琵琶湖西岸に南北に走るのが比良山地だ。比良山系とも呼ばれるこの山域は、南北約20km、東西約15kmに収まるコンパクトなスケールながら、標高1214mの最高峰・武奈ヶ岳をはじめとして1000mを超えるピークが15座以上あり、関西のアルプスとも称される。
また「比良の暮雪」として近江八景のひとつにも数えられ、その大部分が琵琶湖国定公園に属する景勝地でもある。積雪や多雨の影響を受けた、バラエティに富んだ地形にはいくつもの滝や池、湿原、池塘などが点在。ミズナラやコナラ、ブナなどの多様な樹木と四季折々の花も美しい。
そして日本海側には高い山がないため、冬季は北西からの風の影響を強く受け、比良山地から琵琶湖岸に吹き降ろす強風は「比良おろし」、とくに春先に吹くものは「比良八荒」と呼ばれ、冬には多量の積雪をもたらす。そのため打見山と蓬莱山の山頂に広がるリゾート・びわ湖バレイは、西日本のスキーヤーやスノーボーダーに人気の高いスキー場となっている。
京阪神からのアクセスが良いことから、多くの登山者から人気が高い比良山地だが、標高以上に地形は複雑であることから近年道迷いや遭難が増えている。さらにツキノワグマの生息する地域でもあるので、十分な準備と計画をし、経験者とともに入山するなど安全第一で楽しんでほしい。
二百名山に数えられ、比良山地の中でひときわ存在感のある武奈ヶ岳。ブナが多く自生することからその名がついたとされている。
積雪と強風の影響で樹林が育たないために、山頂付近は樹木が少なく抜群の眺望を得られ、とくに西南稜は気持ちのいいスケール感を堪能できる。琵琶湖周辺の山々はもちろん、百名山の白山や御嶽山も遠望し、琵琶湖に浮かぶ4つの島も美しく見下ろす。
山頂へはさまざまなコースが選択できるが、最もポピュラーなのは、ここで紹介する坊村~御殿山~武奈ヶ岳の西南稜を進む御殿山ルートだ。
他にも滝めぐりができるガリバー青少年旅行村~八ツ淵の滝ルート、琵琶湖~スキー場跡~八雲ヶ原を通る個性的なルートなどいくつかあり、楽しみが多い山だ。登山適期は春から秋だが、冬山入門の山としても人気が高い。
かつてはリフトとロープウェイが通っていて、スキー場も存在したが、2004年に廃止されている。
高低図
比良山地の中で唯一、比良の名がつくのが比良岳だ。びわ湖バレイロープウェイを使えば3時間ほどで往復可能だが、さらに烏谷山へと進む縦走が楽しい。
標高1100mの山頂駅からスタートし、スキー場を下って木戸峠~鳥谷山方面へ向かい、大きなブナの巨樹を見ながら進めば、やがて標高1051mの比良岳山頂だ。
展望が広がるのは比良岳から先だ。琵琶湖をはじめ周囲の山々の景色を望みながら稜線を北に進むと、三等三角点のある標高1077mの鳥谷山山頂に到着する。山頂からは東側の視界が開け、北湖が絶景。さらに武奈ヶ岳や堂満岳などの比良山地の山々、鈴鹿山脈から伊吹山地なども一望する。
下りは荒川峠を経て谷沿いを進み、志賀駅を目指して下山しても良いが、余裕があれば、さらに堂満岳方面へと縦走しても楽しい。
高低図
比良山地南部の山々は山頂が笹原に覆われた、たおやかな風景が特徴だ。とくに山頂駅のある打見山~蓬莱山は丘陵のような頂が並び、無雪期はファミリーハイク、積雪期はスキーゲレンデとして人気が高い。
ロープウェイを使って、比良山地第2の高峰で標高1174mの蓬莱山、さらに比良山系に多く点在する池の中でも最高地点にある、大蛇の悲哀伝説が残る小女郎池へと足を伸ばしたい。
往復では物足りないならば、さらに南下して琵琶湖を見下ろしながら歩ける天空の縦走路を進み、草原の広がるホッケ山山頂を過ぎ、権現山に向かう縦走ルートへと進むと良い。
冬はスキー場のゲレンデとなる蓬莱山は5月には斜面をラッパスイセンが咲き誇り、秋には紅葉の絨毯が美しい。
高低図
比良山地から北東に伸びる稜線は、主稜から一段低いことから「リトル比良」と呼ばれている。ここでは4時間ほどでリトル比良を周回するコースを紹介しよう。
岳山はその一番北のピークで標高は565m。古くから山岳信仰の山として知られ、登山道中には岳観音跡など史跡が点在する。
近江高島駅から大炊神社を経て登山口へと進むと、琵琶湖を借景に古い灯籠が立つ山道は趣がある。観音跡を過ぎると、その先が岳山山頂になる。その後は鳥越峰を経て、標高517mの見張山へ進み、近江高島駅に戻る。
なお鳥越峰から岩阿砂利山へと進み、寒風峠、涼峠を経て、北小松駅へと下りるのも魅力的だ。こちらは約6時間ほどのコースタイムとなる。
高低図
比良山地の北端にどっしり風格ある姿で横たわる蛇谷ヶ峰。標高は901mと1000mに満たないながらも、周囲が開けているため、東にリトル比良、西に京都北山、北に琵琶湖・北湖、南に武奈ヶ岳、さらに白山や御嶽山まで望むことができる。
登山コースは全部で7つあり、登山口から2~3時間程度で山頂に立てるのも魅力。武奈ヶ岳からの北陵縦走コースからアクセスする人も多いが、ここで紹介するグリーンパーク想い出の森コースも手頃で人気がある。なお、グリーンパーク想い出の森にはくつき温泉があるので汗を流して帰りたい。
高低図
降水量の多い比良山地は美しい滝や渓谷が楽しめることで知られるが、中でも蓬莱山の北に位置する白滝山の東側には明るく美しい渓谷として知られる白滝谷が広がり、途中では布ヶ滝や夫婦滝などさまざまな名瀑も楽しめる。
ここで紹介しているコースは、坊村から白滝谷を通るコースだが、渓谷沿いのルートは荒れている箇所や渡渉点もあり、増水時は危険なので経験者向きといえる。手軽に楽しむなら、ロープウェイを使って夫婦滝を3時間ほどで往復するコースを楽しみたい。
また夫婦滝から音羽池や長池など、それぞれ特徴ある山上池が点在する場所を巡るのも魅力的だ。
高低図