寒摩周国立公園内にある、日本最大のカルデラ湖である屈斜路湖の北西側を囲むように配置された、外輪の山に作られるトレイルだ。全長約20kmのトレイルの整備が構想されている。

屈斜路湖の中には日本一大きな湖上の島、中島があり、その姿は、アメリカの西側にあるパシフィック・クレスト・トレイルの「クレーターレイク国立公園」を思わせるほどの優美さだ。僕は、これはきっといい道になる、と確信できた。リムから望む湖面はさぞかし綺麗だろうと容易に想像がついた。

津別峠から見る朝日。中島が見える景色はまるでクレーターレイク国立公園のようだ(写真提供=津別町)


ロングトレイルハイカーとして、各地を歩くだけでなく、トレイル作りにも関わってきた僕が、このトレイルがどうやって整備されようとしているのかを探っていこう。

 

実は古くからあったというトレイル構想。いくつもの偶然が重なってようやく動き出した

このトレイルが整備される母体になるのは、屈斜路湖外輪山を形成する美幌町・津別町・大空町による美幌地区三町広域観光協議会という団体だ。この協議会は1988年に3町の観光振興を図ることを目的に発足した。各町の連携による観光・物産交流の他、屈斜路カルデラ外輪山(藻琴山・美幌峠・津別峠)を中心とした観光資源の保全・整備なども行っている。

屈斜路湖のある3町の位置(画像提供=美幌観光物産協会)


この協議会の調整役として中心的に活動しているのが、美幌観光物産協会事務局長の信太真人(しだ・まこと)さんで、今回紹介する「屈斜路カルデラ外輪山トレイル」構想の中心人物だ。お話を伺うと、トレイル構想が生まれたのには偶然が幾つも重なっていることに気づかされた。

屈斜路湖カルデラ外輪山トレイルの位置(画像提供=美幌観光物産協会)


まず、トレイル構想を語る上で重要な要素があった。それは、政府全体で、国立公園を「ナショナルパーク」としてのブランド化を目指し、8か所の国立公園で実施する「国立公園満喫プロジェクト」だ。8カ所の国立公園の一つに阿寒摩周国立公園が選ばれたことが、トレイル構想を具体的に進める発端となった。

「国立公園満喫プロジェクト」は、道管轄では予算が少なく、なかなか整備することができなかった国立公園面積の少ない北西側、つまり、美幌町・大空町・津別町の屈斜路湖外輪山エリアでの施設等の修理・修繕などを実現させた。このことが、埋もれていた自然遊歩道計画を具体的にあぶりだすことになる。

雲海も美しい屈斜路湖。津別峠ルートから(写真提供=津別町)


また今回取材してみて驚いたのが、制定から87年もの歴史がある阿寒摩周国立公園において、国立公園制定当初から既に外輪山の遊歩道計画がルートとして地図上に落とされていたということである。昔から計画があったとする証言は多方面で聞くそうだが、どれもはっきりしたものがなく、地図に示されていた以外に、公式に文章などの記録は残っていなかった。この遊歩道を近年初めて公にしたのは、美幌観光物産協会、現会長の三坂重弘(みさかしげひろ)さんだった。

また、時を同じくして信太さんは、冬場の外輪山の縦走やバックカントリーでの利用者があることに着目していた。信太さんは、利用するハイカーに声を掛け、意見を聞き、実際に歩いたりした。

三坂さんが遊歩道計画を公にし、信太さんがトレイル構想と結びつけたことで、美幌地区広域三町広域観光協議会で、屈斜路カルデラ外輪山トレイル構想が議論され、2018年に屈斜路カルデラ外輪山トレイル構想がスタートした。

大空町ルートの藻琴山から眺める屈斜路湖(写真提供=大空町)


2018年に観光協議会の設立が30周年を迎えたこともロングトレイル構想へ向かわせる重要なピースであった事は容易に想像がついた。

国立公園設立時の計画に遊歩道の計画が記されていたこと。阿寒摩周湖国立公園が、政府主導による「国立公園満喫プロジェクト」に指定され、外輪山周辺の懸案事項であった園地の整備修繕により環境を整えたこと。プロジェクトに指定されたことで、管轄する釧路自然環境事務所の職員が増員されたこと。観光協議会の30周年と重なったこと。信太さんがトレイル構想以前に外輪山を歩いていたこと・・・。

偶然にもこれらの各点が線となり、ロングトレイル構想に繋がっていったのだ。

そして、屈斜路カルデラ外輪山トレイル構想は、いろいろな人々を結びつけ、実現にむけて動き出したのだった。

オリオン座と美幌峠(写真提供=美幌観光物産協会)


次回は、関係者のインタビューを交え、屈斜路カルデラ外輪山トレイル構想の「今」に迫りたい。

 

教えてくれた人

齋藤正史(さいとうまさふみ)

1973年、山形県新庄市出身。ロングトレイルハイカー。
2005年に、アパラチアン・トレイル(AT)を踏破。2012年にパシフィック・クレスト・トレイル(PCT)を踏破。2013年にコンチネンタル・ディバイド・トレイル(CDT)踏破し、ロングトレイルの「トリプルクラウン」を達成た。日本国内でロングトレイル文化の普及に務め、地元山形県にロングトレイルを整備するための活動も行っている。

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