百年前の謎は解明されるのか『第三の極地 エヴェレスト、その夢と死と謎』【書評】

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評者=森山憲一

エベレストが初登頂されたのは1953年。しかしその30年ほど前にすでに登頂されていたのでは……?

ヒマラヤ登山史最大の謎とされるこの問いの主役が、1924年に山頂付近で行方不明となったジョージ・マロリーとアンドリュー・アーヴィンである。

ふたりの遺体と、持っていたはずのカメラが発見されれば、彼らの足取りがわかるはず。そして1999年、ついにマロリーの遺体が発見されたが、アーヴィンの遺体とカメラは見つからなかった。本書は、それを見つけ、謎に終止符を打とうと結成された調査隊のストーリーである。

著者であり調査隊のメンバーでもあるマーク・シノットは、登山史研究家や史料館などを訪ね、謎に迫る扉をひとつひとつ開けていく。そこが序盤の見どころとなる。

しかし本書の核心は、なんといっても、エベレスト現場の描写だ。ガイド会社の乱立により、ここ10年ほどでエベレスト登山はすっかり様変わりし、欲と金と政治が渦巻くカオスとなっている。そこに集まる登山者やシェルパの人間模様をシノットは生き生きと描き出す。調査より、むしろこちらのほうがおもしろかったのではないかと思えるほど筆がノッている。

肝心の謎は――それについては本書ラストのお楽しみである。   
 

第三の極地 エヴェレスト、その夢と死と謎

著:マーク・シノット  
訳:古屋美登里  
発行:亜紀書房  
価格:3520円(税込)

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評者=森山憲一

もりやま・けんいち/1967年生まれ。早稲田大学在学中は探検部に所属。『山と溪谷』『PEAKS』編集部を経て、現在はフリーライターとして活動する。

山と溪谷2023年6月号より転載)

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