阿智村で山のぼり

夏の富士見台高原
夏の富士見台高原
登山靴
初秋の大川入山
秋の蛇峠山
冬の富士見台高原
冬の富士見台高原

企画・構成=山と溪谷オンライン 執筆=横尾絢子
 イラスト=tent デザイン=yucca
 Sponsored contents 2023.06.02

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降りたてパウダースノーの森から
大絶景をめざそう!
富士見台高原
スノーハイキングイベント

Feb.
23

雪の多かった2024―25年冬は、阿智村のスキー場も積雪に恵まれ、たくさんのスキーヤーやスノーボーダーでにぎわいました。もちろん、雪山を歩くスノーハイキングにも絶好のコンディションです。2月23日(日)には富士見台高原(ふじみだいこうげん)でスノーシューハイキングを楽しむイベントが開かれ、ふかふかの新雪を踏んで、恵那山(えなさん)や南アルプスの絶景が待つ展望スポットをめざしました。

雪の富士見台高原をスノーシューでハイキング

阿智セブンサミットのひとつ、富士見台(1739m)は日本百名山の恵那山から延びる稜線上のピーク。この山の一帯は「ハイランド」という言葉がぴったりくるエリアで、開放感のあるササ原やダケカンバなど亜高山帯の森、カラマツなどの人工林がつくるグラデーションが、季節ごとの美しさを演出しています。さまざまな歴史のドラマの舞台となった古代東山道の通る神坂峠(みさかとうげ)や山小屋「萬岳荘」(ばんがくそう)などのスポットもあり、ハイカーにも人気のエリアです。

今回のイベントは阿智村のスキー場「ヘブンスそのはら」がスタート地点。富士見台高原に延びる林道周辺でハイキングを楽しみます。関東、中部、近畿などから集まった参加者19人は、同行してくれる地元のガイドの伊藤賢治さん、若林翔さん、阿智昼神観光局の酒井優佳さんと顔合わせ。この日のスケジュールなどについて説明を聞いたら、まずはゴンドラやリフトを乗り継いで標高1580mのゲレンデトップをめざします。

すっきり晴れ渡った青空の下、スキーやスノーボードを楽しむ人たちに混じってゴンドラ、リフトに乗ってしばしの空中散歩を楽しみます。スキー場の係員も、ハイカーが乗り込むタイミングではリフトの運転速度を落とすなど、細やかな心遣いで対応してくれます。リフトを下りると、あたりは一面の銀世界となっていました。

ヘブンスそのはらのゴンドラでスタート地点へ

まずはガイドさんの説明を聞きながらスノーシューを装着。丁寧にレクチャーしてくれるので、初めて使う人もさほど迷わずスノーシューを履くことができました。続いて、歩き方の注意点の解説も。「靴よりも左右の幅が広いので、自分のスノーシューを踏んで転倒しないよう、いつもより足を広げて歩くのが大切ですよ」という言葉を胸に、ゲレンデの端から山へとゆっくり歩き出しました。

伊藤賢治ガイドのレクチャーで、初めてでもちゃんと装着できました
歩き方も教えてもらえます

まずはゲレンデのすぐ上にある展望台から南アルプスを一望します。いつもはウッドデッキに置かれたベンチやテーブルが利用できる場所ですが、この日は豊富な積雪に埋もれて、あずまやの屋根が出ているだけ。目の前に連なる南アルプスの稜線も白く輝いています。標高3193mの日本第2の高峰・北岳(きただけ)から南へと、南アルプスの主稜線がまるごと眺められるので、さっそく記念撮影が始まります。晴れ渡る青空にみんな自然と笑顔になります。

若林翔ガイドに続いてスキー場を出発
展望台からの南アルプス。中央の塩見岳から右の荒川岳へと続く稜線
説明板と一緒に撮影しておこう〜
家族のアルバムにスノーシューのページが増えますね!

ひとしきり展望を楽しんだら、いよいよハイキングスタートです。ダケカンバの間を抜けて林道へ。林道といっても、この時期は通行する車両もなく、一面の雪野原が広がっているばかり。樹林が落とす影が長く伸びて、雪面に複雑な縞模様を描き出します。参加者は2つのグループに分かれて、平坦な雪原を歩いたり、樹林帯に入ったりと、それぞれのルートを描いて雪景色の中を歩いていきます。「ここ数年は雪が少なかったんですが、今年はたっぷり積もりました。ガードレールもすっぽり雪の下ですよ」という伊藤ガイドの説明に参加者もびっくり。カーブミラーだけがところどころ佇立する、不思議な風景のなかを歩いていきます。「ある程度踏み固められているところは歩きやすいですが、ちょっと林道の端に行くと、スノーシューでもかなり深く潜りますから気をつけて」とアドバイス。雪の下は笹原になっていたりして、うっかり踏み抜くと腰まではまってしまいます。

ダケカンバの森の中を歩けるのは冬限定の楽しみです
雪面に木々の影が模様を作り出します
フラットな林道を歩きます
ガイドさんから富士見台の動植物について聞きながら歩いていきます

「これ、動物の足跡じゃない?」と、参加者が雪面に残された足跡を見つけました。「テンの足跡ですね」という若林ガイドは、バックパックからなにやら毛皮を取り出します。「これはテンの毛皮です。ごらんの通り胴が長く、尺取り虫のように前足と後ろ足でぴょんぴょん跳ねるように歩くので、こういう足跡が残るんです」と解説してくれます。自然に詳しい若林ガイドは狩猟もするので、車にはねられて死んでしまったテンの毛皮をなめして、こうした解説に利用しているそう。柔らかな冬毛の感触を確かめながら、参加者もテンの足跡の理由に納得です。

この足跡はだれでしょう?
テンはこんなに胴が長いんです

葉を落としたカラマツの林を抜けて40分ほど歩いたところで林道を離れ、少し急な斜面を登っていきます。ヒノキの林の中をジグザグに登りますが、傾斜が急なところではスノーシューがずるずると滑ってしまいます。「スノーシューは足の爪先のところに大きな爪がついているんです。それを意識して登ってみてください」というガイドの呼びかけで、少しコツがわかったようです。それほど固くない雪面にうまくスノーシューの前爪を蹴り込んで一歩ずつ登っていきます。

林道のそばにそびえるのはカラマツです
寒冷な信州では寒さに強いカラマツの人工林が多いのだとか
風で折れたのか、カラマツの小枝が足元に
林道を離れて斜面を登っていきます

そのうち周囲はヒノキの人工林からダケカンバなどの自然林に入り、やがて明るい雪原に出ました。もうひと登りして尾根の上に出ると、向こうには、重厚で大きな山がそびえています。「あれが日本百名山のひとつ恵那山です。阿智セブンサミットにも選ばれている、標高2191mの山ですね」と伊藤ガイドが教えてくれました。振り返ると、展望台からもよく見えた南アルプスがさらによく見えます。“南アルプスの女王”こと仙丈ヶ岳(せんじょうがたけ)から光岳(てかりだけ)へ、さらに深南部(しんなんぶ)と呼ばれる池口岳(いけぐちだけ)などの山々まで、稜線を一目で追うことができる大パノラマです。強く吹き付ける風の冷たさも忘れて、みんなすばらしい景色に見とれていました。

森を抜けて雪の斜面を登ると・・・
待っていたのは恵那山でした
振り返れば南アルプスが
南アルプスの百名山が全部見えます
まずは恵那山をバックに一枚
次は南アルプスをバックにパシャ!

恵那山と南アルプス、両側の絶景をバックに2パターンの記念写真を撮影したら、少しだけ斜面を下り、風の当たらないところでランチタイムです。日差しは暖かく、風さえなければなんとものどかな雰囲気。ダケカンバの木の下で、あるいは広々とした雪面に腰を下ろして、それぞれ持参してきたサンドイッチやカップ麺、保温ポットに入れてきた温かいお茶などで休憩です。友人や家族、あるいは初対面の参加者同士でも、初めて使ったスノーシューの印象、さきほどの大絶景など話題は尽きません。おしゃべりを楽しみながらお昼のひとときをゆっくり過ごしました。

雪中ピクニック楽しいです!
温かいランチ後にデザートを用意してきた方も!
阿智村にある南信州菓子工房のドライフルーツを参加者全員にプレゼント。行動食にぴったりです

昼食後はいよいよ下山。先ほど登ってきた斜面を下っていきますが、登り以上に滑りやすいのが下りです。「おしりで滑ってきてもいいですよ!」というガイドの呼びかけで、それぞれ滑りやすそうなところを見つけてシリセードに挑戦。「きもちいいー!」「速い速い!」と歓声を上げながら滑っていきます。あんなに大変だった登りも、滑り降りてしまえばほんの一瞬。林道から斜面を振り返りながら、名残惜しくも帰路を進みます。

登ってきた斜面を一気に滑り下ります
名残惜しいけど、そろそろ下山の時刻
南アルプスに別れを告げて・・・
リフトに乗ればあっという間に下界です

最後は再び南アルプスにお別れを告げて、スキー場のリフトとゴンドラで下山。参加者はみんな「楽しかった!」「もう少し歩きたいくらい」「また何度でも来たいです」と笑顔で解散です。スノーシューハイキングの後には、美肌の湯で知られる昼神温泉が待っています。みんな冬の阿智村を満喫してそれぞれ家路に就きました。

(文・写真=山と溪谷オンライン 西村 健)

今日のイベント、楽しかった方!みんなの手が挙がりました