彩り移ろう晩秋のひととき 特異な岩峰を擁する山形・摩耶山へ

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山形県の西方、新潟県境付近に位置する摩耶(まや)山。海を崇める信仰の山として地域の人々の心のよりどころにもなっています。標高1020mながら特異な岩峰を擁し、険しい一面もあるためか、古くは修験の場にもなっていたようです。また山上には摩耶夫人(まやぶにん、釈迦の生母)を祭る祠があり、興味深い山です。

写真・文=斎藤政広

今回は、尾根道を忠実にたどっていく東側の関川から、摩耶山に登るコースを紹介しましょう。鶴岡市街から国道345号を南下し、関川峠のトンネルを過ぎると、まもなく左手に林道入口の表示があります。その林道の終点が、摩耶山登山口です。登山道は、カラマツの点在する幅広の道から始まります。

黄葉に包まれた道を進む

三角点のある607mピークを過ぎ、気持ちのよいブナ林の道を、落ち葉を踏みしめながら進んでいきます。落葉を踏む感触は、なんとも言えない心地よさです。

落ち葉に埋もれそうな三角点

歩き始めは黄葉に包まれた山道でしたが、色とりどりのグラデーションが展開するようになり、やがて葉が落ちて明るい道に変わっていきます。色彩や風景の移り変わりを楽しみましょう。

足元の木々も色が変わり、黄葉に包まれる道
樹形が特徴的です
次第に葉が落ちてきます

やがて追分の分岐に到着。ここで越沢からの道と合流します。摩耶山避難小屋を過ぎて登るにつれてブナはいよいよ葉を落とし、視界が開けてきます。

摩耶山避難小屋
摩耶山山頂部が見えてきました

鼻くくり坂を越えると六体地蔵尊で、かわいらしい地蔵が並んでいます。さらにやや登った所に、祠のある奥の宮に到着します。摩耶山といえば六甲山地にある一峰がよく知られていますが、ここに摩耶夫人が祭られているということから、なにかつながりを感じます。

六体地蔵尊
奥の宮の祠

奥の宮を過ぎると、まもなく眺望が開け、倉沢からのルートと合流して摩耶山山頂に着きます。まず目に飛び込むのが、南にある特異な岩峰、鑓(やり)ヶ峰と鉾(ほこ)ヶ峰です。そして摩耶山の東側はバッサリと切れ落ち、登ってきた緩やかな尾根道とは対照的です。

鑓ヶ峰(手前)と鉾ヶ峰

南には朝日連峰北部の盟主、以東岳がどっしりと大きく見え、東に目を転じればスケールの大きな月山、北には日本海に沿うように南北に連なる山脈が屏風のように延び、湯ノ沢岳、母狩(ほかり)山、金峯(きんぽう)山へと経て、庄内平野へ落ち込んでいき、はるかには鳥海山が美しく眺められるのですが、この日は残念ながら雲に覆われていました。

山頂にどっしりと座り、この山塊に暮らすイヌワシの目線になって、山のつながり、森のつながりなど、日々忘れがちな大切なことに思いを巡らせてみるのもいいでしょう。ゆっくりした時間を過ごした後、来た道を忠実に戻ります。

さてここからは、道中に出合った生きものたちを紹介しましょう。そっとブナの枯葉をのぞいてみると、地味ですが小さないのちが息づいています。足もとの観察も、山歩きの楽しみにしてもらえたらうれしいです。

ツルリンドウの果実
ツルリンドウの果実
ブナの道で、ヤブキリに出合いました
ブナの道で、ヤブキリに出会いました
ブナの落ち葉と見分けがつかないタゴガエル
ブナの落ち葉と見分けがつかないタゴガエル

小さな蛾が足もとから飛び出せば、この時期に生まれるフユシャクに違いありません。花のない時期なので蜜を吸う器官は不要となったのか、口吻(こうふん)がありません。また羽があるのはオスで、メスには羽がないという、そんな特徴を持っています。出合ったら、そっと見つめてあげてください。

ガガンボの仲間は、透き通るような羽が印象的でした。どのようにその長い足を動かし、移動するのか、興味が湧いてきます。

羽化したばかりのフユシャクのオス
羽化したばかりのフユシャクのオス
透き通ったガガンボの仲間
透き通ったガガンボの仲間

今回ご紹介したのは、冬を迎える前の山や生きものの表情です。これからの時期、防寒や積雪などの冬対策も必要となってくるので、事前に装備や計画などをしっかり準備して臨んでいただきたいと思います。

MAP&DATA

 

コースタイム:関川登山口~追分の分岐~摩耶山~追分の分岐~関川登山口:約4時間

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プロフィール

斎藤政広(さいとう・まさひろ) 

横浜市生まれ、山形県酒田市在住。東北のブナの森や山々をフィールドに歩き、山麓での多彩な自然との出会いを楽しんでいる。おもな著書に『鳥海山・ブナの森の物語』『鳥海山・花と生きものたちの森』『鳥海山・花図鑑』(無明舎出版)、『森のいのち』(メディア・パブリッシング)、『山と高原地図 鳥海山・月山』(昭文社)などがある。

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