移住理由も考え方もそれぞれ! 移住のヒントがたくさん!
北アルプスの麓に暮らす5人の先輩移住者に聞く

北アルプスの東側、長野県の、小谷村、白馬村、大町市、松川村、池田町の5つの市町村から移住者に集まってもらい、座談会形式で、移住してよかったこと、移住についてそれぞれが考えたことや、現在どういう暮らしなのか、話を聞いた。思い切って移住した人、考えて悩んで移住した人、仕事を変えた人など、様々だ。

2020年は、新型コロナウイルス感染症の拡大によって、世の中が一変し、多くの人の生活が変わり、働き方、生き方を考えた年だった。移住歴も生活環境も仕事も全く違う5人の話だが、先輩移住者の言葉に、これから移住を考える人にとって必ずヒントがあるだろう。

 

―それでは、早速ですが。みなさんそれぞれ経歴があってそれぞれの町に移住してきたわけですが、単刀直入に、こちらに移住してきてよかったことはどんなことですか?

堀内さん:登山口が近いこと。燕岳もそうですし、蝶ヶ岳、常念、餓鬼とか、爺ヶ岳・鹿島槍とか。いろんな山に行きやすい。山が近くて幸せです。山に行くのは、お店の定休日の日に。いつも日帰りです。

柴田さん:いい雪のときに、スキーがすぐできること。天気見て、コンディション見て、すぐ行けること。そして、ゲレンデから滑って家まで帰ってこれること。これは昔から憧れてた暮らしです。それととにかく静かに生活できることですね。

photo by fujita.drone

大石さん:山が近い、スキー場が近いのはもちろんですけど、道が混んでなくて、渋滞のストレスがないこと、ですね。東京に住んでたときは高速道路まで1時間とかかかってたから。今は、9時、10時に思いたって、雨飾に行こうかな、とか。白馬の山も日帰りでいけちゃいます。いつでも行けるので、ちょっとでも天気悪いとやめちゃいます。

小澤さん:やはりここの環境です。生まれは埼玉なんですが、自分は湿気と暑さに弱い。京都も蒸し暑かった。こっちは湿気が低く、サラサラしていて、空気感がいい。夏もエアコンなくて過ごせますし、身体に合っていると思います。人が少ないし、静かに暮らせます。川や水路にきれいな水が流れている。その音を聴くだけでリラックスできます。

福本さん:ここ数年、自転車散歩を楽しんでいます。移り住んで30年くらい、車では主要道路しか走ってなかったんですけど、自転車乗るようになって、農道を自転車で色々走ってみると、秘密のいいコースがいっぱいあるんです。新しい安曇野の風景をたくさん見つけられたし、自転車で見つけた景色は、山の版画作品にも反映しています。

―この地域で暮らしていて、自然を感じる、季節を感じるのはどんなときですか?

柴田さん:山がすぐ近くの暮らしなので、春夏秋冬、季節を感じますけど。雪が降る頃になると、ワクワクしてきますね。楽しい季節がやって来るなと感じます。

大石さん:春になってくるといいコンディションで残雪の山に行けるようになるし、スキーも楽しい。春はいいですね。

小澤さん:農業をやっていて、ほぼ毎日外に出ているので、毎日、感じます。景色の中で、田んぼの色は重要な要素のひとつです。今は、田んぼが黄金色になっていますけど。田植えから、青い稲になって、黄金色になっていって、一気に茶色になる。風景の壁紙をひっぺがすような感じです。

写真=稲澤 博

堀内さん:まだ移住して1年半ですが、山を見て、紅葉が降りてきたなとか、そういうのは感じられます。周りに畑があるんですけど、秋になると虫の音がすごいです。

福本さん:春になると、庭にふきのとうが出てくるんです。天ぷらにして、お酒飲みながら食べるときに、やっと春がきたなと感じますね。冬が長いので、春を中心に考えるんですよ。作る版画も、春の景色のものが多いんです。ふきのとうは3月の終わりくらいかな。

柴田さん:うちの周りだと、雪が多いから、ふきのとうは4月の半ばくらいかな。タラの芽とかコシアブラとか、山菜の時期は面白いですね。

―山好き、アウトドア好き、スキー好きの人にとって、この地域に移住したら、いろんな遊びを想像できると思うんですが、どうやって仕事を探すかは大きな課題ですね。福本さん、堀内さんの場合は仕事は変わっていないわけですが、仕事の不安とかはありましたか? ほかに移住に伴う不安なんかがありましたら教えてください。

福本さん:僕の場合は、仕事は変わっていませんが、大阪でやっていた仕事が全部もってこれるわけじゃなかったし、仕事をやっていけるかが、一番不安でした。でも、環境を変えたい、こっちに来たいっていう気持ちが強かったかなぁ。

小澤さん:僕は今、こうなっているのがすごく不思議で。4年前に、そば打ちの仕事をやってるなんて想像していなかった(笑)。こっちに来たら、興味持ったことは、何でもやってみようとは思ってたんです。地域おこし協力隊になったときから、割とすぐそば打ちを趣味で始めて、そば打ちの知り合いができて。狩猟にも興味があって、始めたらいろんな人にお世話になるんですが、農業に携わる人が多かったんです。そしたら農業法人を紹介されて、今の仕事になったという。

大石さん:自分はどこでも行けるタイプで。結構、飽き性なんです(笑)。住まいも仕事も転々としても、仕事も何度か変わっているので、あまり気にしていなかったです。スキーがしたくて移住したので、スキーができるだけの蓄えはしないといけないですけど、暮らしていけるくらいのお金はなんとかなると。

柴田さん:僕は会社員やってて、仕事を変えることには、結構、抵抗がありました。こっちに来て、どんな仕事ができるんだろうかとか考えて、移住したいって思ってから、実際に移住するまで、3年くらいかかっています。決心するまで2年かかって、仕事探すのにもう1年かかりました。愛知ではまわりに自営業の人も少なくて、わからなかったけど、小谷に来てみたら、自営業の人が多い。旅館業は未経験だったけど、なんとかやってます。

決心つくまでは不安がたくさんあったけど、決心がついてからは、不安はなくなったかな。僕の経営するロッジは、不動産屋で売りに出ていたわけではなく、長野県の「事業引き継ぎ支援センター」というところに、ロッジの前オーナーが登録していて、窓口担当者が情報を教えてくれて、マッチングしてくれたんです。前オーナー時代のお客さんも来てくれますし、自分の知り合いも、新しいお客さんも泊まりに来てくれてます。

―移住してみて、イメージギャップというか、思っていたことと違ったということはありますか?

大石さん:悠々自適な生活になるかな、と思っていたけど、意外と忙しい。地域おこし協力隊の仕事は、土日に働くことも多くて。天気の良い土日とかでも、午前中から移住相談が入ってたりとか、東京に出張に行かなければいけなかったりとか(笑)。移住相談って、結構、冬が多いんですよ!

小澤さん:農業って、外からは悠々自適に見えるかもしれないけど、農業法人となると、結構広い範囲をやっていて、忙しいし、ハードです。朝から夕方まで、すごく働く人が多い。「のんびり暮らす」ようなことはないです。とはいっても、夜10時まで働くとか、そういうことはないですし、仕事が終わったら、この景色なんで。

満員電車に乗って、通勤して仕事していた頃は、慢性的な腹痛というか、ストレスがいっぱいで、そういうのがありましたけど、今は、ないですね、全くなくなりました。年収が下がったとしても、環境の良さで、こっちを選んだほうが絶対いいと僕は思います。

大石さん:言われて思い出したけど、東京に住んでた頃の忙しさ、通勤のストレスは、たしかにあったなと。

―この地域に移住してきて、生活の面などで不便さを感じることとかはありますか?

大石さん:雑誌で見たものが、手にとって買えないってのはあるけど。ネット通販でなんでも手に入るし。「とりあえず買う」かな(笑)。

福本さん:住んでた場所によるんですけど、大阪の郊外に住んでた頃は、スーパーとか病院とか遠かったんです。松川のほうがコンパクトで買い物とかは便利です。仕事上の特殊な画材のようなものは、引っ越してきた頃は手に入りにくかったけど、今はネット通販で買えるので、あまり不自由さは感じないですね。

―お住まいの地域の気候について教えて下さい。寒さとか雪についてはいかがですか?

福本さん:冬は長いです。寒さは、移住して3年くらいまで、たいへんに感じていたけど、人間不思議なもので、こっちの気候に、すっかり順応したと思います。今、都会の暑さはたぶん耐えられない。

小澤さん:雪について言えば、ここからこっち(大町から、松川、池田)は、イージーです(笑)。

柴田さん:うちはスキー場のすぐ横なんですが、住人のいる範囲の道路には村の除雪車が入ります。ただし、駐車スペースは別なので、雪の多い朝は、まずブルドーザーを動かさないと、自分の車が出せないです。腿くらいまで雪が積もると、車を出すのに、15分から20分くらいかかる。でもそういう日はパウダーがいいので(笑)。僕はあまり苦労に感じないです。

大石さん:白馬でも、道の除雪は完全に村がやってくれるし、アパート、マンションの敷地は業者とかがやってくれるので、自分でやるのは、自分の車の屋根の雪を下ろすくらい。アパートも、冬を基準に作っているので、基本的には温かい。暖房つければすぐ暖かくなります。

柴田さん:小谷も白馬も、去年は雪の量は少なかったですね。ブルドーザー出したの数回だった。

福本さん:松川に30年近く住んでて、80cm積もったのが、1回あったかどうか。ただ、白馬や小谷と違って、もともと雪が少ないので、除雪経験が少なく、業者の除雪はあまり上手ではないかもしれません(笑)。

柴田さん:失敗と言えば、水道凍らせちゃって給湯器一個ダメにしたことがありました。4月で、暖かくなったからって凍結防止用の電気を抜いちゃったんだけど、急に寒い日があって、凍っちゃった。そういう失敗は何回かしましたね。

愛知に住んでるときは、「家に時間かける」ことはなかったんだけど。寒くなる前に、水道管が凍らないようにしなくちゃとか、雪が降る前に雪囲いをしなくちゃとか、家を見て回って、家に手をかける時間が増えました。体力もいりますね。

―ほかに移住してきて困ったこととかはありますか?

福本さん:僕が越してきた30年前は、居酒屋、飲み屋みたいなところがなかった。大阪では毎日のようにウロウロしてたんだけど(笑)。

大石さん:都市ガスではなく、プロパンガスしかないことかな。

柴田さん:インフラ周りで言えば、うちの周囲何軒かは山から水を引いているので、水がタダですね。

小澤さん:大町はアルプスの湧水を最低限の滅菌だけで水道にしてるので水が美味しいです。タダではないですけど。強いて言えば、生活の上で車が欠かせないってことかな。

柴田さん:実は、うちの宿の前のオーナーの奥様は免許を持ってなかったし、うちの妻も免許ないんです。でも、バスとか使ってなんとか暮らしてる。病院が遠いとかいうのも、病院の距離で生死を分けるようなことは確率でいえばわずかなので、考え方、暮らし方次第かなと。

―ところで、みなさんは移住してからの遊びや仲間をどうやって広げているのでしょうか?

福本さん:安曇野周辺は移住者のほうが人口多いし、美術館なんかも多いから、好きな絵のことを話せる人が多い。絵本美術館に通っているうちに、似たような人が集まっているのがわかって、自然と仲間が増えていきました。

堀内さん:純粋にこちらに来てからの知り合い、というのはまだ少ないんですけど、山小屋で働いていたときの仲間は、この周辺に住んでいる人が多いです。それと、山と本をテーマにした喫茶店なので、山が好きな人が自然と集まってきます。

 

小澤さん:誘われたら断らないでついて行くというか。せっかく移住したので、自分に近い人、同じ年代だけじゃなくて、こちらに住んでる人たちの興味のあることに近づきたいなと思ってました。テンカラの毛鉤づくりに誘われたら行って、釣りにも誘われて良いポイント教えてもらったり。そうやっていくと、教えてくれたり、助けてくれたりする人がたくさんいます。圧倒的に年配の人が多いですけど。

大石さん:地域おこし協力隊は、役場の仕事なので、そこを中心に知り合う人が多いですね。あとは町内会、消防団。仕事柄、移住者との接点が多いですね。そこからいろいろ紹介してもらったり。遊びに行ったりまではしてないですけど。

柴田さん:最初は知り合いもいなかったけど、だんだん増えていって。同年代の友達も増えてきました。スキーをしていれば自然と友達が増えてきますね。宿をやっていると常連さんもできてきますね。

―これからどんな暮らしをしていこう、というのがあったら教えてください。

福本さん:僕の場合は、これからどうっていうのはないけど。コロナがあって、リモートワークなんかも始まって、暮らし方が変わったので、こういうところに移住してもらったらいいと思う。仕事する場所としてはとてもよい環境です。

堀内さん:池田町、とってもいいところなので、観光で来る人がもっと増えるといいと思っています。みな、アルプス側の道、山麓線が好きなんだけど、池田町側も景色がいいんです。町中の山小屋風喫茶店として、利用してもらえるようになりたいです。

小澤さん:農業法人直営のお店も始まったばかりなので、安定して運営できるように、今の仕事を大切にしていきたい。私が移住してきたとき、地域に定着するようにと、いろんな方に助けられて、お世話になったので、恩返しできるようにがんばりたいと思っています。

大石さん:地域起こし協力隊は、任期が決まっていて、その中で、いろいろやりたいことが出てくるのですが。理想としては、「あの人どうやって暮らしているの?」っていわれるような人になりたいです(笑)。

柴田さん:先のことまでは考えていなくて、今を楽しむって方が強いのですが、日本山岳ガイド協会の資格で、BCスキーガイドステージ2を取ったので、スキーガイドとしても仕事をしたいと考えています。ガイドしますので、BCスキー目的の人に、ぜひ泊まりに来てもらいたい!

photo by Takimoto Michio

―最後に、移住を考えている人にアドバイスがありましたらお願いします。

福本さん:僕自身は移住先を決めるのに、パッと決めてしまって。もう少し慎重でもよかったかなとも思ってる。それが運命なんですが。移住先、よく見て、探してください。

小澤さん:今の時代、どこで何をしても、生きていける。生き方が自由になったと思います。肌に合うならどうになかる。仕事の関係、体力の関係とか、年齢とか、人によってタイミングがあるけど、いいなって惹かれたときが、そのタイミングです。ぜひ。

大石さん:謙虚な姿勢が大事だなと感じます。白馬村は移住者が多いですけど、人間関係でいうと、誰も彼も移住者に対して、同じように優しいわけじゃないってことでしょうか。同じ移住者でも、自分には合うけど、他の人には合わないとか。謙虚な姿勢でいると、周りの人も助けてくれやすいです。

柴田さん:迷っている人がいるなら、自分が何をしたら幸せかを、考えて、考えて、決めたらよい。僕はそういう考えで、2年間考え抜いて決心して移住してきたので。

堀内さん:喫茶店の場所は、松本なんかも考えたんですが、不動産屋さんに池田町を紹介されたんです。最初は池田町のことは知らなくて。でも、勘ですかね。私の場合は考えすぎちゃうとダメかな。池田町は私にちょうどよかった。目の前のアルプスの景色もいい。縁とタイミングで決めました。

―みなさんからいただいた言葉が、次に移住を考えている人たちの背中を押すことになればいいなと思います。本日はありがとうございました。


柴田勇紀さん(35)
小谷村  スキーヤー、ガイド、ロッジ経営
愛知県出身。ビッグマウンテンスキーの世界大会のひとつ「FREERIDE WORLD QUALIFIER / FREERIDE HAKUBA」に出場し、「近くに住みたい」と移住を考える。3年ほど前、縁あって小谷村の「POWDER LODGE COLTINA」を譲り受ける。現在は、旅館業のほか、バックカントリースキーガイド、登山ガイドを行う。
 

大石学さん(40)
白馬村 地域おこし協力隊
静岡県出身。「海に近い生活だったが、山に興味があった」と、高校で山岳部に入る。好日山荘に勤務する傍ら休暇で山にも登っていたが、「自分の中でスキーブームが再燃」し、シーズンに十数回通ううちに、移住を考え始める。3年前に白馬村の地域おこし協力隊の仕事に応募し、移住した。
 

小澤貴弘さん(37)
大町市 農業法人勤務
埼玉県出身。京都精華大学で講師をしていたとき、池田町の友人宅に遊びに。有明山が目の前にある景色を見て、移住を考える。4年半前、大町市で「北アルプス国際芸術祭」に関する地域おこし協力隊の募集があり移住。現在はその任期を終え、大町市の農業法人に入社し、米・麦・そばを作っている。
 

堀内奈歩さん(47)
池田町 喫茶店経営
静岡県出身。東京から実家に帰り、喫茶店をやっていた。同じころ、登山を始め、山好きが高じて、北アルプスの山小屋・大天荘で働く。アルプス周辺で喫茶店をやりたいと思っていたのと、お店の入っていた静岡のビルが取り壊しが重なり、1年半ほど前に池田町に移住してきた。
 

福本吉秀さん(66)
松川村 版画家
大阪で版画工房をやっていたが、環境を変えたいと、思いきって移住。仲良くなった安曇野絵本館の館長にいくつか紹介された中で、松川の場所が良かったという。移住29年で「山には一度も登ったことはないが、景色としていつも山を見ていて、飽きることがない」。山を題材にした作品多数。