2023年の中秋の名月は9月29日(金)。気象条件に恵まれれば月はどこでも見えるが、天体観測にはやはり人工の照明から離れたところが好ましいし、自然の中で眺める満月は風情があってよいもの。そこで、山でお月見を楽しむのはいかがだろう。もしも曇天で月が見えなくても、夜景を楽しんで帰るだけでも充実した山歩きになるはずだ。
山小屋に泊まってゆっくり名月を楽しむのがいちばんだが、今年の中秋の名月はあいにく平日の金曜日。しかし、首都圏近郊には登山道や遊歩道がよく整備され、ナイトハイキングに挑戦しやすい山が多い。東京で17時30分ごろには月が出るので、夕方からのスタートでも山で月見ができるのだ。また、ロープウェイやケーブルカーが夜まで運転している山なら、往復とも利用してしまうという手もある。装備は通常の日帰り登山の装備に加えて、ヘッドランプは必須。予備のランプと電池も用意しておきたい。
ここでは、首都圏の低山を中心に、アクセス至便でナイトハイキング未経験者でも挑戦しやすい「お月見山」を紹介しよう。
年間300万人が登るともいわれる高尾山(599m)は、夜も楽しめるスポットとして人気だ。さまざまなコースが選べるので、スタートする時間に合わせてプランニングできるのもうれしい。明るいうちにスタートできるなら稲荷山コースや6号路をはじめとした、登山道のルートから山頂をめざしてもいい。山頂付近でのんびり月見を楽しんだ後は、ケーブルカーで下山してもいいし、薬王院の表参道で、登山口まで舗装路が続く1号路を下ってもいい。
高尾山はムササビをはじめとする夜行性の動物が生息しているので、ナイトハイクならではの自然観察も楽しい。なお、高尾山ケーブルカーは10月15日まで21時15分まで運転しているほか、高尾山ビアマウントも21時まで営業しているので、ナイトハイクの打ち上げとして、仲間と月見酒で盛り上がる、なんてこともできる。
高低図
広々とした山頂からの富士山の眺めで人気の陣馬山(855m)は山頂直下の和田峠まで車道が通じており、わずか30分で登頂、20分で下山できる山でもある。展望がよいことからわかるとおり、夜空を眺めるにもよい。ススキの揺れる山頂でお月見を楽しもう。
公共交通利用なら、日中からスタートして裏高尾縦走路に挑戦してほしい。高尾山口駅から裏高尾縦走路を陣馬山まで7時間あまり。昼前に歩き始めて、陣馬山で夕暮れから月の出を眺めよう。藤野の陣馬登山口に下山してもいいが、短縮して陣馬高原下からJR高尾駅への最終バス(20時30分)に乗るという手もある。このバスを利用して陣馬山を往復するショートコースも設定できるし、和田峠までマイカーで入るなら子ども連れのファミリーでも挑戦しやすい。
高低図
飯能市街のすぐそばに迫る奥武蔵の山々。その末端のピークが天覧山(197m)と多峯主(とうのす)山(271m)だ。人気漫画・アニメ『ヤマノススメ』(作・しろ)に登場するとあって、飯能の街歩きとセットでアニメの聖地巡礼を楽しむハイカーも多い。
西武鉄道の飯能駅から昔懐かしい雰囲気を残した飯能銀座商店街を抜け、天覧山登山口まで歩いて20分ほど。山頂まではさらに20分ほどで、道はよく整備されているので歩きやすい。山頂からは間近に飯能、遠景に東京方面の夜景が楽しめる。ここからさらに少し足を延ばして多峯主山まで歩けば、標高を上げたぶんだけさらにすばらしい夜景が待っている。月見と夜景、両方楽しんだら天覧山を巻くルートで下山しよう。
高低図
弘法(こうぼう)山(235m)は一帯が県立自然公園となっており、春のサクラをはじめとして、四季折々の花が咲き誇るほか、秋は紅葉の名所としても知られる秦野市民の憩いの山だ。小田急小田原線秦野駅から歩ける上、展望もよいため、いつもハイカーでにぎわっている人気の山だ。
秦野駅から水無川沿いを歩き、弘法山公園の看板に導かれて急坂を登ると浅間山だ。一旦下って林道を横切り、登り返せば展望台のある権現山に着く。展望台からは秦野盆地の夜景を一望できるほか、残照に浮かび上がる富士山のシルエットが美しい。ここで月見を楽しんで折り返してもいいが、歩き足りない場合は鐘楼のある弘法山山頂をめざそう。鶴巻温泉駅方面に下山すれば、21時まで営業している「弘法の里湯」(受付は20時まで)もある。
高低図
関東平野にそびえる孤高の山・筑波山(877m)は、首都圏を一望する夜景の名所としても有名で、大気が澄む10月から2月にかけてはロープウェイが夜間運行を行っているが、中秋の名月の時期は期間外。歩いて往復する前提で考えたい。
つくばエクスプレスとバスを利用すると都心からのアクセスもよいが、つつじヶ丘行きの筑波山シャトルバスは夕方には運行が終わってしまうので注意。15時以降につくばセンター(つくばエクスプレスつくば駅前)を出発する場合は路線バスを利用し、筑波山口から50分ほど歩いて筑波山神社まで行くことになる。筑波山神社から御幸(みゆき)ヶ原への表参道は歩きやすく整備されているので、ナイトハイキングにもおすすめ。山頂は狭いので、月見は広い御幸ヶ原がよいだろう。
高低図