ハイキングにも、トラベルにも、デイリーユースにも対応するマルチパックは、登山に最適な選択とは言いがたい。帯に短し、タスキに長し。大は小を兼ねないのが登山用バックパックだ。長時間背負うことが多い山岳用バックパックでは、「フィット感」が欠かせない。わずかな違和感や不快感の積み重ねが、パフォーマンスの低下や疲労へとつながる。また、山岳地帯で使用するギアを選ぶ際には、その耐久性や使い勝手が重要なファクターになってくる。山行スタイルと目的に応じて、適切な容量や仕様のバックパックをチョイスすることで、より快適、かつ安全に登山を行うことができる。
登山者にとって最適なパックとは? その答えを、ドイツ最大のバックパックブランド、ドイター(deuter)はよく知っている。創業から120年を超えるドイターは、これまで培ってきた伝統と技術を活かし、登山専用のバックパックづくりを行なっている。どのモデルを選んでも、背負い心地がいいのはもちろんのこと、ストレスなく使用でき、ユーザーのパフォーマンスを最大限に引き出す工夫がなされているのだ。ここでは、日本の登山事情に合わせて、日帰りハイキング、小屋泊トレッキング、テント泊縦走の3つのスタイル別におすすめのモデルを探っていこう。
1898年、ドイツ・アウグスブルクで誕生した「ドイター(deuter)」。1934年のドイツ隊のヒマラヤ遠征や、38年のアイガー北壁登頂、53年のナンガ・パルバッド登頂などをサポートし、山岳用バックパックとしての地位を不動のものに。現在はバックパックを基軸に、寝袋やアクセサリーなどをグローバルに展開。同時に、リサイクルや持続可能な素材の採用、「ブルーサイン」「フェア・ウェア・ファンデーション」といった環境保全や社会貢献にも力を入れている。
日帰りハイキングでは、容量20~30ℓ程度のパックが利用しやすい。春や秋のシーズンは、フリースやダウンなどを携行することはあっても、荷物は軽く、山行ペースは速め。また、低山〜中級山岳が中心で、汗をかきやすい状態が続く。汗をかきすぎれば、汗冷えによるパフォーマンスの低下や、熱中症、低体温症のリスクも高まる。このため、日帰り用バックパックは、フィット感や使い勝手はもとより、汗をかきにくい形状になっていると、快適性や安全性が増すのだ。
2021年にリニューアルを果たしたフューチュラ(Futura)は、背面にメッシュのパネルがあり、背中と荷室が密着しない構造を採用したドイターのベストセラーモデル。この構造は、世界で初めてドイターが開発し、特許を取得したもので、新鮮な空気が背中と荷室の隙間を流れるため、クーリング機能が働き、汗をかきにくくなるのが特長。「背面の通気性を高くし、ユーザーのパフォーマンスを向上させる」というドイターのバックパックづくりのフィロソフィーに基づき、現在でも改良が続いている。今モデルに搭載された背面構造「エアコンフォート・センシック」では、最大25%の発汗抑制が達成されているのだ。他社でも同じような構造のモデルは存在するが、背面のアーチが急で、パッキングしにくかったり、荷物を詰めるとアーチが押しつぶされ、隙間がなくなったりするものもある。しかし、そうした心配はフューチュラには皆無だ。旧モデルに対し、今回のアップデートで背中と荷室の隙間を極限まで狭めることに成功。パッキングがしやすく、頑丈なフレームが配されているため、荷物を詰めても隙間がなくなるようなことはない。
また、各部の細かい使い勝手も向上している。雨蓋のデザインが頭部へ干渉しないよう変更され、荷室は内部のファスナー式間仕切りで2気室にできる仕様。ボトムアクセスがあり、荷室の底のギアを素早く出し入れ可能だ。フロントにはストレッチメッシュポケットを備え、両サイド、両ヒップフィンにストレッチメッシュポケットのほか、トレッキングポール、サングラスホルダーを装備する。ハイドレーション対応で、レインカバーが付属し、ヘルメットホルダーループ(各種ヘルメットホルダーを装着するためのアタッチメントポイン)も備える。
高温多湿な日本の低山でも、背面の空気をコントロールし、「快適」が続くフューチュラシリーズ。写真のパネルローディングタイプとトップリッド(雨蓋あり)タイプとの2種類があり、様々なシチュエーションに対応するために、容量21~32ℓまでと幅広くラインナップする。
メッシュパネルを採用し、背中からの熱を空気の循環によって排出する「エアコンフォート・センシック」。今回の改良で、頑丈なスチールフレームが導入され、背中と荷室の隙間がより狭くなった。荷室が背中に近くなったことで、重心バランスがよくなっている。
ショルダーハーネスは、厚みを抑えつつ、ソフトでコシのある肉抜きしたパッドへと変更。パッドのエッジに肌当たりのいい加工を施すなど、通気性やフィット感が向上している。ヒップフィンは、腰から背中へかけてのワンピース構造で、服をまとうような背負い心地を生み出す。
小屋泊トレッキングでは、容量30~40ℓの中型バックパックを選ぶのが定番だ。防寒着や行動食、着替えなど、日帰りハイキングよりも荷物は増える。最近では新型コロナウイルス感染症対策のため、小屋泊であっても自分で寝袋を携行したり、寝袋やシーツの携行を求める山小屋もある。荷重の増加を伴うため、中型バックパックには、剛性や耐久性に加え、よく体にフィットし、肩と腰とでバランスよく荷物を背負えるショルダー&ヒップハーネスを備えるなど、長時間背負っても「疲れにくい構造」が求められる。
オーセンティックなデザインのエアコンタクトライト(Aircontact Lite)は、日帰りハイキングの装備より重くなった荷重をしっかり腰で支えられる「ヒップフィン」を備え、また、背面に通気性の高い中空ウレタンフォームを使用し、バックパックを安定させるとともに、ウレタンフォームのポンピング効果で背面の空気を循環させ、発汗を抑制する「エアコンタクトライト」システムを搭載する。
背負い心地を左右するハーネス類のフィッティングは妥協せず、適材適所で生地厚を変えるなど、全体的に軽量化が図られたうえ、ポケット類が充実し、ジッパーで可変できる2気室構造など、バランスの取れたモデルとなっている。背面長の調節ができ、ユーザーの体格に合ったジャストなフィット感が得られるのも利点と言える。ボトム部にはレインカバーを備え、トレッキングポールアタッチメントとヘルメットホルダーループ、そして別売の3.0Lハイドレーションシステムに対応するポケットと給水ポートを備える。
背負い心地の良さに加え、背面の通気機能も両立し、日帰りハイキングから小屋泊へのステップアップに最適で、日本アルプスを中心とした夏山シーンでもっとも活躍する「エアコンタクトライト」は、容量30+5~50+10ℓまでを用意する。
背中の厚みのあるウレタンフォームが上質なフィット感を生むとともに、ポンピング効果で汗を抑制。最大15%の発汗抑制が可能。ヒップフィンは2種類の素材が使用され、腰骨をやさしく包み込み、かつしっかりと荷重を伝えられるよう工夫されている。
本体フロントやサイド、ヒップフィンの必要十分なポケットに加え、高さを伸長することで荷物の容量の可変に対応する「高さ調節可能な雨蓋」など、ユーザービリティに優れる設計がなされている。2気室構造は、山小屋でしか使わないものや温泉セットを入れるなど、重宝する。
衣食住一式を担ぐテント泊縦走では、容量50ℓ以上の大型バックパックが必要だ。テントや寝袋、マット、食料などで増えた荷重を支えるためには、本体の剛性や耐久性はもとより、荷重を遊びなく体へと伝達するハーネス類が不可欠。遊びが生じ、常にパックが背中で揺れていたのでは、安定した歩行はできず、疲労が蓄積する。荷重配分も重要だ。登山道具の軽量コンパクト化が進んだとはいえ、10kg以上にもなる重量を肩をメインで支えていたのでは、長時間の歩行は難しい。大型バックパックでは、肩と腰の荷重配分の理想は「肩3:腰7」と言われている。肩と腰の骨格で背負うため、背面長の調節ができるなど、骨格へのフィッティングも忘れてはならない。
大型バックパックとして知られるエアコンタクト(Aircontact)は、ハードな使用にも耐えうる強靭さをもつフラッグシップで、容量50+10~75+10ℓまでラインナップする。大型モデルの要となる剛性に加え、しっかり荷重を腰で支えるヒップフィンと腰裏のパッドを備えており、長時間背負っても疲れにくいのが特長だ。65+10 SL以上のモデルの本体内部にはX字型の強固なフレームを内蔵し、ヒップフィンは、腰裏に近い部分から伸びているので、腰回りに隙間が生じず、また、腰を包み込むように立体的にフィットするため、無駄なく荷重を骨格へと伝達できるのだ。
背面には、パックの安定性を高め、発汗を最大15%抑制できる「エアコンタクト」システムを採用する。通気性の高い中空ウレタンフォームのポンピング効果で空気の流れをつくり、発汗を抑え、ユーザーのパフォーマンスを引き出してくれる。背面長の調節ももちろん可能だ。使い勝手では、フロント側にレイアウトされたジッパーからメインの荷室にアクセスできるので、装備の出し入れが容易だ。また、他モデルと同様、レインカバーやポールアタッチメントを備え、別売の3.0Lハイドレーションシステムにも対応する。
バックパネルには最上級の背負い心地を生むエアコンタクトを採用。ベルクロにより、背面長調節が可能で、肩と腰にぴったりフィットする。ショルダーハーネス、ヒップフィンともに、足や腕の大きな動きにも追従するよう、可動域が設けられている。
フロントに大きなU字型ジッパーを装備するため、狭いテント内でもパッキングがしやすい。ボトムジッパーもあるので、山行中にどこからでも荷物を取り出せる。雨蓋を可動し、容量を増やすことも可能。
山岳用バックパックは、容量や用途がマッチする以前に、体にフィットすることが大前提。色やデザイン優先でバックパックを選んだ結果、「肩が痛い」「あざができた」「疲れる」などとなってしまっては、快適で安全な登山は程遠い。服や靴を自分に合ったサイズを選ぶように、バックパックも自分に合ったサイズをチョイスしよう。
ドイターは世界で初めて、女性の骨格やボディラインを考慮したバックパックを開発したブランド。現在では、ほぼすべての山岳用バックパックにSLモデルをラインナップしている。女性と男性で異なるのは大きく3つ、①肩幅、②背面長、③骨盤の形、だ。ドイターのSLモデルは、背面長を短くし、肩幅を狭く、また、骨盤の形状に合わせた専用ヒップフィン、バストラインにフィットし、腕振りに干渉しないショルダーハーネスなど、通常モデルとは異なる設計がなされている。体に本当にフィットするバックパックで、ストレスのない快適な登山を楽しもう!