登山の目的はさまざまだが、「山頂に立つこと(ピークハント)」と考ている人が大多数なのではないだろうか。目的である山頂に立った瞬間の達成感は、それまでの疲れも一気に吹き飛ぶ格別なものだ。とくに晴天に恵まれたなら、時間が許すかぎりその場にいて眺望を満喫したくなる。
しかし、現実には日没や帰りのバスの時間などを気にして、早々に下山しなければならない。ならばいっそのこと、山頂に泊まってはいかがだろうか?
たとえば、山頂に立ったものの雲がかかって何も見えなかったというのはよくある話だ。だが山頂に泊まれば、最高の景色と時間をじっくりと待つことができる。眼下に広がる雲海、満天の星空、神々しいご来光・・・。山頂で長い時間を過ごすことができれば、出会える素晴らしい絶景の数々が待っている。
そこで今回は、「登山の対象になりそうな山」と「山頂から5分程度以内の場所」に立つ営業小屋を紹介する。なお、紹介する小屋以外にも避難小屋がある山頂は数多いので、自身で調べるのも楽しいだろう。ただし、避難小屋は緊急時以外は宿泊を歓迎しない場合も多いので、事前の確認が必須となる。
穂高連峰の最北端に位置し、北アルプスを代表する北穂高岳。西面の滝谷から切り立つ断崖は、日本のロッククライミングの聖地としても知られる。
そんな北穂岳の標高は3106mだが、北穂高小屋は直下の標高3100mの稜線上に立つ。富士山を除けば、日本でいちばん高い場所にある山小屋だ。小屋からは北に槍ヶ岳と左右に並ぶ裏銀座と表銀座、東に常念岳、西に笠ガ岳、そして南には前穂高岳と富士山までを望める。
北穂高小屋までの所要時間は、最短ルートの上高地~涸沢経由でも約9時間と長く、健脚以外は1日でたどり着くには少し遠い。無理をせず、涸沢や横尾で1泊することをオススメする。もしくは、前穂・奥穂・北穂高縦走や、大キレット縦走に利用するのもオススメだ。
ちなみに、北穂高小屋のイメージマークの花は、夏場に北穂周辺の岩地に可憐に咲くイワツメクサという。こんなちょっとした知識をもって利用するのも楽しさを増してくれる。
営業は4月末~11月上旬で、利用には電話予約が必要だ。テント場は小屋から少し離れた、南陵となる。
⇒関連リンク:北穂高小屋
高低図
八ヶ岳にはたくさんの山小屋があり、稜線に立つ小屋も多い。だが、主峰である赤岳の狭い山頂に立つ赤岳頂上山荘は、八ヶ岳でも随一のロケーションといえる。標高は山頂と同じ2899.2m、雲海に浮かぶ富士山やアルプスの峰々の眺望は圧巻の一言。さらに、ご来光や稜線を赤く染める夕景も息を飲む美しさだ。
山頂と山荘へは、美濃戸口からだと最短で5時間半程度で辿り着けるので、宿泊するにはちょうどいい距離感といえる。
この山荘の見所のひとつは、「天の窓」と呼ばれる全面ガラス張りの食堂だ。条件がよければ、素晴らしい景色を見ながらおいしい食事をいただける。
営業は5月下旬~11月上旬、もちろん宿泊には予約が必要だ。
高低図
北アルプス・常念山脈の主峰、常念岳の南に横たわる蝶ヶ岳。北アルプスの入門的な山で、山頂から蝶ヶ岳ヒュッテのある瞑想の丘にかけての展望は北アルプス随一とされ、正面には槍・穂高連峰の大展望が広がる。さらに東側の眼下には、夜になると安曇野や松本市街の夜景が楽しめ、翌朝にはご来光、槍穂高連峰の美しいモルゲンルートを味わうこともできる。
その山頂・標高2677mの直下には、蝶ヶ岳ヒュッテが登山者を迎えてくれる。収容人数200名の大型の山小屋でテント場も広い。
所要時間は安曇野側・三股からは約5時間、上高地からでも約6時間なので、1泊2日で楽しむには手頃な距離と言えるだろう。
営業は4月下旬~11月上旬。ヒュッテ付近は見どころも多く、山頂の南に広がる舟窪地形、点在するお花畑、蝶ヶ池、妖精の池など、周辺の散策もじっくり堪能したい。
高低図
八ヶ岳連峰の最北端に独立峰のようにそびえる標高2530mの蓼科山は、信州きっての名山のひとつで、諏訪富士や女神山とも呼ばれる。山頂に立つと、広い溶岩台地が広がり、幻想的な風景を見せてくれる。
7合目登山口や大河原峠から山頂までは片道2時間程度で登れるので、日帰りで登るにも手頃だが、ぜひ山頂に泊まりたい。蓼科山頂ヒュッテは山頂広場の溶岩台地に立つ山小屋で、最高地点までは5分もかからない立地にある。
小屋には真空管アンプやピアノが置かれ、訪れた人が音楽を奏でながら、思い思いに贅沢な山時間を過ごすことができる。歩く距離も手頃なので、ファミリーや初心者に山の大きさを見せるのにふさわしい場所だ。
展望は八ヶ岳連峰をはじめ、浅間山、霧ガ峰、美ガ原、北アルプスなど360°に楽しむことができる。また山頂は非常に広いので、ゴロゴロ岩が転がる山頂台地を歩くだけでも楽しめる。岩の間からオコジョが顔を出すことも珍しくない。
なお蓼科山頂ヒュッテ営業は4月末のGW~11月上旬で、大晦日と元旦も宿泊のみ特別営業を行なっている。
高低図
山頂4km四方に高層湿原が広がる苗場山。天空の楽園ともいわれる山頂湿原は、春から夏は湿原の花々、そして秋は紅葉と雲海が美しく、越後の名山として多くの登山者に親しまれている。
その苗場山の2145mの山頂広場に立つ宿泊施設が、かつての苗場山ヒュッテを全面改装して、1998年にオープンした苗場山自然体験交流センターだ。
登山コースは、かぐら駐車場から4時間の道のりで日帰りもできる距離だが、山頂に一泊すれば山頂からのご来光や日没の絶景、湿原歩きの両方をじっくりと楽しむことができる。時間に余裕のある山頂泊なら、下山は赤湯温泉や和山温泉方面に行き、秘湯を堪能するのもオススメだ。
営業は6月末~10月末。予約などの詳細はホームページなどで確認しよう。
高低図
神奈川県の屋根とも呼ばれる丹沢山塊。最高峰の蛭ヶ岳でも標高2000mには満たないが、登山口から山頂まで1000m以上登る山が多く、標高以上に登りごたえがある。
丹沢の玄関口となる大倉から、塔ノ岳、主峰・丹沢山、最高峰・蛭ヶ岳を通過する丹沢主脈縦走は、トレイルランナーなどは1日で走破してしまうが、コースタイム12時間を越えるので、ぜひ山小屋を利用して2日間かけて南北に歩こう。
その丹沢の各山頂に年間を通して営業している山小屋が、花立山荘、みやま山荘、蛭ヶ岳山荘だ。
塔ノ岳にある尊仏山荘は、標高1491mの塔ノ岳へと通じる大倉尾根の上に立つ。麓から約3時間ほどで到着し、富士山や眼下に広がる街並み、さらに富士の裾野に沈む夕日や満点の星、日の出を楽しむことができる。土日のみ営業で、祝日は営業していない場合もある。
丹沢山の山頂1567mにあるのが、みやま山荘だ。定員は30~40名と規模は比較的コンパクトだが、綺麗で食事が美味しいと評判高い。花の宝庫といわれる春から初夏、そして紅葉の秋、樹氷に覆われる冬と四季を通じて訪れてみたい。
蛭ヶ岳の頂上1673mにある蛭ヶ岳山荘。丹沢最高峰というだけあり、その景色は360°の大パノラマ。桧洞丸や富士山をはじめ、不動ノ峰から塔ヶ岳方面にかけて山並みが幾重にも続く山深いさまを存分に楽しめる。
いずれも富士山が美しく見え、特にオススメはダイヤモンド富士だ。蛭ヶ岳では例年11月3日前後と2月10日前後に見られるという。正確な日程は各小屋に問い合わせよう。
高低図
西日本第二峰で信仰の山としても知られる、標高1955mの剣山。山頂の周りには修験道らしい難所もいくつもあるが、リフトを使えば40分ほどで登頂可能な上、コースも歩きやすく整備されているので、初心者から楽しめる山でもある。
そんな剣山の山頂直下に立つのが剣山頂上ヒュッテだ。地元の食材を使った素朴で美味しい料理、さらに定期的に開かれる星空観察会などを目当てに訪れるファンも多い。
山頂は草原が広がるので視界を遮るものがなく、ご来光や日没、雲海など、四国随一の景色を存分に楽しめる。
営業は4月下旬~11月下旬、キレンゲショウマが咲くお盆の頃はとくに人気だ。
高低図
日本一高い高原台地といえば、長野の真ん中にある美ヶ原。さらにその最高峰で日本百名山のひとつでもある王ヶ頭からは、富士山や八ヶ岳、浅間山、乗鞍岳、北アルプス、中央アルプス、南アルプス、さらに妙高山と、360°に名だたる山々を見渡せる。百名山でいうと、なんと41名山を見ることができるほどの展望が魅力だ。
そんな素晴らしい天空をさらに満喫できるのが、標高2034mの頂上にあるリゾートホテル、王ヶ頭ホテルだ。山頂まで車道が走っているので(マイカー規制、冬季交通規制あり)登山気分は薄れるが、登山をしない家族へのサービスに利用するのも喜ばれるはず。
四季折々に楽しめる山だが、スノーシューのメッカとして人気のように、冬でも楽しめるのが大きな魅力の一つ。冬の冷たい風に冷えた体を、ゆったりとホテル自慢の展望風呂に浸かってリゾートを満喫するのはいかがだろうか?
高低図
志賀高原・横手山の山頂、標高2307mに立つ。「日本一高い所の雲の上のパン屋さん」としても有名だ。
富士山の山頂はご存じ剣ヶ峰(標高3776m)で、この周辺には泊まる場所はない。だが、お鉢に立つ富士宮山頂の頂上富士館と須走山頂の山口屋は宿泊が可能。夏限定の、本当の日本最高地点での宿泊を味わってみたい。
北アルプス裏銀座に位置する名峰・野口五郎岳。その山頂標高2924mまで10分程のところにある。営業は7月上旬~9月上旬。
北アルプス・表銀座、常念山脈の最高峰標高2922mの大天井岳まで約10分と、ほぼ山頂にある。槍ヶ岳と常念岳の分岐にあり、ライチョウの姿も多く見かける。
八ヶ岳の権現岳山頂の手前、標高2700m地点に立ち、山頂までは10分もかからない。おいしいカレーと趣きあるランプの明かりで知られる。
南アルプスの南部の避難小屋のうち、県営赤石岳避難小屋(赤石岳)、県営小河内岳避難小屋(小河内岳)、市営中岳避難小屋(荒川中岳)は、まさに「ほぼ山頂」に立つ絶好のロケーション。夏季は素泊まり小屋として営業している。
標高2956mの中央アルプス・木曽駒ヶ岳山頂直下、10分ほどのところに立つ。周囲は高山植物の宝庫で、宝剣岳や空木岳、恵那山、御岳山などの展望も素晴らしい。駒ヶ岳頂上山荘も、山荘の直下にある。
日本七霊山のひとつ、石鎚山の山頂に奥宮を祀る石鎚神社が運営する。山荘があるのは標高1974mの弥山の頂上で、最高地点1982mの天狗岳へは約10分で登頂可能だ。
高低図