鈴鹿山脈は、三重と滋賀の県境に南北に約60km延びる山系で、北は滋賀の最高峰・伊吹山へと通じ、南は三重の布引山地に接している。主な主稜上の山は、北から霊仙山、御池山、藤原岳、竜ヶ岳、釈迦ヶ岳、御在所岳、鎌ヶ岳、仙ヶ岳などが挙げられる。主稜外の山以外にも、派生した尾根から雨乞岳、綿向山、入道ヶ岳、野登岳などがある。
名古屋方面からのアクセスが良いために、特に中京圏の登山者に人気の鈴鹿山脈だが、1964年から34年間続いた鈴鹿セブンマウンテン大会により、全国にもファンが広まった。鈴鹿セブンマウンテンとは、御在所岳、藤原岳、鎌ヶ岳、竜ヶ岳、入道ヶ岳、釈迦ヶ岳、雨乞岳の七山のことで、大会が終了した現在でもその呼び名が用いられている。
鈴鹿山脈が多くの登山者から人気となる理由の1つが、この山域ならではの地質による独特な山容が挙げられる。北部の山は石灰岩、南部の山は花崗岩帯が主で、これらがロッククライミングの名所・御在所岳の藤内壁や、渓流美を楽しめる竜ヶ岳の宇賀渓や、カルスト台地の藤原岳や御池岳などを生み出している。
さらに気候を見ると、冬は琵琶湖から抜けてくる日本海からの季節風の影響で、太平洋に面していながら冬は積雪が多く、標高の割に降雪量が多いのが特徴だ。一方で夏は暑さは厳しい。高温多湿な場所なので、谷筋などはヤマヒルが多いので注意が必要だ。
日本海側の気候と太平洋側の気候、さらに太平洋の黒潮の影響も相まって、日本海型、高山性、中部温帯固有種など、新種をはじめさまざま植生が見られ、花に恵まれた山系でもある。
1968年には国定公園にも指定され、初心者から上級者まで多くの登山者を魅了し続ける鈴鹿山脈。今回は鈴鹿セブンマウンテンの七山と鈴鹿山脈の最高峰・御池岳の計八山を紹介しよう。
鈴鹿山脈の主峰といえるのが御在所岳だ。かつて修験者によって開かれ、山頂には御岳神社が祀られる由緒ある山である。現在では山頂にロープウェイが通じ、山頂一帯は公園や三重県唯一のスキー場も整備され、多くの行楽客で賑わっている。
登山ルートは中道、裏道など数本あり、両隣にある鎌ヶ岳や国見岳からの縦走も可能だ。山中には「負ばれ岩」や「地蔵岩」などの奇岩怪石、スリル満点の「キレット」など、異質な景観が登山者を誘う。
琵琶湖や鈴鹿の山々や伊勢湾を望む展望に加え、人気のクライミングスポットの藤内壁を見上げながら進むザレ場など、ベテラン登山者でも十分に楽しめる。
春には山腹をアカヤシオやシロヤシオの花が彩り、秋には紅葉が岩壁を紅葉が染め、冬には美しい樹氷の銀世界が広がるなど、四季を通じて美しい景色が出迎えてくれる。
標高は1209mで歩行時間は約4時間程度なので日帰り登山が一般的だが、山中にある山小屋で宿泊することも可能だ。また、山麓には湯の山温泉街があるのでぜひ立ち寄ろう。
高低図
鈴鹿山脈北部に位置し、石灰岩質の台地状の山容をもつ藤原岳。この地質と例年1m以上の積雪をもたらす日本海側からの寒気の影響により、春にはフクジュソウやセツブンソウをはじめ、ヒロハノアマナ、ミノコバイモ、エンレイソウ、夏にはテニンソウやバイケイソウなど、多くの珍しく美しい花々が咲く。花の百名山に選ばれるほど、珍しい植生が豊富な山だ。
ほかにも、イワヒメワラビの群生や、オオイタヤメイゲツやサワフタギ、ウリハダカエデ、ハシドイ、シナノキなど小高木の樹林も豊か。山頂手前の避難小屋周辺に広がる山上台地にはカレンフェルトが広がり、開放感たっぷりな景色に目を奪われる。
山頂は標高1140mとなるが、時間があれば、最高地点となる天狗岩(1165m)にも足を伸ばそう。避難小屋から往復1時間ほどの距離で、開かれた場所からは竜ヶ岳や静ヶ岳の展望が広がっている。
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古来から、和歌や漢詩にも多く詠まれ、「釜嶽」や「冠峰」などの別称もある鎌ヶ岳。鈴鹿でいちばんの鋭鋒で、最もアルペンムードが漂う山容をもつ山だ。
全体は花崗岩からなり、山腹は風化による崩壊が激しいが、山の東面に広がるブナ原始林は県の天然記念物に指定されている。春にはアカヤシオやシロヤシオ、シャクナゲ、タムシバなどの花が楽しめ、また日本海側多雪型のハイイヌガヤやヒメモチ、オオカニコウモリなども見られる。
人気の山でいくつものルートが開かれているが、ここで紹介しているコースは最短で山頂に立てるルートだ。鎌ヶ岳の肩・岳峠から延びる鎌尾根は、鈴鹿一のやせ尾根で、岩登り気分を味わえる。
ほかにも御在所岳からの縦走をはじめ、水沢岳との縦走や、夏には涼を感じながら歩く谷ルートもチョイスできる。
高低図
かつての雨乞い信仰により、竜神の宿る山として登られるようになった竜ヶ岳。山頂部はササに覆われ、高原の丘のようにな半円系をしており、春に山腹にシロヤシオが咲く風景は草原で草を食むヒツジに喩えられる。
だが、山頂部の穏やかさに反して、南面には蛇谷やホタガ谷、天狗谷など峻険な谷も多い。道迷いから谷に滑落する事故も起きているので十分に注意ながら進む必要がある。
登山コースは、眺めのいい尾根歩きと急登が続く遠足尾根や、竜ヶ岳唯一の奇岩・重ね岩を通る最短コースの表道、他に金山尾根、中道登山道の4つある。
登山口にもなっている山麓の宇賀渓谷は奇岩、渕、滝が断続した景勝地で、他にない渓流美を楽しめる。
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標高906mと1000mに満たない山で、鈴鹿山脈の中では初心者向けとされる入道ヶ岳。一方で花の山としても人気で、全山に群生するアセビ(馬酔木)は県の天然記念物にも指定されている。なお、アセビの花季は3月下旬から4月初旬だ。
さらに、猿田彦命に由来する椿大神社を山頂に祀ることから天孫降臨の伝説も残り、歴史好きにも魅力的な山である。
開放的なササの平原が広がる山頂は、伊勢平野を見下ろす大展望を楽しみながら20分ほどで周回できる。その山頂の丸い形が入道の頭のようだと、その名が付けられたという。
登山コースは北尾根コース、井戸谷コース、二本松コースがあり、いずれも所要時間は3~4時間。山頂から延びるイワクラ尾根は水沢岳に通じ、鎌尾根を経て鎌ヶ岳へ縦走もできる。
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鈴鹿山脈のほぼ中央部にあり、釈迦の寝姿に似ていることからこの山名が付けられた釈迦ヶ岳。花崗岩からなる山で鈴鹿の特色をよく表しており、三重県側には急峻なルートの核心部・大蔭のガレが、そして対象的に滋賀県側には緩やかな裾野が広がっている。
登山ルートの起点は北側の八風キャンプ場、もしくはここで紹介する南側の朝明渓谷。朝明渓谷は竜ヶ岳の宇賀渓と並ぶ景勝地で、キャンプ場や山小屋が並んでいる。
釈迦ヶ岳からは、猫岳や羽鳥岳を縦走する稜線歩きを経て周回するコースが展望が開けて気持ちが良い。
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その昔、山頂にある池が雨乞信仰の対象とされたことから、その名が付いた雨乞岳。鈴鹿山系の中でも県境尾根とは離れた滋賀県側にある山で、標高1238mと鈴鹿第二の高峰だ。
登山コースとなる千種街道では、織田信長が宿泊した陣屋跡や蓮如上人の遺跡、鉱山跡などがあり、歴史を感じながらの山歩きができる。
山頂からは、御在所岳や鎌ヶ岳など南北に連なる鈴鹿の山並みが望める。さらに、鈴鹿山系を一望できる東雨乞岳へ足を延ばせば、目前に続く稜線を望みながらの開放的な尾根歩きを満喫できる。
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これまで紹介した鈴鹿セブンマウンテン以外で、鈴鹿山脈の中でぜひ登っておきたい山の1つとして挙げられるのが、最高峰で標高1247mの御池岳だ。
藤原岳同様に台地状の細長い山体を南北に横たえ、石灰岩質特有のカルスト地形が山頂一帯に見られる。そして、雨水による侵食はドリーネと呼ばれる珍しい地形を生み出し、そのドリーネに水が貯まったものが池になり、幸助ノ池や真ノ池、丸池、元池、お花池などと名前が付けられている。まさに、御池岳と名前が示す様が広がっている。
山頂周辺では展望のいいボタンブチ、天狗の鼻、奧ノ平などの周辺の散策がおすすめだ。冬には雪山登山、そして春にはフクジュソウなど多くの草本類の植物散策を楽しめる。
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