“走る”だけでなく“歩く”登山にも! スカルパの新作「リベレラン」の実力を高橋庄太郎がレビュー

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登山靴にも多様な‶個性″が現われ始めている昨今、スカルパから「登山靴」特性を受け継ぐトレランシューズ「リベレラン」が登場。日帰り登山やULハイキング志向の人でもこのシューズは力を発揮するのか、登山道具のレビュー連載「山MONO語り」でもさまざまなレビュー記事を執筆する高橋庄太郎さんがテストしました。

取材・文=高橋庄太郎、写真=矢島慎一

目次

■プロフィール

山岳/アウトドアライター 高橋庄太郎
高校の山岳部で山歩きを始め、いまや登山歴35年以上。さまざまなスタイルの登山のなかでも特にテント泊山行を愛している。近年はイベントやテレビへの出演が多く、アウトドアギアのプロデュースも行なっている。著書に『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、『トレッキング実践学』(ADDIX)など多数。

高橋庄太郎

スカルパ、そしてリベレランとは

国内外に多数控える登山靴メーカー。だが、一般登山向けのトレッキングシューズ、岩と雪の世界に適したアルパインシューズに加え、クライミングシューズやアプローチシューズ、トレイルランニングシューズまでを網羅するメーカーは意外なほど少ない。その点、イタリアの「スカルパ」はすべてがそろった、まさに総合ブランドである。

スカルパ リベレラン

ここでピックアップする“リベレラン”は2023年の新製品だ。近年の登山靴は進化の幅が広く、以前ほど簡単にタイプ分けがしにくくなっているが、リベレランの位置するポジションはモデル名に「ラン」という言葉が入っていることでもわかるように、基本的には軽量性に秀でるローカットのトレイルランニングシューズである。しかしスピードハイキング、ファストハイキングなどと呼ばれる歩き方をも視野に入れた設計になっており、細部を見ていくと、実は一般的な登山にも非常に適したデザインになっていることがよくわかる。つまり、“軽快に走る”または“軽快に歩く”ことを目的としたシューズなのだ。

ちなみに、僕はかれこれ20年以上もスカルパのシューズを愛用しているヘビーユーザーである。だが、これまで履いてきたのは、もっぱらトレッキングシューズとアルパインシューズ。これからテストしていくリベレランのようなトレイルランニングに基礎を置くシューズは初めてで、期待は高まるばかりである。

テストの前に・・・
拝見、リベレランのユニークな特徴

POINT1 
足全体を包み込むライニング

スカルパ リベレラン

足首をぐるりと覆うイエローの部分は、
柔らかな伸縮素材

一般的な登山靴は、足首の前面にタン(ベロ)があり、ホールド感とクッション性を高めている。だが、リベレランにはタンがなく、足首を一周するひとつの伸縮性素材で作られているのが特徴だ。この伸縮性素材は履き口からつま先方向まで延び、全体的にはソックスのような形状になっている。だから、その上に配置されているシューレース(コード)とともに足全体を優しく押さえつけ、過不足なくフィットさせる。スカルパでは、この仕組みのことを“ソックフィットシステム”と呼んでいるようだ。

このソックフィットシステムはよく工夫されている。一見ではアッパーとの2重構造だが、中央部にもう一枚のパネルがあり、じつは三重構造なのだ。

スカルパ リベレラン

内側の伸縮性素材と外側のアッパーの間に、
薄いパネルが挟み込まれている

いちばん内側は先に説明した伸縮素材。一方、外側のアッパーと中央部のパネルは連結されている。そしてシューレースを引き締めると、これらがともに足の甲へと引き寄せられ、フィット感をアップさせるのだ。よく考えられていると感心する。

POINT2 
シューレースは素早く調整可能

スカルパ リベレラン

コードにはコードロックが付き、
締め付け具合を変えられる。
長いコードの末端は甲の部分の
“LACE KEEPER”で固定する

シューレースも一般的なタイプではなく、極細のコードが使われている。引くだけで足全体が締め付けられる、いわゆる“クイックシューシステム”だ。この使い具合に関しての感想は、後ほど説明したい。

おもしろいのは、リベレランには普通のシューレースも付属していることである。

スカルパ リベレラン

こちらが付属のシューレース。
弾力性があり、わずかに伸縮する

クイックシューシステムがしっくりこない場合はコードを外し、一般的なシューズのようにも使えるわけだ。なんとも親切なことである。

POINT3 
蒸れず、補強も施されたアッパー

リベレランは“防水構造”のシューズではない。反対に防水性を省くことで最大限の通気性を確保し、“蒸れない”ことを狙ったモデルなのである。実際、アッパーのメッシュ部分に口を付けて息を吹き込むと、ほとんど抵抗なくシューズ内部に風が流れ込んでいく。それくらい通気性は極上だ。

スカルパ リベレラン

アッパーのメッシュ素材はマットな質感。
傷みやすい部分は樹脂フィルムで補強され、
光沢が出ている

雨が多い日本では、とかくシューズの防水性が重視されがちである。しかし日帰り登山であれば、雨に降られて足が濡れてもそれほど問題にはならないのではないだろうか? リベレランのようなトレイルランニング系のシューズはたとえ濡れても水はけがよく、乾燥も速い。歩き終わったら換えのソックスに履き替えれば不快感は減り、クルマで来ているのならば、帰宅前には車内にキープしておいたサブシューズにチェンジすればよい。

僕自身も日帰り登山の際は、もっぱら“非防水”タイプの登山靴を使っている。いくら防水透湿性素材を採用したシューズでも蒸れは避けられず、とくに夏場はシューズ内部の温度も高まり、ますます発汗量が多くなってソックスがべったりと濡れてくる。それが嫌だからだ。その点、通気性を重視したシューズは格段に涼しくて快適だ。ローカットはなおさらである。

リベレランの通気性の高さは外観だけでも一目瞭然で、夏場にはそのすばらしさが実感できるはずだ。しかし反対に寒い時期は足先が冷えることも確かである。リベレランは温暖な時期に履くべきシューズであることは頭に入れておこう。

なお、リベレランには姉妹モデルの“リベレランGTX”があり、そちらはゴアテックスを使った防水性だ。どうしても水濡れが気になる方や寒冷な時期にも使いたい方は、そちらもチェックしてみていただきたい。

フィールドテスト!

さて、今回のテストの舞台は、群馬と長野の県境にある四阿山。日本百名山のひとつであり、土の地面だけではなく、岩場、笹原、木道とバリエーション豊かな山域だ。

スカルパ リベレラン

フィット感はいかに・・・!

歩き始めてすぐにわかったのは、やはり“ソックフィットシステム”の心地よさだった。リベレランはアッパーをはじめとして、もともと柔らかいシューズだが、それを差し引いても足当たりがソフトなのである。たしかにソックスのように過不足なく包み込むような履き心地だ。

スカルパ リベレラン

シューズ全体が柔軟に曲がるから、
前方へと蹴り出しやすい

足さばきも軽やかである。リベレランの重量は280g(#42、片足)。世の中にはもっと軽いシューズもあるとはいえ、280gという重量以上に軽く感じる。おそらくつま先からかかとまでの重量バランスがよいからだろう。屈曲性もよく、どんどん前へと進んでいける。

ただ、少し違和感を覚えたのは、斜面を歩いているときだ。歩行前にフィットさせていたつもりのリベレランが、いつしかズレる感覚が出てきたのである。

その理由はすぐにわかった。単純に僕のシューレースの締め付けが弱かったのである。当初は充分に締め付けたと思い、実際に平坦な場所では普通に歩けていた。だが、斜面で横方向に負荷がかかると、わずかに残っていた緩みにより、シューズ内で足が少しズレてしまうのであった。

スカルパ リベレラン

シューレースの締めの甘さとアッパーの緩みにより、
斜めに体重がかかるとシューズ内で
足が動くようになった

また、リベレランに限らず、アッパーが柔らかいトレイルランニング系のシューズはどれも歩き始めて少しするとアッパーの生地が少し伸び、これもフィット感の緩みにつながっていく。これはすべてのアッパーがソフトで薄いシューズの弱点だ。だが、フィット感を再度アップさせるのは、リベレランには簡単なことである。

スカルパ リベレラン

なにしろ、リベレランはクイックシューシステムを採用している。コードを改めて引っ張り、適度なテンションまで高めてからコードロックで留めるだけでよい。

スカルパ リベレラン

今回のテスト時、僕は時間の経過や
登り下りに合わせ、都合3回、
フィット感の調整を行なった

いちいちシューレースをほどいたり、結んだりするよりも本当に楽である。ただ、リベレランのもともとのシューレースは長すぎる気もする。些細な点だが、僕はちょっと邪魔に感じた。購入した場合、事前に自分の足に合わせて短く処理しておくと、より履きやすくなるかもしれない。

スカルパ リベレラン

足先を守るランドラバー

大小の石が折り重なる登り坂でもリベレランの調子は良好だった。何度か岩に足を引っかけてしまったが、とくに痛みを感じるわけでもない。

スカルパ リベレラン

つま先部分にまで延長された、
イエローのアウトソール

かかと付近につけられたTPUバンドと連結したランドラバーでつま先の周囲が覆われているからだ。トレイルランニング系のシューズには軽量性や柔軟性を重視してランドラバーのようなパーツをほとんど省いたタイプも多いのだが、リベレランは安全性もおろそかにしていない。さらにつま先にはアウトソールが延び、これも衝撃から足を守るためには効果的である。

岩場、濡れた岩、泥の地面・・・
シチュエーション別の
歩き心地を検証

稜線に出ると、岩場が現われた。

スカルパ リベレラン

前日までは小雨だったらしい四阿山だが、今日は機嫌がいいようだ。

スカルパ リベレラン

すでに岩の上は乾燥し、リベレランのアウトソールはこんな岩場にもよくなじむ。

スカルパ リベレラン

「SCARPA」とロゴが入った部分が
硬いTPUバンド。
この部分が難所での安定性をもたらす

次第にリベレランへの信頼感が大きくなり、少々大胆に岩と岩の間をジャンプしてみたりもする。

スカルパ リベレラン

しかし、まったく問題はない。滑らないばかりか着地時の衝撃も充分に緩和されている。あらためて身軽に行動できるシューズだと感じさせられた。

山頂に向かい、順調に歩を進める。ここまでとくに走ることもなく、ただ歩いていただけだが、いわゆるコースタイムよりも格段に速いようであった。

スカルパ リベレラン

僕は仕事柄、普通に歩けばコースタイムよりもだいたい速いともいえるのだが、今回はリベレランの力によって、さらにスピードアップしていた気がする。

前日の雨のためか、しっとりと水が流れる岩場に出くわした。

スカルパ リベレラン

水たまりを踏まないように注意しながら、
濡れた岩場を行く

防水性を省いたリベレランでも浸水しない程度の水量だ。だが、アウトソールは滑るかもしれないと慎重になる。

うっすらと水が流れる岩場が終わると、乾いた土と濡れた泥がミックスする地面に変貌。

スカルパ リベレラン

アッパーにいくらか水滴はついたが、
すぐに吸水、発散してしまった

しかし、スリップは起こらない。もちろん極度に緩んだ泥だったら滑っただろうが、トレイルランニング系のシューズとしては十二分のグリップ力ではないかと感じた。

ここで感心したのは、アウトソールにほとんど土や泥が付着しなかったことだ。

スカルパ リベレラン

アウトソールの秘密

その理由は、リベレランに使われている“プレサソール”のラグ(凹凸)が浅く、しかも素材が柔らかでよく曲がるため、土や泥が付いても少し歩いているうちにすぐ落ちてしまうからだ。

スカルパ リベレラン

それぞれのラグの高さは、約4mm

ラグが浅いぶんだけ摩耗に耐え切れず、リベレランのアウトソールの寿命はそれほど長くはない可能性はある。しかし、こう言ってはなんだが、トレイルランニングやファストハイキング向けのシューズは、その軽さや柔らかさと引き換えに、もともと何年も使うことは想定されていないのが現実でもある。

スカルパ リベレラン

プレサソールの全面。
2色に分けられているが、どちらも同素材

ところで、このプレサソールのラグはどれも大差ない形状に見えるが、前サイドが“推進力”、後サイドが“ブレーキ”、中央が“安定性”、先端が“グリップ”と、機能を振り分けてあるらしい。正直なところ、どんな場所を歩いてみても、それぞれのラグがどのように働いているのか僕にはわからないのだが……。

スカルパ リベレラン

ただ、少なくても今回のテストでは充分な推進力やグリップ性を感じ、岩場などでの安定性も充分であると感じた。残りのブレーキに関しては、下山時に判断することにした。

“防水性がない”という優位性

スカルパ リベレラン

四阿山の標高は2354m。
山頂には山家神社奥社がある

四阿山に到着。しばし休憩し、体を休めた。それまでは汗を流しながら歩いていたというのに肌寒さを感じ、シャツをはおる。

スカルパ リベレラン

その後、頃合いを見て、リベレランを脱いでみた。すると、足裏こそいくらか湿っているものの、ソックスの大半はドライである。歩行中から蒸れを感じることはなかったが、さすがの通気性である。

ただ、足裏は湿っていたからか滑りが悪く、もう一度履こうとするとスタート時のようにはスムーズに足入れができない。しかし、このときシューズの前後についているテープが役立った。

スカルパ リベレラン

黒いテープを前後に広げるように引っ張ると、
足がすっと入る

イエローの伸縮素材の部分は張りがあるために指で持ちにくいが、その代わりにテープを指にかけて力を加えれば、足が内部に入っていく。細かなパーツとはいえ、これがあるのとないのとでは大違いなのであった。

山頂に立てば、あとは下山するのみである。

スカルパ リベレラン

ここまでのテストで、リベレランの実力はだいたい把握できた。トレイルランニングに基礎を置くシューズではあるが、僕にはやはり今回のような山歩きにも同様に適したシューズのように感じられた。もちろん“登山靴には防水性が欲しい”、“足首をサポートするミッドカットかハイカットがいい”という人もまだまだ多く、そういう方は別のモデルを選んだほうがいい。しかし僕のように“日帰りならば通気性を重視して非防水”“荷物が軽いときはローカット程度の安定性でも充分”という人には大きな選択肢になるはずだ。

トレランシューズとしての機能性もしっかり検証

何度も繰り返すが、リベレランはトレイルランニングに流れをもつシューズである。そこで最後にそれほど長い距離ではないにしろ、僕も山を駆け抜けてみた。

スカルパ リベレラン

走ったのは下山時だったため、登りはわずか。
ほとんどが下り坂だった

以前、日本山岳耐久レース(ハセツネ)にも出場したことがある僕だが、最近は山を走らず、ひたすら歩くだけ。だから、トレイルランニングシューズとしてのリベレランを評価するほどの能力はない。だが、そんな僕にもリベレランの実力は肌で感じられた。

スカルパ リベレラン

ミッドソール、アウトソールを合わせた高さは、
かかとが24.5mm。つま先は20.5mm

着地時の衝撃は本当によく和らげられていた。かかとを中心にEVAのミッドソールがクッション性を発揮し、弾むように前方へ体を運んでくれるのである。岩場でジャンプしてみたときにも着地はソフトだったが、最後のランニングの際にもその衝撃吸収性は実証された。また、スピードを緩めたり、立ち止まったりするときのブレーキ性も充分そうだ。トレイルランニングシューズにはスピードアップだけではなく、スピードダウンの性能も必要なのである。

スカルパ リベレラン

テスト終了!
あなたのスタイルに
「リベレラン」は合いそうですか?

丸一日、四阿山でテストを行なったリベレラン。「ラン」という言葉が入っているとはいえ、トレイルランナーだけに独占させるにはもったいない実力を持ったシューズであった。山中ですばやく、身軽に行動したい登山者ならば、一度は試してみる価値があるはずである。

 

スカルパ リベレラン

スカルパ リベレラン

価格:25,850円(税込)
カラー:ブラック/ライム
サイズ:EU39~45(24.5~29.5cm相当)
重量:280g(EU42片足)
https://www.lostarrow.co.jp/store/e/eLP-2305A/

 

お問い合わせ
ロストアロー
https://www.lostarrow.co.jp/store/

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