GORETEX(ゴアテックス)特集 雨の山を楽しむ - あなたの登山を支える防水透湿素材 -

モンベル ストームクルーザー
進化を続けるレインウエア、36年変わらぬ姿勢

インタビュー・文=柏 澄子 写真=杉木よしみ
協力=株式会社モンベル
デザイン=yucca イラスト=ヨシイアコ

「ストームクルーザー®」はモンベルの看板的存在のレインウエアであり、日本のレインウエアのトップランナーであり続けてきた。誕生から36年。当時からコンセプトはぶれない。今回は、ストームクルーザー誕生時に深く関わった真崎文明顧問と、長年企画開発に従事してきた三枝弘士さん、「Mr.ストクル」二世代に、開発への思いをうかがった。

GORE-TEX

ストームクルーザーは、モンベルのレインウエアの主軸です

― モンベルのレインウエアのなかで、ストームクルーザーはどんな存在ですか?

三枝:主軸となる商品ですね。つねにストームクルーザーが中心にあり、それよりも軽量なものといえばトレントフライヤー、もう少し価格を抑えたもの、生地を厚くして強度を増したものというとレインダンサーになります。ユーザーにとっては、どんなシーンでも使いやすく、万人向けのものです。また、雨天に限らず、風の強いシチュエーションで防寒着としても使いやすく、オールウェザー型のウエアです。また、私たち作り手にとっては、常にストームクルーザーを軸とし、新しいアイディアを考え、開発に努めています。思い入れのある、看板商品です。

― ストームクルーザーの始まりは?

三枝:GORE-TEX ファブリクスが誕生したのが1976年、モンベルの創業が1975年ですから、ほとんど同じ頃ですね。GORE-TEX ファブリクスを搭載した初代のストームクルーザーを発売したのが、1982年。その前に、GORE-TEXを使ったスパッツなどの小物や冬用のジャケットを製造し、色いろ試しながら、レインウエア作りへと移行していきました。

ストームクルーザー発売当初の広告。1982年6月に発売された『山と溪谷』より

 それは、会長の辰野勇や顧問(前社長)の真崎文明らが作り上げたものです。僕は1992年入社当時から企画部に所属し、ウエアの企画開発をしていますが、その頃からいまに至るまで、ものづくりのコンセプトは不変であり、ストームクルーザーについても、基本的な部分は真崎らが作り上げたそのままです。

― ストームクルーザーの開発当初、ゴア社とどんなやり取りがありましたか?

真崎:私たちがストームクルーザーの開発を手掛けた頃、レインウェアは70デニールの生地が当たり前だったんですね。とくに、ゴア本社のあるアメリカでは、それより薄い生地を使うということは、考えられないとされていました。アメリカの自然環境やアメリカ人の気質によるものだったのかもしれません。けれど私たちは、30デニールの生地を使うのがよいと考えていました。私たち自身が日本の山に登り、それを実感していたからです。

 けれど、一筋縄ではいきませんでしたね。私自身、何度もゴア本社を訪ね、日本の山岳環境や私たちの実績を説明しました。そしてやっと、30デニールの生地にGORE-TEX メンブレンを搭載することができました。これが、ストームクルーザーの第二世代です。実は、これがいちばん大きな変革ではないかと思っています。モンベルが標榜する「Light & Fast®(軽量と迅速)」にかなった形で、ストームクルーザーを製造することができました。

― 第二世代のストームクルーザー以降で、大きな革新はありましたか?

三枝:現在発売中の第8世代に、GORE®C-KNIT™バッカーテクノロジーを採用したことだと思います。これにより、より軽量でしなやかなストームクルーザーを作ることができました。GORE®C-KNIT™バッカーテクノロジーは、日本で開発されたものですが、私たちも強い思い入れがあり、ゴア社と時間をかけて意見交換しました。このように、素材メーカーと製品を製造するメーカーがコミュニケーションを図りながら、ものづくりを進めていくのは、とてもおもしろく、やり甲斐のあることです。

GORE®C-KNIT™バッカーテクノロジーを採用することで、よりしなやかになった

 私たちは常に、より軽く、よりコンパクトにすることを追求しています。以前のものより重くなることも、大きくなることも、決してありません。もちろん、軽くだけすればよいのではありません。同時に機能性も向上させていきます。ぜったいに浸水しないようにファスナー部分を工夫したり、快適な視界を保つために、フードの構造を考えます。冬期用のアルパインジャケットとレインジャケットでは、フードの考え方がまったく違います。レインの場合、頭部にフィットさせ、動きに追従してくるようにしています。

頭の動きに追従するフード

真崎:軽量化するのは簡単なことではありません。表生地を粗に織れば透湿性が上がり、軽量化にもつながります。けれど粗に織るというのは難しいことです。細い糸を使えば軽量になるという、単純なことでもありません。細い糸であれば密に織るから重くなる。糸の太さと織り方のバランスをとっていくことが重要です。

自分たちが使いたいもの、望むものを作るのが私たちの考えです

― 社員一丸となって、モノづくりに取り組んでいる印象があります。

三枝:モンベルは社員がみな、アウトドアに出る人たちなので、同僚たちの声も役立ちます。2ヶ月に1回行われる企画会議には、いろんな部署に所属する社員が集まります。それだけではなく、いつでも社員たちは企画部の部屋に入ってきて、意見を言うことができます。たとえば、週末の登山で使ったときに、どうであったか、とか。商品提供している登山家や山岳関係者からのレポートも重要ですね。また、モンベルは直営店を多数持っているので、店頭でお客様の声を直接聞けることも強みです。ポジティブな感想もありますし、不具合が生じて返品もあります。改善してほしいという声が届くこともあります。

 企画部の部屋の隣に、ラボ(実験室)があります。ここで生地の摩耗や引き裂き強度のテスト、洗濯のテストなどをします。こういったラボでのテストやその結果も重要ですが、ユーザー、登山家たち、そして社員が実際に山で使って感じたこと、その声もまた、重要です。ラボの数値だけではわからないことがありますから。

 ジャケットとパンツを別売にしたり、パンツのサイズを多様にそろえるようにしたのも、モンベルが先駆けだと思います。消耗の度合いによって、ジャケットとパンツのいずれか一方だけを買い替えることもできるし、ストームクルーザーとレインダンサーというように、べつの商品を組み合わせることもできます。パンツは、男性用だけで13サイズ、女性用を合わせると25サイズあります。サイズ展開を多くしたのも、単純なサイズの分類だけでは不便をする人が多いという、社員の声によるものです。自分たちが使いたいもの、望むものを作るのが私たちの考えです。そういう意味では、社員が一丸となって、ものづくりをしているのだと思います。

― 他社と比して、価格が抑えられています。

三枝:自分たちでできることは、全部自分たちでやっているからだと思います。

 たとえばウェアについていうと、生地や縫製などの工場とは直接自分たちがやり取りをしています。それも私たち企画部の仕事です。よりよい商品を作るために、新たな工場を開拓もします。質の高い仕事をする工場に巡り合えたら、GORE-TEXの製品を作るためのライセンス取得をしてもらう、それにもモンベルは貢献します。自分たちの作りたいものを作るには、他人任せにはできません。

 それは、社全体に共通していることです。専門家にアウトソーシングした方が早いかもしれない。けれど、自分たちでやって苦労した方が、価格が抑えられるし、全体を見渡すことができ、改善したい点にも気づく。だから、モンベル・アウトドア・チャレンジ(M.O.C)などのアウトドアガイドイベントも自分たちで運営し、また毎週月曜の朝の掃除、年末の大掃除も自分たちでやります。そうすると、日ごろから汚さないように努めるし、部屋の使いにくさに気づいて改善もできるからです。

― 今後のストームクルーザーの展望についてお聞かせください。

三枝:来年には第9世代が発売になります。K-MONO(ケイモノ)CUT™というデザインコンセプトを継続していきます。日本の着物にヒントを得たもので、より裁断を少なくし軽量なものにし、動きやすいデザインになっています。

 一年ごとの進化はそう大きくないかもしれません。けれど、それを遠いところからの視点で眺めると、「進化」という結果が見えてきます。それは、小さな積み重ねを継続した先にあるものです。ストームクルーザーの原型は、誕生のときと大きく変わりません。Light & Fast®とFunction is Beauty™(機能美)というコンセプトも貫きます。そのなかで、小さな一歩を歩み続けること、それが私の仕事です。

真崎文明(まさき・ふみあき)

株式会社モンベル取締役上席顧問。1975年創業当時からのメンバーとして経営に関わってきた。生産部部長職などを経て、93年4月から常務取締役、2007年11月から代表取締役社長、17年9月から現職。
14歳の時に登った大台ヶ原に感激。1970~80にかけて、ヨーロッパアルプスの山々を登った。シャモニ針峰群縦走、ドリュー南壁アメリカンダイレクトルートなどの日本人初登攀の記録をもつ。モンベルの創業者であり、現在は代表取締役会長を務める辰野勇が1970年に開設したロッククライミングスクールの最初の生徒でもある。

三枝弘士(さえぐさ・こうじ)

株式会社モンベル企画部課長。東京モード学園にて洋服について学んだのち、1992年に入社。以来、企画畑一筋。当初はウエア全般の企画に携わり、なかでもストームクルーザーをはじめとしたレインウエアに力を注いだ。現在は、社内の商品全般の開発をマネジメントする立場にある。
入社後、本格的に山にのめり込む。鳥類など生き物を撮影することに集中したり、クライミングに長年取り組んできた。

今回紹介したGORE-TEXプロダクト

ストームクルーザー ジャケット Men’s

mont-bell
ストームクルーザー ジャケット Men’s

¥19,500(+消費税)

素材
GORE-TEXプロダクト
サイズ
S/M/L/XL
カラー
7色
平均重量
257g
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mont-bell
ストームクルーザー ジャケット Women's

¥19,500(+消費税)

素材
GORE-TEXプロダクト
サイズ
XS/S/M/L/XL
カラー
6色
平均重量
230g
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雨の山を楽しむ その他のGORE-TEXプロダクト

The North Face
クライムライトジャケット

¥30,000(+消費税)

素材
GORE-TEXプロダクト
サイズ
S/M/L/XL/XXL
カラー
7色
重量
270g(Lサイズ)
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ホグロフス
OBSERVE MID GT SURROUND MEN

¥24,000(+消費税)

素材
GORE-TEX SURROUND™ 採用
サイズ
US7~9(26.0~27.6cm)
カラー
1色
重量
394g(US 8.5 inch)
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