田中陽希が歩く海辺の熊野古道・大辺路 人と自然と神仏が織り成す120kmの歩き旅【中編】
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世界遺産にも登録されている信仰の道・熊野古道(くまのこどう)。1000年以上の歴史をもち、今も多くの参詣者が絶えないこの祈りの道を、プロアドベンチャーレーサーの田中陽希さんと旅してきました。今回歩いた熊野古道・大辺路(おおへち)は、江戸時代以降、信仰と観光を兼ねて旅をする人々に多く歩かれた道ですが、石畳の残る古道、豊かな樹林、雄大な海岸線は、現代のハイカーや登山者にとっても魅力的なトレイルです。6日間におよぶ120kmの旅路。今回は大辺路の歩き旅の【中編】をお伝えします。
文=大堀啓太(ハタケスタジオ)、写真=金田剛仁(ハタケスタジオ)、協力=和歌山県観光振興課
古道も、寄り道も楽しんだ4日目|和深~古座 約27.0km
宿泊していた江住駅から3日目にゴールした和深駅へ電車で移動し、4日目のスタートは和深駅から。本日は、石段と石畳が続く新田平見道(にったひらみみち)を越え、本州最南端の町の串本(くしもと)町を過ぎ、古座(こざ)駅へ向かう行程です。
「この旅で一番長い距離を歩く4日目。疲れもたまってきましたが、今日も楽しく歩きましょう!」
言葉とは裏腹に疲れを微塵も感じさせない笑顔で出発の号令を発する陽希さん。
まずは国道42号を歩き、押印所がある新田平見道をめざします。
今日も海岸段丘の平見が続くため、細かなアップダウンが多く、朝からいい運動になります。体も気温もあたたまってきたころに、新田平見道の押印所に到着。
新田平見道を下りると、今度は安指(あざし)平見を上って下り、そして富山(とみやま)平見道へと向かいます。
「平見を登って下りて、また次の平見を登っては下りての繰り返しなので、高い山は登っていませんが、獲得標高は結構あるんじゃないかな」
平見のある海沿いの道だからこそのアップダウンですが、陽希さんはその登り下りも楽しんでいる様子。
富山平見道にも石垣などが残り、人々の生活の跡がありました。また、周囲には常緑高木のシュロの木々が立ち並んでいます。この周辺一帯では、12世紀ごろからシュロの栽培が行なわれ、シュロの皮をねじり合わせて縄やたわしにして使っていたといいます。
生活道でもあった大辺路の一面を垣間見ながら富山平見道を下りると、国道42号を進み、田並(たなみ)駅を過ぎて飛渡谷道(とびやたにみち)に入っていきます。
平見のアップダウンの繰り返しと、太陽の暑さもあいまって疲れがたまってきた陽希さんは、ここから怒涛の寄り道ラッシュを始めます。
ソフトクリーム、パン、コーヒー・・・。寄り道でお腹も満たされ、歩みを再開します。国道42号を外れて鬮野川(くじのかわ)沿いの道へ。のどかな田園風景を楽しみます。
鬮野川辻地蔵近くの分岐に「右ハ 橋杭・串本」の看板が。ここまで来たのだから橋杭岩を見に行くことにしました。
橋杭岩は、大小40ほどの岩柱が約850mにわたって海にそそり立っている景勝地。海の浸食によって岩の硬い部分だけが残り、あたかも橋の杭だけが立っているように見えることから、橋杭岩といわれているようです。
平見といい、橋杭岩といい、自然の営みに感銘を受けた陽希さん。こういう寄り道もいいものですね。
来た道を、鬮野川辻地蔵近くの分岐まで引き返して、紀伊姫(きいひめ)駅をめざします。
駅を前にして、駅近くにあったポンカンの無人販売所に吸い寄せられていく陽希さん。
「みかんが大好きなんですよね。みかんの名産地として有名な和歌山なので、柑橘系が置いてある無人販売所とかがあるんじゃないかと思っていましたが、遠くにのれんが見えたときにはうれしかったです! しかも、ポンカンが1袋(5個入り)200円なんて、安い!!」
あとはゴールの古座駅をめざして進むだけと思いきや、道路脇にケーキ屋さんの看板が。もうさすがにお腹がいっぱいと一度は通り過ぎた陽希さんですが、甘いもの好きとしては見逃せず、やっぱり引き返してしまいました。
「串本町の名産のサツマイモが使われたタルトも、フルーツたっぷりのロールケーキもおいしかったです!」
甘いもので体力を回復し、これで思い残すことなくゴールの古座駅へラストスパート。
そして、古座駅にゴールしたのは夕方でした。
「海岸線、舗装路、路地、山道と次から次へといろいろな道が出てきて、飽きることなく歩けました。潮の香りを感じながら歩いたのも新鮮でしたし、海方面の眺望がよく、四国の山も見えたような気がしました。寄り道スポットもたくさんあって、とにかく大満足でした!」
海辺の熊野古道の真骨頂を味わえましたが、旅はいよいよ終盤。120kmの歩き旅を締めくくる【後編】へと続きます。