キーンの定番「ターギー」を語るうえで欠かせないのが、創業モデルのサンダル「ニューポート」だ。ブランド初のこのモデルは、つま先を保護するトゥ・プロテクションを備えるフットウェア。ありそうでなかったサンダルとシューズをハイブリッドしたことで、軽やかな履き心地と安全性を両立して、瞬く間にユーザーの心を捉えた。

ニューポートのその快適性が知られるにつれて、「この心地よさを山やトレイルでも味わいたい」という欲求が出てくるのは自然のなりゆきだったのだろう。こうした声に応えて開発されたのが「タオス」だ。

タオスは、アッパーはサンダルデザインのまま、トレッキングシューズのアウトソールをハイブリッドしたモデルであった。これまでに存在しなかった「ハイクができるサンダル」の登場は、多くのアウトドアファンのニーズを満たした。そして、それに防水性と耐久性を加えてトレイル向けに改良したのが、2004年に登場した初代ターギーである。

前足部にゆとりがあって足なじみがよく、ニューポートゆずりの軽やかな履き心地をもつターギーは、アウトドア初心者やライトなユーザーのニーズともマッチして大ヒットとなった。2008年には全体をアップデートしてターギーIIに進化し、2017年にはターギーIIIが登場した。

ニューポートの血を引くターギーはキーンの看板ともいえるモデルだが、IIとIIIは持ち味が違う。一体何が違うのか？　どんな用途に向いているのか？　それぞれの特徴をくわしく見ていこう。

ターギーの進化の系譜

ニューポートは創業からいまも続く傑作。「ニューポートの心地よさを陸でも」というリクエストに応えて登場したタオスは、サンダルハイカーの圧倒的な支持を得た。タオスを経て、両生から陸生へと進化した初代ターギーは、創業翌年の2004年に登場した。

ターギーⅡ、そしてⅢへ

2008年、ターギーIは全面的に刷新されてターギーIIへと進化した。IIIは2017年に登場。IIをベースに、よりテクニカルにアップデートを加えたモデルだ。初代登場からもうすぐ20年を迎える、キーンがつくるトレッキングシューズの根幹をなすシリーズ。

ターギーの大きな特徴は、つま先にかけて扇状に広がるラスト（足型）を採用していること。かかとから中足部はしっかりホールドしつつ、前足部にはゆとりがあり、フィット感がありながらも締め付けがない快適な履き心地が人気の秘密だ。このラストは、IIもIIIも同じものを使っている。ただし、アッパーとソールは別物。まずはアッパーを比べてみよう。

メインとなる素材はIIもIIIも変わらない。シリコンコーティングによって防水性を高めたレザーを使い、独自の防水透湿メンブレン、KEEN.DRYを組み合わせて防水性を担保している。

使っている素材は同じだが、アッパーのデザインは違う。写真は、左がニューポート、中央がターギーII、右がIIIだ。

アッパーのデザイン

赤線で示したのが屈曲しやすい部分。こうして並べて見ると、カタチは違えど同じDNAをもつモデルだとわかる。ニューポートは、甲を守りながらも足の屈曲は妨げない。足の動きを邪魔しない理にかなったデザインだ。甲を覆う面積が増えるにつれてホールド性は高くなり、歩行時の安定性は高まる。

快適な履き心地を生む独特の足型

ターギーIIを上から見た様子。II同様IIIも、赤線で示したようにつま先に向けて扇状に広がり、前足部にゆとりあるスペースを作り出す。一方、下の写真のようにシューレースと連動してかかとをフィットさせるヒールロックシステムにより、足首やかかとなど固定すべきところはしっかりと固定。このキーンならではの履き心地が人気の秘密だ。

ターギーIIのレザーアッパーは、ニューポートのデザインを採用し、深い切れ込みが設けられている。そう、この切れ込みが、ニューポートを彷彿とさせるしなやかな屈曲性を生み出している。その一方で、シューレースはかかとから延びたテープ（ヒールロックシステム）と連動しているためフィット感も損なわれない。

ターギーIIIはIIの延長にありながらも、切れ込みを浅くすることでアッパーのレザー面積を広くし、ホールド感と耐久性を高めている。不整地や長い距離を歩く時にどちらが頼もしいかはいうまでもないだろう。

歩行時の屈曲性と自在なフィット感を両立するIIと、ホールド性をより高めたIII。性格の違いはアッパーを見てもわかるが、こうした特徴は適切なソールと組み合わせることで、さらに際立つ。

直接地面と接するアウトソールと衝撃を吸収するミッドソールからなるソールユニットは、シューズの性格を決める重要なパーツだ。IIとIIIを並べてみよう。

左がターギーIIのアウトソール。路面に対して多方向に対応する大きなブロックはアッパーともリンクしていて、グリップ力と屈曲性をバランスよく発揮する。歩くことはもちろんだが、立ったり座ったりを繰り返すキャンプや、街とフィールドを行き来するときも快適である。

右のターギーIIIは細かいラグが多方向に走っている。これは、登山のように長い距離、さまざまな路面を歩き続けるアクティビティのためのデザイン。グリップ力を高め、前進のみならず左右斜めといった動きに対しても効率的な足運びを可能にしてくれる。

ソールのラグパターンで見る特性の違い

アウトソールのラグの凹部を赤線で示した。IIのアウトソールは大きなブロックが特徴。対するIIIはトレッキングシューズらしい細かいパターン。それぞれの凹部はアッパーの切れ込みデザインと連携し、多方向への動きにしなやかに対応する。

アウトソールのパターンはシューズの性格を如実に示すが、これが狙い通り働くためには、アッパーとソールユニットの連携が重要になる。

左がターギーII。アッパーの深い切れ込みとアウトソールのブロックがリンクして、アッパーのしなやかな動きを妨げない。

ターギーIIIは、レザーアッパーとソールとのつなぎ目を人工皮革でカバーし、強度を高めている。細かいラグは前足部と後足部で向きを変えてあり、上りでも下りでもグリップ力を発揮すると同時にアッパーの屈曲を助ける効果ももつ。ホールド性と歩行性を高めたIIIはIIよりもつま先が上がっていて、歩行時の足抜けもよい。

アッパーやソール、パーツごとに見比べることで、それぞれの性格の違いが見えてきた。

外観に現われた歩行性能

赤線はアウトソールの凹部。横から見ることでアッパーとアウトソールの関係性がわかる。両者を繋ぐミッドソールも重要なパーツ。IIとIIIともに硬度の異なる２種類の圧縮成形EVAを使用し、クッション性と安定性を両立させている。緑の線はつま先の立ち上がりを示す。Ⅱよりもつま先が立ち上がったIIIは、前向きの自然な足の動きをうながす。