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四角友里さんが歩く紀泉アルプスと紀伊の山麓
修験道のはじまりの地へ。和歌山県&大阪府で
葛城修験を体験!

文=四角友里 写真=岡野朋之 イラスト=山口正児
 協力=葛城修験日本遺産活用推進協議会
 Sponsored contents 2023.01.26
日本遺産 葛城修験を体験する山旅
和歌山、大阪、奈良にまたがる
「葛城」の峰々。
修験道の開祖「役行者」が
最初に修行を積んだと伝わる地を訪ね、
修験者たちの足跡を辿る体験ツアーへ。
歩いた人 四角友里さん
アウトドアスタイル・クリエイター/「山スカート」を日本に広めた女子登山ブームの火付け役。講演や執筆、アウトドアウエア・ギアの企画開発を手掛ける。著書に『一歩ずつの山歩き入門』(枻出版社)、『山登り12ヵ月』(山と溪谷社)など。

葛城修験とは?

和歌山、大阪、奈良にまたがって連なり、古くから「葛城(かつらぎ)」と呼ばれる和泉(いずみ)山脈から金剛山地までの山並みは、修験道(しゅげんどう)の開祖といわれる役行者(えんのぎょうじゃ)が初めて修行をした場所であることから、修験道誕生の地といわれている。役行者はこの地に法華経8巻28品(ほん:仏教の経典の章や篇)を1品ずつ埋めたと伝えられ、その埋納場所である28カ所の経塚(きょうづか)やゆかりのある寺社、滝や巨石などの行場を巡る修行を総称し「葛城修験」といい、2020年日本遺産に認定された。

靴紐を結び、バックパックを背負うと、白い息がふわっと漂った。今日の目的地は和歌山と大阪の府県境にまたがる紀泉(きせん)アルプスの大福(だいふく)山。いつもの山歩きと違うことといえば、私の参加するツアーを引率してくださるのが白い装束と鈴懸(すずかけ)をまとい、頭には頭襟(ときん)をつけ、法螺貝と念珠を携えた山伏(やまぶし:修験者)のお二人ということ。「葛城修験」の一部を体験する山旅が始まろうとしていた。

日本古来の山岳信仰と仏教などが結びつき、独自の変化を遂げてきた「修験道」。飛鳥時代、修験道の開祖といわれる役行者が初めて修行を積んだのが、この和泉山脈から金剛山地へと続く葛城山系なのだという。かつて役行者が峰々を歩いて厳しい修行を重ねながら、法華経の経典を1品ずつ埋めたと伝わる“経塚”などを辿って行なう修行を総称し、「葛城修験」と呼ぶのだそうだ。

紀州街道山中宿
大阪府阪南市山中渓地区の紀州街道の風情を残す古い町並み。江戸時代、参勤交代のための宿場町として栄えた
葛城第四経塚 さくら地蔵
かつて桜の老木があったことから「さくら地蔵」とも呼ばれる葛城修験第四番経塚は、現在、熊野古道紀伊路からすこし外れた山中渓の境谷集落入口に佇む。ここで勤行(ごんぎょう)し、碑伝(ひで:修行で訪れたことを示す木札)を納めた

ツアーはまずJR阪和線山中渓駅から紀州街道山中宿と第四経塚に立ち寄り、すこしずつ葛城修験を学んでいく。先達(せんだつ)してくださるのは、山伏の冨士宝功(ふじほうこう)さんと田上博暢(たがみはくよう)さん。経塚での初めての勤行に戸惑いながらも身が引き締まる。そして、JR阪和線六十谷(むそた)駅から本惠寺(ほんえいじ)を経て、民家や畑がのどかな山里を進んだ。

歩き始めてしばらくしたころから、先導してくださる冨士さんが言葉を発しないことには気付いていた。本格的な山道に入る前に立ち止まって、その理由をお話くださる。

「修験とは歩きながら行なう修行。“山を登る”という行為は同じでも、ハイキングと修験は違います。黙々と歩きながら雑念を振り払い、若いときの失敗や抱えている悩みなど自分と向き合うことで、やがて無になっていく過程は坐禅や瞑想と似ているかもしれません。今日はそんな修験者のような気持ちで葛城修験を感じてみてください」。そうしてまた、静かな歩みを再開された。

六十谷駅から本惠寺へ
大福山の山号を持つ本惠寺。「直川観音」として親しまれている役行者を開基とする霊場で、境内からは和歌山市内を一望できる

「あっ」「きれい!」 木の実や紅葉を見つけては、思わず感動が口をついて出る。自然に触れ、山を味わおうと心が動いてしてしまうのだ。これは雑念なのだろうか。逆に心を外ではなく内に向き合おうとすればするほど、景色が目に入らなくなってくる。いつもと違う心持ちをどうしてよいのかわからず、悶々としながら進んだ。

しばらく急登が続いた。……少し休みたいという弱気な気持ちが芽を出す。そんなとき聞こえてきたのは、前を歩く冨士さんの「はぁはぁ」という息遣い。そうか、冨士さんも身体的に楽なわけではないんだ。先達という立ち位置ではありながらも、淡々と足元を見つめて歩き、ご自身も“修行”を重ねられている。山のなかでは自分の一歩だけが、前へ進む方法。ほかの誰かに代わってもらうことはできない。年齢も立場も抱えているものも違えど、一人ひとりが山と向き合う。……そんな山歩きの原点のようなものを思い出す瞬間だった。やがて気持ちのよい尾根を進むころには、いつしか歩くことだけに集中し、高揚と静寂が織り混ざったような感覚で第三経塚のある大福山へと到着した。

大福山への道のり
大福山への道のり、黙々と歩く。休憩時に冨士さんとお話をして、山との向き合い方を教わった

――山のなかに響き渡る法螺貝の音と般若心経。空気が震え、辺りの気配が張り詰める。手で印を結び、碑伝を納め、祈りを捧げた。

427mの大福山から見渡す和歌山と大阪の景色が、日本が山と海の国、そして島国であることを伝えてくれる。人の暮らしも近い。1000年もの昔、ここに辿り着いた山伏たちが見た景色を想像してみると、大阪湾にビルが立ち並び風景は変わっていたとしても、歩くという同じ動作を通して、少しだけ先人とつながれた気持ちになってくる。山頂に集った笑顔あふれる老若男女の登山者、内なる対話をする山伏、そして見下ろす麓の暮らしにも、みんながそれぞれに、山からさまざまなものを与えてもらっているように思えた。

葛城第三経塚 大福山
弁天社が祀られている大福山の山頂にて。実は第三番経塚とされている場所は2カ所あり、一つは今回訪れた大福山山頂、もう一つは近くの雲山峰山頂にある石積の祠とする説もある
山頂にてランチタイム
大阪湾のむこうに淡路島や小豆島までを見渡しながら昼食タイム。食後に、フルーツ大福処「蕾」(和歌山市・キーノ和歌山ロックスターファームズ内)で購入していた和歌山産「まりひめ」を使った苺大福をぱくり。「大福山で大福を食す」という個人的な欲を満たす。先達のお二人に質問をしたり、装束についての説明をいただき、和やかなひとときが流れた

景色を堪能しながら、全長112kmに及ぶ葛城修験の出発地点、和歌山の加太(かだ)の海に浮かぶ友ヶ島に想いを巡らせた。山岳修行を行なう修験道なのに、「海に始まり、川で終わる」葛城修験。船で島へと渡り、さらに第一経塚のある場所へは大潮の干潮時にしか現われない岩場を渡って辿り着く。昔のひとびとはどうやって、限られた“とき”を見極めていたのだろうと思うと神秘を感じずにはいられない。山伏は、聖域である葛城の山々に入る前に海で身を清め、最後に川で身を清めてから日常に戻ったというが、海、山、川へとつないで歩く葛城修験の道は、命の水を生む山、川がつなぐ海、その間に暮らす里人など、自然の循環や“つながり”を感じる一本の線であるようにも思えてくる。

大阪方面へ下山
大阪湾を眺めながら、大阪府阪南市へと下山。碑伝を模した終了証をいただく。最後は「平野台の湯」で疲れを癒やして、ツアー終了。充実した修験体験ツアーだった

実は、ずっと来てみたいと思っていた紀泉アルプスの大福山。友人と和気あいあい歩いていたらまったく違った景色が見えただろう。このハイキングの名所を、まさか修験体験として訪れるとは思ってもいなかったけれど、歩くという行為は、こころひとつで、ハイキングにも修験にもなる。普段なら素通りしてしまいそうな石碑やお地蔵様の前で足を留め、手を合わせ祈る……という行為を通し、歴史や信仰、文化に触れる、また違う歩き方を見つけることができた旅だった。

今回、先達として案内役をしてくださったのは犬鳴山七宝瀧寺の現役山伏である冨士宝功さん(左)と田上博暢さん(右)。頭につける頭襟や白衣の上に着る鈴懸という山伏の装束を身に纏って修行をする

Trekking Information
葛城修験 大福山

「紀泉アルプス」の一部として親しまれる標高427mの大福山。ササユリの群生地としても知られ、山頂からは大阪湾と淡路島、小豆島までも一望できる。俎石山や雲山峰と組み合わせたり、JR阪和線や南海本線の各駅を利用すれば多彩なコースで楽しめる。

葛城修験の前に or 後に!
葛城修験山麓の街歩き

# 観光スポット
第一経塚のある友ヶ島を望む

阿字ヶ峰行者堂
(あじがみねぎょうじゃどう)

葛城二十八宿最初の経塚がある友ヶ島へと渡る前に、修験者が訪れる阿字ヶ峰行者堂。修験道の開祖である役行者が祀られており、江戸初期に建立されたと伝わる。117段の階段を登った小高い丘に建つお堂は、沖に浮かぶ友ヶ島や紀淡海峡を一望できることから、友ヶ島の行場を遥拝する場としての役割も兼ね備えていた。

住所
〒640-0103 和歌山県和歌山市加太242
問合せ先
和歌山市観光課 073-435-1234
アクセス
南海電鉄加太線加太駅から徒歩15分
拝観日時
拝観自由
# 観光スポット
人形供養と雛流しの伝統残る

加太淡嶋神社
(かだあわしまじんじゃ)

葛城修験の修験者が友ヶ島へ渡る際に参拝に訪れる、神功皇后ゆかりの神社。医薬の神様である少彦名命(すくなひこなのみこと)が祀られていることから、婦人病の回復や安産・子授けの神社として知られる。かつて紀州徳川家が姫君誕生の初節句に雛人形を奉納してきた慣習が発祥となり、毎年3月3日の雛まつりには、女児の健やかな成長と幸せを祈り、奉納された雛人形と形代を白木の小舟に乗せて海に流す「雛流し」の神事が執り行なわれている。

住所
〒640-0103  和歌山県和歌山市加太118
問合せ先
和歌山市加太 淡嶋神社社務所 073-459-0043
アクセス
南海電鉄加太線加太駅から徒歩20分
拝観時間
9:00〜17:00
# 軽食&食事処
神社の参道で加太の魚介類を!

先田(さきた)商店

加太淡嶋神社の参道にある先田商店では、加太の海でとれたサザエや「おく貝」などが売られ、目の前で焼いてもらって店内でいただくこともできる。甘辛い醤油ダレが香ばしい!

住所
加太淡島神社境内
問合せ先
073-459-0261
アクセス
南海電鉄加太線加太駅から徒歩20分
営業時間
9:00~17:00(日・祝日は〜18:00)
定休日
不定休
# 軽食&食事処
和歌山らーめんで腹ごしらえ!

中華そば 丸田屋 次郎丸店

和歌山のご当地グルメといえば、「和歌山らーめん」。長時間じっくり煮込んだ豚骨醤油スープが特徴。「早すし」と呼ばれる鯖寿司も名物。ちょうどよい酢加減で小ぶりで食べやすく、らーめんを待つ間にぱくっといくのが和歌山流。ゆで卵と早すしはテーブルに置かれているので、自由に食べて、会計時に自己申告するスタイル!

住所
〒640-8444 和歌山県和歌山市次郎丸76-3
問合せ先
073-480-1245
アクセス
南海電鉄加太線東松江駅から徒歩15分
営業時間
11:00〜15:00(ラストオーダー14:30)、17:00〜22:00(ラストオーダー21:30)
定休日
月曜日(祝祭日の場合は翌火曜日)
WEB
https://www.chukasoba.com/
# 軽食&食事処
こだわり素材のジェラートを

ジェラテリア&カフェ コンパンナ

こだわりの素材を使って店内で作られるフレッシュで濃厚なジェラート専門店。定番のミルクやチョコレートなどのほか季節限定の味まで10種類ほどから選べる。

住所
〒649-6337 和歌山県和歌山市田屋110-1
問合せ先
073-462-4567
アクセス
JR阪和線六十谷駅から徒歩約20分
営業時間
12:00〜22:00
定休日
不定休
WEB
https://gelato-cafe-conpanna.com/
# 軽食&食事処
築300年の古民家カフェでひと休み

Cafe NACLEY(カフェ ナクレ)

山中渓の情緒ある旧街道沿いにある築300年の古民家をリノベーションした複合施設「山中渓サイドテラス」内のカフェではシェイクやホットドッグなどの軽食がいただける。

住所
〒599-0214 大阪府阪南市山中渓246
問合せ先
InstagramのDMから
アクセス
JR阪和線山中渓駅から徒歩1分
営業時間
11:00〜17:00(雨天変更の可能性あり)
定休日
不定休
WEB
https://www.instagram.com/cafe_nacley_/?hl=ja
# 軽食&食事処
紀泉アルプスが育んだ大阪湾の牡蠣小屋へ

波有手(ぼうで)のカキ小屋

大阪府阪南市の西鳥取漁港では、2016年から牡蠣の養殖が本格的に始められ、大阪府で初めての漁協直営の牡蠣小屋をオープンさせた。紀泉アルプスの山々の養分が含まれる豊かな海で育まれた波有手の牡蠣はぷっくり濃厚。山と海を結んでくれる自然の恵みだ。焼き牡蠣、カキフライなどを味わえる。夏には簾立て漁の体験なども行なわれている。

住所
〒599-0204 大阪府阪南市鳥取1716
問合せ先
072-425-3655
アクセス
南海電鉄南海本線鳥取ノ荘(とっとりのしょう)駅から徒歩5分
営業時間
11:00〜18:00
営業日
1月と2月の土・日・祝日、3月4日・5日予定(牡蠣がなくなり次第営業終了)
WEB
https://ryoushi-sendo.co.jp/boudekakigoya/eigyouannnai-2/
# 宿
和歌山の町の魅力がつまったゲストハウス泊

Guesthouse RICO

問屋街として親しまれてきた町の一角、築50年になる共同住宅「ユタカビル」を活用したゲストハウス。ドミトリーや個室、共有キッチンを備え、1階にはバー&ダイニングも。徒歩1分のところには古き良き雰囲気を残した銭湯「幸福湯」も。地元の方々と県外・国外からのゲストが交わりながら和歌山の町を楽しむ拠点になっている。

住所
〒640-8111 和歌山県和歌山市新通5-6
問合せ先
073-488-6989
アクセス
和歌山バス三木町新通バス停から徒歩4分
営業時間
チェックイン16:00〜22:00、チェックアウト〜11:00
定休日
なし
WEB
https://www.guesthouserico.com/
日本遺産 葛城修験

日本遺産「葛城修験」についての基礎知識やモデルコース、関連する文化財や観光情報などを紹介しています。山伏のインタビュー記事なども掲載していますのでぜひご覧ください。
https://katsuragisyugen-nihonisan.com/