役行者生誕から1390年。田中陽希さんが歩いて感じた修験道発祥の地・葛城修験

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修験道の発祥地とされ日本遺産にも登録されている葛城修験(かつらぎしゅげん)。1400年近くの歴史がある修験の道を、プロアドベンチャーレーサーの田中陽希さんと歩いた。きびしい修行をイメージする修験だが、陽希さんは「登山も修験の一部」と言う。葛城修験を歩いて学び、感じたものとは。陽希さんが葛城の峰々を歩いた2日間と、参加したウォークイベントの様子をお伝えしよう。

文=大堀啓太(ハタケスタジオ)、写真=金田剛仁(ハタケスタジオ)・栗城翔太、協力=葛城修験日本遺産活用推進協議会

葛城修験道を歩く田中陽希さん

1400年近くの歴史をもつ葛城修験

葛城修験は、修験道発祥の地だ。日本古来の山岳信仰に仏教などの要素が加わり日本独自の発展を遂げた信仰形態が修験道。その開祖とされる役行者(えんのぎょうじゃ)が葛城修験を開いたのは、7世紀ごろといわれている。大阪と和歌山の境に走る和泉(いずみ)山脈と、大阪と奈良の境に連なる金剛(こんごう)山地にまたがる「葛城」と呼ばれる峰々が葛城修験の舞台だ。

葛城修験道を歩く田中陽希さん

葛城修験は役行者が修行の地として開いて以降約1400年の歴史をもつ修行の道で、2020年には文化庁が認定する日本遺産にも登録され、地域特有の魅力や歴史ある文化にも触れられる。

28の経塚を巡る112kmの道のり

葛城修験は紀淡(きたん)海峡に浮かぶ和歌山市の友ヶ島(ともがしま)から始まり、大和川(やまとがわ)に浮かぶ亀石(かめいし、亀岩とも)まで続く112kmの道のり。役行者と縁のある寺社や滝などの修行の場所や、28カ所の経塚(きょうづか)をたどりながら歩く。経塚とは、役行者が葛城の峰を仏法の世界に見立てて、二十八章ある法華経の経典を一章ずつ分けて埋納した場所で、山野で修行する山伏にとって大切な場所だ。

葛城修験道を歩く田中陽希さん

この葛城修験を山伏だけではなく誰でも親しんで歩けるようにと作られたのが、19のモデルコースに分割して紹介された「マップ&ガイド」だ。歩行距離やコースタイムも記載されていて、登山計画を立てやすい。マップ&ガイドは市町村役場や、登山口近くの主要な駅で入手できるほか、葛城修験のウェブサイトで閲覧できる。歴史的にも登山的にも魅力があふれる葛城修験は、大阪府の長距離自然歩道であるダイヤモンドトレールや熊野古道、紀泉アルプスとも交わっている。分割コースなら日帰り登山でも充分楽しめるだろう。

大事なのは、山に入ってなにを学ぶか

修験道というと、お経を読んだり、黙々と歩いたりと、厳粛なイメージがある。しかし日本で最も古い修験道の教団である、京都の本山修験宗総本山 聖護院門跡(しょうごいんもんぜき)の山伏、宮城宏維(みやぎこうい)さんは言う。

「大事なのは、山に入ってなにを学ぶのか、です」

自分自身を見つめ直したり、山でなかなか手に入らない水から自然のありがたみを感じたり、山で出会う人への気遣いを身に付けたり、山で学ぶことはたくさんある。

葛城修験道を歩く田中陽希さん

「葛城の道は気持ちいいし、修験で山の世界も広がる」

そんな葛城修験を、日本3百名山ひと筆書きで数々の山を歩いてきた田中陽希さんが、マップ&ガイドの3つのモデルコースを参考に「大福山」(だいふくさん、462m)「金剛山」(こんごうさん、1125m)「岩湧山」(いわわきさん、897m)を歩いた。

「街から近い低山だけど、山の上から海が見渡せるし、経塚や神社、お地蔵さんに手を合わせて先人に思いをはせながら歩くと、おごそかな気持ちになりますね。山の新たな一面を見られて、またひとつおもしろさに気づけました」

葛城修験道を歩く田中陽希さん

聖護院門跡の山伏に先達していただきながら、陽希さんが歩いた3日間の登山を見ていこう。

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