モニター特派員・山旅レポート  

花を愛でる、滝をめぐる、
きたあきた森吉山 花三昧紀行

 

 

マタギの里、秋田県北秋田市へ。
初夏の森吉山は満開の花々で私たちを迎えてくれました。
百花繚乱の山を歩き、マイナスイオン全開の滝をめぐる桃源郷の旅をレポートします。





特派員 上野 紗智 さん (うえの・さち 写真・左)

大阪市在住。理学療法士。好きな山は九重連山、生駒山。よく行く山は関西エリアの低山(比良山系、大峰山系、六甲山系など)。「山くらぶ」所属。

特派員 上田 都子 さん (うえだ・みやこ 写真・右)

大阪市在住。介護事務。好きな山は交野山、八ヶ岳。年間山行日数70日超。低山からアルプスまで、オールシーズン登山を楽しむ。「山くらぶ」所属。

登山ガイド 大川美紀 さん (おおかわ・みき 写真・中)

秋田県大館市出身、在住。旅行業を経て日本山岳ガイド協会認定登山ガイド・ステージⅠを取得。北東北山岳ガイド協会、「森吉山ガイドクラブ」所属。



たくさんの高山植物に圧倒された森吉山

ゴンドラ山頂駅から少し登るだけで明るい展望が開けます

 「なんて豊かな山なんだろう…」

 秋田県北部北秋田市、そのたおやかな山容で季節を問わず人々に愛される森吉山は、大阪在住の私たちにとっては初めて訪れる遥かなる憧れの山。夏、可憐な高山植物が咲き乱れる「花の名山」であることは知っていましたが、まさかこれほどとは! というのが正直な印象です。

 今回の登山は、標高約1,200mの阿仁ゴンドラ山頂駅から歩き始め、標高1,454mの森吉山に登頂、そしてお花たちが咲き誇る山人平を経て、ヒバクラ岳登山口まで縦走するというプランです。

 ゴンドラ山頂駅を降りた瞬間から、花、花、花!! いきなりたくさんの高山植物に圧倒されました。まずはピンクが可愛いイワカガミたちのお出迎え。シラネアオイやニッコウキスゲたちが咲く、眺めのいいのびやかな稜線道は快適そのもので、オオバキスミレの黄色いアクセントも素敵。山頂近くにさし掛かると、チングルマの大群落が山全体を覆い尽くします。

きれいなお花たちはもちろん、見逃してしまいそうな植物についても詳しく教えてくれました

 ガイドの大川美紀さんは、“森吉山・愛”にあふれる女性登山ガイドでとても頼りになる方でした。お花の解説がとても楽しく、私たちの知らない種類や「へぇ⁉」というようなレアな知識などをいろいろ教えていただきました。

 岩手山から八幡平、秋田駒ヶ岳、遠くに岩木山、鳥海山など北東北の雄大な山々が一望できる森吉山山頂まではゴンドラ山頂駅からゆっくり歩いても2時間ほどです。でも可憐なお花たちとどうしても“女子バナ”をしてしまうので、自然とゆっくり歩きになってしまいます。そして、その方が絶対に楽しいと思いました。

山頂近くの残雪 / 1,454mの森吉山は「花の百名山」のひとつ / 森吉山名物・冠岩
広い山頂からは北東北の山が360度のパノラマで広がります

 圧巻のパノラマを山頂で堪能した後、いよいよ縦走コースへ。それは今回のプランのハイライトの始まりでした。山頂から山人平へ下る斜面には、大きな雪渓が残っていました。今年は冬の雪の量が多かったとのことですが、念のため軽アイゼンを装着、緑の山肌と白い雪渓のコントラストを楽しみながら下っていきます。

山人平へは大きな雪渓(雪田)を下ります。ヒナザクラの大群落が迎えてくれました

 山人平は本当に素敵なところでした。主役は真っ白で小さなヒナザクラの群落。振り返れば残雪を携えた森吉山がやさしく微笑んでくれているようで、まさに桃源郷を歩いている気持ちになりました。ここでランチとし、いただいたマタギ弁当と秋田産のサクランボはともに絶品でした。

ランチは「マタギ弁当」と秋田産サクランボのデザート

 山人平からヒバクラ岳登山口までは、初めのうちはチングルマ三昧の草原を、やがてミズバショウが咲く湿地帯へ、そしてみずみずしいブナの森の中を軽快に歩いていきます。最後の休憩では美味しい湧き水が、山旅のフィナーレを飾ってくれました。

 実はこの山旅の直前に大阪で大きな地震があり、その影響で私たちには気持ち的な不安や疲れがあったのですが、森吉山の懐の大きさを感じる“山の豊かさ”に自然と笑顔になっていく自分たちがいました。心と体の疲れがどんどん抜けていき、ワクワクして元気になっていく…そんな心が踊るような不思議な感覚でした。ただただ歩く、という時間はほとんどなく、見どころが多くて6時間の縦走もあっという間でした。

ヒバクラ登山口近くのブナ林でクマのひっかき跡の幹を発見。大川ガイドはクマにも詳しいんです

 今回、ゆっくり森吉山を縦走してふと思ったこと。それは、この山は秋も素敵なんだろうなということです。山麓のブナの森はもちろん、山頂部の湿原や草原の草紅葉もきっと艶やかな彩りになるに違いありません。また、森吉山は蔵王、八甲田と並ぶ日本三大樹氷のひとつだそうです。ゴンドラを使えばその壮大かつダイナミックな雪景色も容易に楽しめるとのこと。ぜひ行ってみたいなと思いました。

 四季を通じて、豊かな自然がさまざまな表情で出迎えてくれる…そんな森吉山にすっかり恋してしまいました。

深呼吸が美味しい! と思うようなステキな森歩きでフィナーレ
阿仁ゴンドラ山頂駅 - <20分> - 石森 - <90分 >- 森吉山 - <20分> - 山人平 - <30分> - ヒバクラ分岐 - <90分> - ヒバクラ岳登山口
登山アドバイス
・阿仁ゴンドラまで、およびヒバクラ岳登山口からは、「森吉山観光パス」「森吉山周遊乗合タクシー」の利用が便利。
・夏山登山でゴンドラ山頂駅から森吉山までは特に危険箇所はないが、森吉山山頂から山人平に下る際の雪渓は注意が必要。傾斜もきついので軽アイゼンがあった方がいい。
・晴れていれば特に迷うことはないが、悪天候時はヒバクラ岳分岐以降、指導標が少ないため道迷いに注意したい。
・森吉山はツキノワグマの出没が珍しくない。単独行はできるだけ避け、鈴や笛などを必ず携帯しよう。


- お花カタログ -
 


「山の神様から命をいただく」
ホンモノのマタギから聞くマタギの文化と暮らし

マタギ資料館にてマタギ・鈴木英雄さんから奥深いお話を聴きました

 マタギとは本当のところはよく知らなかったのですが、今回はマタギご本人からこの世界での深いお話しを聞くことができました。

マタギの山への畏敬、山への感謝、そして何よりも大自然とともに生きる素晴らしさに感銘を受けるとともに、クマの生態や猟の有り方、マタギ勘定などマタギの掟についてもたくさん楽しく教えていただきました。

 しっかりした資料館があり、興味深い展示によりマタギ文化をよくわかるようになっていましたが、今回のように、“マタギ語り“(実際のマタギによる解説)を体験できればより理解しやすいと思います。

マタギ文化の真髄を知ることができます

 今回お話を伺ったのはホンモノのマタギ、鈴木英雄(ヒデオ)さんです。そして私たちとともに山道を歩いてくださったことで”ハンパない“身体能力を持っていることがわかりました。

 イワナやヘビなど動くものを即座に見つける動体視力、熊狩りの際に何日も山を歩ける無尽の体力、生死がかかる局面で冷静かつ的確な判断が求められる精神力。その反面、とても穏やかな表情でいらっしゃるのは、常に感謝の気持ちを持って山に入られているからなのだろうと感じました。人間として憧れる、心と体の強さでした。

 “ヒデオ”さんが仕留め、調理してくださった熊肉は今までの人生でいちばん美味しい肉でした。食べてからずっと胃腸の調子が良いです。ぜひまた食べに行きたいと思っています。

「熊の胆(い)」はまさに野生の味。その反面マタギの“ヒデオ”さんお手製の「熊肉」は超美味!
Infomation 
打当温泉マタギの湯 マタギ資料館

営業時間:9:00~17:00
入館料:大人150円/小人50円
0186-84-2612



森吉山は滝の宝庫。伝説の滝、秘境の滝を巡る

森吉山山麓を代表する豪快な滝。左の「安の滝」は日本100名滝にも選ばれています。右は「三階滝」

 今回、森吉山山麓の「安の滝」「三階滝」を訪ねました。いずれも山道を歩いてしかいくことができない秘境ムード満点の滝で、マイナスイオンを体いっぱい浴びることができました。

 「安の滝」へは、結構な山道を小一時間ほど。高さがあって、まるで生き物のように水の落ち方が変わる滝は見飽きることがなく、豪快というよりも優雅な感じでした。上品な水量のおかげでかなり近づくことができ、水しぶきも気持ちよかったです。

 自生する薬草や、目を凝らしてもなかなか見つけられないイワナなど、マタギの“ヒデオ”さんに私たちの知らない秋田の自然をたっぷりガイドしていただきました。

「安の滝」へはマタギの“ヒデオ”さんに案内していただきました

 「三階滝」へは、太平湖を航行する小さな遊覧船に20分ほど乗り、対岸から1時間ほど歩いていくことになります。太平湖はいわゆるダム湖なのですが、遊覧船からは自由な感じが楽しすぎる(?)船頭の方の解説と、クマの冬眠の穴や、複雑な地層など豊かな自然を素晴らしい景色とともに楽しむことができました。

 滝への道は、ほとんどが滑滝(流れ)に沿ったもので、突如現れるゴルジュ、溶岩が固まってできた不思議な空間など、水が作り出した地形の美しさが、体全体にしみ入りました。優雅な「安の滝」に対し、「三階滝」は豪壮なイメージ。そのダイナミックな美しさにうるうると感動しました。北秋田を訪れたならぜひ行って欲しい場所です。

「三階滝」へは大川ガイドが同行。複雑で見飽きない滝の景観がずっと続きます


森吉山の前後に立ち寄りたい北秋田のおすすめスポット

秋田内陸縦貫鉄道 角館(かくのだて)~阿仁合(あにあい)~鷹巣(たかのす)

日本の原風景の中、素朴な汽車がマタギの里へ運んでくれます。自然豊かな里山を縫って走る景色がとてもわくわくしました。秋田犬のかわいい写真が車内にたくさん貼ってあり、シートまで秋田犬があしらっていて、もっと乗っていたいと感じました。

くまくま園

ツキノグワグマとヒグマがいます。クマを間近に見ながら、専門のスタッフからその生態(冬眠、発情期、食生活など)や飼育(檻の構造、子グマの飼育法など)を詳しく教えていただき、とても興味深かったです。ヒグマは想像以上に大きくてびっくりしました。

森吉山ダム広報館

ダムと四季美湖が望めるウッディな館内に本や写真、虫の標本など色々な物が展示してあり、野外活動センターのような感じで楽しめます。名物のダムカレーは森吉牛のスジ肉が柔らかく煮込まれていて、マルメロチャツネ付きでとても美味しかったです。

体験したのは、秋田県でよく食べられている山菜「ミズ」の皮むき。「ミズ」は水辺や湿地帯で自生していて、山菜の中でも特にクセ・アクが無く、シャキシャキの歯触りとトロっとした食感でとても食べやすかったです。皮をむいて、油炒めにしたり、熱湯でさっと茹でて和え物やおひたしなどにしても美味しいそう。根は包丁でたたき、山椒みそなどに合わせてとろろ風にするたたきも絶品だと聞きました。

クウィンス森吉・四季美館

森吉山登山の後に最適な温泉施設「クウィンス森吉」は阿仁前田駅に隣接しているのでとても便利。すぐ近くの「四季美館」には森吉山周辺のお土産ならなんでもあり、たくさん購入してしまいました。おすすめは無添加のいぶりがっこ、バター餅、じゅんさい、地元産のお野菜など。あとは森吉山のオリジナルTシャツも気になるところです。

詳しくは「あきた北ナビ」
http://www.kitaakita-kankou.jp/



旅情にあふれ、地元の幸をいただく宿

マタギ資料館が隣接しています。ダイナミックな木彫りの置物が飾られた玄関、はく製があちらこちらにあり、マタギの里感があふれていました。熊鍋やなまずのお刺身など、他では食べられない食材がたくさんありおいしかったです。


打当温泉マタギの湯

秋田県北秋田市阿仁打当字仙北渡道上ミ67
0186-84-2612
http://www.mataginosato.com/

景色のいい露天風呂が素敵でした。しっかりした作りの施設で、周りも静かでゆっくりと過ごせました。スタッフの方の対応も良かったです。きりたんぽや稲庭そうめんと地元の食べ物がたくさんありとても満足しました。


森吉山荘

秋田県北秋田市森吉字湯ノ岱14-1
0186-76-2334
https://moriyoshizan.jp/

ほかの宿泊施設について詳しくは
http://hahaha.akita.jp/tomatekere.html



北秋田・森吉山へのアクセス

 
秋田内陸縦貫鉄道

南の角館駅から、北の鷹巣駅まで、南北に94km、29駅でつながるローカル線。山間を走る鉄道は旅情を掻き立て、鉄道ファンも多く訪れる。森吉山へのアプローチは、阿仁前田駅または、南側の阿仁ゴンドラに近い阿仁合駅が最寄りとなり、周遊タクシーなどを使ってアプローチする。

山間を走る内陸縦貫鉄道。北秋田の車窓が魅力


 
周遊タクシー

秋田内陸縦貫鉄道の駅から、または大館能代空港から発着する「森吉山周遊(乗合)タクシー」。森吉山の縦走登山を考えるうえでも公共交通機関をうまく利用したい。森吉山阿仁ゴンドラへは、あるJR鷹ノ巣駅または大館能代空港からは一人3,500円、阿仁合駅からは一人1,000円となっている。詳しくは、あきた北ナビのウェブサイト、またはチラシPDF(3.4MB)を確認しよう。

 
森吉山観光パス

森吉山・阿仁ゴンドラは、秋田内陸縦貫鉄道+周遊タクシーがセットになった「森吉山観光パス」が便利。
パンフレットPDF、チケット購入方法
お問い合わせ  0186-62-5370[北秋田市商工観光課]

 
大館能代空港

空路のご利用はこちらが便利。羽田空港から約70分。1日2往復運航。
※道の駅を兼ねた施設となっているほか、秋田犬の里ならではのおもてなしとして、「忠犬ハチ公」にちなんで、毎月8の付く日には、本物の秋田犬のお出迎えもある。



問い合わせ

北秋田市観光案内所(北秋田市観光物産協会)
秋田県北秋田市松葉町3-1
0186-62-1851
あきた北ナビ
http://www.kitaakita-kankou.jp/


北秋田市 商工観光課
秋田県北秋田市花園町15番1号
0186-62-5370
http://www.city.kitaakita.akita.jp/kankou/

※本記事は2018年初出、2019年改訂、再掲載