登山シーンも見逃せない『山岳捜査』

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評者=木元康晴

山岳捜査

著者:笹本稜平
発行:小学館
価格:1700円+税

警察官の職種は幅広い。駅前の交番にいるお巡りさんも、白バイ乗りも、犯罪者に立ち向かう刑事もみな警察官だ。本書の主人公も、長野県警の警察官。ただし警察という職場には魅力を感じずに警察官になった、山岳遭難救助隊の隊員だ。山好きが高じて、山に関わる仕事をしたいとの一念が、隊員を志した理由だ。

その主人公が、プライベートで鹿島槍ヶ岳をめざした際に、遺体を発見する。しかも遭難者ではなく、他殺体だ。現場の地形は峻険で、殺人事件を担当する捜査一課も簡単に手は出せない。そこで主人公は捜査本部からの要請を受け、ひとクセある刑事とともに、遺体とそれに絡むさまざまな謎を追うことになる。

事件捜査に関しては門外漢の山岳救助隊員が、山の知識と技術とを駆使して謎に迫っていく姿は、登山者としてはつい応援したくなる。実際に山岳救助に携わる、県警航空隊のヘリコプター・やまびこ2号の活躍シーンが多いのもうれしい。そして絡み合った伏線が、一気に収束する最後の謎解きも鮮やかで、推理小説としても一級品だ。

ところで登山者がこの種の山岳ミステリ小説を読むときには、必ず気になるポイントがある。それは登山シーンのリアルさだ。いくらストーリーがおもしろくても、あり得ない描写が出てくると一気に興ざめしてしまう。

本書の舞台は、冬から残雪期へと移り変わる後立山連峰。雪山登山では人気のエリアなので、登った経験をもつ人は多いだろう。その実際の経験と本書の描写とを比べて、リアルさを確かめてみるのも興味深いに違いない。

山と溪谷2020年4月号より転載)

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