残雪登山の事故が多発!2022年の事例に学ぶGWの遭難対策

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大型連休に合わせ、各地で山開きが行なわれるが、高山や豪雪地帯の山は、まだまだ雪山シーズン真っ只中。気温が上がって冬山シーズンよりも登りやすいと考えられがちだが、毎年天候の急変などに起因する気象遭難が多く起きる時期でもある。

GWの至仏山。この翌日に遭難者が発見された
(2022年4月30日撮影/道遙かさんの登山記録より)

文=野村 仁

 

天候の変化で真冬に逆戻りすることも

春の大型連休直前になりましたが、昨年の遭難事例に学びながら、この時期の注意点を確認してみましょう。高山ではまだ豊富な残雪があって、朝夕には氷点下の気温になることも普通です。また、気象パターンによっては簡単に真冬の気候に逆戻りすることもあって対応の難しい季節といえます。①残雪やアイスバーンでの転倒・滑落、②悪天候による低体温症、③残雪や悪天候による道迷い、④降雪後の雪崩――以上のリスクに、特に注意が必要でしょう。それでは事例を挙げて考えてみましょう。

 

事例1 中央アルプス・空木岳で単独行男性が滑落(死亡)

4月26日(火)、中央アルプス空木岳に登っていた男性(68歳)が下山せず、家族が警察に通報しました。男性は23日(土)から単独で入山して、26日に下山予定でした。28日、捜索していた長野県警ヘリが荒井沢の標高約2000m地点で倒れている男性を発見し、死亡が確認されました。発見場所は登山道から100mあまり下で、滑落したとみられます。

空木岳の遭難現場周辺

[解説]
空木岳の池山尾根は1年を通じて滑落事故が多く、そのほとんどが大地獄・小地獄の難所で滑落しています。なかでも小地獄周辺は最大の難所です。積雪期は雪の状態がよく雪崩の危険がなければ夏道沿いに南側斜面をトラバースしますが、通常はルンゼ状斜面を直登して2282ピークへ出るルートをとります。場合によってはロープ使用となりますが、単独で登るときは確保手段をとらないことが多いでしょう。遭難男性は熟練者で装備に不備はなく、ヘルメットをかぶっていたため頭部の傷は少なかったそうです。そのような登山者でも滑落事故が起こってしまう、積雪期の池山尾根は上級ルートです。雪山の典型的なリスクを示している事例でした。

 

事例2 尾瀬・至仏山で気象遭難? 遭難者発見(死亡)

5月1日(日)11時35分ごろ、スキーツアーガイドで下山途中の男性たちが、尾瀬・鳩待峠の西方約1.4kmの雪に覆われた斜面で、男性(66歳)が仰向けに倒れているのを発見して110番通報しました。男性は約3時間半後に死亡が確認されました。スノーシューの装備をしていて目立った外傷はなく、周囲には衣類などが散乱していました。沼田署の調べでは、男性は26日に日帰りの予定で入山しており、登山歴は約40年だったそうです。

尾瀬・至仏山の遭難者発見地点

[解説]
発見された斜面はスキーなどの滑走には向いていますが、スノーシューで歩くには夏ルートから離れすぎていて不自然な場所でした。至仏山のおおらかな起伏の続く山容では尾根と谷すじを見分けるのは容易ではなく、視界不良になれば簡単にルートロストしてしまうでしょう。26日から29日にかけては悪天候だったと見られるため、男性はルートを迷って遭難したうえ、低体温症になって倒れたと推定されます。残雪期の登山で最も警戒が必要な遭難パターンの一つといえます。ホワイトアウト下で行動可能かどうか自分のスキルを考慮して、難しいと思ったら登山を中止しましょう。

 

事例3 上高地でテント泊の男性が行方不明に・・・

5月2日(月)から5日(木)までの予定で、上高地に単独でテント泊していた男性(74歳)が行方不明になりました。6日夜、家族が「自宅に帰ってこない」と警察に届け出ました。長野県警は7日午前から県警ヘリなどで捜索を開始しましたが、男性の行き先はわからず、手がかりが得られないまま8日に捜索を終了しました。キャンプ場には男性のテントが残され、中の荷物の様子などから単独で登山に行ったものと推定されました。

[解説]
男性は上高地の小梨平キャンプ場に滞在していたと見られます。マイテントをベースに、日帰りで上高地周辺のハイキングを楽しむという、山好きにとっては魅力的なプランを実行していたのでしょう。しかし、本人は安全と思っていたかもしれませんが、特に高齢者の人ほど何が起こるかわからないのが山です。日帰りハイキングであってもあらかじめ行動計画を決めて、家族や友人に知らせておく配慮が必要でした。また、2~3時間など一定の時間ごとに連絡して消息を知らせることが遭難対策のうえでは重要です。①登山計画の共有(家族、友人、自治体、警察など)、②登山計画を知らせた人への定期的な連絡、以上を遭難対策のために実行してください。

 

事例4 大峰・山上ヶ岳で転落し首を骨折(死亡)

4月29日(金)から大峰奥駈道を縦走していた男性(67歳)が下山せず、5月9日(月)に男性の長男が吉野署に届け出ました。同日に男性の勤務先から長男に「会社に出勤していない」と連絡があり、自宅を調べたところ、4月29日に吉野山から奥駈道に入り、5日に熊野本宮大社へ下山する登山計画書が残されていました。男性はココヘリに加入しており、10日に捜索フライトを行ないましたが発信機の電波をとらえることはできませんでした。吉野署による11~12日の捜索でも手がかりはありませんでした。15日午前、山上ヶ岳の女人結界門から東約200mの山林内で、ザックを背負ったままうつ伏せに倒れた男性の遺体が見つかりました。入山初日に登山道から約150m転落して首の骨を折ったと見られます。

大峰奧駈道で遭難した男性がたどったルート

[解説]
昨年はコロナ禍で本格的雪山へ行くのを控えた人が多かったようですが、残雪の影響のない大峰奥駈道や熊野古道はにぎわったといいます。連休を利用して挑戦しやすい奥駈道で起こった残念な事故でした。GW初日の4月29日は南岸低気圧が直撃して荒れた天気となり、男性の転落事故もその影響があったと思われます。安全のためにはより慎重な行動をとるか、避難小屋などで好天を待つしかなかったことでしょう。登山計画もきちんと作成されていましたが、単独のため自分で通報することはできず、事故発生から10日後に長男が届け出て、その翌日からの捜索となりました。単独登山のリスクが顕著に出てしまいました。

 

なお、昨年のGWは全体として天候に恵まれたため、雪崩と悪天候での遭難事例は少なくなりました。今回も雪崩事故の事例は挙げていません。しかし、今年のGWがどうなるかはわかりません。雪崩と悪天候(春の嵐=メイストーム)は大規模遭難を引き起こす最大要因ですので、充分に注意してください。

 

関連リンク

長野県の令和5年春山 山岳情報
https://www.pref.nagano.lg.jp/police/sangaku/documents/r5safety-haruyama.pdf

ヤマケイオンラインの各地の現地最新情報
https://www.yamakei-online.com/mt_info/

ヤマケイオンラインの山の天気
https://www.yamakei-online.com/weather/

 

プロフィール

野村仁(のむら・ひとし)

山岳ライター。1954年秋田県生まれ。雑誌『山と溪谷』で「アクシデント」のページを毎号担当。また、丹沢、奥多摩などの人気登山エリアの遭難発生地点をマップに落とし込んだ企画を手がけるなど、山岳遭難の定点観測を続けている。

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