スノーシューで遊び、マタギ文化を体験する

北秋田
  森吉山



樹氷とマタギ文化に触れる旅へ

森吉山は秋田県の北東部に位置します。山間の雪深いエリアで、「マタギ」の名で知られる狩猟を生業とする人々が暮らしてきたのもこの地域です。

2021年2月に、モニター特派員の梅崎由香さん、市川佳愛さんとともに、森吉山エリアを訪ねました。秋田市在住のお二人に、地元・秋田の山の魅力を再発見してもらいましょう。

森吉山で雪まみれ!スノーシュートレッキング

森吉山には、森吉山阿仁スキー場のゴンドラ山頂駅から誰でも気軽に歩ける樹氷観賞エリアと、そこからさらに山頂方面へ足を延ばす樹氷原エリア、そしてゲレンデ外の樹林帯を散策する山麓ランブリングエリアの3つのエリアがあります。

初日は樹氷観賞エリアで樹氷ガイドの大川美紀さんに樹氷についての解説をしていただきました。森吉山の樹氷は、八甲田、蔵王と並ぶ日本三大樹氷です。

ロシア方面からの冷たい風で運ばれた水分を含んだ空気が、アオモリトドマツの櫛(くし)のような葉にぶつかった瞬間に凍り付き、それが繰り返されて大きくなることで、樹氷になります。気温や風向きなど、他にも細かい条件があるので、世界でも限られた場所でしか見られない現象なのだそう。

「大川さんは笑顔が素敵で、元気をいただけるガイドさんでした。山や山に関わる地域の方への愛も感じました。説明もとても分かりやすく良かったです。(市川さん)」

翌日は、樹氷原エリアを登山ガイドの福士功治さんとともに歩きます。スノーシューでゆっくりと登って行くと、時折、バックカントリースキーのグループともすれ違いました。森吉山は、バックカントリースキーでも人気の山です。

ぐるりとワラビのように上部が丸まった不思議な樹氷を見たり、樹氷の間を歩いて行くうちに、風が強くなり、視界が悪くなってきました。風を避けるように進み、避難小屋へと向かいます。

みんなで協力して雪で埋まった入口を掘り起こし、ようやく中に入ると、小屋の中はキンと冷えていましたが、石油ストーブをつけて、昼食の調理を始めると、じきに暖まり始めました。(※石油ストーブの利用時は、燃料を持参する必要があります。)

昼食は、鹿角市にある有名なお店のホルモン鍋です。温かいものをお腹に入れると、元気がチャージされましたが、視界は相変わらず悪く、外は真っ白。山頂へは行かずに、下山することになりました。

「スノーシュートレッキングは晴れた時の景色が最高で、樹氷の状態が昨日の樹氷平とは違いもあり、楽しかったです。途中、吹雪でホワイトアウトでしたがそんな中でも風を避けた道を案内してくださった福士さんがすばらしかったです。(市川さん)」

翌日、今度は山麓ランブリングエリアを歩きます。同じ森吉山でも、山頂とは全く違う雰囲気です。山頂付近はアオモリトドマツなどの針葉樹が生えていますが、中腹から下はブナ林が広がります。第一リフトに乗って中腹から森へと入り、ふかふかの雪をスノーシューで踏みながら、奥へと向かい緩やかに下って行きます。

樹齢200年以上ありそうなブナの大木に触れてみたり、ウサギが芽をかじった跡や足跡など動物の痕跡を探すアニマルトラッキングに挑戦するのも、森歩きの楽しみです。

「パフパフを歩くのがスノーシューの醍醐味であるし、スギ林よりもブナ林を歩くほうがずっといい。(梅崎さん)」

時には、パフパフの雪を思い切り駆ける、なんて童心に返ってみるのもいいものです。

休憩のテントの中では、マタギ弁当をいただきました。比内地鶏の入った五目御飯や、馬肉の煮込み、鮎のから揚げ、山菜などがぎゅっと詰められています。

ADVICE 
スノーシューを安全に楽しむなら、
ガイド同伴で

森吉山樹氷原エリア、山麓ランブリングエリアは、危険箇所は少ないものの、単独での入山には十分な雪山登山の知識や経験が必要になる。エリアに詳しい登山ガイド同行で楽しもう。問い合わせは、森吉山ガイドクラブ(moriyoshisan.gc@gmail.com)へ。また、管理区域外なので、登山届をゴンドラ山麓駅舎に提出しよう。

森吉山ガイドクラブ
moriyoshisan.gc@gmail.com

樹氷ガイド 
大川美紀さん
樹氷の仕組みや森吉山の魅力について明るく解説。元気なニコニコガイドで大人気。
登山ガイド 
福士功治さん
冬は森吉山をホームマウンテンに、秋田の山々でバックカントリーのガイドを行う。

マタギ文化を学び、マタギの知恵を知る

打当温泉マタギの湯は、マタギ発祥の地と呼ばれる北秋田市阿仁地区にあり、マタギ文化に触れられる温泉宿です。

マタギから直接マタギの文化を教わる「マタギ語り」では、ベテランマタギの鈴木英雄さんと、2年前に移住してきたという新人マタギの益田光さんがお話を聞かせてくれました。

初めての猟のドキドキを臨場感たっぷりに語る益田さんと、その姿を温かい目で見守る鈴木さん。鈴木さんからは、山で獲たものは、山からの授かりものとするマタギの考えを教わりました。ナガサ(山刀)などの道具を見せていただき、最後にはクマの胆のうを舐めさせてもらいます。ほんの少し舐めただけでも強烈な苦味が感じられました。

*マタギ/鈴木英雄さん(右) 代々マタギの家に生まれ、現在は打当マタギのシカリ(統領)を務める。
*新米マタギ/益田光さん(左) 広島県出身。2年前に阿仁へ移住し、新米マタギとして奮闘中。

「ベテランの鈴木さんと新人の益田さんの掛け合いがよかったです。どちらか一人よりも二人でお話されたほうが微笑ましい。二人の経験談は聞いていて楽しかったし、時間もあっという間でした。(梅崎さん)」

併設されているマタギ資料館でも、マタギの山道具や貴重な資料などを、音声解説付きで見ることができます。

夕飯には、併設されているどぶろく工房で解説を聞いた「幻」と呼ばれるどぶろくもいただきました。幻のゆえんは、自家栽培の米で作られ、生産数に限りがあるためです。宿泊すれば飲めるそうなので、安心です。

おいしいどぶろくで少しご機嫌になった後、マタギ装束を着て記念撮影をしました。

翌日は、かんじきを足につけ、鈴木さんたちと一緒に雪の森を歩きます。ウダイカンバの樹皮を火種にすることや、ぽんと雪に座り後続に道を譲るマタギの休憩方法など、マタギの知識を教わります。ほら、と鈴木さんが示した木にはクマの爪跡がくっきりと残っていました。

じゃあこのあたりで、と鈴木さんが取り出したのは、ウサギのぬいぐるみと藁を円盤状に編んで持ち手を付けたようなモノ。これは、ワラダという道具で、穴に逃げたウサギに向かって投げると、鷹の羽ばたき音と間違えて驚いて動けなくなったところを捕らえる、というものです。梅崎さんがポン、と投げたワラダは、果たして羽ばたきに聞こえたのか…。

歩いた後は、特製の雪中鍋の準備です。鈴木さんが手際よく枝に火をつけ、鍋を用意します。さらに、今回は特別にクマやシカの肉をクロモジの枝に刺して焼いていきます。益田さん特製のクロモジ茶もコップに注がれ、わいわいとにぎやかな昼食タイムが始まりました。マタギで獲るものは「山からの授かり物」、特別な昼食を味わうことができました。(※通常の体験パックには含まれていません。)

「マタギが世襲制ではなくなったところに時代を感じますが、それに固執することなく、マタギになりたいという県外の若者を受け入れて指導していく様子に、マタギの未来を見た気がしました。(梅崎さん)」