【書評】志半ばで遭難した6人の軌跡を辿り人生と時代を回顧『未完の巡礼 冒険者たちへのオマージュ』

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評者=長谷川昌美

植村直己、長谷川恒男、星野道夫、山田昇、河野兵市、小西政継。「昭和」という時代の後半に活躍したこれらの著名な冒険家、写真家、登山家に共通するものといえば、いずれも志半ばにして海外で遭難、生還できなかったという事実だ。しかも6人のうちの4人までもが43歳という年齢で亡くなっている。自らが信じることに命を賭して、気概に満ちた人生を歩んだ結果が遭難という壮絶な死。

本書は『山と溪谷』の編集長を長年務めてこられた神長幹雄さんが、彼らの最期の足跡、マッキンリー、グリーンランド、ウルタル、四国の佐田岬、マナスルを、7年かけて「巡礼」した辺境の旅を軸に、彼らの事績や取材を通じての交流を綴った評伝となっている。

この旅の一つに私も同行した。1991年秋、夫・長谷川恒男はパキスタン・フンザにある当時未踏のウルタル2峰で雪崩によって亡くなったが、遭難直後に遺体を見つけ、BCに埋葬した。没25年後、杏の花が咲く早春に、神長さんには墓参りをしていただいた。人の一生は他者との出会いによって形作られる。6人各様の山や自然、人々との出会いと展開、素顔の彼らが生きた時代の色や匂いまでをも、神長さんは慈しむような筆致で丹念に描いている。

文庫版解説は角幡唯介氏。

未完の巡礼 冒険者たちへのオマージュ

未完の巡礼 冒険者たちへのオマージュ

神長幹雄
発行 山と溪谷社
価格 1,210円(税込)
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評者

長谷川昌美

長谷川恒男・妻。パキスタンのフンザにハセガワ・メモリアル・パブリックスクール&カレッジを開設。

山と溪谷2024年3月号より転載)

プロフィール

山と溪谷編集部

『山と溪谷』2024年5月号の特集は「上高地」。多くの人々を迎える上高地は、登山者にとっては入下山の通り道。知っているようで知らない上高地を、「泊まる・食べる」「自然を知る・歩く」「歴史・文化を知る」3つのテーマから深掘りします。綴じ込み付録は「上高地散策マップ」。

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