GORETEX(ゴアテックス)特集 雨の山を楽しむ - あなたの登山を支える防水透湿素材 -

ザ・ノース・フェイス 大坪さんに聞く、クライムライトジャケット開発に込めた思い

インタビュー・文=柏 澄子 写真=水谷和政
協力=株式会社ゴールドウイン
デザイン=yucca イラスト=ヨシイアコ

ザ・ノース・フェイスの代表的レインウェア「クライムライトジャケット」の開発に関わってきた大坪岳人さん。クライムライトジャケットのコンセプトは、雨天だけでなくさまざまな天候や行動を想定したもの。デザインの細部にまでこだわり、こだわり続けたからこそ、できあがったジャケットはシンプル。小さな作業の積み重ねと、妥協ないテストとフィードバックの繰り返しの結実。

GORE-TEX

撥水性、防水性は当たり前。プラスアルファが重要です

クライムライトジャケット(ブラック)

― クライムライトジャケットの変遷をお聞かせください。

 ひと昔前の「雨具」は、雨水が浸水しないという条件は満たしていたけれど、雨がやんでもそれを着たまま行動することは考えにくかったですね。ザ・ノース・フェイス(以下、TNF)がこの「雨具」という域から脱したきっかけは、ユーザーに広がりが出てきたことにもあります。たとえば、野外フェスのためにレインウェアを買う。けれど、1回きりではもったいない。同じレインウェアで、富士山にも登ってみたい、キャンプのときも使いたい。そういう発想の方が、TNFのお客様には多くいました。

 そうなると雨が止んでも着続けられる快適性があった方がよい、と考えるようになりました。これは、登山者にも通ずることで、稜線で風に吹かれたときや、降ったりやんだりのときに着続けたい、というようなシーンでも快適に使えるようにと考え始めました。
 全天候型のジャケットとして、作っています。

― レインウェアに求められる絶対的条件とは?

 浸水しないことですね。そのために細部にもこだわりをもっています。

 たとえば、袖口。最近はトレッキングポールを使う方も多いですね。使わない場合は、腕を下げて歩きますが、ポールを使うと上げがちになります。すると、袖口からの浸水にもより注意をしなければなりません。袖口は構造上、シームテープが使えません。また肌とウェアの隙間から雨が浸水することも避けられません。では、どうすればよいか。クライムライトジャケットでは、袖口の内側もGORE-TEX ファブリクスを使っています。

 また、フードの使い勝手や構造が重要だということは、ユーザーの方々も実感していると思います。

 TNFでは、厳冬期やアルパインクライミングを想定するジャケットのフードは、かなり大きく作っています。厳しい環境に暴露されないことを最優先するためです。しかしレインウェアとなると、少し事情が違います。風雨を防ぐことは重要ですが、視界をよくすることも忘れてはなりません。

 雨が降ると、不安定な足元に注意を払い視線が落ちたり、霧がかって、視界が狭まる傾向にあります。けれどそれでは気分が滅入ってしまうし、雨の日こそ周囲を観察して危険を察知するためにも、視界を保った方がよいですよね。そのためにフードの形状、構造には工夫をしています。

 人間の頭は、上下左右に動くという単純なものではなく、首を軸にして円状に色んな動きをします。それに対応するには、頭部のお鉢周りを下から支える構造にし、襟足にもたせる許容部分が重要となります。クライムライトジャケットを横から見ていただくとわかるのですが、斜めに裁断を入れて、頭部にフィットさせながら、複雑な動きに対応するようにしています。

登山やクライミングのみならず、さまざまなアクティビティで、とことんテストする

― シンプルであり、立体的なデザインです。動きやすさについては、どのような工夫を?

 平面でパターンを起こすのではなく、人間が着た状態から作っています。いわゆるテーラードと同じ考え方ですね。

 直線的裁断で大きめに作り、動きをもたせた時代もありました。けれどバックパックを背負うと、肩と腰の部分でウェアが固定されてしまうんですよね。だから結局動きが悪くなる、そのうえ生地もあまってだぼつく。腕を挙げると、どこかがつったり、裾が上がるのは、これが原因ですね。

 また、レインウェアゆえ、パーツは最小限にする必要があります。縫い目を減らしシームテープも減らすことは、より高い防水性につながります。タックやダーツを入れるわけにもいきませんよね。そうなると、先ほどお伝えした立体的デザインとなってくるのです。

一見シンプルに見える裁断にもこだわりある

 デザイン後は、テストを重ねます。お付き合いいただいているアスリートの方々、社員たちがさまざまな場面で使います。シーカヤッカーやサイクリストにもテストしてもらいました。カヤックは上半身を大きく動かすスポーツですが、腕周りがよく動くという評価をもらいました。登山やクライミングについて考えながらデザインしたことが、立証された思いでした。サイクリング中、風を含んでもたつくことがなかったという報告があり、動きやすいながらも最大限にシンプルに作った結果と考えます。

 フィールドも活動内容も多岐にわたりますが、みな同じようなことを言うんですよね。アルパインクライマーも、ハイカーも、写真家のようにあまり動かないけれど長時間山にいる人も、みな指摘する点、リクエストすることは共通しています。これは、興味深いことです。

― Gore社との連携はどのように?

 コミュニケーションを重ね、時間をかけてものづくりを一緒にやっているという感覚です。採用したい表地や裏地をリクエストをすることもあります。それに対してGoreもできる限り応えてくれる。TNFでは、国産の生地も多く使っています。繊維や織りものに強いのも当社の特徴です。こういった良質な国産の生地にも、Goreは理解を示してくれるので、ほかの商品との親和性もとれます。

 素材メーカーは素材を販売した時点で終了しますが、GORE-TEXプロダクトの場合は違います。製品作りの部分にも大きく関わってきます。富山にある自社のテックラボでのテスト、その後のフィールドでテストをするなかで、Goreからの指摘は細部にわたり、的確です。たとえばステッチを縫う順番のこと、ポケットの角度。そういったことからも、漏水の可能性がでてきます。極々僅かな可能性も見逃すことなく、ひとつひとつクリアにしていきます。それはもう、途方もない作業になるときもあります。

 こういう過程を経て作られるものだから、Goreも、GORE-TEXプロダクトに対して保証してくれるわけです。素材メーカーが素材だけではなく、製品までも保証するというのはほかにはありません。私たちがTNFの製品に対して全責任を負うというのは、当然のことですが、素材メーカーであるGoreがGORE-TEXファブリクスを使った製品をも保証するのには、我々と手を組み、それ相応の過程を経て製品を作っているからですね。

クライムライトジャケットの魅力と、TNFレインウェアのこれから

― クライムライトジャケットならではの強みは?

 あらゆる方々に、幅広く使ってもらえるようデザインしているところです。TNFに数あるレインウェア、オールウェザー向けのジャケットのなかで主軸となるものです。いまですと、梅雨の山、夏山に向けて、それからキャンプや野外フェスでも使えますし、旅行やビジネス用にもなります。年間を通じて販売しています。基本的なカラーは通年販売していますが、それに加えて年に4回、新色も出します。

 それと、GORE マイクログリッドバッカーテクノロジーを使っている点も特徴的です。独特の張りとこしがあり、着用したときに軽快感があります。また裏地の滑りがよく、動きやすさにもつながりますね。クライムライトジャケットとは兄弟関係にあるクライムベリーライトジャケットは、GORE® C-KNIT™ バッカーテクノロジーを使っている点が大きな違いです。こちらはポケットにフラップを着けずに止水ファスナーにするなど更なる軽量化を図っており、GORE® C-KNIT™ バッカーテクノロジーを使っているため生地に柔らかさもあり、ライトな感覚で使ってもらえます。

フラップを着けることで防水性を高めている

― クライムライトジャケット、およびTNFのレインウェアの今後の展望は?

 私がこの仕事に就いたときから、大きくは変わっていません。雨が降ったときに快適に着用してもらえるのはもちろんのこと、全天候を想定して作っていきたいです。ユーザーの行動が、なるべく天候に左右されないようにしたい。自然条件によって、計画を変更する判断をしなければならないことはあります。しかし、ウェアのせいで雨が降っているから山に行きたくないとか、行動を狭めなければならないとか思うようなことがあるのは、とても残念です。それはなくしていきたいですね。

大坪岳人(おおつぼ・がくと)

株式会社ゴールドウイン ザ・ノース・フェイス事業部 アパレルグループ マネージャー。
2004年入社。2年間は専門店の営業職にあったが、その後から現在までアパレルの企画を担当。アウトドア、トレラン、子ども用のアパレルなど多岐にわたって経験。C-KNIT™をレインウェアに搭載した初めての企画に主たる開発者として関わる。現在は、TNFの企画全般をマネジメントする。糸の開発、販売のマーチャンダイズも担当のうち。
北陸のテストラボ、台湾などの工場、アメリカ本社など出張が多いため、旅先で走ったり、短い時間を使って各地の山を登るのが楽しみ。「岳人」という名前は、山好きだった両親が名付けたもの。いまは、自分自身も小さな息子を連れ、家族でキャンプをする。

今回紹介したGORE-TEXプロダクト

The North Face
クライムライトジャケット

¥30,000(+消費税)

素材
GORE-TEXプロダクト
サイズ
S/M/L/XL/XXL
カラー
7色
重量
270g(Lサイズ)
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雨の山を楽しむ その他のGORE-TEXプロダクト

mont-bell
ストームクルーザー ジャケット Men’s

¥19,500(+消費税)

素材
GORE-TEXプロダクト
サイズ
S/M/L/XL
カラー
7色
平均重量
257g
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ホグロフス
OBSERVE MID GT SURROUND MEN

¥24,000(+消費税)

素材
GORE-TEX SURROUND™ 採用
サイズ
US7~9(26.0~27.6cm)
カラー
1色
重量
394g(US 8.5 inch)
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