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「食料計画なんてあまり考えない」という人も多いと思う。もし、複数名の食料計画を担当することになっても、用意する食材の種類や量、使う道具はなにがいいのかなど、よくわからないのが実情だろう。
そこで、食料計画について詳しい横山さんに教えを請うことにした。山行プランは、4人パーティの積雪期1泊2日テント泊。1日目の夕食と2日目の朝食について実践を通して教えてもらうため、モデルの山本玲子さん(以下、玲ちゃん)、編集部のサガワ、私サトウは松本へ。
横山さんはほぼ毎週末、登山教室の参加者を連れて山へ入るが、その際の食料計画や共同装備の準備を担っているという。
「山の食事を考えるときにいちばん大切なことってなんですか?」。あいさつもそこそこに質問した。
「とにかく簡単に作れて軽い食材を使うこと。私の場合、フリーズドライや乾物を中心に考えます。もちろん動物性たんぱく質は重要なので不可欠です。また、他県からの参加者のために、長野の特産を食材に取り入れるようにしています」と話す横山さん。
食材の軽量化は装備の総重量を抑えることになり、疲労の軽減や安全登山へとつながるのだという。
「メニューが豊富だと満足感が高いですね。『軽くて、簡単に作れて、エネルギーになるものを』と、少量でも品数多くと思って、スーパーへ行っては食材探しをしています」と横山さんは付け加えた。
テント場を水平に整地したあと、横山さんは大きなポリ袋に雪を詰め、これをストーブのそばへ置き、湯沸かしと水作りを始めた。
「テントを張ったら、お茶をしながら水作りに取りかかります。疲れた体には甘味がきくんです。さあ、好きな飲み物を取って」と差し出された袋から好みの飲み物を選び、お湯を注いだ。おいしい。芯から温まる。ほかの人が飲んでいるお茶の味も気にかかる。
「いろいろな味があるといいですね。譲り合ったり、取り合いになったり、そっちの味はどう? とか。お茶だけでも楽しめるじゃないですか」と言いながらも、横山さんは水作りの手を休めない。
水は団体用として1人あたり500mlを持参しており、お茶には1人あたり150mlほど使用した。大きい鍋には徐々に水ができていくが、中には枝や葉が入っている。ん~、正直あんまりきれいじゃない。
「雪にはいろいろ混ざっていますよね。でも、茶こしを通して水筒へ入れますから大丈夫です。煮沸もしますし、衛生面も問題ありませんよ」と言われてひと安心。
水作りを続けながら、赤ワインとおつまみのチーズが出された。シェラカップにワインを注ぎ、一同、「乾杯!」。この赤ワイン、メインや前菜を作る際に少量加えると隠し味となり、味にコクが出るのだ。
いよいよ前菜へ突入!という前に、お茶を飲んだ際の残り湯に水を足し、アルファ米用のお湯を作る。アルファ米はお湯を注いでからできあがるまでに20~30分 かかるため、この段階で作っておくといいのだ。
横山さんは湯を注ぎ、切り口を洗濯バサミで留め、「抱えていると体が温まりますよ。ごはんも冷めないし一石二鳥でしょ」といって、寒そうにしている玲ちゃんに渡した。無駄のない流れ、熱を有効に利用するところなど、学ぶべきことは多い。
前菜はソーセージとエリンギのバターソテー。お酒とおつまみが呼び水となり、バターの匂いに食欲は増すばかり。横山さんは経験上、エリンギをよく使う。きのこ類ではいちばん型崩れしにくく、傷みにくいためだという。
赤ワインを少量加え、塩・こしょう、醤油で味を調え、ガーリックパウダーを加えて前菜のできあがり。
「ガーリックは食欲を増進しスタミナもつくので、少量入れるといいですよ」とアドバイスしながら、横山さんは前菜を作った小さい鍋でメイン料理用のお湯を沸かしはじめた。鍋は洗わずに次の料理に移る。これがいいだしになるのだ。
30代の食べ盛り(?)の男衆がいるため、特別にメイン料理はうなぎの蒲焼きとグリーンカレーの2種類が用意された。鍋でレトルトの鰻の湯煎にとりかかる。鰻が温まったころには、アルファ米もできあがり、ごはんに鰻を乗せて、うなぎの蒲焼きの完成。
すかさず、フリーズドライのカレーを溶くお湯を4名分沸騰させる。うなぎの蒲焼きを食べ終わると、次はカレーライスと、畳みかけるように料理が。華麗な鍋さばきとでもいうか、よどみなく調理は進み、一貫して無駄がない。
正直、前菜があったので、カレーだけでも充分だった。「白米だけが残ってしまうことはけっこうあるんですね。そうするとパーティのなかの大食漢が食べるわけですが、だいたいそういう人は、もうおかずは食べてしまっている。そんなときのために、ふりかけがあるといいんですよ」と横山さん。
横を見ると、玲ちゃんがふりかけをかけてごはんを食べている。大食漢?
メイン料理が終わり、お茶の時間に。あとは寝るだけという状態にし、しょうが湯をいただいた。残ったお湯はテルモスへ入れ、翌朝の料理に使う。テルモス自体が冷えているので、これにお湯を注ぐと冷めてしまう。
一度、中に小量のお湯を注いで温めたあと、いったん鍋にお湯を戻して再び沸騰させてから注ぐのがコツだという。朝起きてすぐにお湯があれば、朝食の準備が素早くできるのだ。
朝のメニューはラーメンとマッシュポテトなのだが、横山さんは朝食の前に“朝茶”を用意するという。起きてすぐに朝食をモリモリ食べられない人もいるので、ウェイクアップ用のお茶と茶菓子を出しているのだ。
お茶で体が温まり、甘い茶菓子がお腹に入ると、体が目覚めて頭もスッキリする。
朝茶のあとはお湯を沸かし、ラーメンとマッシュポテトを作る。お湯が沸いたら、2~3分もあればできあがる。朝はスピードが命なのだ。マッシュポテトは、入山前に家で食品用密閉バッグに具材を全部入れて携行すると、お湯を入れるだけで作れる。
こうして1泊2日の食料計画と料理の流れを学ぶことができた。食材の軽量化や上手に鍋を使う技術、無駄のない工程。できることを自分の山行に取り入れてみようと思う。山ガールを山へ連れていった際に手際のよさを見せれば、株も上がるだろうし・・・。
最後に質問をしてみた。「山ごはんのおもてなしに大事なものってなんですか」。横山さんは柔和なまなざしで「単独行では食事は質素になりがちですよね。食事はみんながいるから楽しい。一緒においしく食べたいんですね。思いやりの心が大切なんだと思いますよ」と。
「横山さん! よこしまな心じゃダメですか・・・」