2016年で一旦廃番となるが、今年4年ぶりに復活した。一体、なにが変わったのか?
アルパインクライマーの横山勝丘氏が、フィールドテストで新作の“違い”を紐解く。
2016年の廃番から丸4年。ついに復活した待望の新生DASパーカの進化を確かめるべく、アルパインクライマーの横山勝丘氏が向かったのは、北アルプスの北部、立山連峰の南部にある龍王岳北面の岩場。11月26日、出発時に室堂で確認した温度計は−2℃を記録していた。冬の北アルプスでは決して低い気温とはいえないが、風が強かったためDASパーカを着たまま壁に取り付いたと言う。
「昨年11月に楽しんだアメリカ・ユタ州のロックトリップで約1ヶ月間、そして今年の10月末には奥秩父の瑞牆山でも新しくなったDASパーカをテストしてきたのですが、実は雪のある冬山の稜線で使うのは今回が初めて。そして結論を先に言うと、改めてこのジャケットの良さを確認することができました」
同じくDASパーカを着て一緒に壁に向かったパートナーの鳴海玄希氏も「すごく良い商品ができたね」と本音がこぼれたという。一体、何がそこまで良くなったのか?
「まず以前のモデルと比べると、数値だけでなく、肌感覚でもすごく軽くなったと感じます。これなら躊躇せず山に持っていきたいと思えますね。軽くなったことで保温性が下がったのでは?と心配する方がいるかもしれませんが、この点は従来から変わらず、今回のテストでは特に軽さと温かさのバランスの良さが際立って感じられました」
DASパーカはパタゴニアが展開する化繊インサレーションの中で、もっとも保温性が高いモデルに位置付けられている。この保温性についてはメーカーサイドも、以前までと同等だと説明してきた。横山氏のレビューは、この説明を裏付ける結果になったようだ。 さらに行動中に着続けたことで、着心地の良さも再確認できたと言う。
「以前までは袖を通すとモコモコし過ぎて、まるでロボットのような着心地があったんです。でも新しくなったDASパーカにはそれがない。軽くなったのと、さらに生地が柔らかくなったおかげで、着心地がすごく良くなりました。そして今回はフードを被ったまま行動することもあったのですが、生地が顔に当たっても肌触りが硬くないのでストレスに感じることがなかったです。ずっと着ていたいとさえ思うことができました」
フードと同様に、袖口が手首に当たっても擦れて痛むようなことはなかったと言う。ちなみに、生地が柔らかくなったことによる耐久性の低下が気になるところだが、いままでのテストから弱いと感じたことはないそうだ。 それとは別に、細部の使い勝手も良いと太鼓判を押す。
「ファスナーも柔らかいので、ジッパーを上げ下げしても途中で突っかかるような感じはありません。フードのフィット感も調整しやすく、さらに裾をドローコードで絞ると風がまったく入ってこないので、確実に体温を溜め込んでくれて、ますます温かいと感じることができました」
冷気の侵入を防ぐことも大切だが、保温着は中綿が作る空気の層で外気の冷気を遮断して体温を保持する。この点について、DASパーカを丸めたときに内側から大量の空気が抜けていく様子を肌で実感できたと言う。そして空気が抜けることで小さくコンパクトにパッキングできるのもいいと、やはり評価は上々だ。
新生DASパーカにはまったく不満がないのだろうか? あえて、改善してもらいたい点があるか質問してみた。
「正直あまり見つかりません。強いて言うなら、スタッフバックが大きいことでしょうか。収納するときはストレスがなくていいのですが、ハーネスにぶら下げて持ち運ぶことを考えると大きすぎる。ただ、両手でギュッと押しつぶすと2分の3以下のサイズになるので、バックパックの中でかさ張ることはありません」
収納サイズはイコール、スタッフバックの大きさともいえるので、一回り小さい袋を用意してもいいかもしれない。これはユーザーのアイデア次第でいかようにも解決できそうだ。
これまで紹介してきた横山氏のレビューから、新生DASパーカに実際に袖を通したくなった読者も多いだろう。最後にサイズ感について訊ねてみた。すると、ここでも好印象がこぼれた。
「パタゴニアのウェアは、僕は普段からMサイズを着ていますが、新しくなったDASパーカはサイズアップする必要がなく、同じMサイズでちょうど良かったです。ハードシェルジャケットの上からも余裕で着ることができ、クライミングなどの動きでもストレスを感じず、腕を上げてもお腹や腰が出ることがありませんでした」
以前までは少なからずどこかに不満があったそうだが、やっと本当にいいなと思った、と横山氏は最後まで大絶賛。重量、着心地、サイズ感など、なにもかもが満足できる新生DASパーカは、今季いちばんの注目アイテムになること間違いなしだ。
横山氏もフィールドテストで感じた圧倒的な軽さ。実際にMサイズの556gという重さは、従来から約20%も軽くなっている。しかしただの重量減ではなく、以前までの保温性を維持している点が画期的といえる。この軽量化に貢献したのが、クロス・コア・テクノロジーと呼ばれる新技術だ。
従来のモデルは、中綿の繊維と繊維とのあいだにできる空気の層によって、断熱性と保温性を得ていた。しかしクロス・コア・テクノロジーは、この空気の層を一本一本の繊維の中にも作り出す。そこで重要になるのが、体積の90%以上が空気という優れた断熱素材エアロゲルだ。これは個体の状態でも背景が透けて見える不思議な物質で、「個体の雲」「凍った煙」などとも呼ばれており、シート状のエアロゲルを火で熱しても溶けることなく、上に乗せた枯れ葉も燃え出さないほど高い断熱性を有している。
このエアロゲルを繊維に練り込ませる技術がクロス・コア・テクノロジーで、繊維自体にも高い断熱性が備わるため、トータルで中綿量を減らしても保温性を維持することができるのだ。
軽くなり、着心地も向上したDASパーカは、もともとビレイ用パーカとして開発されているため、クライミングシーンで役立つ機能を随所に備えている。さらに化繊インサレーションは、濡れても保温性が低下しづらく、表生地が破けても中綿が一気に飛び出さないという特長があるため、乾いた岩場や、アイスアックスやスクリューなど鋭利なギアを身に付けるアイスクライミングはもちろん、雪山の長期山行などでも重宝する。
生まれ変わったDASパーカはクライミングシーンに限定されず、寒い時期の保温着として、多くの登山者に提案できる一着に仕上がっているといえるだろう。