残雪の愛鷹山でシミュレーション山行 バッハ/アジャスト[モチヅキ]

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今月のPICK UP バッハ/アジャスト [モチヅキ]

背面長が48cm~66cmに調整ができ、独自の2気室で容量も35Lから50Lに変更できる。ヒップベルトは取り外しが可能。4月下旬から販売開始予定。

価格:36,000円+税 / 容量:35L~50L / 重量:1.9kg /
カラー:キウイ(1色のみ)

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「アジャスト機能」で広がる可能性

山頂に着いた。水を捨てる。一気に10㎏も荷物が軽くなる。うれしい! だけど解放感と同時に味わう、この徒労感……。

今回テストしたバックパックは、アイルランドの「バッハ」というブランドだ。創業は1979年だが、日本では今年4月から本格展開される「新顔」。このメーカーには一般的な形状のバックパックもあるけれど、今回テストしてみたのは「アジャスト」という少々特殊なモデルである。

荷物をしっかりと入れた状態の「アジャスト」。ちょうど表側に見える「緑」と「黒」の生地の間が、内側の仕切りの場所になっている。

 

背面長が18cmの範囲内で簡単にアジャスト(調整)できるからこの名前なのだろうが、僕が面白いと思ったのは、内部スペースの仕切り方だ。普通の2気室のバックパックは平行にパーテーションが付けられているが、こいつは斜めになっていて、少ない荷物でも背中側に荷物の重さがかかるようにデザインされている。要するに内部で荷物が移動せず、背中側にまとまるのだ。写真でいえば、緑色の部分が上部の荷室になっていて、荷物の入れ方もアジャストできるわけである。

容量は上部スペースが35L、下部スペースが15L。内部の仕切りにはファスナーがつき、外して使えば計50Lの巨大な空間になる。

荷物の出し入れは各部のファスナーから。そのなかでもフロント部分はもっとも大きく開き、内部にアクセスしやすい

さて、こいつが活躍するのはどんな場所か? いろいろな場面で使えそうではあるが、僕がいちばん試してみたいシチュエーションは、「どこかのテント場まで大量の荷物を持っていき、テントを張って不必要な荷物を置いておき、身軽になって山頂へ往復する」。そんな「ベースキャンプ型」山行のときだった。

しかし……。テストを敢行したのは、首都圏を2度も襲った記録的豪雪のあと。通常でも雪がある季節なのに、このとき多くの山へ向かう道路は封鎖されたままで、登山口へアプローチすることができないのだ。

そこで僕が向かったのは、すでに道路の雪は解けており、登山口が開かれている静岡県の愛鷹山。正確にはいくつもの山頂を含む「連峰」で、とくに北側は富士山の景色がすばらしいのだ。テント泊をからめてのテストは難しいが、まあ仕方ない。

だが少しでもテント泊山行のイメージに近づけるようにと、同じような条件を想定して荷物をパッキングした。出発前に重さを量ると、約16㎏。軽めの荷物でそろえた1泊2日テント泊山行のときの重量と同じくらいになっている。

(写真左)上部は閉じてからクルクルと丸めて留めるトップローディング式。ファスナーもついていてモノを落としにくく、上から降り注ぐ雨にも強い
(写真右)サイドファスナーからも内部のモノを出し入れできる。ショルダーハーネスの縦長のポケットは少々細過ぎかも。チョコレートは入ったけれど、カメラやスマートフォンは無理だ。

 

斜めの気室が安定性を生む

十里木の駐車場に到着した僕は、身支度を済ませると南方向に登り始めた。向かうは山域最高峰の越前岳である。北側にそびえる富士山を背中に背負った状態が続き、僕はよい景色を眺めたいと何度も振りかえる。だが、山頂はいつまでたっても真っ白な雲に隠されたままだ。うむ~、帰るまでに見えないものかな。

背面パッドはかなり立体的で体にフィット。黄色いストラップを引けば、自分の体に合わせてショルダーハーネスとヒップハーネスの間の背面長を簡単に変えられる

背中のバックパックの感触は悪くない。それなりに重い荷物なのにハーネスが肩に食い込むこともないのだ。少し問題があるとすれば、ヒップハーネスか? 僕の身長は177cmで体重は67㎏、腰周りはガッチリとしている。それだからかヒップハーネスの長さが少々足りないようで、しっかりと腰に荷重をかけるには、左右ともにあと4~5㎝の長さがほしい。日本人よりも大柄な人が多いヨーロッパのブランドにしては、このサイズで問題ないのだろうか? 僕よりも小柄な人にはちょうどよいかもしれないけれど。

さて、やっと到着した山頂。天気もよく、遠くにキラキラと光る太平洋もすばらしい! やはり愛鷹山はよい山だ。
一息つくと、喉が渇いていた僕は、水を飲むことにした。じつはその水筒の大きさ……、なんと10L! じつはテント泊での使用をイメージするために、仮想のテント、寝袋、マットの重量分として、大量の水を運んでいたのだ。いや~、無駄に重かった。だが、ここまでくれば、昼食に作るカレーうどんの分と、今後の飲み水のために1Lほど残せば、あとは必要ない。

​ 愛鷹連峰でもっとも標高が高い越前岳(1504m)の山頂で周囲の人に記念写真を撮ってもらう。ちなみに「愛鷹山」という名前の山も、もっと海よりの南側にある

思い切って残りの水を一気に捨てる。荷物の重さが格段に減って、いい気分だ。同時にテストのためとはいえ、無用なものをここまで運んできた自分の頑張りにため息をつく。テストのために防寒着などで故意に膨らませていた荷物も圧縮し、パッキングもやり直す。そして上部スペースのみに荷物を集中させた。まさに山中での再アジャストである。

まるで別のモデルになったかのような背負い心地のバックパックを背中に、僕は次に黒岳を目指した。雪が絶妙に締まっているので、アイゼンなしでも夏道のように順調に歩けて、拍子抜けするほど快調だ。水とともに食料も減ったので、現在の荷物の重さはパックも含めて、おそらく5kg少々だろう。この程度になると、どんなバックパックでも荷物の重さはそれほど体の負担にはならない。少なくても僕はそうだ。むしろ荷物の重さよりも気になるのは、歩行中の揺れにより、内部の荷物が前後左右にブレて移動する不快感だ。いくら荷物が軽くても、どこかに重さが集中すればストレスを感じてしまう。

内部を斜めに2つの室に分け、下部の荷物をなくしてパッキングした状態がこちら。上部の荷室では、背中側に荷物が集まっているのがわかる

だが、斜めのパーテーションによって背中側に荷物を集中させる構造のアジャストは、ほとんど荷物のブレを感じさせない。水と食料が減ったとはいえ、バックパック内部にはバーナー&クッカー一体型のジェットボイル、10本歯アイゼン、ツエルト、ファーストエイドキットなど形状や重さがさまざまに異なるギア類が入っている。だが、それらが移動したり、ぶつかり合って嫌な音を立てたりすることもない。よくできているではないか。

下部に荷物を入れず、フロントのファスナーを閉めるとこんな具合に。ストラップをもう少し工夫して、よりコンプレッションできるとよさそうだ

ただ、サイドのコンプレッションストラップによる引き絞りには限度があり、もっと荷物が少ないと荷物の移動はいくらかありえるだろう。また、まったく荷物が入っていない下部スペースもストラップで引き絞り切ることができず、生地が無用に緩んでしまっている。だが、他のモデルよりもアジャストが荷物の増減に対する収納性で秀でていることは間違いないようだ。

僕はそこから先にある富士見台、黒岳展望広場、さらには黒岳山頂からも、左右に裾野を広げる富士山をはっきりと見ることがなかった。少々気落ちして、林道へと下山する。だがマイカーできていた親切な登山者が声をかけてくださり、バスを待たずに十里木の駐車場まで乗せて行っていただけることに。さらに駐車場に戻ると、とうとう富士山の姿がすっきりと目の前にあるではないか!テストした製品も調子がよく、日帰りとはいえよい山行になったのでありました。

十里木の駐車場へ戻ると、富士山の姿がクリアに出現! 宝永山の火口の様子もよくわかり、ずっと眺めていても飽きない風景だ

プロフィール

高橋 庄太郎

宮城県仙台市出身。山岳・アウトドアライター。 山、海、川を旅し、山岳・アウトドア専門誌で執筆。特に好きなのは、ソロで行う長距離&長期間の山の縦走、海や川のカヤック・ツーリングなど。こだわりは「できるだけ日帰りではなく、一泊だけでもテントで眠る」。『テント泊登山の基本テクニック』(山と溪谷社)、『トレッキング実践学』(peacs)ほか著書多数。
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高橋庄太郎の山MONO語り

山岳・アウトドアライター、高橋庄太郎さんが、最新山道具を使ってレポートする連載。さまざまな角度からアウトドアグッズを確認し、その使用感と特徴を余すことなくレポート!

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