新潟から山形。冬を迎えた月山、朝日連峰を登り、再び、新潟の山へ。田中陽希さん旅先インタビュー第22弾!

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佐渡島を往復した田中陽希さんは、雪が本格的に降る前に、月山や朝日連峰の山々を登ろうと考えた。北上しながら、300名山をひとつひとつ登っていった。11月上旬から12月上旬までの8座を振り返る。

POINT
  • 雪が迫る季節、新潟から山形へ。山を選びながら登る
  • 本格的な雪山となった月山。60kmもの大縦走となった朝日連峰
  • 再び新潟に戻り、交流会を挟んで、雪山を2座、登頂した

 

山の季節は秋から冬へ。二王子岳を登った後は、山形の三百名山へと進む

移動と雨停滞のあと、11月10日に登ったのは、二百名山の二王子岳でした。二百名山のときは36℃の酷暑の中、奥胎内から37kmを迂回して表参道から登ったため、1日の行程は60kmを超えました。今回は、宿から登山口まで片道15km、山含めて40kmの行程です。二王子神社からの往復コースで登りました。

この日は日曜で登山者も多く、山頂は30人以上の登山者で賑わっていました。こんなに賑やかな山頂に立つのは久しぶりです。

晩秋の二王子岳は、雲で覆われ寒かったので、避難小屋で休憩してから下山しました。二王子岳から見た飯豊連峰には雪が積もった様子でした。

二王子岳のあとは、山形の月山まで行くことを決めていたので、新潟県・新発田市から山形県へ、2日で80km、風で荒れる日本海の海岸線を北上しました。

奇岩、岩礁、洞穴が連なる笹川流れ


村上市にある名勝で、天然記念物の「笹川流れ」を見ました。岩礁帯は川の河口から離れていて海水がきれいなところでした。塩工場にも立ち寄り、工場オリジナルの藻塩で、ゆでたまごをいただきました。

300名山の旅では初めて山形県に入った


11月13日、山形県の1座目として、三百名山の摩耶山に登りました。5時半に宿を出て2時間走り、登山口へ向かいます。標高は1020mですが、平地移動で3日間・約100kmの疲れもあって、予想よりも険しいと感じました。里に近いところの紅葉がきれいでした。

三百名山の摩耶山に初めて登る。月山が白く見えた


この日は、小春日和のおだやかな1日で、山頂からは見事な展望が広がっていました。しかし、翌日から寒気が入る予報となっていて、まるで嵐の前の静けさ。心中は穏やかでいられません。朝日連峰、飯豊連峰、月山は雪をかぶって白くなっているのが確認できました。

冷たい初冬の雨の中を進む


摩耶山を越えて、さらに月山が近づいてきました。一晩でさらに白くなったように見え、不安と緊張感がますます高まりました。

 

月山へは1200年の歴史ある峠道を越えて。下見登山で確実に登る!

11月16日は、湯殿山信仰の宿場で、茅葺き民家が名所になっている鶴岡市朝日村の田麦俣地区から、月山の麓・志津への移動でした。1200年の歴史のある「六十里越街道」で峠を越えて、五色沼近くの宿に進みました。雪の上には大きなクマの足跡がありました。この日の朝についたばかりの足跡で、まだ冬眠していない熊の痕跡でした。

六十里越街道では、新雪の上に大きな熊の足跡がついていた


初冬の月山は初めてなので、11月17日は、北西の強風の中、牛首下まで下見登山をしました。日曜だったこともあって、冬でも人気の月山には、登山者だけでなく、スキー、スノーシューで遊んでいる人たちがたくさんいました。

あわよくば登れるかもと期待しましたが、強烈な突風に遭い、下見を終えて下山しました。月山ではこれまでの靴から雪山用の登山靴に替えました。硬く重い靴を久しぶりに履いたのと、雪山ということで、いつもより疲れを感じました。

この冬初めての本格的な雪山登山となった。牛首下まで登ってルートや雪の状況を確認した


翌日、午前中は天気安定の予報でした。前日に下見したことで心に余裕を持って順調に進むことができました。

山頂付近は、風が強く、厳冬期の様相で、大きなエビの尻尾もできていました。閉山したら山頂の神社に入れないと思ってましたが、入って良いと聞いたので、山頂神社にもお参りし、5年ぶりに月山に登頂しました。また、ビジターセンターの方に事前に聞いたところ、この時期は登山者が少なく、スキーの人もまだ来ない、月山が1年で一番静かな時とのこと。まさにそのとおりで、ほかの登山者もなく、月山を独り占めできた気分でした。

登頂後は風が強く、体感気温が低いため、すぐに下山し、昼過ぎには宿へ戻りました。下山後には雨になったので、天候の運に恵まれた山行でした。

5年ぶりに登頂。初冬の月山に登ったのは初めて。不安と緊張から解放された


数日、月山の麓で休養と停滞をしました。一晩で景色が一変し、1日で20〜30cm積もりました。月山が終わって良かったのですが、朝日連峰縦走に向けて再び緊張が高まりました。

 

悪天による停滞を挟んで、雪の朝日連峰60kmの大縦走!

11月21日、朝起きるとさらに20~30cm積もっていました。朝日連峰の縦走に備えて65リットルのザックに変わり、荷物も増え、水抜きでも約20kgの大荷物になりました。朝日連峰に向けて大井沢地区へ移動しましたが、重さに慣れる必要がありました。

朝日連峰縦走に向けての荷物のチェック。雪が増えた中を大きなバックパックで出発した


翌日、4日分の食料を持って朝日連峰の縦走へ出発しました。山麓の集落から雪でした。登山口は積雪10cm、標高1000mで30cm、トラバースの吹き溜まりでは腰までの深さになりました。スノーシューも使って歩き、障子ヶ岳を越えて、12時前に天狗角力取山(てんぐすもうとりやま)に着きました。自分の感覚では、スピード感を感じられなかったのと、目的の小屋が小さく遠く見えて、少し弱気になりました。

いざ、朝日連峰へ。久しぶりの「雪パック」


細い稜線を進んで行きました。高松峰の手前の直登を登るのに20分以上かかり、この日の宿泊地、狐穴避難小屋には16時半前に着きました。小屋前の水は凍結してなかったのが救いでした。
(編集部注: 登山口から狐穴避難小屋までは、夏のコースタイムで12時間半を要するルート)

朝日連峰2日目は、朝から晴れでした。避難小屋に荷物を半分デポして、まず以東岳を往復します。4年前はガスがかかっていて以東岳は見えませんでしたが、今回はしっかり見えています。稜線は風が強く、縦走1日目は全力で登ったので、疲れが全身に残っていました。

朝日連峰縦走2日目、雪のコンディションは細かく変化する。以東岳から大鳥池が見えた


2時間弱で、二百名山の以東岳の山頂に立ちました。展望良く、月山、鳥海山や飯豊連峰、そして頸城山塊までもかすかに見えました。大朝日岳の方は雲が湧いて、姿が見えませんでした。

1時間半で狐穴避難小屋に戻り、すべての荷物を背負って、大朝日岳山頂避難小屋へ向けて縦走を再開しました。

いくつものピークを越えて、大朝日岳避難小屋まで進む


南から生ぬるい風があって、雪がゆるみ、歩きにくい状況でした。前日からの疲労もあって、我慢の後半戦となりました。途中の龍門避難小屋で休憩して、エネルギー補給をして、さらに、西朝日、中岳と、夏のコースタイムより短いペースで進みました。この日は16時過ぎに目的地の避難小屋に着きました。
(編集部注: 標準コースタイムで約11時間を要するルート)

縦走3日目、予定通りに起きてみましたが、天候が悪いことがわかりました。登る前から予想されていた天候でした。百名山、二百名山のとき、朝日連峰は濃霧や雨だったので、天候回復を待つことにして、「2日停滞」と決めました。

翌日も、午前は生ぬるい風でしたが、午後から予報どおり気温が下がり、冷たい強風が吹きました。

頂上直下の避難小屋で2日間の停滞となった


小屋内でも息が白く、小屋を揺らすほどの風が吹きました。風速20~30mはあったのではないかと思います。雪国の小屋なので頑丈でした。

11月26日、寒気が入って前日より10℃以上寒く、小屋の窓が凍るほどでした。

風はやみ、晴れたので、7時前に小屋を出発。10分で大朝日岳に登頂しました。百名山のときは雨天で展望がなかったので、大朝日岳からの360度展望は初めてでした。

山頂で30分、展望を楽しんでから、祝瓶山へ出発した


縦走の最後となる祝瓶山に向けた、北大玉山、大玉山では見事な霧氷が見られました。

快晴の中、三百名山の祝瓶山に登頂しました。

見事な霧氷が見られた


祝瓶山は、「東北のマッターホルン」と呼ばれるほどの、岩の鋭鋒で、朝日連峰の中では顕著な形をしていて、かっこいい山でした。暖かい雨が降ったため、山頂付近に雪はありませんでした。

この日は、山形県小国町に下山したのですが、下山中は次の飯豊連峰のことで頭がいっぱいでした。
(編集部注:この日の行程の標準コースタイムは、下山口の五味沢までで11時間半)

 

飯豊連峰は諦め、杁差岳は1泊2日で。展望の良い、三百名山・粟ヶ岳へ進む

2泊3日+2日停滞で、4泊5日、約60kmの朝日連峰縦走を終えた田中陽希さんは、その後、再び県境を超えて新潟県に戻ってきた。

飯豊連峰の縦走を考えていたが、縦走には、最低でも3泊4日が必要だ。山は冬となり、1週間かかることも考えなくてはならないが、この季節は1週間の天気の安定が見込めないと考え、冬の飯豊連峰縦走を諦め、先へ進むことを決断した。

山形県から新潟県へ。色違いの鉄橋が見られた

 

*****

 

飯豊連峰の縦走を諦め、杁差岳のみを1泊2日で登る計画に変更して、11月30日に入山しました。ロードを14km移動し登山口に立ちました。気温は低いのですが、登れば汗をかきます。ペースを抑えぎみに、汗をかきすぎないようにゆっくり登りました。

前杁差岳までは、ペース良く2時間で進みました。雲の中、ホワイトアウト気味の中で、杁差岳には、15時半に到着しました。

山頂直下の避難小屋に泊まりましたが、風速は約10m。小屋内でも−6℃でした。夕食後、外に出ると満天の星空と、新潟市側の夜景が見えました。

朝、小屋を出てみると飯豊連峰が朝日をあびて焼けていた


翌12月1日の朝、小屋を出てみると、飯豊連峰が朝日をあびて焼けていました。雪煙が上がっていて、美しさとともに、山全体の雰囲気が厳冬期であることを感じました。

もう一度、杁差岳山頂に立ち、飯豊連峰主稜線を遠望しました。小屋に戻って朝食をとり、3度目の山頂へ。山頂からの景色を、じっくり見てから下山しました。

「12月はあと何日、今日みたいな朝を迎えられるだろうか」と考えて、宿ではどっと疲れがでました。

冷たい雨の中を移動し、再び新発田市へ戻ってきた


新発田市、阿賀野市と移動していく中で、白鳥の飛来地、瓢湖水きん公園に立ち寄りました。白鳥に餌やりができるので、やってみたのですが、圧倒的な数のカモが奪ってしまいます。

白鳥の飛来地だが、日中いる白鳥はわずか


白鳥は、日中はこの湖からあちこちに行っていて、夕方に戻ってくるそうです。この日の白鳥の数は4200羽と書かれていました。多い日には1万羽の白鳥が飛来するそうです。

12月5日には、新潟県五泉市へ入りました。翌日、新潟県では初めての旅先交流会が開かれるためです。五泉市とは、2017年の冬に講演会を行った縁があり、今回の交流会が開催されることになりました。200名以上の方が集まってくださり、みなさんから力をいただくことができました。

五泉市での交流会には200人以上が集まった


12月8日は32kmの移動となりました。お店がなく、空腹の中、三条市でちまきと笹団子を売っているお店がありました。笹団子は、ヨモギではなく、ごんぼっ葉(オヤマボクチ)を練り込んでいて苦味が少なく、味が違うのがすぐ判りました。きんぴらを中身にした笹団子は、この集落特有のようで、美味しかったです。

土地特有の味をいただく。冬の歩き旅ならではの出会いがあった


12月9日は、三百名山の粟ヶ岳に登りました。五百川登山口から往復するルートです。標高1300m弱の山ですが、麓から見上げると2000m級の山に見えるほどの雪化粧でした。

地元の山岳会の方、5、6人でトレースを付けておいたと、地元の観光協会の会長さんから置き手紙をいただいていました。標高500mから積雪量が増え、灌木、笹、ブッシュを覆うように雪がかぶさって樹氷のような森になっていました。

トレースを利用させてもらったこともあり、3時間半で登頂できました。

眺望が抜群の山で、守門岳、浅草岳、御神楽岳がよく見えました。どの山も12月1週目の降雪で雪をかぶったようでした。山頂でのんびり2時間過ごして下山しました。

初めて登った三百名山の粟ヶ岳。山頂からの眺望は抜群だった

 

*****

 

粟ヶ岳のあと守門岳、浅草岳へと登る計画の陽希さんは、道の閉鎖と宿泊施設のシーズン終了のため、魚沼市へ迂回した。峠のトンネルを越えて魚沼市に入ると積雪量が増えたという。週間予報に晴れマークが一つもないという中で、果たしてどんな登山が待っているのだろうか・・・・。

日本一大きな「栃尾あぶらげ(油揚げ)」をいただく

 

取材日:2020年1月6日
取材協力=グレートトラバース事務局

 

関連リンク

人力10,000kmの山旅。日本3百名山ひと筆書きに挑戦中の田中陽希さんを応援しよう!
もっと知りたいという方は、ウェブサイトで。
グレートトラバース事務局ウェブサイト
http://www.greattraverse.com/

 

今回のレポートで登った山のまとめ

二王子岳 [11月10日]

摩耶山 [11月13日]

月山 [11月18日]

以東岳 [11月23日]

大朝日岳 [11月26日]

祝瓶山 [11月26日]

杁差岳 [11月30日]

粟ヶ岳 [12月09日]

プロフィール

田中 陽希

1983年、埼玉県生まれ、北海道育ち。学生時代はクロスカントリースキー競技に取り組み、「全日本学生スキー選手権」などで入賞。2007年よりチームイーストウインドに所属する。陸上と海上を人力のみで進む「日本百名山ひと筆書き」「日本2百名山ひと筆書き」を達成。
2018年1月1日から「日本3百名山ひと筆書き グレートトラバース3」に挑戦し、2021年8月に成し遂げた。

https://www.greattraverse.com/

田中陽希さん「日本3百名山ひと筆書き」旅先インタビュー

2018年1月1日から、日本三百名山を歩き通す人力旅「日本3百名山ひと筆書き グレートトラバース3」に挑戦中、田中陽希さんを応援するコーナー。 旅先の田中陽希さんのインタビューと各地の名山を紹介!!

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