それぞれの違いを確かめつつ、今回はもっとも汎用性の高い
「アルトヴィア・トレイル・パンツ」をフィールドで試してみた。
落ち着いた見た目とは対照的に、自然と使いたいと思わせてくれる、
テストで気づいた個性的な魅力について紹介する。
2021年、パタゴニアのラインナップに新しいパンツが加わった。「アルトヴィア」シリーズの3モデルと、「ポイント・ピーク・トレイル・パンツ」を含む、計4型だ。パタゴニアの公式ホームページによると、いずれもカテゴリーは「ハイク・パンツ」に属していることから、ハイキング、もしくはトレッキングに適したパンツだと思うだろう。
しかし、いずれも“スリム・シルエット”を採用するなど共通する部分があるものの、それぞれが個性豊かで、汎用性がありつつ、ハイキング以外にクライミングといったハードアクティビティまで視野に入れて、ユーザーの好みを意識して作られている。まずは4本の違いから紹介しよう。
「アルトヴィア・ライト・アルパイン・パンツ」と、「アルトヴィア・アルパイン・パンツ」のレビューは、昨年、山岳ガイドの佐藤勇介氏と、佐藤清子氏がフィールドでテストしたインプレッション記事を参考にしてもらいたい。
今回は「アルトヴィア・トレイル・パンツ」をフィールドでテストした感想をお届けする。
数ある山道具のなかで、パンツは違いが分かりにくいアイテムだ。耐久性が高い、ストレッチ性がある、立体裁断で動きやすいなど、いくつか定番の特長はあるが、気になるパンツの機能を何本か見比べてみると、結局のところ、どれも似通った説明になっていることはないだろうか。つまり、その商品だけがもつ、キラリと光る個性を見つけづらいのだ。
そこで、今回の記事を書くにあたり、「アルトヴィア・トレイル・パンツ」らしい唯一無二の個性は何か、その点をいちばんに意識してテストしてみた。
自宅に届いた「アルトヴィア・トレイル・パンツ」を手に取ったとき、まず気になったのが、生地のしなやかさだ。素材が薄いという理由もあるが、独特の生地感はふわりと柔らかく、肌触りはサラッとしている。
実際に足を入れてみると、ソフトな穿き心地があり、まったくと言っていいほど重さを感じない。通気性の高さも肌で感じ、まるで薄い空気をまとっているような感覚さえある。
後日、軽快な足取りでフィールドに出かけてみると、今度は歩きやすさに心が動いた。アウトドアパンツで歩きにくいものを探すほうが難しいが、「アルトヴィア・トレイル・パンツ」のシルエットは、スリム・フィット。つまり、細身なのに歩きやすいのだ。この点が、「アルトヴィア・トレイル・パンツ」の個性といえる。
通常、歩きやすさを意識するパンツは、ゆったりしたデザインを採用することが多い。設計パターンにゆとりを持たせたほうが、足を上げたときに生地が突っ張るといったストレスを抑えられるからだ。
しかし、「アルトヴィア・トレイル・パンツ」のシルエットは、見るからに細く、スラッとしている。それでも、行動中にストレスを感じづらいのは、前述した生地のしなやかさと、優れたストレッチ性による賜物だろう。
登山道で大きな段差を越えるときも、脚にストレスは感じなかった。さらに、スリムなデザインは見た目の良さだけでなく、実用面では足捌きに優れ、風の影響で煽られにくいというメリットもある。
「アルトヴィア・トレイル・パンツ」を穿いていると、歩くことが楽しくなり、もっと遠くまで歩きたくなる。不思議とそんな気持ちになってくる。
「アルトヴィア・トレイル・パンツ」は、街中で穿いても違和感のない、落ち着いた見た目も特長だ。ただ、これに関しては個性というほどではないだろう。
近頃は、普段遣いを意識したデザインがアウトドアウェアのトレンドになっている。一年の大半を私服で過ごす筆者も、どうせなら街でも使えるウェアが欲しいと考えているひとりで、日常とアウトドアで兼用できるパンツを何本か持っている。
しかし、思い返してみると、そういったパンツを山で使う機会は意外と少ないことに気づいた。生地が薄くて強度が気になったり、逆に生地が厚めで気温が高い時期に穿くと暑さを感じてしまったり、そもそもちょっと動きにくかったり、いままでちょうどいいパンツに出会えていなかったのだ。
その点、「アルトヴィア・トレイル・パンツ」は、なかなか理想に近いパンツだと感じている。
アウトドアパンツに求められる機能の高さは前述した通り。とても歩きやすく、優れた汗処理能力に加えて通気性も高いので、汗をかいてもベタつかない。それでいて、生地の切り返しや差し色がなく、膝の立体裁断が目立たない落ち着いたシルエットも好印象。ロゴマークも、通常はトップスの裾に隠れるベルトループの真下に縫い付けられているので、説明がなければパタゴニアのパンツだと分からないほどだ。
唯一、生地については強度が高いとはいえないので、岩場や藪のなかでの使用は避けたほうがいい。「アルトヴィア・トレイル・パンツ」には、険しくない整備されたトレイルを気持ちよく歩くシーンがよく似合う。
「アルトヴィア・トレイル・パンツ」はハイキングやトレッキングでの活躍はもちろん、カジュアルな見た目から、休日の買い物や旅行など、外出する際にも気兼ねなく着用できる。さらに、穿いているだけでも涼しさを感じるほど通気性が高いので、とくに夏に向かって気温が高くなるこれからの時期、ますます活躍の場が増えると期待している。
「アルトヴィア・トレイル・パンツ」は、ふわりとした生地感で穿き心地が柔らかく、足が細く見えるスリム・フィットなのに、ハイキングやトレッキングが楽しくなるほど歩きやすい。カジュアルなデザインでありながら、しっかりとアウトドアアクティビティに必要な機能を備えている。
「アルトヴィア・トレイル・パンツ」の個性をまとめると、この2点に集約されるのではないだろうか。
フィールドテストの後にそんなことを考えていたら、もうひとつ、「アルトヴィア・トレイル・パンツ」にぴったりな使い道を思いついた。初めて「アルトヴィア・トレイル・パンツ」に触れたときに感じた、印象に残るほどの生地の薄さと軽さを思い出したのだ。
これなら、着替えとしても重宝するはず。下山後にほかのパンツに穿き替えてから「アルトヴィア・トレイル・パンツ」を畳んでみると、予想した通り、とても小さくまとめられた。
着替えは、できるだけ軽量でかさ張らないほうがいい。「アルトヴィア・トレイル・パンツ」がまさにそれで、持ち運びが苦にならず、さらに見た目がシンプルなので、下山後に麓の街を観光するといった計画にもぴったりだ。
テストを終えたあとも私生活で「アルトヴィア・トレイル・パンツ」を着用していて、その度に穿き心地がいいと感じている。とくに独特の清涼感が気に入っていて、より涼しさを感じやすい夏の訪れが待ち遠しいほどだ。
山道具を選ぶときはつい機能に注目しがちだが、使いたい気持ちが自然と込み上げてくるかどうかも重要なポイントで、そういったアイテムは意識しなくても使用頻度が増えるし、できるだけ長く使いたいと思うはずだ。これも、“優れた道具”に必要な条件のひとつではないだろうか。
高機能で汎用性が高い「アルトヴィア・トレイル・パンツ」は、多くの人にとって、足を入れる機会が多くなる”優れたパンツ”になるポテンシャルを秘めていると感じている。
1年間、アルトヴィア・アルパイン・パンツをクライミングやハイキングなどで着用しました。
いちばんの特長は着心地のよさ。膝をあげたときに太ももに突っ張りがまったくなく、足捌きでストレスを感じません。伸縮性が非常に高く、履いている感じがしない、と言っても過言ではないかも。寝巻きに履けるぐらいストレスフリーです。生地が薄く、夏でも蒸れは感じませんが、クライミングパンツらしく耐久性も確保されていいます。膝周りや足首の内側など、擦れやすい箇所は生地を変えて補強されているので、岩登りでも安心です。内股気味な女性は足運びの時に逆足の裾を擦ってしまうことがありますが、このパンツは足裾が補強されているので、裾が傷ついたり汚れたりしないのもいいですね。右足太ももと骨盤部分にポケットがありますが、どちらもハーネスに干渉しないので、クライミング時に携帯電話やテーピングなどを入れられます。
クライミング時はもちろんのこと、岩場までのアプローチやハイキングなど、広い用途で使えるので非常に重宝しています。
佐藤清子(さとう・きよこ)
埼玉県生まれ。好きな山域は奥秩父。女性も入りやすい清潔なクライミングジム「カメロパルダリス」の店長を務める。明るい人柄で、細かな心配りと適格なアドバイスに定評がある。