Men's Slate Sky Jacket
海洋廃棄物から生まれ変わった新作レインジャケット
パタゴニア「スレート・スカイ・ジャケット」を着て雨の奥多摩へ

今年、パタゴニアから新しいレインジャケットが登場した。それは、性能を試したくなるニューカマーであると同時に、パタゴニアの理念を形にしたパイオニア的な一着ともいえる。同社の環境への配慮を一歩前進させた、「スレート・スカイ・ジャケット」を着て、雨の日に奥多摩の低山を歩いてきた。

吉澤英晃(よしざわ・ひであき)
1986年生まれ。大学時代の探検サークルで山に登り始め、以降、登山用品を扱う企業の営業マンを経て山岳ライターとして独立。ヤマケイオンラインでアウトドア業界の環境に配慮した取り組みなどを取材している。
レポート

雨のなか行動する経験値の大切さ

山肌を濡らす静かな雨。春の青葉に降る雨を「翠雨」という
これから初夏を迎える木々にとって、雨は成長に欠かせない恵みの雨だ
パタゴニア「スレート・スカイ・ジャケット」日本の山で雨は珍しくない。だからレインウェアなど雨に対する備えが大切になる

これはいまから15年以上も前の話。僕はまだ学生で、登山を始めたばかりの初心者だった。季節は春。2泊以上の計画で伊豆の山を縦走していたときのことだ。雨に打たれながら山道を歩いていると、いつも当時の記憶が思い出される。

初日は予報通り気持ちのいい青空が広がった。しかし、その翌日に想定外の雨に降られてしまったのだ。本格的な雨の日の登山は実はこのときが初めてで、山の天気を甘く見ていた僕は、ザックカバーを持たず、足元は非防水のローカットシューズという出で立ち。もちろん、そのあと悲惨な状況に陥った姿は想像に難くない。

日本の気候は雨が多い。そのため、山登りを続けていると、どうしても雨を避けられないときがある。かつて僕が伊豆で経験したような予報外れの雨だけでなく、たとえば泊りがけの計画で、初日の午前中だけ雨予報といった場合はどうだろう。午後から晴れることが分かっていれば、多少の降雨を覚悟しても山に登る人のほうが多いはずだ。

さまざまな雨に対して安全に登山を楽しむには、ザックカバーや防水性の登山靴と並んで、レインウェアが欠かせない。そして、レインウェアを羽織って実際に雨の山を歩く経験も、いつかは必ず必要になってくる。

パタゴニアの新作レインジャケットはココが違う

パタゴニア「スレート・スカイ・ジャケット」新作「スレート・スカイ・ジャケット」はシルエットにも特長があり、
同社のレインウェアのラインナップ中、唯一のスリムフィットでデザインされている
パタゴニア「スレート・スカイ・ジャケット」ストームフラップには上下の端にスナップボタンがあり、
フロントファスナーを下げた状態でもジャケットの前身頃を連結できる
パタゴニア「スレート・スカイ・ジャケット」ジャケットをストームフラップのボタンでとめてベンチレーションとして使用。
雨の侵入を防ぎながら内側の熱を排出できる

今回テストしたパタゴニアの新作「スレート・スカイ・ジャケット」も、登山に必要なレインウェアの一着だ。しかし、同社にとってこのジャケットは、特別な意味をもつ今後のベンチマーク的なアイテムに位置づけられている。

というもの、「スレート・スカイ・ジャケット」は、人体の健康への影響が懸念されている過フッ素化合物を使わない“PFCフリーの耐久撥水加工”を施した、同社で初めてのレインジャケットなのである。

さらに、使われている素材は、廃棄される予定だった漁網を再利用した“ネットプラス”ナイロン100%。「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」という、まさにパタゴニアの環境に配慮する企業理念を形にしたようなウェアなのだ。

自然に優しい開発背景だけでなく、目に見える機能にも特長がある。とくにユニークなのが、フロントファスナーの上半分を覆い隠すように配置したストームフラップだろう。これは雨水の侵入を防ぐと共に、ファスナーを下げてスナップボタンだけでとめるとベンチレーションとしても機能する。

今年、満を持してリリースされた「スレート・スカイ・ジャケット」だが、レインウェアの核となる3つの性能、防水性、撥水性、透湿性の良し悪しはどうだろう。着心地と共に、雨が降る実際のフィールドで試してみた。

雨の山の魅力を探しに、奥多摩の低山へ

パタゴニア「スレート・スカイ・ジャケット」雨が降るなか静かな森を歩く。
レインウェアのありがたみを感じながら、新しい山の魅力は見つかるだろうか…
パタゴニア「スレート・スカイ・ジャケット」尾根の中腹で出会ったブナの木。
滑らかな木肌と曲線が特徴的な葉っぱの形から、いつ見てもブナには女性らしさを感じる
空に向かって勢いよく枝を広げる様子が清々しい。
見事な枝振りで日差しや雨を受け止めて、ブナはすくすくと育っていく
パタゴニア「スレート・スカイ・ジャケット」途中、山頂近くの避難小屋で小休止。暖かいコーヒーで冷えた体を温める。
晴れた日も避難小屋に入るとホッとするが、雨の日の安堵感には敵わない

雨の日の登山はネガティブなイメージをもつ人が多いと思うが、実際の印象はさまざまで、僕の知り合いには「雨の山は潤いがあって気持ちがいい」と感慨深げに語る人がいる。どうやら雨の山にも独特の魅力があるようだ。

初めて本格的な雨に打たれながら山を歩いたあの日以来、幾度もなく雨の登山を経験してきたが、ゆっくりと雨で濡れる山の魅力に意識を向けたことはない。

そういった意味でも、今回の「スレート・スカイ・ジャケット」のテストは、新たな山の魅力に出会えるかもしれない貴重な機会となった。

駐車場から出発して坂道を登っていくと、人工的な杉林を過ぎたあたりから立派なブナが現れ始めた。太い幹にたっぷりと水分を含むブナは、豊かな森の象徴だ。大きく枝を広げて、空から降りそそぐ好物の雨に、どこか喜んでいるようにも見える。

そんなブナのように、とくに広葉樹の木々は天然の傘となって、落葉する秋の季節までは恰好の雨宿りポイントになる。晴れた日に木陰を作ってくれる枝葉は、雨の日になると雨脚を弱めてくれるのだ。こんなありがたみに気付けるのも雨の山の魅力かもしれない。

降りしきる雨のなかでは、ほかにもいろいろな感情がわいてくる。帽子のツバを上げると、しっとりと濡れた森は艶やかで、緑がどこか生き生きとしているようにも感じられた。雨が降らなければ植物は育たず、僕たちも水不足に陥ってしまう。しばしば厄介な存在と思われがちな雨も、裏を返せば、やはり天からの恵みなのである。

そして、山に降った雨は川となり、海に注ぎ、やがて雲となって、再び山に雨を降らす。いくら科学が発達した現在でも、この完璧な自然のサイクルのなかで僕たち人間も生かされている。パラパラと雨に打たれながら、雨の山ではそんなことを改めて考えることができた。

レインウェアに求められる3つの性能、その実力は?

パタゴニア「スレート・スカイ・ジャケット」着用から数時間後の様子。染みが目立つ箇所もあるが、撥水性は持続していて、もちろん浸水はなかった
パタゴニア「スレート・スカイ・ジャケット」生地の撥水性はこのとおり。雨水が粒になって表面を転がる様子がよく分かる
パタゴニア「スレート・スカイ・ジャケット」生地のしなやかさは「スレート・スカイ・ジャケット」の特長のひとつ。
ソフトシェルのように動きやすく、不快な衣擦れの音もほとんど聞こえない
パタゴニア「スレート・スカイ・ジャケット」左右にあるハンドポケットの内側はメッシュパネルになっていて、
全開するとここからも内部の空気が放出される

下山後、駐車場に戻ってから、肝心の「スレート・スカイ・ジャケット」の性能を振り返ってみた。

まず、気になっていたPFCフリーの耐久性撥水加工については、思っていた以上に水を弾き、しかもそれが長時間持続した。実は数ヶ月前からこのジャケットはフィールドで試していて、1回目は約2時間の雨、2回目は約6時間の雨を経験して、そして今回が3回目の出番となる。途中、洗濯も市販の撥水剤による撥水加工も行なわず迎えた3度目の雨だったが、写真のとおり、しっかりと水を弾いている。強いていえば、バックパックに触れる肩や腰回りは撥水性が落ちてしまい、表面に雨水が染みてしまったが、それによる浸水は確認できなかった。

さらに好印象だったのが、30デニールの生地のしなやかさと、それに起因する着心地の良さだ。「スレート・スカイ・ジャケット」と同様に、パタゴニア独自の防水素材「H2No」を使った「トレントシェル3L・ジャケット」の50デニールの生地と比べると、明らかに柔らかく、袖を通したときに軽いと感じ、さらにコンパクトに収納できる。これは、「トレントシェル3L・ジャケット」が394gなのに対して、「スレート・スカイ・ジャケット」は295gという重量にも表れている。

シャカシャカというレインウェア独特の生地と生地が擦れる音も少なく、その着心地はまるで薄手のソフトシュルのよう。内側の湿気を排除する機能も申し分なく、生地が持つ透湿性が高いというよりも、前述したフロントのストームフラップによるベンチレーションを使うと、効率的に首元から熱が逃げていく様子を感じられた。また、晴天時にウインドシェルのように羽織るなら、ハンドポケット内のメッシュパネルが同じくベンチレーションの役目を果たし、ここからも空気が循環するのをはっきりと確認できた。

スレート・スカイ・ジャケットが切り開くレインウェアの多様性

パタゴニア「スレート・スカイ・ジャケット」靄で霞む森の中には雨の日特有の匂いが漂う。
今回の天気でなければ感じることができない山の一面だ
山に降る雨は谷を伝って麓に向かう。
大地を潤し、すべての生命の源となって、再び山に戻ってくる
緑の苔は水分をたっぷり含んだスポンジのよう。
大きな木から小さな苔まで、山にはいろいろな動植物が暮らしている

環境に配慮した「スレート・スカイ・ジャケット」の登場で、パタゴニアのレインウェアに新たな選択肢が加わった。自然に与える負荷が少ないアイテムを選ぶことは、自分たちが遊ぶフィールドを守ることにつながり、巡り巡って僕たちの利益となって還ってくる。

そして、「スレート・スカイ・ジャケット」は登山用のレインウェアとして、性能も機能も申し分ない。岩にこすり付けるなど、生地に著しくダメージが生じるクライミングのようなアクティビティや、雨天が何日も続くような悪天候の長期山行でもなければ、春から秋まで、無積雪期の一般登山で十分に活躍する。

今回試したメンズだけでなく、ウィメンズも展開されるようだ。すっきりとしたシルエットにシンプルなデザインな本製品は、女性にも嬉しい一品となるだろう。

洗濯とこまめなメンテナンスで撥水性を持続させて、これから先、何年も大切に着続けたい。自然とそう思わせてくれる魅力もまた、このジャケットの本質だろう。

特 徴
Point 1
袖口は伸縮性パイピングで
優しくフィット
袖口にベルクロテープを配備するジャケットが多い中、こちらは伸縮性のパイピングを採用。腕を上げたとき雨の侵入が気になるが、それはベルクロテープにも同じことがいえる。それよりも優しい肌当たりに好感を持てた
パタゴニア「スレート・スカイ・ジャケット」
Point 2
雨風の侵入を防ぐ
裾のドローコード
裾の右手側にドローコードを配置し、絞ることで雨風の侵入を防ぐことができる。風が吹き付ける稜線などで使えば、裾の不快なバタつきも抑えることも可能だ。逆に無風の場合はコードをリリースしたほうが内側に熱が籠もりにくい
パタゴニア「スレート・スカイ・ジャケット」
Point 3
フードはフィット感を
調整可能
フードの後頭部にあるドローコードを引っ張ることで、頭にフードがフィットし、視界の追従性が高まる。前側には小さなツバが付いているので、雨粒は顔を避けて滴り落ち、首元から内側に侵入する可能性も軽減されている
パタゴニア「スレート・スカイ・ジャケット」
Point 4
ファスナーを全開にして
ポンチョスタイルもあり
ストームフラップのスナップボタンだけをとめてファスナーを全開にすれば、写真のようなポンチョスタイルも可能。ウインドシェルのように使う場合に限られるが、換気を高める目的でこのような羽織り方も大いにアリだ
パタゴニア「スレート・スカイ・ジャケット」
Point 5
女性モデルも登場
「スレート・スカイ・ジャケット」はメンズだけでなく、ウィメンズモデルも展開される。女性が好むブラウン色(写真のカラー、Dusky Brown)がラインナップに加わる。シンプルなデザインなのでおしゃれに着こなすことも可能。
パタゴニア「ウィメンズ・スレート・スカイ・ジャケット」
 Column
パタゴニアが実践する、自然に配慮したレインウェアづくり
パタゴニアが実践する、
自然に配慮したレインウェアづくり

パタゴニアの自然環境に配慮した製品の製造体制は、もはや周知の事実だろう。「スレート・スカイ・ジャケット」を含むパタゴニアのレインウェアシリーズも例外ではない。「スレート・スカイ・ジャケット」は、廃棄される予定だったプラスチック製漁網を再利用した“ネットプラス”ナイロン100%を表面素材に使用。さらに、人体の健康への影響が懸念されている過フッ素化合物を使わない“PFCフリーの耐久撥水加工”を施している。PFCフリーは今後、パタゴニアレインウェアに順次採用されていく予定だ。

Lineup
パタゴニア メンズ・スレート・スカイ・ジャケット
メンズ・スレート・スカイ・ジャケット
  • 価格:26,400円(税込)
  • カラー:3色
  • サイズ:XS~XL
  • 重量:295g
パタゴニア ウィメンズ・スレート・スカイ・ジャケット
ウィメンズ・スレート・スカイ・ジャケット
  • 価格:26,400円(税込)
  • カラー:3色
  • サイズ:XS~L
  • 重量:275g

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