「本格雪山登山」の最初の一足にも。山岳カメラマン・一瀬圭介が体感したスポルティバ「ガッシャブルム5 EVO」の進化

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スポルティバ(LA SPORTIVA)のマウンテンラインの頂上群に位置し、国内の厳冬期登山やアイスクライミングなどにも対応する軽量テクニカルモデル「ガッシャブルム5」がエボリューション!  細部の設計や素材を見直し、進化した「ガッシャブルム5 EVO(Gasherbrum 5 EVO)」を、山岳カメラマンでマウンテンアスリートの一瀬圭介さんがインプレッション。新しくなったG5 EVOの実力や、いかに……。

構成・文=佐藤慶典、写真=一瀬圭介、
協力=スポルティバジャパン、石坂博文

 

ユーザーの足の冷えを解消することに
注力したテクニカルブーツ

つま先の保温力のほか、
操作性、快適性がアップした
ガッシャブルム5 EVO


老舗登山靴ブランド、スポルティバは、イタリア・ドロミテ山麓での創業からまもなく94年を迎えます。モノ作りのグローバル化が進む現在でも、イタリア国内の自社工場で開発やデザインを行ない、これまでに培った職人の知識と経験に最新テクノロジーを融合し、靴作りを行なっています。細部まで作り込まれたシューズは堅牢でフィット感がよく、機能的で、デザイン性の高さも評判となっています。

クライマーやアスリートのフィードバックを基に、既存モデルを見直し、現在の最高レベルの技術や素材を使用し、よりエボリューション(進化)したモデルを誕生させるのもスポルティバならでは。今シーズン(2021年秋冬)に誕生した、冬期用軽量ブーツ「ガッシャブルム5 EVO(Gasherbrum 5 EVO)」(以後、G5 EVO)も、旧モデル「G5」から大幅に進化したモデルです。これまでの優れた履き心地やテクニカルな機能性はそのままに、保温性、操作性、快適性がアップしています。

氷点下40℃に達する
厳冬期のアラスカ自転車レースに、
G5を履いて参戦する一瀬さん


「スポルティバのモデル名に『EVO』が付いたら、だいだい完成形。相当エボ(リューション)されていて、不満はほとんど解消されているかな」と冗談めかしながら、その進化具合を認めるのは、山岳カメラマンの一瀬圭介さん。

「旧モデルのG5は、アラスカで使用経験があります。履き心地がよく、保温力があるモデルなので、国内の寒さでは問題ありませんが、アラスカの厳冬期で氷点下40℃近くにまで達すると、いささか、つま先が冷えて、痛くて……。G5からG5 EVOで大きく変わったのは、つま先部分にゴアテックス インフィニアム サーミアム プロダクト テクノロジーが搭載されたことと、BOAフィットシステムがアッパーの外側へ付いたこと。また、このほかにも細かな改良がなされていますが、総じて、よりユーザーの足の冷えを解消することに注力した設計・デザインへアップグレードされているのが魅力です。残雪期の鳥海山でG5 EVOを履いてみた結果ですと、足の冷えを十分に抑制できています。まだ、―30℃や-40℃では使っていませんが、ぜひ試してみたいですね」

 

ゴアテックス インフィニアム サーミアム プロダクト テクノロジーを搭載

靴のボリュームを抑えたまま、
優れた保温力を発揮する
ゴアテックス インフィニアム サーミアム プロダクト テクノロジーを使ったインサレーションを搭載


無雪期用の登山靴とは違い、冬期用の登山靴にはインサレーション(保温材)が入っています。冬期は、登山靴が冷たい雪や氷に直接触れ、また、アイゼンなどの熱伝導率の高い金物を伝って物理的に熱が奪われやすいため、冷えを抑制することが必要です。冷えが加速すれば、つま先が凍傷になる危険性が増すのです。

「体の末端は凍傷になりやすい。体が冷えてくると、人間は、無意識に末端の筋肉や血管を収縮し、体幹部に血液を温存して生命を維持しようとします。生理的にも、足、特につま先は凍傷になりやすいので、この部分の保温力がカギになります」

つま先の保温力の重要性を説く一瀬さんですが、保温力さえあればいい、というわけではないと言います。特に、バリエーションやアイスクライミングにも対応するテクニカルな登山靴は、足裏の感覚やフィット感、足さばきのしやすさが欠かせないからです。アイゼンの前爪を氷に蹴り込み、つま先で立ち込むときに、前爪を的確に氷にインパクトさせ、安定した足場を作るため、あるいは、岩や氷の小さな足場を行く際、接地面の状況を足裏からダイレクトに感じるためには、靴のボリュームや重量を抑えたうえで、保温力を高める必要があるのです。

新搭載のインサレーションやTPUバンドの効果で
雪面やアイゼンからの冷えを抑制


「靴が重くなったり、大きくなったりすると、小さな岩に乗りにくくなったり、足裏の感覚が鈍ったりして、パフォーマンスが落ちてしまいます。今回の進化で、つま先部分にゴアテックス インフィニアム サーミアム プロダクト テクノロジーを使ったインサレーションが搭載されたことは大きいですね。靴の厚みを抑えながら、保温力が向上しています。また、アイゼンの金属パーツが当たる部分までTPUバンドで保護されているのも保温力向上に影響していると思います。私見ですが、ボリュームはわずかに大きくなっている気がするし、インサレーション自体は増えていて、本来なら重量アップするところを、各部の設計の見直しで、重量増を抑えている感があります。具体的に挙げると、縫い目をなくして圧着仕様にしたり、ベルクロ部分を薄くし、重なる部分を細くしたり、くるぶし内側のTPUバンドを減らしてケブラーにしたり。保温力がアップしたにもかかわらず、パフォーマンスは落ちていないのです」

 

BOAフィットシステム採用&アッパーの外側に付けて操作性アップ

BOAフィットシステムをアッパーの外側に
配置し、操作性をアップ


靴紐の代わりにワイヤーを用いて、ダイヤルでフィット感を調整するBOAフィットシステムがアッパーの外側に変更されたことも、足の冷えの解消に一役買っていると一瀬さんは言います。

「旧モデルのG5では、インナーブーツにBOAフィットシステムが付いていました。これは、ダイヤルを破損から守ろうという意図があったのだと思います。ただ、この仕様はワイヤーを締めて歩き出した後、ちょっと調整したいなという時、メインファスナーを開けて、アッパーを開いて、ダイヤルを回し、再びファスナーを閉める、という手順が必要で、面倒でした」

寒いと「ちょっとしたこと」でもストレスになります。できればBOAの調整の回数は減らしたいところですが、ワイヤーの調整が面倒だからときつめに締めたままにすると、血行が悪くなり、冷えを加速させてしまいます。

登攀の前にサッとワイヤーを締めて、
休憩時は緩めるといったことが
ストレスなく行なえる


「今回のアップデートでは、BOAフィットシステムがアッパーの外側に変更されて、とても操作性がよくなりました。たとえば、核心部に入る前にワイヤーをしっかり締めてレスポンスをアップし、そうでないエリアや休憩時は、少しワイヤーを緩めて血行をよくする、といったことが簡単にできるようになりました。血行がよくなれば、つま先の冷えも抑制できます。ダイヤルがアッパーの外側に付いたことで、岩などに当たって破損する可能性もなくはないですが、アッパーの上のほうに配置してありますし、ハードシェルのパンツで覆う形になるので、破損の心配は少ないかと思います」

 

フィードバックを反映し、
随所にエボリューション

寒冷な状況下での操作性、快適性をアップさせる
アップデートが多数


G5 EVOには、G5を利用してきたクライマーやアスリートのフィードバックが随所に活かされていると一瀬さんは指摘します。

「ファスナーは、G5ではビスロンタイプでしたが、G5 EVOは、止水ファスナーになりました。スムーズに動き、素早く開閉できます。止水ファスナーにしたことで、フラップになるベルクロの重なる部分を細くできたようで、これは軽量化にもつながっていると思います。また、G5では、気をつけないとファスナーを閉めるときにワイヤーを噛んでしまうことがありましたが、G5 EVOになってタンが付いたことで、ワイヤーを噛む心配がなくなりました。氷点下30℃くらいになると、薄手の手袋をしていても、すぐに指先が痛くなるので、ストレスなく操作できることは安全面からも大切です」

アッパー上部に、ベルクロと、
フィット感を高めるドローコードを装備


「G5では、閉めて終わりだったファスナーですが、止水ファスナーの端部にベルクロが付きました。アッパー上端にはストッパー付きのドローコードが配され、上端をふくらはぎにピッタリフィットさせることが可能となりました。また、インナーブーツの足首部のベルクロが薄くゴワゴワ感がなくなり、長時間履いてもストレスがなく、快適性がアップしています」

 

「人やシチュエーションを選ぶが、
雪山入門者の選択肢にもなりうる一足」

雪面から岩稜まで、軽量で足さばきがよく、
軽快な山行が可能となるG5 EVO


スポルティバには、国内の厳冬期にまで対応する本革仕様のネパールシリーズがあります。一般的にはG5 EVOは、雪山の中上級者によるテクニカルな使用に向き、ネパールシリーズは、雪山初心者から上級者まで、八ヶ岳の雪山デビューからバリエーションまで幅広い用途に向くとされています。しかし、条件次第では、G5 EVOは本格雪山の入門者の選択肢にもなりえる、と一瀬さんは提言します。

「ネパールシリーズは、保温力や足の保護機能、サポート力などが高いので、雪山を長時間ゆっくり歩くのならネパールシリーズのほうが安心感があります。また、重い荷物を背負っていても疲労は少ないと思います。同時に履き比べたことはないのですが、個人的には、ネパールキューブGTXのほうが、G5 EVOよりも保温力があるように感じています。

一方、G5 EVOは、軽量で足さばきもよく、スピーディな山行やアルパインクライミング、アイスクライミングに最適です。もちろん、一般的な雪山登山でも利用できます。ただし、ネパールと比べると足の保護機能やサポート力という点ではかないませんので、そこを体力や経験でカバーする必要があります。無雪期の登山経験が豊富で、体力があり、足ができている人が本格雪山にチャレンジする場合、という条件ではありますが、G5 EVOは最良の選択肢の一足に入るでしょう。

G5 EVOは、もともとゲイターが付いていますし、アッパーの外側にBOAのダイヤルが付いたことで、オーバーグローブを外さずともフィッティングの調整が簡単にできて、血行促進も可能です。軽さや優れた操作性も本格雪山の入門者から上級者まで誰もが享受できるメリットです。ネパールシリーズよりも値段は上がりますが、その価値は十分にあると思います」

フィット感や寒さの感じ方、また、サポート力の必要性は、人により異なります。登山用具専門店でフィッティングのうえ、雪山登山靴のベンチマークとなるネパールシリーズと履き比べるなどし、検討するといいでしょう。

 

今回インプレッションしたアイテム

LA SPORTIVA 
ガッシャブルム5 EVO

価格
104,500円(税込)
サイズ
38~48EU(23.7~30.3cm)
カラー
ブラック×イエローのみ
重量
850g(片足)

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プロフィール

一瀬 圭介(いちのせ・けいすけ)

山岳カメラマンにして、アラスカなどの極北で開催される自転車の耐久レースに参戦するプロマウンテンアスリート。トランスジャパンアルプスレース(TJAR)やUTMFなど国内外の山岳フィールドにおける撮影で活躍中。活動拠点を置く福島県・岳温泉に「安達太良ビジターセンター」を開設(施設は2021年秋オープン)し、山岳アクティビティの普及を行ないながら、安達太良山域のトレイル保全なども行なっている。