北アルプスの懐、後立山連峰から常念山脈に連なる峰々の東側に、北から小谷(おたり)村、白馬(はくば)村、大町(おおまち)市、松川(まつかわ)村、池田(いけだ)町という、5つの市町村が広がる。北アルプスの玄関口として、様々な山にアプローチすることができるこの地域に、立ち寄ったことがある人も多いだろう。
豊富な積雪量で大きなスキー場をいくつも抱える白馬村、小谷村は、日本でも有数のウインタースポーツの聖地。青木湖、中綱湖、木崎湖の仁科三湖を抱え、立山黒部アルペンルートの長野県側の玄関口にもなっている大町市は、この地域で最も大きな市町村だ。
その南側の池田町、松川村には、安曇野ののどかな田園風景が広がっている。町の東側には標高1000mほどの山が連なっていて、山岳地から、高原、里山、田畑、市街地へとつながっている。
5つの市町村はいずれも空気が澄み、山から流れ出る豊富な水が田畑を潤し、美味しい農産物に恵まれている。また、四季折々、様々なアウトドアの遊びが楽しめ、温泉地もいくつもあり、自然の恵みを感じながら暮らすことができる。
長野市、松本市のどちらにも、車で1時間ほどで移動できる「ちょうどいい田舎」な地域なのだ。
小谷村 | 白馬村 | 大町市 | 松川村 | 池田町 | |
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面積 | 約267km² | 約189km² | 約565km² | 約47km² | 約40km² |
人口 | 2,680人 | 8,452人 | 26,237人 | 9,639人 | 9,489人 |
役場標高 | 516m | 700m | 726m | 613m | 604m |
この5市町村からアプローチできる北アルプスの主な山を挙げてみよう。
小谷村の栂池自然園からのアプローチでは、白馬乗鞍岳、白馬大池を経由して小蓮華岳へ。白馬村から正面に見える白馬岳・杓子岳・白馬鑓ヶ岳の白馬三山、唐松岳、五竜岳、鹿島槍ヶ岳、爺ヶ岳、針ノ木岳、蓮華岳、船窪岳とつながっている。大町市の高瀬ダムから裏銀座縦走路へ進めば、烏帽子岳、野口五郎岳となるが、地図をよく見れば、実は三俣蓮華岳も双六岳も槍ヶ岳も、半分は大町市の市域だとわかる。餓鬼岳も大町市からアプローチできる。安曇野のシンボル・有明山は、松川村、池田町からよく見える。また、山域が異なるが、小谷村の北には、日本百名山の雨飾山がある。主な山の名前を挙げただけでも名山の多さに驚くが、この地域に住む人たちにとっては、車で30分程度でアプローチできる、というのがなんとも羨ましい。冬はスキー場へも近いし、その数もスケールも圧倒的だ。
夏の朝、天気が良ければ山へ。冬、良い雪が降ったからスキー場へ…。そんなアウトドアライフが実現できるから、登山・アウトドア好き、スキー・スノーボード好きが、移住して集まってくる。
自然が豊かな地域だから、川や湖での釣り、カヌー、SUP(Stand Up Paddleboard)、空の遊びではパラグライダーなどもある。冬はスキー場だけでなく、スノーシューで遊ぶ人も多い。
小谷村、白馬村、大町市の北部では、冬の降雪量はある程度考えておく必要があるが、大町市の中心から南、松川村、池田町あたりでは、それほど雪は降らないので、ライフスタイルに合う暮らし方を選択できるだろう。
*スキー場の数 | 10カ所(小谷村3、白馬村5、大町市2) |
*キャンプ場の数 | 32カ所(小谷村7、白馬村11、大町市12、池田町1、松川村1) |
*温泉の数 | 29カ所(小谷村10、白馬村11、大町市7、松川村1) |
長野県の小谷村、白馬村、大町市、松川村、池田町の5市町村では、2023年2月現在、17名が地域おこし協力隊として活躍中だ。さまざまな地域協力活動を行ないながら、地域を盛り上げる新しいメンバーとしてその存在感を放っている5人の隊員のみなさんに、移住定住のリアルを語っていただいた。
ポスト・コロナの時代を迎え、私たち日本人の「豊かさの物差し」が少しずつ変わってきたようだ。ヒトとモノに囲まれた都会の暮らしより、きれいな水と空気の源泉である山や森に囲まれた、緑豊かな土地で暮らしを始めたいと考える人びとが増えている。
「北アルプス山麓」の5市町村=池田町、大町市、小谷村、白馬村、松川村は、「山の国」の日本らしい、自然回帰ともいえる価値観に共鳴し関心を寄せる移住者たちが集まる。単身で、あるいはファミリーで、全国からさまざまな人たちが移住を果たしているこのエリアの魅力と実際の暮らしぶりを、「アウトドア」「住まい・暮らし」「子育て」「仕事・起業」「農ある暮らし」という5つのキーワードから掘り下げてみよう。
残雪輝く北アルプス・後立山連峰の山々と、一面緑色の山里。その景色を見た者の誰もが、この土地の豊かさと美しさに感嘆するに違いない。
2021年6月、私たち取材班は大町市、池田町、松川村、白馬村、小谷村の5市町村に住む先輩移住者のみなさんを訪ねた。試行錯誤を重ねて移住先に根を下ろし、今では生活の基盤をしっかり築いた家族から、移住間もない人たちまで、移住前の生活と、移住してからの生活、それぞれの「移住・定住ストーリー」を聞いた。
市町村の規模から、大町市に件数が多いが、買い物に不可欠な大手スーパーのチェーン店、ドラッグストア、生活用品店は、主要道路沿いにある。地域にお店のない場合でも、昨今のインターネット通販の発達によって、不便さは感じないだろう。
また、登山・アウトドア用品に限って言えば、山岳リゾートの白馬村に、好日山荘 のほか、THE NORTH FACE、mont-bell、patagonia、snow peakの直営店がオープンしている。小さい規模の専門店もいくつか見られる。長野市、松本市まで行けば、買えないものはないだろう。
医療について見れば、各市町村にある病院、診療所のほかに、入院施設のある大きな病院としては、市立大町総合病院(大町市)、北アルプス医療センターあづみ病院(池田町)があり、ほかに、信州大学附属病院(松本市/ドクターヘリ配備)、県立こども病院(安曇野市/高度な小児医療体制)などが近隣市に存在する。
子育て中、あるいはこれから子育てをするという家庭にとって、教育環境も気になるところだが、未就学児の保育については、5市町村全体で、24園(幼稚園1、認定こども園8、保育所8、認可外保育園7)あり、そのうち、野外教育・アウトドア教育を推進する長野県の取り組みである「信州やまほいく」の認定団体が14園となっている。大町市では古くから山村留学制度で、全国から生徒を預かり、育成している実績もある。
小・中学校でも、地域によって、ICT教育(白馬村・大町市)、英語教育(小谷村・大町市)、姉妹都市への海外ホームステイ交流(大町市、松川村、小谷村)などの取り組み事例がある。地域住民向けに親子で自由に利用できる施設(児童センター/大町市、子ども未来センター「かがやき」/松川村)のほか、公民館などの施設で行なわれる子育て支援(親子教室/大町市、家庭教育学級「ぽれぽれ塾』/池田町)や、住民同士の地域コミュニティがある。
移住支援制度も、市町村でそれぞれ行なわれている。起業支援、就農支援、住宅取得・建築の補助金などのほか、移住者にとりあえずの住居を提供する移住準備住宅(池田町)、定住促進住宅(大町市)、移住お試し住宅(松川村)、移住お試しで利用できる農山村体験交流滞在型施設(小谷村)などの制度があり、ホームページや移住パンフレットに掲載されているので、ぜひ調べてみよう。