阿智村で山のぼり

夏の富士見台高原
夏の富士見台高原
登山靴
初秋の大川入山
秋の蛇峠山
冬の富士見台高原
冬の富士見台高原

企画・構成=山と溪谷オンライン 執筆=横尾絢子
 イラスト=tent デザイン=yucca
 Sponsored contents 2023.06.02

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阿智の山に冬が来た!
白い綿雪にすっぽり包まれた
南沢山で
スノーハイキング

Jan.
12

2024〜25年の冬は全国的に積雪が多く、阿智村の山々も真っ白な綿雪に包まれて、冬の装いとなっています。1月12日(日)には、南沢山(みなみさわやま、1564m)に登るツアーが実施され、雪と霧氷に飾られた山頂をめざすスノーハイキングを楽しみました。

雪の森から南沢山をめざします

阿智村智里の昼神温泉にあるレンタルスペース「昼神空間」に集合したのは、関東・中部・関西など各地から参加した20人。きりっと冷えた朝の空気の中、マイクロバスに乗り込んで南沢山の登山口へ出発です。

車内では、阿智昼神観光局スタッフの酒井優佳さんが、南沢山のある清内路(せいないじ)地区の紹介をしてくれました。長い歴史をもつこの地区は下清内路と上清内路に分けられ、下には桜井さん、上には原さんという名字が非常に多いためにファーストネームで呼び合うのだそうです。また、この地区には花火師の資格をもつ人たちが手作りした花火を神社のお祭りで奉納する伝統芸能が伝わっています。名水で知られる一番清水や清内路関所跡、ペリー来航時に植えられた黒船桜など、沿道の名所の紹介を聞きながら、バスはどんどん標高を上げていきます。

昼神温泉からバスで南沢山へ

昼神温泉から20分ほどで、南沢山の登山口に位置する「ふるさと自然園せいなの森キャンプ場」に到着しました。駐車場にも雪が積もっており、ここから軽アイゼンやチェーンスパイクを装着していきます。軽アイゼンの装着方法がわからなくても、ガイドさんが丁寧にレクチャーしてくれるので大丈夫。軽く準備運動をしたら、さっそくスタートです。

同行するガイドは南信州の山を中心に活動する若林翔さんと前田一樹さん。参加者の足どりを見ながら、息が切れないペースで人工林の中を登っていきます。例年なら積雪がないことが多いコース序盤も、この日はしっかり雪が積もっていて、装着したアイゼンの爪が頼もしく雪面をとらえます。

出発前にコースの説明
慣れない軽アイゼンの装着もサポートしてもらえます
トレッキングポールを握って出発です

「このあたりにクマはいないんですか?」という質問に「もちろんいますよ。でも、この時期は冬眠中ですから、遭遇することはまずありません」と若林さん。幹にネットを巻き付けたヒノキを指して「樹皮を食べるクマに剥がされないように、ネットを巻き付けているんです」と解説してくれました。

風もなく、静かな森の中を進んでいくと、若林さんが「みなさん、ちょっと上を見てみましょう」と梢を指さします。「あそこに見えるのはなにかわかりますか?」という質問に、参加者の女性が「あれ、ヤドリギじゃない?私の誕生花なのよ」と回答。ガイドの解説をきっかけに、参加したみなさんの間で会話も弾みます。適度な歩行スピードなので、呼吸が乱れずおしゃべりを楽しむ余裕があるようです。

人工林の中をジグザグに登っていきます
若林ガイドが歩きながら自然解説
クマに樹皮を剥がされないようにネットで保護されたヒノキ
梢に寄生するヤドリギ

アイゼンの爪を利かせて急登を慎重に登り、急な下りではガイドさんが張ったフィックスロープを握って一歩ずつ下りていきます。緩やかなアップダウンを繰り返すうちに、辺りはヒノキを主体とした人工林から、落葉広葉樹林へと変わり、すこし明るくなってきました。南沢山はすっかり雪雲の中に入っているようで、ちらちらと絶え間なく小雪が降っています。木々の枝には霧氷がつき、そこにさらに雪が積もって、純白のサンゴのような美しさです。

「霧氷で枝がずいぶん重そう」「きれいですね」

霧氷が作る白いトンネルをくぐるたびに、気分が高揚してきます。「もうすぐ山頂ですよ!」というガイドさんの言葉に、みんなの歩調が少し早くなってきました。

チェーンスパイクや軽アイゼンを利かせて登っていきます
人工林を抜けると、落葉広葉樹の明るい森が広がっていました
霧氷や雪のついた木の枝がサンゴのようです
一面の白い森を歩くのは最高の気分です

雪がついてボリュームたっぷりの木々が増えてきたころ、南沢山の山頂に到着しました。フラットな山頂の雪は登山者たちに踏みしめられ、広場のようになっています。辺りには雪をまとった大迫力のスノーモンスターが点在しています。雪雲に阻まれて展望はあまりありませんが、白くかすんだ樹氷原が幻想的で、みんな撮影に夢中です。ひとしきり写真を撮ったところで、山頂標識を囲んで笑顔で記念撮影。相変わらずの雪模様ですが、ほとんど風がないおかげで、ゆっくり休憩をとることができました。

南沢山に登頂!
山頂の木々はすっぽり雪に包まれていました
霧氷が発達してモンスターになっています
阿智村の南信州菓子工房のドライフルーツがおやつ。紅茶に浮かべてレモンティーにも

少しずつ雲が流れて、時折富士見台高原(ふじみだいこうげん、1739m)や、隣接する横川山(よこかわやま、1619m)方面が見渡せます。亜高山帯の針葉樹林の向こうに、白い富士見台の山頂部分がうっすら姿を見せてくれました。次々に舞い落ちる小さな雪の結晶がさらさらとウェアを撫でていく音のほかには、なにも聞こえない静寂の世界です。

雪雲の合間から富士見台方面が見えました
しんしんと雪が降っています

山頂で20分ほど休憩をとり、行動食や温かい飲み物を補給した後はいよいよ下山。名残惜しい山頂に別れを告げて、スノーモンスターにもさよならのごあいさつ。樹氷の間をくぐって往路を戻ります。

名残惜しいけれど、山頂に別れを告げて・・・

往路の急登は下るのも一苦労。粉雪は大勢の登山者に踏まれても固まりにくく、足元がずるずると滑ってしまいます。「もうちょっと靴のエッジをたててみて」と、ベテランの参加者からビギナーにアドバイス。トレッキングポールでバランスをとりながら、一歩ずつ下っていきます。滑落が心配な人は若林ガイドがショートロープでしっかり確保。「あ、これは安心感があるわ」と笑顔で歩を進めることができました。

若林ガイドが急斜面の下り方を解説
急斜面は横向きで下ります
ショートロープで確保してもらえれば安心

登山道の横にはウサギやテンといった冬眠しない動物たちの足跡が縦横に交錯し、一見静かな冬の森にも、活発な生き物たちの生活が展開されていることがわかります。頭上を飛び交う小鳥はヒガラたち。かわいらしい声で鳴き交わしながら木から木へとを渡っていきます。そんな森の動物たちに思いをはせているうちに、登山口に到着。

少し小さな足跡はテンかな?
後ろ足が特徴的なウサギの足跡
オオシラビソの葉にも雪が
下りは快調に歩を進めます

「下りはなんだか早かったみたい」「あっというまに下ってきちゃいましたね」とすっかり親しくなった参加メンバーは楽しかった一日を振り返りながらバスに乗り込み、解散場所の昼神温泉へと戻ります。阿智村の山登りの後は美肌の湯で名高い昼神温泉でリフレッシュ。時間がある方は後泊すれば、充実した旅になること間違いなしです。「次は花桃の季節に来ます!」と宣言して帰っていく人も。みなさん阿智村の山登りにすっかり魅了された一日でした。

(文・写真=山と溪谷オンライン 西村 健)

スノーハイク、満喫しました!