読書の秋。秋の夜長に、一人でひっそりと山に入ってみたくなるような本を読んでみる

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秋の夜長のお供に、山の本を開いてみてはいかがだろうか。山、登山に関する本は数多いが、今回はその中から「単独行」、一人で山に行く話にまつわる書籍を紹介。行間から、ソロ登山の魅力を感じてみてみよう。

文=麻生弘毅

つい1ヶ月前くらいの酷暑はどこへやら、すっかり涼しくなった。秋は何かを楽しむのにベストな季節。スポーツの秋、食欲の秋、そして「読書の秋」だ。

読書習慣がないというユーザーも、たまには本に触れてみる機会を作ってみるのもいかがだろうか。ここでは登山の中でも「単独行」をテーマとする書籍をいくつか紹介する。

 

果てしなき山稜 襟裳岬から宗谷岬へ

志水哲也 著 山と溪谷社/ヤマケイ文庫 950円+税


「ああ、一人なんだ。生きてたって、死んだって一人なんだ」

16歳で山に出会い、2年後には北アルプス全山単独縦走。20~21歳にかけて黒部流域のすべての渓を遡るとともに谷川岳一ノ倉沢の衝立岩を、さらにはドリュ南西岩稜の単独登攀。

ところが、登山を重ねるほどに感動は色褪せ、一度は就職したものの、ふたたび完全燃焼できる生き方を山に求めた28歳の青年が、冬の襟裳岬から厳冬の日高山脈、大雪連峰を越え、宗谷岬へと北海道の脊梁山脈を旅した5カ月の記録。

強靱な肉体は極寒の山という非日常を日常となすが、魂は居場所を求めてさらに彷徨う――そんな揺れを執拗に描いている。山は逃げるものかもしれない。それは時間が理由ではなく、情熱のありようによって……二度とできない旅があるという事実を、本書は教えてくれる。

 

渓谷登攀

大西良治 著 山と溪谷社 3500円+税


「希うのは、心の弱さに打ち勝ち、すべてを自己完結できる力を得ること」

国内外の名だたる渓を登攀し、また、人跡未踏のゴルジュを探り、下降するキャニオニングの壮絶な記録を集めた一冊。

大滝の飛沫を孕んだ爆風や魑魅魍魎が宿るようなゴルジュの息吹をとらえたリアルな写真と簡潔で美しい文章により、読み手のこちらまで思わず息を止めてしまうような現場の空気感を再現している。

一騎当千の仲間と力を合わせて困難を切り抜ける海外の記録も読み応えがあるが、白眉は単独で行なう、ひりひりとした手触りの国内の登攀。なかでも、足かけ6年、合計48日をかけた称名川の遡行を終え、わずかに胸の内を漏らした一文が印象的。信じる道に誠実に生きた人に灯る美しさ・・・・・・、そんな何かにあふれている。

 

ひとり登山へようこそ 女子のための登山入門

鈴木みき 著 平凡社 1200円+税


「私はこの木でこの花で――、つまり山では私はすべてになれて何ものでもありません」

これからひとり登山を始めようという初心者の背中をやさしく押してくれる一冊。行き先の決め方や実際の歩き方、道具選びのコツや山の紹介、女性ならではのあるあるや注意点、醍醐味などをわかりやすく紹介している。

ポップな絵柄とわかりやすく丁寧な構成の狭間に現われるのは、「ひとりで山に向き合いたい」という根源的な欲求への考察。内臓をさらけ出すように心の奥底を見つめ、誰もが奥底に秘める感情を笑いにくるんでさらりと表現する「鈴木みき節」は、ビギナーの女性はもちろん、山好きのお父さんをも唸らせる。

 

山わたる風

伊藤健次 著 柏艪舎 1800円+税


「私たちはこうやって生きている。お前はどう生きるんだ?大きな茶色の背中は、いつも力強く問いかけてくる」

ぽっかり空いた穴からのぞく雪解けの森。それは、クマの冬眠穴から春の訪れを写したもの・・・・・・。そんな不思議な一葉から始まる写真集。

著者の伊藤健次さんは、北海道の大地を広く、深く旅し、野生の生命力や土地の記憶を記録する写真家。樹穴から顔を出し、あくびをするクロテンや子どもに乳を与えるヒグマの母親の姿などを収めた写真や、自然の意志を翻訳するような言葉に触れていると、森に棲まう一頭が、気心の知れた仲間の姿を紹介しているよう。やがて読み手も小さな獣になり、ひとり臆病に、けれど勇敢に森を歩きだす――、そんな一冊。

 

『失われた記録 立田實の生涯』

遠藤甲太 著『登山史の森へ』より 平凡社 2800円+税


「十九歳と別れる歳となったので、青春を一人で祝って、厳冬の知床を登り、四月初めに一ノ倉をやったんだ」

登山史に埋もれた希有な記録に光を当てる『登山史の森へ』に収録された謎多きクライマー・立田實に触れた一節。1937年生まれの早熟な登山家は19歳で一ノ倉沢南陵などの単独初登を成し遂げるが、記録を伏せる。

その後もヨーロッパアルプスや北極圏の山々を単独登攀し、シェルパに紛れてエベレストに潜入、単身サウスコルの先へ・・・・・・、そして45歳で亡くなる前に、山行記をすべて焼却したという。

孤独を表現するという矛盾は、彼の美学に反するのか。「真の単独行者は、おそらく表現行為の彼方を歩き、表現行為の彼方に攀じる」

 

上記の本を読んで、是非単独行の良さを感じていただけたらと思う。

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