
山の保全の
今を
知る、考える
日本山岳遺産基金の取り組み
国土の7割を森林が占める、美しい日本。日本のすばらしい自然環境を次世代に引き継ぐためにはどうすればいいのか。山と溪谷社が日本の美しい山岳環境を次世代へと残すために設立した「日本山岳遺産基金」の取り組みとともに、山の保全について考えてみよう。
文=辻野 聡 2025.09.29
山の保全活動団体の支援から広がる輪
日本山岳遺産基金は、山と溪谷社が創立80周年の2010年に、日本の美しい山岳環境を次世代へと残すために設立した基金のこと。助成金の総額は、年間250万円になる。
主な活動内容は、「次世代育成」「山岳環境保全」「安全登山啓蒙」を目的に活動を行なう団体に対して、活動山域を日本山岳遺産に認定し、次年度1年間の活動費を支援するというものだ。
山の保全活動を行なう場合、ネックとなるのが金銭的な問題だ。今後も継続的な支援をするために、活動に賛同してくれる企業を増やす必要があるという。
さらに保全活動を続けるためには、人材確保や情報発信が重要だ。日本山岳遺産基金としては、日本山岳遺産サミットの開催や24年の横尾山荘主人の山田直さんによる講演などを実施、25年には九州エリアの認定団体が集まるシンポジウムを開催し、山の保全活動の重要性をより広く発信する取り組みを行なっている。この15年間の活動のなかで、団体への助成をきっかけに生まれた新たな動きが広がりつつある。
山の保全活動に参加する
日本山岳遺産基金では、年度ごとに申請を受け付け、審査を経て助成団体と助成金額が確定される。各年度の申請数は10団体ほど。助成金額には限りがあるため、申請のあった団体すべてを支援することは難しく、そのなかから2024年度までで多い年度で6団体、少ない年度で2団体が選ばれている。
審査の基準は、申請団体が社会的に信頼を得ているか、活動を継続的に行なっているか、支援活動の財政状況を適正に報告ができるかなどが挙げられる。
これまでの支援団体の活動内容は、登山道整備や多様な草花が咲く亜高山性草原の保全活動、高山植物の保護・再生活動、レスキューポイントの設置や登山道パトロールといった安全啓発活動、携帯トイレの普及活動、環境教育活動などがある。
山の保全活動は、登山道以外歩かない、ゴミは持ち帰る、など個人でできることも多い。さらに関心のある人は、保全活動を行なっている団体の活動に参加する選択もある。HPやSNSなどから問い合わせてみるのもいいだろう。
山の保全活動の具体的な取り組みの紹介
1. 山への恩返しが当たり前の向き合い方になることを願って
自然災害やオーバーユースなど、さまざまな影響で荒廃してしまう登山道。その整備は重要な山の保全活動のひとつ。2023年度に認定を受けた福島県の「あだたら山の会」も日本百名山の安達太良山を中心に登山道整備を行なう。具体的には下草の刈り払いや橋の取り付け、ほかの民間団体や行政と協力した携帯トイレブースの設置など。資金面、人材面の課題に向き合い、横のつながりを広げている。「楽しんだ分、恩返し」という山との関わり方を当たり前に。そんな思いで活動を続けている。
2. 深刻化するシカの食害。自然環境の保全のために山の現状を伝える
生態系や農林業に影響を与えるニホンジカの食害。このままだと数十年後には高山植物はもちろん、樹木すらなくなる恐れがある。「生物多様性研究所あーすわーむ(2023年度認定)」は、長野県・群馬県にまたがる浅間山で2009年から自動撮影カメラなどを使い、シカの生息状況や植生被害を調査している。16年からは環境省事業で防鹿柵を設置、維持を実施。しかし現在はその事業が終了。資金も人手も不足している。今後は調査・保全に加え、自然環境維持を考える場を創出する考えだ。
3. 九州エリアの認定6団体がつながるシンポジウムを開催
2025年2月17日、熊本県の「桜十字ホールやつしろ」で、九州エリアの日本山岳遺産認定の6団体が集まりシンポジウムが開催された。森林の積極的な活用事例の紹介、エリアによって異なる登山道テープの問題、日本遺産エリアでの登山道整備、次世代を担う若い人たちへの活動の継承などについて意見交換を行なった。団体ごとの取り組みや課題について話し合いがされたことは非常に有意義で、今後の認定団体同士の連携強化につながる重要なシンポジウムとなった。

