御嶽山・飛騨小坂口ルートで「登山者による登山道整備」
キックオフツアーが開催された!
御嶽山の岐阜県側、小坂口ルートは、2018年の豪雨で大きな被害を受けた。五の池小屋の市川典司さんが、登山道を永く残すためにと発案した、自治体・山小屋・登山者が協力する登山道整備の取り組みがスタートした。
協力=岐阜県、下呂市、御嶽山五の池小屋 写真=水谷和政
大きな石をザックに入れて。初めて体験した登山道整備
想像していたよりも大きな石が積み重なっていた。これをザックに入れて運ぶのか…。

御嶽山を守る活動として参加者を募った今回の御嶽山登山道整備ツアー。継続した活動になるようにという思いを込めて、今回は「キックオフ」の位置付けだ。

各地で起こる豪雨被害は、年々大きくなっている。岐阜県飛騨地域で、防災と観光に携わる県の方から相談され、さらに、上京した御嶽山・五の池小屋のご主人、市川典司さんに事情を聞いたのは、去年の11月だった。

災害では生活圏の復旧が優先されるため、登山道には手が回らない。行政の対応にも限界がある。それでも、雨に強くて、誰でもできる、登山道整備の方法があるーー。それが、石を使った道直しだった。

市川さんが「理想」と話す、熊野古道の道は、石畳の間には土が溜まり、草が生え、数百年と使われ続ける。山から出た石を集めておいて、登山者それぞれが自分のザックに入れて運ぶ。運ばれた石を敷き詰めていけば、道具も資材も不要の道直しができる。

こうして登山者による登山道整備がスタートした。集まったのは、兵庫、奈良、三重、新潟、神奈川、千葉などから、40代から60代の17名だ。

登山口から約40分のところに、その石は積まれていた。それぞれが持てる大きさ・重さの石を、自分のザックに入れる。サブザックを持ってきて運ぶ人もいた。「山の編集長」こと、山と溪谷社の萩原も、ザックに10kgほどの大きな石を入れて登っていった。

実際に運ぶ距離は300mほど、時間にして15分ほどだったが、突然重みを増したザックを背負って登り始めると、心拍数が急激に上がり、登るにつれ脚の筋肉がパンパンになった。

運び下ろした場所は、雨で土が流れ、木の根が露出していた箇所。市川さんが、なぜこの場所に運んでほしかったのかを話し、石を並べて仮組みして見せると、参加者は合点がいった様子。「3kgほどの石をたったこれだけの距離を運ぶのがこんなに大変だと初めて知った」という人もいれば、「この距離だったら、2往復してもいい」という強者もいた。たった300mではあったが、運んだ石の前で記念写真を撮る参加者の顔は、達成感、充足感に満ち溢れていた。

参加者ひとりひとりの力と想いが集まって整備された登山道は、永く残ることになるだろう。
   参加者の声
  • 神奈川県山岳連盟の丹沢での登山道整備にも参加しているという有働さん。萩原には涸沢フェスで会ったことがあり、「登山道整備ツアーで、萩原さんも来るなら、自分が行かないと」と参加を決めたそう。大きな石を3つも背負った。

     
  • 奈良から参加の細井さんは「このような登山ツアーで登山道維持に少しでも協力できるのなら、非常に良いと思う。このような機会がほかの山岳地でも広がれば良い」と話した。達成感にあふれた笑顔が印象的だった。

     
  • 「飯豊・朝日を愛する会」で、登山道整備や植生の保護の活動をしている新潟県から参加の吉沢さん。「飯豊山でも登山口に石を置いて登山者に運んでもらっている。今回は御嶽山の役に立とうと思った」と両手にも石を持った。

     
 
   参加者アンケートから

  • 男女比:男性4名、女性13名
    年齢構成:40代3名、50代8名、60代6名
    登山道整備活動の参加経験は? ある:6名、ない:11名

    「次も参加したい?」という質問には、
     9割以上から「はい」と回答!

    [参加者の感想]
  • 登山道を整備することが、いかに大切で、人員が足りていないかがわかった。登山道整備の時間はわずかだったので、もっと時間を取ってもよかった。(千葉県・50代女性)
  • 機会があればやってみたいと思っている人は多いはず。(愛知県・50代男性)
  • 一人の力では成し遂げられないことも、こうしてたくさんの人々の協力があれば達成できることがわかり希望を覚えました。(三重県・40代女性)
  • ささやかだけど、少し役に立ったかなという満足感が得られた。(愛知県・60代女性)
  • みなさんがとても親切で感謝しています。次回も参加したいです。(愛知県・60代女性)
 
登山道整備ツアー特別企画! 五の池小屋で行われたミニトークイベント
今回、山小屋での時間も楽しんでもらおうと企画されたのが、テレビ番組に一緒に出演して以来、親交のある、五の池小屋の市川さんと、山と溪谷社萩原によるトークイベント。テレビ出演の後日談など、打ち明け話も披露された。

萩原からは、各地の登山道について、自身が体験したいくつかの登山道について、困った整備例なども交えて紹介。登山者が石を運ぶ整備の好例として、鳥取県・大山で40年以上にわたって続けられている「一木一石運動」を紹介した。

五の池小屋に携わって約20年の市川さんからは、登山者が小屋で過ごす時間が充実するようにと、美味しいコーヒーやケーキ、薪ストーブで焼いたピザを提供している今の五の池小屋の姿に至った経緯や、2014年の噴火、2018年の豪雨を経験し、登山道整備へ力を入れていることなどが語られた。

参加者からの質問を受ける中で、市川さんからは「石を運ぶような、しんどい登山ツアーになぜ参加しようと思ったの?」と質問があり、参加者それぞれの山への思いや、登山道整備の経験が話された。参加者同士がいっそう打ち解け合うきっかけになったと同時に、登山道整備を目的にしたツアーに参加したいという登山者が予想以上に多いことに驚いていた。

また、県職員として同行した齋藤由宏さんからは、登山道整備に困っている市川さんに話を聞き、山を一緒に守ってくれる仲間を増やそうと考えたことや、地元のガイドやバス会社に協力を仰いだら、こういう形ができた、と、このツアーの趣旨が話され、「県としては、山とともに、地域の魅力ももっと知ってほしい。今回のことはSNSなどでどんどん発信していただければ」と語った。
大展望の御嶽山 飛騨小坂口ルートの魅力
多くの登山者が被災し、63名の死者・行方不明者となった2014年の噴火が記憶に新しい御嶽山。しかし、その魅力の多くは、火山であることに由来する。

いくつものピークと山上湖を持つ火山地形は、山頂域だけで4kmもあり、最高峰・剣ヶ峰の標高3067mは、日本で15番目の高さを誇る。夏には高山植物が咲き、ハイマツ帯にはライチョウの姿も見られる。広大な裾野に、渓谷の景勝地、温泉などの恵みをもたらしている。富士山や白山と同様、古くから信仰の山として崇められてきた。

通年営業する温泉地としては日本一の標高にある濁河温泉の登山口から登り始めると、次々と植生が変わっていき、森林限界を超えると、一気に視界が開け、景色がダイナミックに変化する。コマクサ、チングルマ、イワツメクサ、イワギキョウなど数多くの高山植物が見られる。

今回のツアーは天気に恵まれ、継子岳の山頂、摩利支天山手前の展望台で、大展望を堪能した。北西には白山、北には乗鞍岳越しに、槍・穂高連峰、笠ヶ岳、黒部五郎岳、常念山脈が、南東には中央アルプス、その奥に南アルプスの山々が見え、富士山も頭を出していた。

山麓の小坂で生まれ育ち、ガイドとして活動する熊崎潤さんは「御嶽山は南北に広く、登山口によってまったく別の山のような表情になります。北西面の飛騨小坂口ルートは植生の変化が楽しめるほか、山頂部の池、滝によって、火の山であり、水の山でもある御嶽山の両面性を感じられます」と御嶽山の魅力を語った。

飛騨頂上の直下、標高約2800mに立つ五の池小屋は、市川さんが「自分が理想とする山小屋をイメージして少しずつ作ってきた」という。自前の味噌をはじめ、こだわった食事を提供し、薪ストーブで焼くピザやケーキなど、軽食営業も充実させている。登山者が快適に過ごせる山小屋、わざわざ立ち寄りたい山小屋と評判だ。

濁河温泉からの御嶽山、五の池小屋が待つ飛騨小坂口ルートの魅力を、ぜひ味わってほしい。

なお、御嶽山に入山するときは、今も活動している火山であることを意識し、最新情報に注意しながら、最善の対策の上で、登山を楽しもう。



   参加者の方へ、登山者のみなさんへ

本ツアーを企画した五の池小屋・市川さん、ツアーをリードした登山ガイド、山と溪谷社の萩原から、参加者の方へ、そして、これから一緒に登山道整備に参加してくださる登山者へのメッセージをいただいた。

五の池小屋 市川典司さん
登山道の整備には多くの労力が必要です。みなさんと運んで整備できたのは数メートルかもしれませんが、石で整備した場所は永く残り続けます。ぜひまた登りに来て、確かめてください。お待ちしています。
山と溪谷社 萩原浩司
今回のツアーは、早くに申し込みをいただき、キャンセル待ちにもなったと聞きます。登山道を自分たちで守りつなげていきたいという想いが、多くの登山者にあることを確信できました。みなさんの志の高さが、天気と展望のご褒美につながったと思います。
登山ガイド「216WORKS」代表 熊崎潤さん
今回は立ち寄ることができませんでしたが、山麓の下呂市小坂地区には、数々の滝や沢がありシャワークライミングが楽しめます。日本でも数少ない天然の高濃度炭酸泉の温泉もありますので、季節を変えて、御嶽山の恵みをぜひ味わいに来てください。
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