2021年は丑年。誠実で働きものの牛になぞらえて、コツコツと粘り強く進めることで物事が達成できる1年ともいわれている。「なになにそれって山登りと同じだね」と思った人も多いのでは。牛のごとく一歩一歩しっかり山道を踏みしめて、今年もたくさんの絶景、そして山頂をめざしたい。
さて、全国各地にある「牛」の字が名前につく山を調べたところ、その数なんと90以上(別名も含めればそれ以上)。古くから人間の暮らしに密接した生き物で、「牛が伏せたようにどっしり」など山容をたとえやすいといった理由が想像できる。今回はその中から、難易度や登山適期、特徴などさまざまなバリエーションの人気の6山をピックアップして紹介していく。
田國男『遠野物語』にも登場し、成人儀礼信仰の伝えが残る六角牛山。その山容から、「遠野の小富士」とも親しまれている。六角牛山という名前は、他に六神石山や六皇子山、六角富士などとも呼ばれ、由来も諸説ある。山中や山麓には御陵を意味する陵墓場や六神石神社、六角牛神社があり、これらの神社から山頂に登山道が続いている。
ここでは最も一般的な糠前コースを紹介しよう。登山口は六角牛山神社前から続く林道にある峠登山口。そこから六角雨量測量所を経て、四合目にある休憩地点の休石へ。ここから八合目までは急坂の連続になる。山頂からは岩手山や早池峰山、三陸の海、稜線でつながる片羽山、五葉山など360度の展望を楽しもう。歩行時間は2時間半、標高は1293mだ。
高低図
秘湯の夏油温泉が麓にあり、ぜひ1泊2日で訪れたい標高1339mの牛形山。花畑や紅葉で人気の主峰・焼石山と稜線でつながるので、縦走も楽しむこともできる。
スタートは夏油温泉にある登山口から。そこから牛形山・経塚山の標識にしたがってブナの原生林を登り、コバイケイソウやリンドウの咲く美しい草原を抜け、眺望のいい山頂をめざそう。途中にはロープが張られた難所のガレ場や粘土質で滑りやすい急登もある。残雪の時期には滑落の危険もあるため、慎重に進みたい。
登山適期は5月上旬から11月上旬。とくにブナの新緑やシラネアオイの咲く6月初旬と紅葉に染まる9月下旬が美しいと人気だ。冬期は夏油温泉への道路が閉鎖となるので注意しよう。
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新潟と群馬の県境にある標高1962mの牛ヶ岳。機織りの女神伝説が残り、通年多くの登山者が足を運ぶ日本百名山のひとつ、巻機山から少し足を延ばしたところにある。
スタートは清水バス停。通称「井戸の壁」といわれる樹林帯の急登を進むと、米子沢の大滝や米子ノ頭、越後のマッターホルンと呼ばれる大源太山の峰を眺望する五合目に到着する。そこから六合目までは見事なブナ林が続き、六合目の展望台からは天狗岩や割引岳を望める。さらにガレ場に気をつけながら前巻機山を進むと、稜線の先に巻機山が姿を現す。避難小屋を過ぎ、池塘が点在する木道を行くと巻機山の山頂に到着だ。牛ヶ岳まではさらに足を伸ばし往復しよう。もし時間があれば、割引岳に立ち寄るのもオススメだ。
適期は6月上旬から11月上旬。GW過ぎの新緑と残雪の時期もいいが、アイゼンとピッケルが使えることが条件になる。またバックカントリースキーも人気だ。
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北アルプスの山々を望むその魅力から、日本百名山に選ばれている美ヶ原。火山台地からなる高原で、王ヶ頭を最高地点とし、いくつもの峰々が並んでいる。そしてその東部に位置するのが、広々とした山頂に大小のケルンが建つ牛伏山だ。
一般的なコースは、思い出の丘バス停〜武石峰〜王ヶ鼻〜王ヶ頭〜牛伏山〜美ヶ原高原美術館を歩くコースだが、高原美術館からスタートして王ヶ頭までの往復でも手軽に牛伏山を楽しめる。
登山適期は新緑の5月、高山植物が咲き乱れる夏、紅葉の10月。冬季はスノーシューを楽しむ登山者も多い。ちなみに高原は広大な草原牧場なので、草を食む生きた牛たちの姿も見ることができる。
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1961年に読売新聞社が北陸支社開設記念として開いた読売新道。そのコース上にあるのが標高2864mの赤牛岳だ。その姿はどっしりと横たわる牛の姿のようとも、赤茶の花崗岩のザレの山稜が赤牛のようともいわれている。
読売新道は、新穂高温泉から立山を結ぶ長大なルートで、一般的には3泊4日のスケジュールになる。1日目は新穂高温泉から鏡平を経て、双六小屋へ。2日目は三俣蓮華岳を経て、水晶小屋をめざす。3日目は水晶岳を経て、いよいよ赤牛岳へ。さらに奥黒部ヒュッテに到着。4日目は平ノ渡場から黒部ダムへ下山となる。
北アルプスのルートの中でも人が少なく静かな上級者・玄人向けコースだ。とくに赤牛岳のある3日目のルートは避難小屋もなく、十分な体力が必要になる。
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「うしおくのがんがはらすりやま」と読み、日本一長い名前の山で知られる牛奥ノ雁ヶ腹摺山。大菩薩山塊の天狗棚山から黒岳へと連なる小金沢源流域の中央にあり、標高は1990m。スズタケが群生する山頂からは富士山を中心に大展望が楽しめ、南アルプスや奥秩父も望むことができる。
ここでは小金沢連嶺を行く縦走路を紹介する。スタートは小屋平のバス停。そこから石丸峠に進み、天狗棚山、縦走路最高峰2014mの小金沢山へ。さらに進むと牛奥ノ雁ヶ腹摺山に到着する。そこからは黒岳、湯ノ沢峠と歩き、やまと天目山温泉に下山となる。
牛奥ノ雁ヶ腹摺山の山頂はこのルート屈指の展望場で、大月市が制定する秀麗冨嶽十二景にも選ばれている。
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