登山靴は次の時代へ。定説を覆す異次元の歩行性能スポルティバ、エクイリビウム 登山靴は次の時代へ。定説を覆す異次元の歩行性能スポルティバ、エクイリビウム

登山靴は次の時代へ。 定説を覆す異次元の歩行性能 スポルティバ、エクイリビウム

岩場での「登攀性」と、平地での「歩行性」。従来、相容れなかった2つの性能を、大胆なヒール構造でみごとにまとめあげた登山靴がある。「平衡」を意味する、スポルティバのエクイリビウム。その実力を3000mに迫る岩の鋭鋒で試してみた。

吉澤英晃、
写真
鈴木岳美、
協力
スポルティバジャパン
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2023.07.29

確実、安定、次の時代に入った登山靴
それがエクイリビウム

今回のテストでは、スタンダードな「エクイリビウム ST GTX」を使用
今回のテストでは、スタンダードな「エクイリビウム ST GTX」を使用

スポルティバのエクイリビウムは、登山靴のなかでも、アルパインブーツにカテゴライズされる一足だ。一口に登山靴といっても、現在は歩行性に優れるトレッキングシューズと、登攀性を備えるアルパインブーツに大別でき、エクイリビウムは後者に含まれる。

アルパインブーツの特徴は、細かいフットホールドへの立ち込みをサポートする、剛性の高いソールにある。ただし、それゆえにトレッキングシューズのような軽快さは得られず、どちらかというと平地ではぎこちない足運びを余儀なくされるものが多かった。

その常識に衝撃を与えたのが、エクイリビウムだ。「平衡」を意味するネーミングのとおり、エクイリビウムは「登攀性」と「歩行性」をバランスよく備え、特に歩行性については発売された当初から評価が高い。

取材の様子。悪天候のなか、エクイリビウムの実力をテストした
取材の様子。悪天候のなか、エクイリビウムの実力をテストした

今回は、エクイリビウムのディテールを確認しつつ、中央アルプスの宝剣岳をめざしながら、比較的テクニカルなルートで内に秘める独自性能をあらためて確かめてみた。

テスター

山岳ライター

吉澤英晃

吉澤英晃

1986年生まれ、群馬県出身。登山用品を扱う会社の営業マンを経て、2018年からフリーライターとして活動。学生時代の探検部でアウトドアに出合い、いまは沢登りから雪山まで一年中登山を楽しむ。

平地での歩きやすさをもたらす
まったく新しいヒール構造

ソールのかかと側に特徴があり、斜めにカットされた断面の境に一直線のラインが確認できる
ソールのかかと側に特徴があり、斜めにカットされた断面の境に一直線のラインが確認できる

テストでまず際立ったのが、アウトソールのダブルヒール構造だ。エクイリビウムと対峙したとき、誰もがその独特なヒールの形に目を奪われるだろう。

エクイリビウムのヒールは、後端が約45度にカットされている。奇抜なこの形状のおかげで、かかとから着地すると、進行方向に対して直角を向く一直線のラインで地面と接することになり、足を置いたときの安定感が非常に高い。

さらに、この直線を起点に転がるように足が前へ進むため、まるでソールが反り上がったロッカー形状の靴を履いているように、スムーズに歩くことができる。

  • テストのため、大袈裟にかかとから着地してみた。足元がブレにくく優れた安定性を感じる
    テストのため、大袈裟にかかとから着地してみた。足元がブレにくく優れた安定性を感じる
  • 斜めにカットされたヒールから、転がるように足が出る
    斜めにカットされたヒールから、転がるように足が出る

ダブルヒール構造の実力は、麓の駐車場でエクイリビウムに履き変えて、平地を歩いたときから実感できた。率直に歩きやすいのである。トレッキングシューズ並みとは言えないが、足がカクカクするようなぎこちなさはなく、自然な足運びで行動できる。

アルパインブーツ=平地では歩きにくいという常識は、エクイリビウムには通用しない。

ヒールのラグが砂地に食い込み、後には蹄のような足跡が残っていた
ヒールのラグが砂地に食い込み、後には蹄のような足跡が残っていた

もうひとつの特徴が、ヒールを斜めに切り落としたことで生まれた、動物の蹄のようなブロックパターンだ。砂場などの下りでは、このパターンがグイッと地面に食い込み、高いブレーキ力を発揮した。下りでもフラットフッティングを基本としつつ、砂混じりのトレイルやザレた登山道では、この強力なブレーキ力がかなり頼りになるだろう。

登り、下り、トラバース
足の動きに寄り添うフレキシビリティ

アルパインブーツは、細かいフットホールドに立ち込んだときに、タンで体重を支えるため、ハイカットで作られているのが一般的だ。ただ、ガチガチに足首が固められることはなく、ある程度自由な動きを確保するため、大半が足首回りに柔軟性をもたせている。

くるぶし付近は、線と面で構成される立体的なデザイン。これが優れたフィット感を生む
くるぶし付近は、線と面で構成される立体的なデザイン。これが優れたフィット感を生む

エクイリビウムも同様で、その機能は「3DフレックスシステムEVO」と名付けられている。「EVO」が付かない「3Dフレックス」は、スポルティバのほかのアルパインブーツにも備わっているが、エクイリビウムでは、くるぶしに当たる部分を立体的に設計。よりフィット感が高められている点がほかと違う。

登りのワンシーン。腰と膝と使い、足首を曲げて蹴り出す動作もじつにスムーズ
登りのワンシーン。腰と膝と使い、足首を曲げて蹴り出す動作もじつにスムーズ

駒ヶ岳ロープウェイの千畳敷駅から歩き始めて乗越浄土へ向かう間、斜面につけられた階段状のトレイルが延々と続く。エクイリビウムの足首回りの柔軟性は、こういうシーンでも効果を実感できた。足首がストレスなく屈曲するので、歩きづらさを感じないのだ。

  • 歩幅が合わず、わずかな段差で足を交差。足首は左右にもストレスなく曲げられる
    歩幅が合わず、わずかな段差で足を交差。足首は左右にもストレスなく曲げられる
  • 大股で段差を越える。足首回りに柔軟性があるので、膝や腰でも衝撃を吸収しやすい
    大股で段差を越える。足首回りに柔軟性があるので、膝や腰でも衝撃を吸収しやすい

それは足をクロスさせるときや大きな段差を越えるときにも同じことが言える。足首回りの自由度は見た目以上に高く、自然な足運びが妨げられることはほとんどなかった。

テクニカルな岩場で威力を発揮。
信頼の登攀性とプロテクション

  • 宝剣岳直下の鎖場。両手を使い、鎖とホールドを頼りに高度を稼ぐ
    宝剣岳直下の鎖場。両手を使い、鎖とホールドを頼りに高度を稼ぐ
  • 岩場のフットホールドはかなり狭い。爪先での立ち込みを強いられる
    岩場のフットホールドはかなり狭い。爪先での立ち込みを強いられる

乗越浄土で尾根上に出てから宝剣岳に進路をとると、地形に露岩が目立つようになってきた。両足だけでは足りず、両手の動員も求められる、いわゆる登攀シーンの始まりだ。

足場は次第に細かくなり、爪先で立ち込むポイントが増えてくる。こういったルートでこそ、エクイリビウムは本領を発揮する。

  • 岩場では写真のようなわずかなスペースに爪先を乗せることも珍しくない
    岩場では写真のようなわずかなスペースに爪先を乗せることも珍しくない
  • ソールのエッジに角度がついているため、靴が足場の形にフィットする
    ソールのエッジに角度がついているため、靴が足場の形にフィットする
  • つま先側にあるフラットなラグがクライミングゾーンだ
    つま先側にあるフラットなラグがクライミングゾーンだ

まず、エクイリビウムのソールはエッジに角度がついているため、細かなフットホールドに爪先部分を乗せやすい。そして、爪先側に重心を移すとフラットなクライミングゾーンの摩擦力が生き、拇指球の裏でグリップ力を感じながら、狭い足場でも安定して体を持ち上げることができた。

剛性の高いソールが体重を保持。上体を持ち上げるとき、力を爪先に集中できる
剛性の高いソールが体重を保持。上体を持ち上げるとき、力を爪先に集中できる

さらに、剛性の高いソールが荷重に負けることはなく、爪先の一点で体を支える状況でも、前足部から中足部にかけてしっかり体重を支えてくれた。結果、太ももやふくらはぎにかかる負担を軽減できた点は、さすがアルパインブーツといえるだろう。

黄色いパーツがトゥキャップ。シューレースの先端は露出を控える設計だ
黄色いパーツがトゥキャップ。シューレースの先端は露出を控える設計だ

また、このようなルートでは靴を岩肌にぶつけやすく、アッパーに受けるダメージが大きくなりがち。その点、エクイリビウムは先端をTPUのトゥキャップで保護。爪先側のシューレースは生地で覆われ、靴ひもへのダメージも考慮されている。ハードな使用に対する耐久性の高さは十二分といえるだろう。

地面の凹凸をダイレクトに感じる
抜群の足裏感覚

テスト当日は、濃い霧があたりを覆い、強風が絶え間なく吹き続けるあいにくの天候。残念だが現場の状況から宝剣岳のピークハントは危険と判断し、来た道を戻ることにした。

期待外れの悪天候で撤退を余儀なくされ、登ってきた岩場を慎重に下る
期待外れの悪天候で撤退を余儀なくされ、登ってきた岩場を慎重に下る

冒頭でも書いたように、登山における歩き方は、登りも下りもフラットフッティングが基本だ。ただ、このフラットフッティングは、登りでは難しくないが、下りになると途端に怖さを感じるのは筆者だけだろうか。特にアルパインブーツのようなソールの硬い登山靴は、足裏感覚に物足りなさを感じるものが多く、ソールのグリップ力を信頼できるようになるまで慣れが必要だと感じていた。

ただ、その考えは、エクイリビウムによってみごとに覆されることになる。今回のテストで最も魅力的に映ったのは、歩きやすさや足首回りの柔軟性とも違う、間違いなくこの足裏感覚といえる。

下山途中、優れた足裏感覚をひしひしと感じた。ソールが吸い付くように踏ん張りが効く
下山途中、優れた足裏感覚をひしひしと感じた。ソールが吸い付くように踏ん張りが効く

不思議なことに、ソールは力を込めても前足部がわずかに屈曲する程度の硬さなのに、足裏には着地したトレイルの起伏がダイレクトに伝わるのだ。それは岩場でも砂場でも同じことが言えて、地面の凹凸をじかに感じるため、特に下りでは非常に足を踏ん張りやすかった。

  • 階段の木製の縁や石の表面に足を置いたときも、じかに凹凸を実感できた
    階段の木製の縁や石の表面に足を置いたときも、じかに凹凸を実感できた
  • 岩肌のわずかな起伏もダイレクトに伝わり、大地を踏みしめながら行動できる
    岩肌のわずかな起伏もダイレクトに伝わり、大地を踏みしめながら行動できる

かといって、地面からの突き上げによるダメージが足裏に蓄積される様子は感じられず、疲れにくいのに足裏感覚は優れているという、かなり不思議な感覚があった。

この秘密は、「スプリングラグテック」というソール構造にあるのだろう。

スプリングラグテックの構造。右がミッドソールを流し込む前のアウトソール
スプリングラグテックの構造。右がミッドソールを流し込む前のアウトソール

エクイリビウムのソールパッケージは、アウトソールの一つひとつのラグまでミッドソールを流し込む特殊な構造で作られている。地面の凹凸は、個々のラグからミッドソールを介して、最終的に足裏へと伝達される。インナーソールに擬似的な地面の凹凸が現われて、その疑似的な凹凸を足裏で感じるようなイメージだ。

ラグを親指で押してみると、柔らかいゴムのように沈み込み、弾力性を感じられた
ラグを親指で押してみると、柔らかいゴムのように沈み込み、弾力性を感じられた

さらに、一つひとつのラグは地面の凹凸を感知するセンサーになっているともいえそうだ。ラグのひとつを親指で押してみると、割と簡単にグニッと沈み込んだ。この弾力性こそ、着地時の地面からの突き上げを和らげつつトレイルの凹凸を足裏へ伝える秘密である。

登山中級者からおすすめできる
歩行性に優れる
高性能アルパインブーツ

登山中級者からおすすめできる歩行性に優れる高性能アルパインブーツ

今回のテストでは、抜群の足裏感覚に驚かされながら、評価の高い歩行性と登攀性のバランスのよさ、足首回りの柔軟性など、基礎となる性能を確かめることができた。標準的なハイカットのトレッキングシューズや他のアルパインブーツと比べてみても、エクイリビウムの性能は、頭一つ飛び抜けているといえるだろう。

ただ、それをもって誰にとっても優れた登山靴と太鼓判を押すのは早計だ。登山靴も道具の一種である。使う側のスキルが伴わなければ、単なる宝の持ち腐れになってしまう。では、エクイリビウムはどういったユーザーにおすすめなのか。

まず、登山に親しみ、基本的な歩き方や岩場での身のこなしを身につけていることが絶対条件といえる。そして、登攀性に関して、トレッキングシューズに物足りなさを感じている人であれば、エクイリビウムの性能を十二分に引き出して、自身の山行をより良いものにできるだろう。

気になった人は、ぜひ店頭で実際に足を入れてみてもらいたい。エクイリビウムが自身の足型に合ったとき、もしかすると、それは最高の登山靴との出合いになるかもしれない。

Other Feature

あらゆる状況に対応する、
安心の防水透湿性

あらゆる状況に対応する、安心の防水透湿性

信頼の防水透湿性素材ゴアテックスで防水性を確保。雨後のぬかるんだトレイルや雪渓を通過するときなども、浸水を気にせずルートを踏破できる

雪上歩行に欠かせない
アイゼンを装着可能

雪上歩行に欠かせないアイゼンを装着可能

ヒールにアイゼン装着用のコバがあり、セミワンタッチタイプのアイゼンを取り付けられる。夏山の雪渓はもちろん、マイルドな気候であれば残雪期の雪山にも対応する

アッパーには
防御力に優れる高強度素材

アッパーには防御力に優れる高強度素材

「エクイリビウム ST GTX」のアッパーは、蜂の巣状の模様が特徴の高強度素材・ハニカムガードを採用。ほかにアッパーがレザー製のモデル「LT」もある

クッション性とブレーキ力を生む
ソールパターン

クッション性とブレーキ力を生むソールパターン

アウトソールにインパクトブレーキシステムを搭載。内と外で互い違いに斜めに設計されたラグがクッション性とブレーキ力を発揮する

ラインナップ

問い合わせ先

LA SPORTIVA

https://www.sportivajapan.com/