山で食べる食事「山ごはん」は登山の楽しみのひとつです。
どうせなら、おいしく食べたいものですよね。
ここでは、山ごはんの計画や調理に必要な道具、レシピに加え、行動中の食事や山ごはんに関する本を紹介します。
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横山賢次郎=監修、佐藤慶典=文、柏倉陽介=写真
4名積雪期1泊の食料計画
監修:よこやま・けんじろう
1944年、長野県松本市生まれ。9歳から登山を始める。長野県山岳協会登山教室で講師として活躍中。 安全登山をモットーに、年間約40教室、90日は受講生を連れて山へ入る。

 テント場を水平に整地したあと、横山さんは大きなポリ袋に雪を詰め、これをストーブのそばへ置き、湯沸かしと水作りを始めた。

1.2鍋は2個用意。大鍋は主に水作りに、小鍋は料理に使う。 3ジョウゴ 4アルファ米の袋の口にたたんで留めるための洗濯バサミ 5おたま 6茶こしは雪を融かした水の濾過に使用 7雪に灰や細かいゴミが混じってるときにはキッチンペーパーでこすとよい 8ストーブは料理用と水作り用に2個。ガス缶は500と250タイプを1個ずつ用意 9水や汗などを拭くのに便利なダスター(不織布) 10おわん。集めた雪を鍋に移すため 11水作り用のストーブは低重心の分離型がオススメ 12計量カップ 13竹箸 14トレイは水作りの際に水滴受けとストーブを安定させるために使用する

 「テントを張ったら、お茶をしながら水作りに取りかかります。疲れた体には甘味がきくんです。さあ、好きな飲み物を取って」と差し出された袋から好みの飲み物を選び、お湯を注いだ。おいしい。芯から温まる。ほかの人が飲んでいるお茶の味も気にかかる。

 「いろいろな味があるといいですね。譲り合ったり、取り合いになったり、そっちの味はどう? とか。お茶だけでも楽しめるじゃないですか」と言いながらも、横山さんは水作りの手を休めない。

 水は団体用として1人あたり500mlを持参しており、お茶には1人あたり150mlほど使用した。大きい鍋には徐々に水ができていくが、中には枝や葉が入っている。ん~、正直あんまりきれいじゃない。

 「雪にはいろいろ混ざっていますよね。でも、茶こしを通して水筒へ入れますから大丈夫です。煮沸もしますし、衛生面も問題ありませんよ」と言われてひと安心。

食材はできるだけ包装を外した状態にし、ポリ袋や食品用密閉バッグに入れて携行する。名前を書き、前菜や甘味など、メニューごとにまとめるとよい

 水作りを続けながら、赤ワインとおつまみのチーズが出された。シェラカップにワインを注ぎ、一同、「乾杯!」。この赤ワイン、メインや前菜を作る際に少量加えると隠し味となり、味にコクが出るのだ。

 いよいよ前菜へ突入!という前に、お茶を飲んだ際の残り湯に水を足し、アルファ米用のお湯を作る。アルファ米はお湯を注いでからできあがるまでに20~30分 かかるため、この段階で作っておくといいのだ。

 横山さんは湯を注ぎ、切り口を洗濯バサミで留め、「抱えていると体が温まりますよ。ごはんも冷めないし一石二鳥でしょ」といって、寒そうにしている玲ちゃんに渡した。無駄のない流れ、熱を有効に利用するところなど、学ぶべきことは多い。

[食料計画のヒント1] 軽量化

 軽量化は食料計画の第一歩。装備が軽くなると、使える食材やメニューの幅も広がる。キッチンスケールを利用して、すべての装備や食材をグラム単位で計量し、少しでも軽いものを選ぶといい。

 横山さんの個人用の取り皿はシェラカップよりも軽いプラスチックのおわんである。食材自体を軽くするなら、フリーズドライ食品や乾物が一番。

 横山さんは切り干し大根や桜エビ、ひじきなどのほか、カップラーメンや具沢山インスタント味噌汁に付属のフリーズドライ野菜を山行の際に使うという。

 4人ほどのパーティで積雪期1泊2日のテント山行の場合は、食材と共同装備を合わせた重量は1人あたり3.5kgに収まるようにしているそうだ。

お茶をしながら水作り

 テント場を水平に整地したあと、横山さんは大きなポリ袋に雪を詰め、これをストーブのそばへ置き、湯沸かしと水作りを始めた。

一日の行動を終えて疲れた身体は、ココアやおしるこ、甘酒などの甘い飲み物がおすすめ

 「テントを張ったら、お茶をしながら水作りに取りかかります。疲れた体には甘味がきくんです。さあ、好きな飲み物を取って」と差し出された袋から好みの飲み物を選び、お湯を注いだ。おいしい。芯から温まる。ほかの人が飲んでいるお茶の味も気にかかる。

 「いろいろな味があるといいですね。譲り合ったり、取り合いになったり、そっちの味はどう? とか。お茶だけでも楽しめるじゃないですか」と言いながらも、横山さんは水作りの手を休めない。

大鍋に雪を入れて水作り。あらかじめ精霊の水を入れてから雪を投入すると融けやすい。割り箸ではなく竹箸を使うのは、ふやけないから

 水は団体用として1人あたり500mlを持参しており、お茶には1人あたり150mlほど使用した。大きい鍋には徐々に水ができていくが、中には枝や葉が入っている。ん~、正直あんまりきれいじゃない。

 「雪にはいろいろ混ざっていますよね。でも、茶こしを通して水筒へ入れますから大丈夫です。煮沸もしますし、衛生面も問題ありませんよ」と言われてひと安心。

水はこしながら水筒へ

 水作りを続けながら、赤ワインとおつまみのチーズが出された。シェラカップにワインを注ぎ、一同、「乾杯!」。この赤ワイン、メインや前菜を作る際に少量加えると隠し味となり、味にコクが出るのだ。

 いよいよ前菜へ突入!という前に、お茶を飲んだ際の残り湯に水を足し、アルファ米用のお湯を作る。アルファ米はお湯を注いでからできあがるまでに20~30分 かかるため、この段階で作っておくといいのだ。

 横山さんは湯を注ぎ、切り口を洗濯バサミで留め、「抱えていると体が温まりますよ。ごはんも冷めないし一石二鳥でしょ」といって、寒そうにしている玲ちゃんに渡した。無駄のない流れ、熱を有効に利用するところなど、学ぶべきことは多い。

2個の鍋を駆使し、手際よく料理を進めていく横山さん

[食料計画のヒント2] 仕込み

 出発前に下準備しておくと現地での調理が簡単で早く、ゴミが減らせる。

 テント場で切る必要がないよう、食材は家で刻んでおこう。火の通りも早くなり、ガスの節約にもなる。ただし、生鮮食料品には刻むと傷みやすくなるものもある。そういったものは刻まずに携行するほうがいい。

 マッシュポテトは、素・塩・こしょう・コンソメをあらかじめ混ぜてひと袋にしておくと、調理が簡単になって、しかも軽量化できる。

 同様にラーメンやフリーズドライ食品も包装から出して、人数分をポリ袋にまとめれば、鍋に袋の中身をあけるだけですむ。

 家での仕込みだけでなく、山行中の仕込みも重要だ。翌日の朝食がリゾットや雑炊、お茶漬けなら、夕食のときに白米を作っておくといい。

前菜が食事を華やかに

 前菜はソーセージとエリンギのバターソテー。お酒とおつまみが呼び水となり、バターの匂いに食欲は増すばかり。横山さんは経験上、エリンギをよく使う。きのこ類ではいちばん型崩れしにくく、傷みにくいためだという。

エリンギとソーセージのバターソテーはガーリック入で食欲をそそる

 赤ワインを少量加え、塩・こしょう、醤油で味を調え、ガーリックパウダーを加えて前菜のできあがり。

フリーズドライのカレーをお湯でとき、ごはんを投入すればできあがり

 「ガーリックは食欲を増進しスタミナもつくので、少量入れるといいですよ」とアドバイスしながら、横山さんは前菜を作った小さい鍋でメイン料理用のお湯を沸かしはじめた。鍋は洗わずに次の料理に移る。これがいいだしになるのだ。

 30代の食べ盛り(?)の男衆がいるため、特別にメイン料理はうなぎの蒲焼きとグリーンカレーの2種類が用意された。鍋でレトルトの鰻の湯煎にとりかかる。鰻が温まったころには、アルファ米もできあがり、ごはんに鰻を乗せて、うなぎの蒲焼きの完成。

山で食べるうなぎの蒲焼きはとっても贅沢! スタミナがつくのでオススメ!

 すかさず、フリーズドライのカレーを溶くお湯を4名分沸騰させる。うなぎの蒲焼きを食べ終わると、次はカレーライスと、畳みかけるように料理が。華麗な鍋さばきとでもいうか、よどみなく調理は進み、一貫して無駄がない。

 正直、前菜があったので、カレーだけでも充分だった。「白米だけが残ってしまうことはけっこうあるんですね。そうするとパーティのなかの大食漢が食べるわけですが、だいたいそういう人は、もうおかずは食べてしまっている。そんなときのために、ふりかけがあるといいんですよ」と横山さん。

行動後の疲労と空腹も手伝い、おいしさ倍増!

 横を見ると、玲ちゃんがふりかけをかけてごはんを食べている。大食漢?

 メイン料理が終わり、お茶の時間に。あとは寝るだけという状態にし、しょうが湯をいただいた。残ったお湯はテルモスへ入れ、翌朝の料理に使う。テルモス自体が冷えているので、これにお湯を注ぐと冷めてしまう。

 一度、中に小量のお湯を注いで温めたあと、いったん鍋にお湯を戻して再び沸騰させてから注ぐのがコツだという。朝起きてすぐにお湯があれば、朝食の準備が素早くできるのだ。

[食料計画のヒント3] 食材の特徴

 食材それぞれの特徴を知り、上手に組み合わせて食料計画を立てよう。

 主食の米やパスタはエネルギーの源。腹持ちがよく、食材の要と言える。ただし、生の米やパスタは携行するには少々重く、調理に時間がかかるのがネックだ。

 この問題解消には、値段は張るがアルファ米やお湯を入れて戻すタイプのパスタを使う手もある。

 生鮮食料品はみずみずしく、おいしい。少々重くかさばるが、1~2品持参するとメニューが豊かになる。

 温めるだけのレトルト食品もおおいに使える。日持ちがして、味のよいものが多い。

 フリーズドライ食品は軽量、調理が簡単、コンパクトと三拍子そろっている。

朝食はスピードが命

 朝のメニューはラーメンとマッシュポテトなのだが、横山さんは朝食の前に“朝茶”を用意するという。起きてすぐに朝食をモリモリ食べられない人もいるので、ウェイクアップ用のお茶と茶菓子を出しているのだ。

 お茶で体が温まり、甘い茶菓子がお腹に入ると、体が目覚めて頭もスッキリする。

緑茶で身体を温め、どら焼きで糖分摂取!

 朝茶のあとはお湯を沸かし、ラーメンとマッシュポテトを作る。お湯が沸いたら、2~3分もあればできあがる。朝はスピードが命なのだ。マッシュポテトは、入山前に家で食品用密閉バッグに具材を全部入れて携行すると、お湯を入れるだけで作れる。

ひとりだけ勝手に、残ったごはんで作ったお茶漬けを食べるサガワ

 こうして1泊2日の食料計画と料理の流れを学ぶことができた。食材の軽量化や上手に鍋を使う技術、無駄のない工程。できることを自分の山行に取り入れてみようと思う。山ガールを山へ連れていった際に手際のよさを見せれば、株も上がるだろうし・・・。

マッシュポテトにお湯を注ぐ。少し柔らかめにすると喉の通りが良い

 最後に質問をしてみた。「山ごはんのおもてなしに大事なものってなんですか」。横山さんは柔和なまなざしで「単独行では食事は質素になりがちですよね。食事はみんながいるから楽しい。一緒においしく食べたいんですね。思いやりの心が大切なんだと思いますよ」と。

「横山さん! よこしまな心じゃダメですか・・・」

[食料計画のヒント4] 後片付け

 食器洗いはどうするの? などと考えてはいけない。コッヘルや各人のシェラカップは洗わなのが基本だ。

 山は下界とは違う。間違っても一般的な食器用洗剤などは使わないように。

 食材は残さずに食べ、最後に食器にお湯を入れて、竹箸で米粒などをこそぎ落としながらきれいにする。

 残ったお湯は飲んでしまおう。これで、食器の油汚れも気にならない。もし気になるなら、ダスターやキッチンペーパーで食器を軽く拭くといい。

 ちなみに、横山さんが竹箸を使うのは、コッヘルから残った米粒などをこそげ落とすときにキーキー鳴らないのと、細かいところまでこそげられるからだ。

取材協力=イワタニ・プリムス バーグハウス マムート モチヅキ ロストアロー
※本内容は、月刊『山と溪谷』2011年3月号掲載の特集「おいしい山ごはん」をヤマケイオンライン用に再編集したものです。
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