ときどきでてくる「しゃきっ」という食感が楽しい。地元食材を使ったチャーハンを徳澤園「みちくさ食堂」で

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下山後に味わいたい粋なごはんを紹介するライター西野 淑子さんの「下山メシのよろこび」。今回は、槍ヶ岳の取材終わりで上高地 徳沢へ。カメラマンさんのおすすめは・・・

日本で5番目に高い槍ヶ岳(3180m)。屹立した山容は北アルプスのシンボル

 

登山を始める前、上高地は「山岳リゾート地」という認識だった。バスツアーなどで訪れ、河童橋の周りを散策し、梓川と穂高連峰を眺める、という感じ。登山を始めてから、上高地は槍ヶ岳や穂高連峰など、北アルプス南部の山々へ向かう登山口という認識に変わった。

明神、徳沢、横尾までは樹林のなか、比較的平坦な道。ところどころで視界が開け、穂高の山々が見えたり、明神岳の岩峰が姿を現したりする。登り始めるときは、歩きながら身体を温め、これから向かう山への気持ちを高めていく。下山をするときは、楽しかった山行の余韻を楽しみながら、帰りのバスの時間を少しだけ気にしながら、この道を歩く。

テント泊のキャンパーや登山者で賑わう徳沢キャンプ場

バスターミナルから約2時間の地点にあるのが徳沢。のびやかな広場になっていて、宿泊施設が2軒建つ。快適なキャンプ場もある。ここに泊まって豊かな山の一夜を過ごす人、山の行き帰りに休憩を取る人、多くの人でいつも賑わっている。

 

山から下りてきて徳沢までたどり着けば、ゴールまではあと2時間の平地歩き。少し安心して、一息ついておいしいものが食べたくなる。おあつらえ向きに建っているのが、氷壁の宿 徳澤園の食堂だ。雰囲気のよい木造の建物。店内もウッディで洒落ているし、注文するカウンターもカフェバーのようで素敵なのだ…とはいえ、山帰りの人も気軽に入れる、落ち着いた居心地のよい空間だ。

氷壁の宿 徳澤園に併設する「みちのく食堂」は朝7時からの営業

 

カウンター上にある木彫り看板には豊富なメニューが並ぶ(撮影=石森孝一)

 

ガイドブックの取材で槍ヶ岳に登り、下山時に徳沢でランチにした。 「野沢菜チャーハンが名物なんですよ」 カメラマンさんに教えていただいたとおりに野沢菜チャーハンをオーダー。長野だから野沢菜なのかな。高菜チャーハンとかと同じような感じかな。今回はよく歩いたから、米をがっつり食べられるのはいいな。ワクワクしながら待つことしばし、チャーハン登場。

自家製野沢菜を使った野沢菜チャーハン(撮影=石森孝一)

野沢菜やにんじんなど、具材が細かく刻まれている。さっそく一口。あ、思ったよりも優しい味だ。チャーハンってパンチが効いた、ガツンと主張する味のついたご飯のイメージだけど、この野沢菜チャーハンは野沢菜の風味がふんわり、マイルドな感じ。野沢菜の味わいや香ばしいしょう油の匂いで、和のテイストが強いように思う。口の中でご飯がほろっとほどけ、身体にじわっと染み渡っていくようだ。刻んだ野菜の彩りもよく、ときどき、野沢菜の「しゃきっ」という食感が出てくるのも楽しい。

夢中で食べ進め、完食。思っていたより量が多かったな。。美味しかった。 …と思っていたら、近くのテーブルからふんわりと漂ってきたカレーの匂い!なんていい匂いなんだ!思わず振り向いてしまう。チャーハンでいい感じにお腹いっぱいになっているのに、人の食べているカレーがおいしそうに見えて仕方ない。次に来たときはカレーにしよう。密かに心に誓った。

お店を出ると、外のテラスでは美味しそうに生ビールを飲んでいるグループもいた。ああそうか、泊まればここでビールも飲めるのか。今日の山を振り返りながら、ここで飲む下山後ビールは最高ではないか。テントでも山小屋にでもいい、いつかここに泊まる。密かに心に誓い、上高地へ向かったのだった。

 

後日、再び「みちくさ食堂」にて。心に誓ったとおり、カレーとビールを堪能

氷壁の宿 徳澤園

徳沢キャンプ場そばに建つ宿泊施設で、井上靖の小説「氷壁」ゆかりの宿としても知られる。併設の「みちくさ食堂」では、うどんやそばなどの軽食や、喫茶メニューが味わえる。手作りスイーツがメニューに並ぶことも。

住所:長野県松本市上高地
電話:0263-95-2508
HP:https://www.tokusawaen.com/
営業期間:4月下旬~11月上旬
※新型コロナウイルス感染予防対策の関係で、営業期間などに変更がある場合があります。ご利用の際には、ホームページより最新情報を確認してください。

プロフィール

西野 淑子(登山ガイド・フリーライター)

初心者向け登山ガイドブックや山岳雑誌などで取材・執筆を行なうフリーライターで、登山ガイドの資格を持つ。関東近郊を中心に低山歩きからアルパインクライミングまで楽しむオールラウンダー。気の合う仲間と山を歩き、下山後においしいものでお腹と心を満たすことに無上の喜びを感じている。

下山メシのよろこび

登山後、すなわち下山後の楽しみの一つが、山麓にあるグルメ。ご当地の名物料理もあれば、鄙びた駅前に立つ小さな食堂で出す普通の料理まで、その楽しみは幅広い。 登山ガイド・フリーライターの西野淑子が下山後に味わった数々のとっておきのお楽しみを紹介する。

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