ようやく見つけた、冬のテント泊での快適アイテム。エクスペドのビビィブーティを瑞牆山でテスト

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今月のPICK UP エクスペド/ビビィブーティ

価格:7,400円(税別)
サイズ:Sサイズ:25.5cmまで、Mサイズ:27.5cmまで、Lサイズ:29.5cmまで

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ようやく見つけた。ありそうでなかった「防水ブーティ」

山岳系ライターという仕事柄、僕はアウトドアメーカー各社の展示会は、毎回必ずチェックしている。年間に目にする山道具は、軽く数千種になるはずだ。それなのに、いくら僕がほしいと思っていても、「ありそうで、ない」「どこかで作られていそうなのに、どこも作っていない」という“幻”の山道具は存在する。似た機能を持つものを発見しても、なにかが微妙に異なっていたり、大事な機能性が足りなかったりして、次の展示会こそはと新製品の登場を期待しているのだが……。少なくてもここ10年以上、探し続けているモノもあったのである。

そんな「ありそうで、ない」山道具として、僕がもう何年も何年も待ちぼうけを食らっていたモノのひとつが「防水性のブーティ」。オーバーシューズとして歩行中に登山靴の上にかぶせるタイプではなく、宿泊時に足元を温める用途のものだ。これまでに宿泊用の保温力が高いブーティはいくつもあったが、どれも「防水」ではなかったのである。だいぶニッチな製品かもしれないが、僕自身の欲しい気持ちとしては、トップクラスに位置していたモノなのだ。

保温性を上げるためにダウンなどの中綿を入れてふっくらとしたブーティは、日本ではその見た目から「象足」などとも呼ばれている。ブーティの裏側に滑り止めが施されている製品が大半で、テントや小屋内だけではなく、雪の上をダイレクトに歩く際にも使えるのだが、雪上で長時間過ごすことは想定していないために、わざわざ手間のかかる防水仕様にはしていないのだ。厳寒の雪山ではブーティの下の雪が体温で溶けたとしても微量であり、たしかに一般的な使用では、防水性なしでも十分だろう。だからこそ、「防水性のブーティ」は開発されず、幻のニッチな製品なのである。

だが末端冷え性の僕は、テント内からトイレに出たり、アンカーを打ち直すときなど以外に、出発前にテントを撤収するときなども登山靴をはかず、ブーティのまま作業をすることが多い。また、冷えに強い人よりも温かくなってきた時期(例えば、残雪期なども)までブーティを使うため、陽射しで緩んだ雪の上でブーティを履いていることも珍しくない。その結果、生地の縫い目などからブーティ内に水が浸透し、なかまで濡れてしまうことも多々あった。だから、「防水性のブーティ」はどうしても欲しかったのである。この気持ち、冷えに強い人が多い男性よりも、女性のほうが共感してくれるかもしれない。

そんななか、昨年とうとう発見したのがエクスペドの「ビビィブーティ」だ。防水性のシェルで本体が作られ、しかも生地の縫い目にはテープを貼り付けてしっかり防水処理。これこそは僕が待ち望んでいた文字通りの「防水ブーティ」なのである。

 

使用前に細部をチェック。防水仕様や防寒ダウンシューズとの組み合わせは?

ビビィブーティをひっくり返してみると、縫い目の上にテープが張られているのが一目でわかる。じつはこれまでに「素材だけは防水」のブーティは存在していたが、縫い目は防水処理していないという中途半端な製品で、溶けた水が縫い目から浸透してくるのが避けられなかった。しかし、これなら問題ないはずだ! 

また、底面には厚みがある素材が使われ、そこには黒い面ファスナーが付けられている。詳しくは後述するが、この面ファスナーは内部に組み合わせるスリッパのようなインソールを固定するものである。

しかし、このビビィブーティに保温力はない。これは防水性に特化した“アウター”としてのブーティで、保温力は“インナー”として重ねて使う別の中綿入りブーティに託している。つまり、重ね着して使うブーティの外側の部分だけなのである。

エクスペドからはインナーとして使える「ダウンソック」(下の写真)も発売されている。今回はテストのためにビビィブーティとともに取り扱い会社からお借りしたが、このダウンソックではなく、もとから自分が持っているダウンブーティなどと合わせて使えるのだ。

あらかじめ防水性と保温性を兼ね備えたブーティを作ると高価になるだろう。しかし、このようにセパレートになっていれば、アウター部分のみ買えばよく、リーズナブルだ。中綿入りブーティの種類によって保温力を変えることができ、応用力も高くなる。

残雪期のようにそれほど寒くない時期であれば、中綿入りブーティではなく、厚手のソックスでも十分に足元の暖かさをキープできそうである。

中綿を省いたシェルのみのブーティゆえに、収納時はコンパクトだ。

ちょっとしたサンダル程度の大きさで、装備が多くなりがちな雪山に持っていっても、あまり負担にはならないだろう。

さて、僕が今回このブーティのテストのために向かったのは、奥秩父の瑞牆山だ。今年は記録的な暖冬で日本中どこも積雪が極端に少なく、僕は瑞牆山荘近くの駐車場から歩き始めたものの、周囲に積もる雪はわずかしかない。

それでも事前情報で、宿泊予定の富士見平のキャンプ地にはいくらか雪が積もっていると予想していたのだが……。

前日には雨も降ったようで、キャンプ地にはほとんど雪はなし! 雪山テント泊でこそ実力を試せる防水ブーティだというのに、これではどうしようもない。

テストの計画は破綻した。だが、この記事の締め切りまでに改めて取材日を設ける余裕はない。そこで、僕はビビィブーティを雪が残っていると思われる山頂まで持っていき、そこで履いてみることにした。実際には必要ない場所とタイミングで使ってみるわけで、少し無理やりなテストとなるが、お許しいただきたい。

 

暖冬のテント場に雪はなく…。雪をもとめて、山頂付近で使用感をチェック

富士見平のキャンプ地にテントを残し、瑞牆山山頂へと出発する。暖冬といえども山中の気温は低く、日が当たりにくい場所では登山道がガチガチに凍結している。アイゼンがなければまともには歩けない。

とはいえ、アイゼンが本当に必要な区間は、山頂までの時間にして5分の1程度。僕は冬の瑞牆山に何度も登っているが、2月でこんな状態なのは初めてだ。

山頂に到着し、周囲を見渡す。背後にある金峰山も稜線が少し白いばかりで、あとは夏山のように青々としている。

瑞牆山山頂の巨岩もほとんど雪をかぶらず、すっかり乾燥していた。だが、岩と木のあいだには吹き溜まった雪もそれなりにあり、なんとか最低限のテストはできそうであった。

ここで改めてビビィブーティを確認したい。ブーティ内を覗き込むと、なにやらオレンジと黒の物体が見えるのがわかるだろう。

これはブーティの裏側に面ファスナーで固定できるインソール的なもの。フォーム材がオレンジ色の布地で覆われ、中央にストラップ状のものが付けられていて、足にかけることもできる。こうなると、インソールというよりもスリッパに近いパーツといったほうがよいだろう。

左側が足を置く表面。右側が裏面で、長方形に黒い部分がブーティ本体と固定できる面ファスナーがある。

オレンジ色のストラップ部分は足にかけることができるとはいえ、ソックス程度の厚みの場合のみ。ダウンソックや他社のダウンブーティのように分厚いものを足に履いているとストラップに足が入りきらない。

ダウンソックなどを合わせた場合は足をストラップにかけず、そのまま上に置いて使うということだろう。

今回はテストのため、上の写真と同様の状態、つまり左足はソックスだけ、右足はダウンソックを履いたまま、ビビィブーティを足にかぶせた。これで保温力や歩きやすさに左右の足で差が出てくるはずである。

ソックスだけの左足はビビィブーティがつぶれ、ダウンソックを履いた右足は膨らんでいることが上の写真からわかるだろう。

そんなわけで、山頂付近の雪が積もっている場所で、テストを開始。普段の雪中テント泊のときにキャンプ地まわりを歩くときのように、そこらをうろついてみる。

山頂付近には、日陰で固く凍り付いた場所、日向で雪が緩んだ場所、平坦な場所、傾斜面など、思いのほかバリエーションがあり、結果的にはテストの場としてはなかなか悪くないのが救いだ。

はじめに実感したのは、雪上でのビビィブーティの滑りにくさである。雪質にもよるが、これまでに僕が使ってきたブーティよりも雪の上を歩きやすい。雪上での摩擦力を高めるために、底とサイドの下側を硬くて表面をざらつかせたTPU素材にしてあるからだ。

先に述べたように、このビビィブーティは防水性に特化した「外履き」用である。保温性は別の中綿入りブーティに託しているから、テント内で「内履き」にすることはなく、もちろん履いたまま寝袋の中に入ることもない。だから、このように硬い素材の素材を使えたわけなのだ。

ところで、ビビィブーティにはS~Lのサイズ展開があり、自分の足長(つま先とかかとの間の長さ)に合わせて選ぶことができる。ただ、どんなサイズを選んでも、横幅(足幅および足囲)にはかなり余裕がある。インナーとしての中綿入りブーティのボリュームをつぶさず、保温力を最大に発揮させようという設計なのだろう。だが、それゆえに、ビビィブーティのなかは広く、足がズレやすい。

このときのテスト時、左足はソックスだけなので、内部のインソール状のスリッパと連動してビビィブーティと足を一体化させることができていた。そのために足があまりズレず、歩きやすかった。だが、右足には柔らかくてふっくらしたダウンソックを履いていたのでビビィブーティと一体化させられず、歩行中に大きくずれてしまうことも多かった。

上は、そんな状態を説明するために歩行中のフィット感とズレを再現した写真だ。左足はビビィブーティが長靴のようにきれいに足を覆っているが、右足は内部でズレ、サイドまで雪上に押し付けられてしまっている。スリッパのストラップを伸縮性のものにするなどの工夫があれば、ダウンソックを履いたままでもあまりズレなかったと思われ、もう一工夫あるとうれしかった点だ。

山頂には2時間弱も滞在し、太陽光線で表面が溶けて湿っぽい雪の上を歩いたり、あえて吹き溜まりに足を突っ込み、長時間立ち尽くしてみたりもした。

すると、さすがにソックスだけの左足は冷たさを感じてくる。しかしダウンソックを合わせた右足は冷たくはない。なにより水分が浸透してくる感じはなく、さすが防水性ブーティだ。ふくらはぎまで延びたシェルは2か所に付けられたドローコードでフィットでき、隙間から雪が入り込むこともない。じつに快調なのである。

ただし、メイン素材の生地は柔らかでそれほどの強度はなさそうだ。しかし、実際にテント泊をするときに、このまま外部を歩くのは短時間である。薄手で柔らかな生地でもあまり傷むことはないだろう。

 

氷を割って沢水へ浸ける。ちょっと意地悪なテストの結果は…。

“アウター”としてのブーティであるビビィブーティ。ウェアでいえばハードシェルジャケットのようなものである。保温力は内側に合わせる別のブーティやソックスが受け持ち、ダウンジャケットのようなインサレーションとしての役割を果たす。保温性と防水性を兼ね備えたブーティを一足で済ませられれば便利だという考えもあろう。だが登山のときにあらかじめハードシェルとインサレーションを一体化してあるウェアは着心地が悪くて実用的ではなく、ふたつのウェアを別に用意して重ね着したほうが状況に応じて使いやすいのは言うまでもない。その点、ビビィブーティは、内部に合わせるものの幅が広く、なにより希少な防水性だ。「ありそうで、なかった」装備として、こんなテストだけでもポテンシャルの高さを見せてくれた気がする。

さて、十分なテストができたとはいいがたいが、いつまでも山頂にいるわけにはいかない。日が傾き始める前に、僕はキャンプ地へと戻ることにした。

山頂から一気に沢まで下り、ひとまず休憩。沢の氷の下には水が流れており、ここで僕は新しいテストをしてみることにした。氷を割って表面に出た水の上にビビィブーティを置き、より厳しい条件で防水性をチェックするのである。

しかしビビィブーティだけでは浮力が出てしまい、水の上で浮いてしまう。そこで周囲に落ちていたこぶし大の石を内部に入れてから、10分ほど放置してみた。

その結果は……。

あれ!? 水が浸透し、内側が濡れてしまっていたのでした……。生地の縫い目には防水テープが張られ、水が漏れてくる箇所はないはずなのだが。

じつは防水性の面で見落としていた箇所があった。おそらく水が漏れてきたのは、防水性の生地同士を縫い合わせた場所ではなく、底面に面ファスナーを取り付けている部分。この部分の縫い目は防水処理されている様子はなく、この縫い目でできたたくさんの小さな点から、水が染み出してきたに違いない。実際、この10分で濡れたのは、ビビィブーティの底面だけである。ちなみに、水滴がつくほど濡れたのは片足だけで、もう一方はわずかなものだった。

いずれにせよ、ちょっと防水性を過信しすぎたか? ビビィブーティは雪上での使用を想定したもので、そもそも水の中を歩くために作られたわけではない。想定外の水圧がかかる水の上に置いて水漏れしてきても、ビビィブーティを責めるのは酷というものだ。事実、山頂の緩んだ雪の上では浸水が気にならなかったのだから、完全防水ではないとしても、“防水性が高い”といっても差支えはないだろう。むしろ、こんな目に合わせて、ビビィブーティに申し訳ないと思ってしまった。

 

まとめ:ビビィブーティは「夏山におけるサンダル」と同じ。テント泊を快適にしてくれるアイテムだ

テントに戻った僕は、雪がほとんどないキャンプ地で夜を迎えようとしていた。無理にビビィブーティを履いてテントの前に座り込んでみたものの、このまま周囲を歩くはずもない。

悔しまぎれのイメージカットともいえない写真だが、一応は記念も兼ねて自撮りしておく。

テント内ではビビィブーティを脱ぎ、いっしょに借りていたダウンソックのみで過ごす。

今回は脇役としての登場だが、ダウンソックの保温力は高く、既存のダウンブーティを持っていない人は、ビビィブーティといっしょに購入するのもよさそうだ。

テントの外にビビィブーティを置いてみる。キャンプ地に雪さえ多ければ、これをダウンソックの上にかぶせて外に出てみたかったな。

それにしても、このようにテント前にビビィブーティがあると、これは夏山におけるサンダルのような存在なのだと実感する。テント泊時のサブシューズとして用意しておくと、重くて湿ったブーツをキャンプ地で履く必要がなく、快適に周囲を動きまわれる。

「ありそうで、なかった」ものとしてのビビィブーティは、僕が期待していた機能性を十分に持っていた。もちろん底面からの水漏れがなければ言うことないが、そこまで期待はしてはいけない。

防水性の向上よりも、むしろ僕が修正してもらいたい部分があるとすれば、ダウンソックなどを合わせたときにビビィブーティ内で足がズレやすいという問題だ。インソール的なスリッパのストラップを長くしたり、伸縮性を持たせたりして、フィット感がもっと向上するとよさそうである。

雪山用の防水性ブーティという地味すぎる山道具を欲している登山者はあまりいないかもしれないが、僕にとっては本当に喜ばしいことであった。選ぶ道具に多様性が生まれたということだけでも、大いに評価できるのではないだろうか。

 

今回登った山
瑞牆山
山梨県
標高2,230m

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プロフィール

高橋 庄太郎

宮城県仙台市出身。山岳・アウトドアライター。 山、海、川を旅し、山岳・アウトドア専門誌で執筆。特に好きなのは、ソロで行う長距離&長期間の山の縦走、海や川のカヤック・ツーリングなど。こだわりは「できるだけ日帰りではなく、一泊だけでもテントで眠る」。『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、『トレッキング実践学』(peacs)ほか著書多数。
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高橋庄太郎の山MONO語り

山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!

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