パタゴニア M10 シリーズ パタゴニア M10 シリーズ

「M10の歩みと進化 patagonia M10 アルパインシェル

吉澤英晃
写真
中村英史
デザイン
谷口みずも
[PR]
2024.11.08

ついにM10が復活した!
数々のアルパインクライマーから称賛を得たテクニカルシェルが、
2018年以降改良に向けた休止から約6年、
各性能のバランスや動きやすさを洗練させて戻ってきた。
完成度の高い前作の一体どこに改良の余地があったのか、
本国のプロダクトラインディレクターに開発背景を取材した。

「M10」と銘打つ
端的な製品コンセプト

岩と氷で構成される壁をロープで確保されながら登るミックスクライミングイメージ
写真=鈴木岳美

新しくなったM10シェルの特徴を知る前に、「M10」というネーミングの由来が気になる人もいるはずだ。M10とは、岩と氷で構成される壁をロープで確保されながら登るミックスクライミングのグレーディングシステムの難易度のひとつであり、数字が大きくなるほどより困難なルートであることを意味している。

現在、世界にはM15−のグレードが付けられた最難ルートが存在するが、M10も研鑽を積んだクライマーのみが完登を許されるハイグレードであり、ダイナミックかつ繊細な動きを高いレベルで要求される。

岩と雪のハードなミックスクライミング、その中でもM10というグレードは、高度な技術に加えて、並外れた体力と持久力が不可欠な極めて難易度が高いものです。単なるカテゴリーを示すだけでなく、たゆまない努力によってクライマーが培ってきた技術や経験、功績を象徴するものでしょう。M10という製品名は説明的であり、向上心に満ちた意欲的な言葉でもあります。

リンデン・マロリー/
アルパイン部門プロダクトライン・ディレクター

ただ、高難度のクライミングシーンでM10のような防水透湿シェルにできることは意外と少ない。風や雪などから体を守る重要なウェアではあるが、実際のクライミングでは1gの重さすら負担になるし、レイヤリングが増えるほど体の動きは妨げられるからだ。

「余分なものがない=機能的」
というデザイン哲学

パタゴニア M10ストーム・ジャケット
M10ストーム・ジャケット

多くのアルパインクライマーの意見を汲み取って誕生したM10シェルは、「機能」と呼べるものがほとんどない。実際、ハンドウォーマーポケットがなければ脇下のピットジッパーもなく、もちろんパウダースカートも備わっていない。

M10はパタゴニアのデザイン哲学を体現するように、2010年の発売当初から余分なものを一切排除し、シンプルにクライミングにフォーカスして設計されてきました。

しかし、ハードなクライミングシーンでは、余分なものをことごとく省いた潔さこそ多くのアルパインクライマーに評価された。つまり、余分な機能がないシンプルな作りは、裏を返せばM10シェルに備わる“最高で最大の機能”なのである。

パタゴニア M10ストーム・ジャケットのポケット
ポケットは胸元の2カ所にのみ備わっている

余分なものを取り除く姿勢は、使われている生地にも垣間見られる。通常、雪山登山やアルパインクライミング用のアウターレイヤーはハードシェルと呼ばれ、丈夫な生地で貝殻のように身を守るためのウェア、などと紹介されることが多い。しかし、そのイメージでM10シェルに接すると、これはレインウェア?(その中でもかなり軽い部類)、と不安を覚えるほどの薄さと軽さに驚かされるはずだ。

パタゴニア M10ストーム・ジャケットの生地アップ
生地は薄くとてもしなやか。パッカブル仕様で胸ポケットにも収納できる

現に、M10シェル内で最軽量の「M10アノラック」は、約300gとかなり軽い。これは近年の一般的なレインウェアの重量に肉薄する。極限まで軽量化を求められる環境では、眼を見張るほどの軽さもまた、不安を上回り称賛を浴びるほど好意的な機能になるのである。

意図的に素材を変えた
2つのM10

パタゴニア M10アノラック
M10アノラック

2018年、M10シェルは一度製品ラインからドロップする。当時、製品マテリアルをリサイクル素材やPFAS不使用素材へ移行する中で、M10シェルに見合う素材がなかったことが大きな理由だ。それから約6年、新たに開発された技術や素材によって、ついに環境に配慮した理想のM10シェルが誕生した。

パタゴニア M10アノラックのポケット
腰回りが一段とスリムで、備えるポケットは胸元に1カ所のみ

今季のM10シェルのメンズラインは、2つのトップスと1つのボトムスから構成される。トップスは「M10ストーム・ジャケット」と「M10アノラック」。この2つのシェルには、実は意図的に2つの異なる素材が使われている。

M10ストーム・ジャケットに採用されたのは、メンブレンおよびDWR(耐久撥水加工)にもPFASが使われていない3層構造のH2Noパフォーマンス・スタンダード。充分な透湿性を確保しながら耐候性にも優れており、30デニール・100%リサイク・ナイロン(ECONYL)で構成される表面のリップストップのおかげで耐久性にも妥協はない。

M10ストーム・ジャケットはその名の通り、嵐のような状況での耐候性と耐久性を重視して開発されました。強度に関しては生地に使われている糸と構造によりM10シェルの中でも特に丈夫で、薄さからは想像もできないほど高い引き裂き強度を備えています。

パタゴニア M10ストーム・ジャケットのカフ パタゴニア M10アノラックのカフ
M10ストーム・ジャケットとM10アノラックはカフの作りも異なっている

一方、M10アノラックの防水透湿膜には、M10ストーム・ジャケットと異なる「Xporeナノ多孔質メンブレン」が採用されている。これは自動車メーカーが開発した素材で、化学的な溶剤によって生成される不規則な大きさの孔をもつ従来のメンブレンと異なり、機械的な製造工程によって強力な化学物質の使用を抑えつつ均一な極小の孔が生まれ、M10ストームを上回る高い透湿性を内蔵する。さらに、表地に20デニール・100%リサイクルナイロンを使うことで、M10ストーム・ジャケットより一回り軽く仕上がっている(ちなみに、M10アノラックのメンブレンにもDWRにもPFAS不使用)。

M10アノラックは、山岳環境でスピーディーかつ軽快な行動を叶えるために、優れた透湿性を備えたミニマリストジャケットを作ることをめざしました。

パタゴニア M10ストームのウィメンズ製品
ウィメンズはM10ストーム・ジャケット&ビブの2モデル展開

ダンスからアイデアを得た
最高レベルの動きやすさ

パタゴニア M10ストーム・ジャケット着用で腕を上げる
腕の上げやすさは秀逸。裾はずり上がらず、手首が露出することもなかった

素材が変更されただけでなく、新生M10シェルはすべてのデザインを一から見直し、従来のコンセプトを踏襲しながら完全に生まれ変わった。

たとえば、お菓子作りは小麦粉の種類が変わるとレシピ全体を見直さなければいけません。これはジャケットにも同じことが言えて、素材が変わればデザイン全体を洗練させる必要があります。M10シェルを作り直すにあたって、あらゆる要素が見直され、ブラッシュアップされました。

なかでも開発時にいちばん注力されたのは「動きやすさ」だ。その際、クラシックダンスの経験をもつデザイナーはダンスの動きからヒントを得たと言い、踊りを妨げるウェアがダンスに不向きであるのと同様に、クライミングのムーブを一切妨げないシェルを完成させるために、ジャケットでは特に脇下、パンツでは股下のガセットのパターンが綿密に設計された。

パタゴニア M10ストーム・パンツ メンズ
メンズ M10ストーム・パンツ
パタゴニア M10ストーム・パンツ メンズ着用で足を上げる
足の上げやすさは言うことなし。股下が突っ張る感じは皆無と言える

結果、クライマーが次のホールドをつかむときやアイスクライミングで「A−フレーム」の体勢を取るとき、腕の動きを妨げないばかりか裾がほとんどずり上がらない理想のジャケットが誕生した。さらにパンツはひし形のガセットを大胆な大きさで股下に配置することで、突っ張り感のない自由な足上げを可能にしている。

切れ味鋭い
最良の超軽量ハードシェル

ハードなクライミングルートに挑むアルパインクライマー
写真=鈴木岳美

待望の復活を遂げたM10シェルは、ハードなクライミングルートに挑む従来の製品コンセプトを踏襲し、環境に配慮した軽量で丈夫な素材を使用したシンプルな作りで、さらに動きやすくなって生まれ変わった。

しかし、厳格に理想を追求してロジカルに余分な機能を排した結果、ベンチレーションすら備えないため、適したシチュエーションを見極める必要があるかなりエッジの効いたシェルともいえる。

ミックスクライミングはもとより、冬期クライミング、アイスクライミング、アルパインクライミングなど、登攀的なアクティビティはもれなくM10シェルの独壇場だ。最小で最高の機能がクライマーの理想の動きを実現させる。

Climber's Impression

10月上旬、アルパインクライマーの横山勝丘と鳴海玄希が、M10シェルを着てパキスタンのカランバール渓谷にそびえるボフ・パリット(約5,300m)に挑んだ。現地の気温は明け方で氷点下、日中も寒さは変わらず、クライミング中はスノーシャワーと強風を受け続ける悪条件だったという。国内でのフィールドテストも踏まえて使用感を聞いた。

シンプルであること。
M10の魅力はこの一言に尽きる 横山勝丘

ボフ・パリットでハードなクライミングルートに挑む
写真=鈴木岳美

M10シェルの魅力はシンプルさ。これに尽きると思います。余分な機能を全部排していると感じられ、だからこそすごく軽くて動きやすい。クライミングではウェアに限らず装備はなるべくシンプルにしたほうがいいと考えていて、必要最低限だけど充分なプロテクションをもちつつ、動きやすさにフォーカスした作りが気に入っているポイントです。

これまで防水性や透湿性などに不満は感じられず、耐久性については前作より増した印象があります。ワイドクラックに突っ込んだとき縫い目がほつれてしまいましたが、それ以上大きなダメージはなかったです。

突出して動きやすく、
着たときにストレスを感じづらい 鳴海玄希

ボフ・パリットでハードなクライミングルートに挑む
写真=鈴木岳美

ロッククライミングにおいて、シェルはできれば着たくないんです。でも、天候が変わりやすい山では着ないといけない。そういうシーンで、生地が薄くシンプルで必要最低限の機能を備えるM10シェルは、かなり使いやすいと感じています。生地の厚みとシンプルさのバランスのよさはパンツが顕著で、スナップボタンやインナーゲイターが付かず、生地も厚くないので膝を上げやすいし、足元を見やすいのもいいですね。

動きやすさについては、これまで着てきたパタゴニアのほかのシェルと比べても、M10シェルは突出している感じがあります。着たときのストレスが少なく、クライミング中にジャケットの裾がハーネスから出ることも一切ありませんでした。

  • アルパインクライマー横山勝丘

    横山勝丘

    1979年生まれ。2010年、ローガン南東壁「糸」を初登してピオレドールを受賞。国立登山研究所講師、信州大学学士山岳会所属。

  • アルパインクライマー鳴海玄希

    鳴海玄希

    1982年生まれ。2018年、セロ・キシュトワール(6155m)北東壁初登。日本山岳ガイド協会認定山岳ガイドステージII。

Lineup

  • メンズ・M10ストーム・ジャケット

    価格
    5万5000円(税込)
    サイズ
    XS〜XL
    カラー
    レッドテイルラストなど、全3色
    重量
    310g(Mサイズ)

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  • メンズ・M10アノラック

    価格
    5万7200円(税込)
    サイズ
    XS〜XL
    カラー
    エンドレスブルーなど、全2色
    重量
    300g(Mサイズ)

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  • メンズ・M10ストーム・パンツ

    価格
    3万8500円(税込)
    サイズ
    XXS〜XL
    カラー
    スモルダーブルーなど、全2色
    重量
    240g(Mサイズ)

    詳細を見る

  • ウィメンズ・M10ストーム・ジャケット

    価格
    5万5000円(税込)
    サイズ
    XS〜L
    カラー
    マダーレッドなど、全3色
    重量
    280g(Sサイズ)

    詳細を見る

  • ウィメンズ・M10ストーム・ビブ

    価格
    5万5000円(税込)
    サイズ
    XS〜L
    カラー
    スモルダーブルー
    重量
    266g(Sサイズ)

    詳細を見る

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問合せ先

  • パタゴニア(Patagonia)

    • https://www.patagonia.jp/
    • 0800-8887-447 *フリーコール・通話料無料
    • 10:00~16:00(土日祝日・年末年始は休業)