登る、食べる、湯に浸かる
霧島山と
霧島温泉をめぐるREPORT
神様も、温泉も、食べ物も、すべては山からやってきた大いなる霧島の自然。
その大自然のエネルギーをたっぷり体にチャージする旅を楽しもう。
文=米村奈穂 写真=後藤武久 モデル=山下舞弓(ジオット)
懐かしくて、新しい
霧島まちめぐり
鹿児島空港へ降り立つと、展望デッキから霧島連山の連なりが見えた。全貌はガスに包まれて見えない。「霧島」という名の由来は、霧島連山が霧の海に浮かぶ島のように見えることからきているらしい。この旅の最終目的地は、その霧に包まれた高千穂峰。神が降り立ったという神話の舞台だ。初日は霧島の街をめぐりながら、もとは高千穂峰の山中にあったという霧島神宮へ向かうことにした。
途中、古い木造駅舎の残る嘉例川駅へ立ち寄った。1903年に開業した当時のままの駅舎は、国の登録有形文化財。構内へ一歩足を踏み入れると、まるでタイムスリップして時が止まったかのようだ。
霧島で外せない人気の観光スポットは、霧島アートの森。広大な庭と森を散策しながら作品が鑑賞できる現代アートの美術館だ。風に揺れる羽を持つ巨大なオブジェや、巨大な額縁の中に入り自ら作品になれる「あなたこそアート」という作品など、霧島の大自然の中に溶け込むように展示された作品に触れながら、スケールの大きなアートを体感した。
霧島神宮へ向かう道中では、モクモクと上がる湯けむりや硫黄の香りに、いよいよ火山の麓に入ったのだと感じさせられる。スギの木立に囲まれた神宮の参道を進むと、色鮮やかな社殿が現われる。龍の彫刻があしらわれた本殿の柱など、東アジアの影響を受けた絵画や彫刻が高く評価され、国宝指定に答申された建物は圧巻。霧島温泉郷に泊まり、地のものを食べ、湯に浸かる。じわじわと体がこの地に馴染み、山に行く準備が整っていく。
山旅プラン
-
1日目
- 各地空港
- 鹿児島空港
- JR嘉例川駅
- 塩浸温泉龍馬公園
- 霧島アートの森
- 霧島神宮
- 霧島温泉郷
-
2日目
- 霧島温泉郷
- 大浪池登山口
- 韓国岳トレッキング
- 大浪池登山口
- 霧島新燃荘
-
3日目
- 霧島新燃荘
- 高千穂河原駐車場
- 高千穂峰トレッキング
- 高千穂河原駐車場
- 丸尾滝
- 霧島温泉市場
- 鹿児島空港
- 各地空港
火山と生きる、湯の街
霧島
2日目は、霧島連山最高峰の韓国岳へ。大展望の山頂から翌日登る高千穂峰を望む。今宵の宿は、今も火山活動を続ける新燃岳山麓の霧島新燃荘・新湯温泉。明治創業の湯治宿で、秘湯の西の大関ともいわれる。皮膚疾患に効能があり、治療用の浴室もある。温泉は、「浴場内に30分以上いないでください」と貼り紙があるほど強烈な硫黄臭を放つ。体に残る温泉の香りは、お土産にして帰ることにする。
3日目はいよいよ天孫降臨神話の舞台、高千穂峰へ。登山口の鳥居の奥にご神体とされる御鉢の山容が見え、気が引き締まる。噴火で消失した古宮址でお参りを済ませ山へ。
樹林帯を抜けると足元は火山質のガレ場となり、足の置き場を考えつつ慎重に進む。ふと顔を上げると、中岳、その奥に韓国岳と、火山が生み出した大地が広がり息をのむ。正面には別の惑星にいるかのような御鉢の地層が美しいグラデーションを描く。火口縁には巨大な噴石が絶妙なバランスでポツポツと並ぶ。この先に一体どんな景色が待っているのだろう。自然とペースは早くなる。山頂は三六〇度の大展望。生まれたままの姿を見せる山々と、遠くには光る錦江湾に浮かぶ桜島。霧島の力強い景観に囲まれ、しばし時を忘れた。
国宝になった
美しき建築
霧島神宮
高千穂峰の山中にあったものが噴火により高千穂河原へ移り、さらに現在の地へと移された。東アジアの影響を受けた色鮮やかな絵画や彫刻が評価され、本殿、幣殿、拝殿が2021年11月、国宝指定に答申された。
TREKKING COURSE
韓国岳
- 歩行時間計
- 5時間50分
- レベル
- 中級
主な登山口は大浪池登山口とえびの高原登山口の2つ。えびの高原登山口からピストンすれば、コースタイムを3時間ほど短縮できるが、大浪池から火口湖越しに見る韓国岳の山容には、登山意欲をかき立てられる。韓国岳から韓国岳避難小屋の間は段差の大きい木の階段が続く。池の周辺は、春はミヤマキリシマ、秋は紅葉、冬は霧氷が美しい。池を周回して戻るか、えびの高原へ下り、霧島連山周遊バスで大浪池登山口へ戻ることもできる。
高千穂峰
- 歩行時間計
- 3時間25分
- レベル
- 中級
圧倒的に登山者が多い登山口は、霧島神宮古宮址のある高千穂河原登山口。ほかにも宮崎県側の皇子原登山口と霧島東神社登山口がある。高千穂河原登山口からは、駐車場先の鳥居をくぐり、古宮址を経て石畳の遊歩道へ合流する。遊歩道の先はザレ場の急登が続く。馬の背を進み、元宮の先を一気に登り山頂へ。下山時は足を取られないよう、落石に注意しながら慎重に下ろう。初心者はトレッキングポールがあると安心。
INFORMATION
アクセス
- 鹿児島空港
-
バス34分、660円
鹿児島交通国分営業所 0995-45-6733 - 霧島温泉郷(丸尾バス停)
-
タクシー約15分、
約2500円
霧島観光タクシー
099-226-3391 - 大浪池登山口
-
タクシー約20分、
約3700円
バス本数が少ないためタクシー推奨 - 高千穂河原
空港から「霧島いわさきホテル」行きのバスに乗り、「丸尾」下車後、霧島連山周遊バスに乗り換える。韓国岳へは、「えびの高原」や「大浪池登山口」下車。高千穂峰へは、「高千穂河原」下車。
登山情報
霧島温泉郷に宿泊すれば、2日間で高千穂峰と韓国岳登山を楽しめる。1日目にどちらかに登り、2日目は3つの火口湖をまわる池めぐりコースもいい。丸尾バス停前の観光案内所や、えびのエコミュージアムセンターにトレッキングマップがある。各山の登山道中にトイレはない。携帯トイレを持参しよう。霧島連山は活動を続ける活火山。事前に必ず最新情報を確認すること。問い合わせは高千穂河原ビジターセンター 0995-57-2505へ。
観光・宿泊情報
霧島は、登山エリアと観光エリアが近距離にあり、登山後に観光も楽しめる欲張りなプランを立てられる。和気神社や塩浸温泉龍馬公園など、坂本龍馬とおりょうの新婚旅行ルートをたどるのも楽しい。山麓には霧島神宮温泉郷、霧島温泉郷があり宿泊施設には事欠かない。登山後の疲れを癒やす足湯や立ち寄り湯も多い。霧島温泉市場の観光案内所で情報を集めてから動くといい。問い合わせは霧島市観光協会 0995-78-2115へ。