地域の山を、関係する人々が分かち合って守り育てる――、つくばトレイルガーディアンズの活動で気付いたこと

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「どうしたら山で事故に遭うリスクを軽減できるか」を考えるこの連載も7回目となりました。これまでは、私たち登山者にどういう心構えが必要なのだろうかといった点を中心にお話して来ましたが、今回は環境保全や登山道、道標のあり方を模索し、そうした目標を参加型で実現すべく活動を開始した「つくばトレイルガーディアンズ」の皆さんと一緒に山を歩くなかで、気づいた点を記します。

筑波山、女体山から男体山を眺める。この双耳峰の姿が、いにしえから人々に親しまれてきた

 

少し前の話(2019年12月22日)になりますが、「つくばトレイルガーディアンズ」の皆さんと一緒に、筑波山を歩く機会がありました。この団体は「シェア・ザ・トレイル」という考えのもと、サスティナブル(保全)、セーフティ(安全)、シェア(共有)という三つの「S」を、つくばルールとして徹底すべく、環境保全のためのパトロール活動や、その成果を共有していくことを目的として、まさにこの日に設立されました。

筑波山は標高こそ877mと、さほど高くはありませんが、関東平野にそびえる名峰として親しまれており、皆さんのなかでも、訪れたことがある人は多いと思います。私自身も、この筑波山麓に生まれ育ち、今は筑波大学の大学院で勉強させてもらっていることもあり、さっそく、そのメンバーの一人に加えていただきました。

「地域の山のことを、地域の人たちが考えていく」といった活動に強く共感を覚たことはもちろん、「筑波山で公式に認定されている10のトレイルコースにおいて、山道とサインの整備を、自然工法・参加型で集中的に実施する」といったプロジェクトの内容にも素晴らしさを感じたからです。

「多様な利用者が増えるとともに、守るべきルールの浸透が困難となり、神域や保護地区への無断立ち入りや、植生の持ち帰り、伐採などの自然環境の破壊、多様な利用者間のトラブルも増えつつあり、事故も増加傾向にある。貴重な自然環境が守られ、安全でみんなが楽しめる山であり続けるためには、地元を含め関係する多様な人々が共有できるルールを定めるとともに、それを浸透させていく仕組みが必要」
といった概要で語られているメンバーの皆さんの考え方は、「どうしたら山で事故に遭うリスクを軽減できるか」という本コラムの趣旨にも通じると思いました。

筑波山には貴重なブナ林も残る。今回パトロールした東筑波ハイキングコースの上部にて


筑波山の自然を楽しむ人々の行動は、山歩きばかりではありません。本格的登山のためのトレーニングであったり、トレイルランナーによるランニングや、サイクリストによるヒルクライムであったりと、極めて多種多様です。地元を含め関係する多様な人々が、筑波山の魅力を分かち合い、共有できるルールを定めるという、登山者目線だけに偏らない考え方にも新しさを感じます。

また、現在の山岳遭難事故のほとんどは「道迷い」に原因があり(警察庁生活安全局生活安全企画課が、2019年6月30日に発表した「平成30年における山岳遭難の概況」によると、2018年度の発生件数2661件のうち、「道迷い」が37.9%)、もし「道に迷う」ということが防げたら、事故の減少につながるのではないだろうかと私は常々考えています。

そのためには登山道や道標の整備も重要ですが、筑波山では、茨城県による「筑波山・霞ヶ浦広域エリア観光連携促進事業」を通じて、より多くの人が快適に楽しめることを目指して、登山道のサインに関するガイドライン策定に向けた取り組みが行われていることにも興味がわきました。

新しいサインの検討のために、東筑波ハイキングコースには原忠信筑波大学芸術系准教授のデザインによる新サインが仮設置された(2021年3月まで)


「つくばトレイルガーディアンズ」のキックオフ当日は、9時半につつじヶ丘に集合し、設立ミーティングを行った後、パトロールメンバーは、東筑波ハイキングコースを下ってから山頂連絡路へと登り返し、他の方々が先行した山頂御幸が原に再集合。昼食ミーティングの後に、女体山方面を経て白雲橋コース~おたつ石コースと回り、再びつつじヶ丘へと下山しました(⇒その様子は、こちらをご覧ください)。

倒木を道のわきに片づけたり、林道が陥没してしまった地点を確認するなどしつつ、実際にトレイルを歩かなければ判らなかったことなどを共有し合いました。

その途上、普段は辿る人も少ない山頂東側の登山道が沢を横切る所で、なにやら水に入り込んで作業をするお二人と出会いました。真冬に沢で何を? と思いましたが、聞くと土砂の堆積で淀んでしまった水の流れを取り戻すための活動をなさっている「筑波山の水脈を守る会」の人だとのこと。しばらく作業を手伝わせていただき、土砂と落葉で淀んだ沢床を、さらさらと音を立てて流れ出した透き通った水に感動しました。

「そうか、この地域の自然や文化を守るために、こんなに沢山の方々が日々、汗を流していたのだ」。私はますます故郷の山、筑波山が好きになりました。男女川の源流域から霞ヶ浦や太平洋まで、フィールドを愛する皆さんの素晴らしい活動が永遠の流れになるように、自分もなにかさせてもらいたいと思いました。

 

プロフィール

久保田 賢次

元『山と溪谷』編集長、ヤマケイ登山総合研究所所長。山と渓谷社在職中は雑誌、書籍、登山教室、登山白書など、さまざまな業務に従事。
現在は筑波大学山岳科学学位プログラム終了。日本山岳救助機構研究主幹、AUTHENTIC JAPAN(ココヘリ)アドバイザー、全国山の日協議会理事なども務め、各方面で安全確実登山の啓発や、登山の魅力を伝える活動を行っている。

どうしたら山で事故に遭うリスクを軽減できるか――

山岳遭難事故の発生件数は減る様子を見せない。「どうしたら事故に遭うリスクを軽減できるか」、さまざまな角度から安全登山を見てきた久保田賢次氏は、自身の反省、山で出会った危なげな人やエピソード、登山界の世相やトピックを題材に、遭難防止について呼びかける。

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