長崎県で人気の名低山。紺碧の海と島々を眺める志々伎山へ
長崎県平戸島の南端にある志々伎(しじき)山。山頂からは西海国立公園に指定される一帯の美しい景観が楽しめます。
文・写真=池田浩伸
長崎県平戸島の南端にある志々伎山は、347mの低山ながら古期安山岩で形成され、屹立した山頂部を北側から見ると、北アルプスの槍ヶ岳をも思わせる尖峰で、その特異な山容は平戸島への航海目標にもなったと言われています。
奥平戸とも呼ばれる一帯は西海国立公園に指定され、入り組んだ海岸線と紺碧の海の自然景観が随所に広がっています。また、ダンギクやハマカンギクなど朝鮮半島と陸続きだったころの記憶を残した花が、海風が吹き付ける荒々しい岩峰を美しく飾ります。
霊山であったこの山は、沖の宮、地の宮、山腹にある中宮、山頂の上宮を祀り、四社を合わせて志々伎神社と呼ばれ古来より崇敬を集めていたそうです。
平戸大橋を渡って、島の南端にある野子地区まではおよそ1時間の海を見ながらのドライブです。途中には名物の川内かまぼこを売るお店が並び、帰りには必ず立ち寄っています。
西に見える異形の佐志(さし)岳を過ぎると志々伎湾が見えてきます。この辺りから志々伎山が見え始めるのですが、あの屹立した山頂とは程遠い山容です。
私がこの山を見るいちばん好きな場所は、野子中学校近くの福良漁港運動公園です。航海目標にもなったと言われることがうなずける山容です。
県道から志々伎神社の案内に従って道なりに進むと、阿弥陀寺の前に駐車スペースがあります。鳥居をくぐり緑濃い照葉樹に覆われた参道を進むと、左から阿弥陀寺からの道が合わさります。阿弥陀寺は名刹で、県指定文化財の十一面観世音菩薩座像や室町から江戸時代の作とされる仁王像などが保管されていて、下山後に参拝して帰ることにしています。
すぐに長い階段が現われその先が式内志々伎神社(志自伎神社)です。車道を道なりに進むとすぐに左に登山道が延びています。中宮跡を過ぎるとひと際大きなコウヤマキの木があります。ここからは船を繋ぐもやい綱のような太いロープの設置箇所が連続します。
「ロープはありがたいけど、妙に邪魔になるんだよね」なんて独り言を言っていると、頭上が開けそそり立つ山頂部と紺碧の海が目に飛び込んできます。岩場にはダンギクなどの希少植物も見ることができます。
ここで島の西側の展望を楽しんだら、山頂からの景色を思いながら再び照葉樹の密林を進みます。しばらく進むと草履置場の案内が見えます。これより上は聖域とされ、昔はここで草履を脱いでいたといいます。
道が岩稜帯に変わり、ひと登りで上宮の祠が祀られた大展望の山頂です。眼下に青い海が広がり、五島列島と遥かに霞む水平線。平戸島の山々と生月島を結ぶ青い生月大橋。九十九島や五島列島など、多くの群島に囲まれた多島海景観を思う存分満喫できます。
岩に座って眺めていると、ときどき白い航跡を残して通っていく漁船も見えて、ここでも「こんな山はほかにないよなぁ~」と、また独り言。
のんびりした後は、来た道を戻って下山。川内かまぼこのお土産を買い、あごだしちゃんぽんを食べて帰ることにします。
MAP&DATA
コースタイム:福良漁港運動公園~阿弥陀寺前登山口~式内志々伎神社~志々伎山~志々伎神社~阿弥陀寺前登山口~福良漁港運動公園 :約3時間30分
プロフィール
池田浩伸
佐賀県佐賀市在住。8年間NPOで登山ガイドや登山教室講師を務めた後、2019年くじゅうネイチャーガイドクラブに所属し、阿蘇くじゅう国立公園をメインに登山ガイドや自然保護活動を行なう。著書に『九州百名山地図帳』『分県ガイド 佐賀県の山』(山と溪谷社・共著)がある。
今がいい山、棚からひとつかみ
山はいつ訪れてもいいものですが、できるなら「旬」な時期に訪れたいもの。山の魅力を知り尽くした案内人が、今おすすめな山を本棚から探してお見せします。