3年半の日記からひと筆書きの足跡をたどる『日本3百名山ひと筆書き 田中陽希日記』【書評】
評者=三戸呂拓也
日本三百名山、全301座を人力のみでつなぎ合わせる旅「日本3百名山ひと筆書き グレートトラバース3」。プロアドベンチャーレーサー・田中陽希は3年半という膨大な時間をかけて、その偉業を成し遂げた。私はNHK同番組の撮影カメラマンとして、旅に同行した。彼の言葉や表情、感じたものを全力でカメラに収め、テレビを通してお伝えしたつもりだ。しかし、常に考えていた。「ホントのところはどうなのだろうか……」
本書には、テレビには映らない、その瞬間の彼だけが知っている心境がつづられている。読み進めるにつれ、彼の成長と変化がわかる。地図に目をやりながら読めば、彼の目線で、知らない場所や景色、人々に出会うことができる。彼が厳選した温泉に、あなたはいくつ訪れたことがあるだろうか。
写真は全てカラー。雄大な景色のなかで笑顔を見せる彼は、少年のようにワクワクしながらセルフタイマーのシャッターを押していた。その傍らに、自分がいたことを誇りに思う。彼と駆け抜けた3年半の旅は、私にとっても青春であった。彼の挑戦を、番組を、応援してくださったみなさまにも、ぜひ、この本を読んで「グレートトラバース3」を体験してほしい。
評者=三戸呂拓也
みとろ・たくや/1985年生まれ。登山家。2021年にはパキスタンの未踏峰サミサールに初登頂。山岳カメラマンとして、数多くの番組撮影にも携わる。
(山と溪谷2022年11月号より転載)
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