2021年、アークテリクスのテクニカルパックに新たなシリーズが加わった。軽量で耐久性に優れ、さまざまなアクティビティに使えるバックパックシリーズ「エアリオス」には、従来の常識にとらわれない、ユニークで柔軟なアイディアが、たっぷりと詰め込まれている。
大きな特徴のひとつが、アークテリクスがこれまで培ってきた、トレイルランニングパックのノウハウが、随所に取り入れられていること。長い距離を素早く駆け抜けるために必要な「軽さ・バランス・荷物へのアクセスのしやすさ」などの要素が、登山やトレッキングのためのシリーズの価値を高める、重要な役割を担っている。
15・30・45ℓの3つのラインナップから、シリーズの特徴がもっとも明確に表現されている30ℓモデルを例に、エアリオスの快適性の秘密や独創的な収納コンセプトを探っていこう。
アークテリクス/1989年、カナダのノース・バンクーバーで設立したアークテリクスは、自然からインスピレーションを受けた美しい商品を設立以来生み出し続ける。様々なアウトドアフィールドで培った技術や経験を基盤にしながら、世界最高のデザインとクラフトマンシップを背景に徹底してパフォーマンスにこだわった、最高品質の製品を生み出し続けている。
荷物は軽いに越したことはないが、超軽量タイプのパックのなかには、扱いに気を使うほど薄い素材を使ったものや、剛性が乏しく体への負担が大きいもの、パッキングにテクニックが必要なものもある。経験を積んだ登山者ならば対応できるだろうが、初心者や体力のない人などには、扱いにくいと感じることもあるだろう。
エアリオスが目指したのは、軽さをとことん追求しつつも、使いやすさや耐久性を犠牲にせず、気軽に誰にでも使えること。軽さを「目的」とするのではなく、「快適に荷物を運ぶために必要な要素」としての軽さを手に入れるために、さまざまな方向からアプローチした。その結果が、自立するほどの剛性を備えながらも、30ℓサイズで900gという、驚くべき軽さだ。
メインの素材は、格子状の模様が特徴的な「リップストップグリッド」と呼ばれるマテリアル。210デニールの軽量なコーデュラナイロンに、非常に強度の高い液晶ポリマー加工糸をグリッド状に織り込むことで、軽さと同時に、引き裂きや摩耗に対する強度を手に入れた。極薄なのに、見た目からも得られる安心感。岩に体を寄せる場面や、深いブッシュも躊躇する必要はない。背面やショルダー、ウエストベルトの素材も、強さを損なわずに軽量化している。
一般的なバックパックでは、フィッティングやコンプレッション、固定などの用途で、ストラップやバックルを多用するが、エアリオスで使われるストラップは、ごくわずか。強度に優れるものの、それ自体も付属パーツも重くかさばりがちなストラップに代えて、エアリオスでは軽量なバンジーコードを採用した。軽さと伸縮性に加え、コンパクトで自在に形を変えるため、いくつもの役割を兼ねることができ、軽量化に大きく貢献する。
実質的な重量の削減以外にも、軽さへのアプローチはある。荷重を腰で受けるのではなく、背中の高い位置に荷重することで荷物が軽く感じられるという、トレランパックでは主流の荷重バランスだ。テント泊縦走など、重い荷物は腰に荷重する必要があるが、ある程度の重量までなら肩甲骨の周辺で背負うのがベター。フィット感も高く、荷物に振られてバランスを崩すのも防げる。子どもをおんぶする感覚をイメージするとわかりやすいだろう。
よいバックパックの条件として、快適性も重要な要素のひとつ。長時間背負い続けるものだけに、ギアでありながら、通気性、フィット感、肌触りといった、アパレル的な快適性も求められる。また、体型と合っているかどうかも重要なポイント。エアリオスはユーザーの体型に合わせて、メンズとウィメンズで違うデザインを採用し、背面長もそれぞれ2サイズ用意されている(30ℓ・45ℓ)。自分にぴったり合うパックが選べるはずだ。
本体の背中部分はドット状の凹凸があるメッシュ素材を重ねた2重構造で、弾力のあるメッシュ素材が、パネルと背中の間に空間を作り、動きに合わせて空気の流れを作りだす。これは、背中にたまる熱を効率よく吐き出すという仕組みだ。ほどよいクッション性で荷物が背中に当たるストレスもなく、軽くソフトで快適な背負い心地を実現。汗をかいても水分を吸収しにくいので、濡れや汗冷えを防ぐことができる。
通常は両脇に縫い付けられることが多いヒップベルトを、背面の中心部分で、三角形をかたどるように縫合(写真内の点線部分)。腰全体を後ろから包み込むようにフィットして、薄手でソフトな作りにもかかわらず、高い安定感を得られる。また、斜めに縫い付けることで、伸びやねじれなどの複雑な体の動きにも柔軟に対応。動きやすさや締め付け感のなさは、使用時間が長くなるほど、大きな差となって感じられるだろう。
ショルダーハーネスの付け根が、ボディを貫通し、背面パネルに直接固定される仕様。パネル全体に荷重を分散し、体に引き寄せるようにバランスよく背負うことができる。荷物に体が振られる不安定感や、ショルダーハーネスに重さが集中して食い込むストレスも解消。スタビライザーには、ストラップではなく丈夫で軽量なコードを使用し、指をかけてコードを引くだけでスムーズにフィッティングを調整できる。
エアリオスの個性を語るうえで外すことができないのが、収納に対するコンセプトが、はっきりと形に表現されている点だ。登山用パック全体で見ても、ここまで充実した外部収納を備えたモデルは、さほど多くないだろう。その裏に、「行動中に必要なものが荷物を降ろさずに出し入れできる」という明確な目的が見える。
立ち止まる時間すら惜しんで先を急ぐ、一部のコアな、スピードハイカーのためのアイディアと思われがちだが、決してそうではない。「きれいにパッキングして出かけたものの、どこに入れたかがわからず荷物をひっくり返す」、「次に使うものを予測できず、使いたいときに必要なものがいつもパックの底にある」など、初心者にありがちな、経験不足が原因で起こるストレスや手間を、手の届く位置にある外部収納が解消してくれる。パッキングがあまり得意でない人にとっても大きなメリットだ。
上部のファスナーで荷室にアクセスするスタイルは、中型モデルとしてはめずらしい部類に入る。豊富な外部収納とは対照的に、内部にはキークリップ付きの小さなファスナーポケットと、ハイドレーション用の吊り下げパーツ以外には、なにも用意されていない。スペースを最大限収納に使い、重量も抑えるためのプランだ。大きな開口で中身を確認しやすく、柔らかすぎない素材のおかげで、荷物の形を拾ってパックがいびつになることもなく、思い通りにパッキングができる。
今まで見てきた軽さや快適性、収納力などのエアリオスの特長は、伸縮性がありコンパクトで軽量かつ、形状が自由に変えられるバンジーコードの存在なしには成り立たない。組み合わせて使われるパーツも、重要な役割を担うパートナーだ。まずは、バンジーコードの先端に付けられた、小さなフック状のパーツ。そして、ボディの前面やサイド、ショルダーハーネスのエッジに付けられた、黒いループ状のコード。長さ調節のためのコードロックの存在も忘れてはいけない。
バンジーコードを伸ばして、コードループにフックパーツを引っかける。この、直感的で何ひとつテクニックを必要としないアクションが、エアリオスのユニークで独創的な収納をコントロールするカギなのだ。
こうしてさまざまな角度から観察すると、エアリオスが、いかにユニークな発想で快適性を追求しているかがわかる。たくさんのギミックを搭載しながらも、ムダをそぎ落としたシンプルなデザイン。何をどこに、どう収納するのかが決められているものは極めて少なく、多くが使う人にゆだねられた自由度の高さは、いくつものバックパックを使ってきた経験者を、きっと満足させるだろう。
登山を始めたばかりの初心者には、最初から「〇〇入れ」のように決められているほうが、わかりやすいと感じるかもしれない。しかし、ほかの経験者と同じように、経験を重ねるうちに、お仕着せの使い方に満足できなくなるのなら、最初から自由で応用の利くモノを選び、その使い方を自分で考えたほうが、登山のステップアップにプラスとなるだろう。
何よりも、この軽さと強さは、すべての登山者にとって大きなメリットをもたらす。軽さだけに目を向けたものとは一線を画す、クオリティとノウハウに基づいた本物の軽さを、ぜひその背中で体験してほしい。
「エアリオス」シリーズには3つの容量をラインナップ。それぞれにメンズ、レディスモデルがあり、エアリオス30、エアリオス45には、レギュラーとトールの2サイズが用意されている。素材や収納法などの基本部分は共通するが、容量によって仕様が異なる部分があるので、それぞれの特徴や、最適な用途を比較して選ぶといいだろう。ニュートラルなグレー「ピクセル」を中心に、メンズには軽快なイエロー「グレード」、ウィメンズにはシックなブルー「リフレクション」と、ジェンダー別のカラー展開。アークテリクスらしい、ニュアンスのあるカラーも楽しめる。