山岳自然環境の保全という共通の目的をもつ「日本山岳遺産基金」と「ヴィブラムジャパン」の協働による
登山道整備プロジェクトが2021年度からスタートした。その助成を受けた団体の活動の様子を紹介しよう。

日本山岳遺産基金は、イタリア発の高性能ソールメーカーヴィブラムジャパンと協働で「日本山岳遺産基金 × ヴィブラムジャパン 登山道整備プロジェクト」を実施した。このプロジェクトは、ヴィブラムジャパンが国内で登山道整備を行なっている団体に資材・物品購入費、輸送運搬費などを拠出。当基金を通じて助成を希望する団体を募集・選考し、協働して支援していく活動だ。ヴィブラムでは持続可能な環境保全活動である「ザ・サスティナブル・ウェイ」への挑戦を優先事項としており、その活動の一環として登山道保全を大きな課題と考えている。

同プロジェクトでは、2021年4月14日から7月15日まで助成先団体を募集。その結果、「北アルプス飛騨側登山道等維持連絡協議会(岐阜県高山市)」と「西川山岳会(山形県西川町)」の2団体に助成をすることが決定した。

北アルプス飛騨側登山道等維持連絡協議会
白出沢ルートが来年度から開通

北アルプス飛騨側登山道等維持連絡協議会は、1982(昭和57)年に設立。2021年度の会員数は29人で、双六岳(すごろくだけ)から焼岳(やけだけ)、西鎌尾根、笠ヶ岳など北アルプス岐阜県側の広範囲な登山道の維持管理を行なっている。今回の助成金では、主に2020年4月からの群発地震や7月の豪雨災害により、200〜500mにわたり登山道が崩落してしまった白出沢(しらだしざわ)ルートの修復を実施。同ルートは、岐阜県側から奥穂高岳へ向かう重要ルートであるが、整備によって来年度からの開通が期待されている。

「今回の修復作業は、耐久性の高い金属製のハシゴを使用したり、ヘリコプターを使って資材を運搬するなど費用のかかるものでした。そこで助成をいただいたことは、本当に助かりました。これで来年度からは登山者の方も安全に通行していただけると思います」(北アルプス飛騨側登山道等維持連絡協議会会長・袖垣吉治さん)

登山道が崩壊した白出沢の状況
崩壊した白出沢ルートの復旧作業の様子
人手不足が最大の問題

日本山岳遺産基金では10月に行なわれた同会の登山道整備研修会に参加。現在の登山道整備活動が抱える問題などについてもお話をうかがった。今年は、新穂高ロープウェイに沿った小鍋谷(こなべだに)登山道を整備する予定だったが、積雪のため新穂高温泉〜鍋平駐車場の登山道に変更して行なわれた。

12人の参加者は2班に分かれ、A班は登山道上に倒れた倒木の除去、B班は浮き石撤去と刈払いを分担。A班は直径が60㎝ほどの倒木をロープで固定しながらチェーンソーで慎重に切断。2時間ほどかけて無事に作業を終了した。今回の作業に参加した笠ヶ岳山荘の滋野守さんは、次のように語る。

「山小屋の最盛期は忙しくて登山道整備に手がまわらないので、毎年この時期に研修会を実施しています。しかし、参加者が少ないことが悩みです。また、もっと若い人が集まってくれないと、登山道の整備技術を受け継ぐことができません」

現状の人数では、現在の登山道を維持するのが精いっぱいだ。同会が管理する山域には、笠ヶ岳までのクリヤ谷ルートのように荒廃している登山道もあり、修復してほしいという声も聞くが、そこまで手がまわらないという。

「いったん整備して登山地図に掲載したら、毎年継続して整備を続ける必要があります。しかし、それが困難なのです」(袖垣さん)

登山道をさえぎる大木をチェーンソーで切断
登山者ができることとは?

また、登山道は整備すると同時に壊れている箇所がないか、毎年のチェックが欠かせない。とくに2020年は、北アルプスの群発地震で多くの登山道に被害が出た。同会では遭難対策協議会などとも協力してパトロールしているが、それでもマンパワーは不足している。

「登山者の方も壊れている登山道を見つけたら、近くの山小屋スタッフに教えていただくとありがたいです。そうすると、小屋から私たちのところへ連絡が来て、整備の計画を立てることができます」(滋野さん)

さらに登山者ができることとして、「登山道整備をしている人たちにねぎらいの声をかけてもらえたら」と言うのは、有志として同会の活動に参加している西本孝司さんだ。

「登山道整備をしていると、『ありがとうございます』や『ご苦労さまです』と感謝の言葉をいただくのがうれしいですね。とてもやる気が出ます」(西本さん)

そして、今回の研修会に参加したヴィブラムジャパンの小池夏子さんは、次のように感想を述べてくれた。

「登山道の維持・補修に大変な労力がかかっていることがよくわかりました。まずは、知ることが本当に大切ですね。日本中で登山道の荒廃は大きな問題になっていますが、ヴィブラムジャパンでは、これからも助成させていただくだけではなく、どんなことができるのかを登山者のみなさんと一緒に考えていけたらと思っています」

1961(昭和36)年に結成され、主に朝日連峰や月山周辺地域の登山道整備や山小屋管理、植生保護と復元などに取り組んでいる。今回の助成金では2021年9月18~21日に朝日連峰の出谷川(でやがわ)から明光山までの登山道整備を実施。参加者11人が草刈機4台を使って刈払い、刈った草の後片づけ等の作業を行なった。

「当初はオツボ峰までの道を整備する計画でしたが、長い間整備が行なわれていなかったため、急斜面で繁茂したササが多い1.5㎞に集中して作業をしました。今回の整備作業によって、登山道からエズラ峰や以東岳の大展望を満喫できるようになりました」(西川山岳会事務局長・佐藤辰彦さん)

草刈機を使って登山道の刈払いを実施
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