シートゥサミットから待望のテントが登場! 「アルトTR1プラス」を山岳・アウトドアライター高橋庄太郎さんがフィールドテスト

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あらゆる山岳用テントを使ってきた山岳・アウトドアライターの高橋庄太郎さんが、シートゥサミットから今シーズン新たに発売されたテント「アルトTR1プラス」をフィールドテスト。画期的なアイテムを生み出してきたメーカーから満を持して登場したテントの実力とは?

文=高橋庄太郎 写真=加戸昭太郎

オーストラリアのブランド「シートゥサミット」。日本に初上陸した当時はスタッフバッグなどの小物に強いメーカーだと思われていたが、近年は折り畳めるクッカーやカップといった「食」の方向で画期的なアイテムを生み出し、最近はスリーピングバッグやマットなどの「住」の面の評価も非常に高い。シートゥサミットはもはやウェア以外のギア類全般に強力な商品群を持つ世界有数のアウトドアメーカーに成長し、僕もドライバッグや速乾タオルからスリーピングバッグやマットに至るまで、同社の製品の相当なヘビーユーザーとなってしまった。

だが、人気が高まる「住」の道具のなかで欠けていたピースが“テント”だ。正確に言えば、これまでにもタープと組み合わせて使うバグシェルター(メッシュテント)のようなものなどは開発されていたが、本格的な山岳テントは見当たらなかった。だが2021年の今年、とうとう本格的なテントが発表されたのである。

 

完全自立型「テロスTR」と半自立型「アルトTR」

満を持して登場したテントは、2モデル。完全自立型の「テロスTR」と、半自立型の「アルトTR」だ。それぞれのインナーテントは、ハーフメッシュ(ボトム以外はメッシュ生地)とフルパネル(一部が二重の生地になっており、ファスナーを開くとメッシュ生地でも使える)から選ぶことができる。また、テロスTRには1人用、2人用があり、アルトTRには2人用と3人用が用意されている。つまり、細かく分ければ8種類だ。

今回ここで紹介するのは、「アルトTR」の“フルパネル”タイプの“1人用”である「アルトTR1プラス」(フルパネルタイプには“プラス”という言葉がモデル名に付く)だ。

フライシート、インナーテント、ポールだけの“最小重量”はわずか1,056g。ペグやガイライン、スタッフバッグを加えても1,335gである。インナーがハーフメッシュの「アルトTR1」であれば最小重量は938gだが、メッシュ生地は冷気の侵入を抑えきれないため、春に行った今回のテストにはフルパネルタイプが適していたのである。蒸し暑い時期はハーフメッシュタイプもよいし、アルトTRよりも重量が増すものの、少し広くてどこにでも立てられるテロスTRも捨てがたいモデルだ。

ともあれ、詳しく見ていこう。

 

半自立型テント「アルトTR1プラス」を試す!

テント製作では“後発”メーカーとなるシートゥサミットだけに、既存のテントに打ち勝ってやろうという意欲がみなぎり、アルトTR1プラスは非常に特徴的なテントに仕上がっている。なにしろスタッフバッグに入っている状態からして従来のテントとは一線を画するのだ。

見ての通り、1本の筒のような細長い形状だが、よくみると3つのスタッフバッグがフックで連結してできた“集合体”なのである。

これらを分離すると、以下のような状態になる(いちばん上はテントのスタッフバッグ内に入れられていた「ペグとガイライン」なので、先に述べた3つのスタッフバッグとは別扱い)。

中央左が「インナーテント」、中央右が「フライシート」、下が「ポール」。これらを組み合わせると、先ほどのような状態でひとつにまとめて持ち運べるのである。もちろん、このように分離したほうがバックパック内に収納しやすいと考える方は、バラバラのままパッキングすればいい。

次に、それぞれをスタッフバッグ内から取り出した状態だ。

左上から時計回りに、フライシート、ポール、インナーテント、ペグとガイライン。ポールのところにはなにやら白い紙のようなもの(素材は柔らかな樹脂製)も入っていたが、じつはこれ、じつにユニークな使い方ができるパーツなのである。詳しくは後述したい。

 

居住空間を広げ、使いやすさを追求…細部に光るアイデア

ところで、このテントの名称は「アルト」ではなく「アルトTR」である。しかし“TR”とは何の意味なのか?

“TR”とは“Tension Ridge”の頭文字である。リッジは山岳用語でいえば“尾根”になるが、この場合は建築用語としての“棟”のほうがふさわしく、トータルでは”張り出させた棟木“とでもなる。少々わかりにくい言葉だが、まずは下の写真を見てもらいたい。

アルトTR1プラスは、ブラックとグリーンのポールがハブによって連結し、グリーンのポールは上へ向かって角度が付いているのがわかる。そしてこれらのポールにインナーテントを吊り下げていくと……。天井部分が以下の写真のようになる。グリーンのポールによってインナーテントの天井部分のサイド(つまり棟木的な部分)へ上向きのテンションが強制的にかかっているのがわかるだろう。

このテンションリッジという構造により、アルトTR1プラスのインナーテントの壁は垂直に持ち上がり、その結果、天井部分が広がって、狭苦しくないのである。モデル名にわざわざ「TR」と入れているだけあり、これはシートゥサミットの新型テントの最重要ギミックのひとつである。

テント内を広く使うための工夫は、テンションリッジだけではない。足元側のテントの隅には極細のバー状のパーツが組み合わせられ、ボトム部分を立ち上がらせている。

この効果によって足元の壁が高くなり、寝ころんだときも足がテントの壁に触れにくい。つまり、アルトは天井部分と床付近のスペースを同時に広げることに成功し、体感としての広さは同程度の面積を持つテント以上なのである。

こちらはインナーテントのみを立体化させた状態である。

写真の右側はポールが途中からY字に別れ、インナーテントの2つの隅にまで延びている。一方、左側は長いポールがテントの中央部に延びている。そのポールの両サイドをペグで固定しなければ形状が完全には安定しないために、アルトTR1プラスは“半自立式”モデルというわけなのだ。だが半自立型テントは、自立型よりも短いポールで済み、軽量化につながる。自力でテントを運ばねばならないテント泊登山の場合、これは魅力的なポイントだ。

テロスTRプラスには1人用がなく、アルトTR1プラスとは比較できないため、「テロスTR2プラス」(最小重量1,531g)と「アルトTR2プラス」(最小重量1,274g)を比ベてみれば、その重量差は257g。テロスTR2プラスのほうが少しだけ内部スペースも広いため、この重量差はポールの長さだけで生まれるものではないとはいえ、かなりの軽量化につながっていることは確かである。

出入口のパネルを開閉するためのファスナーの引き手にも工夫が見られる。ファスナーはダブルタイプだが、その引き手のひとつはグレー、もうひとつはライトグレーと色分けされているのである。

これにより、どちらの引き手を動かせばテントを開けられるのか一目でわかる。しかも2つの引き手は長さも異なるので、暗いときでも僕は触感でそれらを区別できた。地味な点だが、こういう細かな部分が使い心地を左右するともいえ、感心してしまう。

インナーテントを立体化させた後は、フライシートをかけていく。

このフライシートにも、既存のテントとは少々異なる新しいアイデアが、いくつも散りばめられていた。

そのひとつが、インナーシートとの連結につかう金属パーツだ。フライシート末端の金具はフック状になっており、これをインナーテント側の金具の凹部に引っかけるのである。

かなり小型だが、樹脂製のバックルのように破損する恐れがなく、取り扱いも簡単。テントの重量を削減する効果もあるだろう。

テントの張り具合を調整するコードには超小型のアジャスターを採用している。滑りもよく、簡単にテンションを変えられるのがいい。

これはそれほど珍しくはないとはいえ、間違いなく便利な仕様だ。

ガイラインに付けられた樹脂製フックの使い方もユニークだ。このテントのガイラインは、購入した段階では外されており、必要時は自分で取り付けなければならない。これは多くのテントでも同様だが、いったん結びつけてしまうと外しにくくなり、位置の移動や付け替えが面倒になってしまう。

だが、アルトTR1はガイラインのT字型フックをテントのストラップに引っかけるだけでスピーディーな取り付けが可能。取り外しも簡単で、ガイラインをどこにでもすぐ移動できるのだ。

ガイラインなどを固定するペグもシートゥサミットのオリジナルで、既存のものとは異なる。末端にはミゾが3段に刻まれ、地面が硬くてペグを深く打てない場合でもガイラインを地面近くに固定できるのである。

素材はアルミ合金。このミゾの部分を持ってペグ打ちしていると指が痛くなるほど非常に硬く鋭く、かつ軽量で丈夫だ。

アルトTRシリーズ、テロスTRシリーズともに、「ハーフメッシュ」タイプのほうは、フライシートの色が薄いグレーである。一方、この「フルパネル」タイプ、つまり「プラス」モデルの色は薄いグリーンだ。

山の木々のなかにとけこむような、わずかにくすんだ色合いである。

15デニールのリップストップシルナイロンを使ったフライシートの耐水圧は1200mmとなっており、豪雨にも十分に耐えうる仕様になっている。

こちらは出入り口とは反対側だ。

非常にシンプルな見た目だが、天井部の右側に注目してほしい。フライシートの一部がスリット状に持ち上がっているが、この部分は換気用のベンチレーター。テンションリッジのおかげで、天井部分に風を通しやすい構造になっており、熱気がいちばんこもりがちなテント最上部にベンチレーターを配することができているのである。

この部分は「エイペックスベント」と名付けられ、2本のバー状のパーツで強制的にフライシートに隙間を空け、風を取り込めるようにしてある。

風向きに合わせて設営すればますますテント内の熱気や湿気はすみやかに排出され、いつでも新鮮な空気を取り込める。結露を防止する効果を高める仕組みだ。

以下の写真は、エイペックスベントをフライシートとインナーテントの間から見た様子である。

フライシートにはファスナーがつけられており、悪天候時はテント内からこの部分に手を延ばせば、雨に濡れることなく閉めることができ、風雨をシャットアウトできる。

次はエイペックスベントの部分をテント内から見た状態だ。

フライシートとインナーテントのベンチレーターが連動し、いかにも風通しがよさそうだ。実際、テント内にいるときに風が吹いてくると内部の空気の循環を感じ、気持ちよい。夏場はとくに重宝そうである。

ここで注目してほしいのが、天井部分でエイペックスベントの隣に付けられている長細いパーツだ。じつはこれ、ポールを入れていたスタッフバッグなのである。

だが、日中はとくに何かの働きをするわけではない。詳しくは夜になるのを待っていただこう。

ポール用以外のスタッフバッグも、テント内で活躍する。テント内にはスナップボタンが取り付けられており、スタッフバッグのボタンと結合させると、以下の写真ようにスタッフバッグがテント内のポケットとして機能するのだ。

このスタッフバッグを流用した縦長のポケットは、テント内では頭側に当たる位置。起きているときは飲用ボトルを入れたり、就寝時は外したメガネを保管したりと、なかなか便利だ。

もっとも一般的な山岳テントと同様に、テント内にはメッシュ製の小型ポケットも設けられている。

これも頭側にあり、3つのポケットを使い分ければテント生活が快適になる。

設営し終わったアルトTR1を外から眺める。

地面からインナーテントの天井までの高さは、ちょうど100㎝。テンションリッジの効果で天井部分が広いこともあり、内部に座っても充分な高さと広さを持っている。

フロアサイズは、長さが215㎝で、頭側の幅が65㎝、足側が60㎝。いちばん幅が広い中央部が107㎝である。

前室はいちばん奥行きがある部分で58㎝となっている。

 

中に入って居住性を確認。過不足ない必要十分なサイズ感

テント内に寝ころび、改めて居住感を確かめる。

ここでは厚さ10㎝にもなる同社のスリーピングマット(イーサーライトXTインサレーティッドマット)を合わせてみたが、これだけ地面から高くなっても頭部と足元には圧迫感が生まれない。

これはやはりテンションリッジと、フロアの足元がバー状のパーツで垂直気味に持ち上げられているからだ。

バックパック内から取り出した荷物をテント内に並べると、フロアからは余分なスペースがなくなる。1人用テントゆえに、さすがに広々という印象ではないが、しかし寝る場所が狭くなるわけではない。

要するに、荷物を広げたうえで過不足なく横たわれる。まさに必要十分なサイズ感だ。

前室の面積は、約0.7m²。だが実際はもっと広く感じる。

シューズや調理器具などを置くスペースとしてはまったく問題がない。これもまた必要十分なサイズ感なのである。

夕方になると小雨交じりの天気になり、僕は手早く食事を済ませた。

腹さえ満たせば、あとはいつ眠ってもいい。だが夜にはこの新型テントならではのギミックが効いた“楽しみ”が待っており、すぐに寝るわけにはいかなかった。

 

まるで蛍光灯。スタッフバッグを活かした「ライトバー」

その楽しみが、こちら。明るいうちに天井に取り付けておいたポール用のスタッフバッグだ。僕はその末端から、光の角度に注意しながらヘッドランプを差し入れた。すると……。

なんと、まるで蛍光灯のようにスタッフバッグ全体が光り始めた。これが「ライトバー」である。

ここで思い出してほしいのが、はじめのほうの写真でポールとともに入っていた長細い樹脂製の白いパーツ。あの柔らかな板がこのスタッフバッグ内に入っており、ヘッドランプの光を反射してスタッフバッグ全体を光らせ、テント内を明るく照らすのである。

スタッフバッグですら無駄にはしないというシートゥサミットの遊び心が如実に表れ、よく考えたものだと感心してしまった。

就寝前にはライトバーの明かりで地図を眺めた。山中ではこのようなのんびりとした時間がたまらない。

ライトを消して眠り始めると、本格的に雨が降り始めた。エイペックスベントは就寝前に閉めてあり、なにも心配はない。

テントの防水性を見るには好都合だと思いながら、僕は本格的に眠りに落ちていった……。

 

撥水性、防水処理もばっちり。雨天撤収もらくらく

さて、翌朝。

いまだ小雨が続いており、アルトTR1プラスはすっかり濡れてしまっていた。

しかしフライシートの撥水性は上々で、一切の問題はない。

フラップで二重になったファスナーの部分からの浸水もなく、さすがのものである。

こちらはテント内からフライシートを見た様子だ。

パネルを開いてメッシュ越しにフライシートを撮影しているため、フライシートがグリーンには見えないが、水分を玉のように弾いているのがよくわかる。フライの内側には結露が発生していたが、その量は思ったほど多くはない。エイペックスベントを開け放って通気性を上げていれば、より少なかったと思われる。

フロア部分は縫い目まで防水処理されており、ここからの浸水もまったくなかった。

このテント場は柔らかな草地なのでグラウンドシートは使用しなかった。だが小石が多い場所ではフロアの傷みを軽減するために、組み合わせて使ったほうがよさそうだ。そのほうがフロアの防水性は長くキープされるはずである。

雨の中、テントを撤収し始める。吊り下げ式テントであるアルトTR1プラスは、フライシートをうまくペグで仮留めしておけば、インナーテントをポールから外し、フライシートの下で畳んでいくことができる。

だから、インナーテントをほとんどドライのまま、バックパック内に収納することができた。これはアルトTR1プラスならではの長所というわけではなく、多くの吊り下げ式テントで可能な方法とはいえ、雨天時は非常にありがたい。

今回は雨だけで強風が吹き荒れたわけではなかったが、アルトTR1プラスはその構造上、インナーテントに加え、フライシートの壁も山岳用のテントとしては垂直気味に立ち上がり、テントの四隅をペグで固定しただけでは強風時に風圧を受けて不安定になる恐れはある。その際は別途4本付属しているガイラインで補強してほしい。風の影響が和らぎ、しっかりと設営できるようになるだろう。

 

既存のテントにはないアイデアが印象的。新定番になる予感!

テント製作では後発に当たるシートゥサミットが気合を入れて発表したテントだけあり、アルトTR1プラスには、既存のテントにはなかった多様な工夫が込められていたのが印象的だ。同社がこれまでため込んでいたアイデアを炸裂させたかのようなテントであり、“使う楽しさ”を感じさせるモデルなのである。

テンションリッジ、エイペックスベント、ライトバー、テント内部でポケットになるスタッフバッグなどの目立つ部分だけではなく、ガイラインの固定方法や小さな金属パーツまで細部まで気が利いていた。1人用でも狭苦しさを感じにくくて快適なだけではなく、山岳用テントの大前提としての防水性も高く、その機能は十二分。これからのテント泊登山の新定番モデルになりそうだ。

 

今回紹介したアイテム

シートゥサミット アルトTR1プラス

価格
51,700円(税込)
サイズ
109×169×223㎝(収納時11×11×44cm)
重量
1,335g

今回紹介した半自立式「アルトTR1プラス」のほか、自立式の「テロス」、メッシュインナー/ファブリックインナー、1人用/2人用/3人用などの違いで、ラインナップが揃う。 詳しくはシートゥサミットのウェブサイトで。 

詳細を見る

プロフィール

高橋 庄太郎

宮城県仙台市出身。山岳・アウトドアライター。 山、海、川を旅し、山岳・アウトドア専門誌で執筆。特に好きなのは、ソロで行う長距離&長期間の山の縦走、海や川のカヤック・ツーリングなど。こだわりは「できるだけ日帰りではなく、一泊だけでもテントで眠る」。『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、『トレッキング実践学』(peacs)ほか著書多数。
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