チェーンスパイクとトレッキングポールで冬山登山を楽しもう!【前編:どんな服装でどの山に登る?】
今年もスタートした冬山シーズン。「冬山」=アイゼンとピッケルで登る「本格的な雪山」と思われがちですが、実は雪が降らない冬山もあるし、雪が積もっていてもアイゼンとピッケルを使わずに登れる冬山もあるんです。今回は本格的な雪山とは違う、チェーンスパイクとトレッキングポールで楽しめる冬山の歩き方を、前後編に分けて紹介します!
文=吉澤英晃
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教えてくれたのは、東京都三鷹市にある登山用具専門店ハイカーズデポの店主、土屋智哉さん。前編では「登れる山と最低限必要なウエア」について聞きました!
アイゼン・ピッケルなしで登れる「冬山」って?
危険を知ることがスタートライン
――以前、お店で土屋さんが「アイゼンとピッケルがなくても登れる冬山はいっぱいあるのに」と話していたのが記憶に残っていて、私も「その通り!」と心の中で合点しました。でも「具体的にどこにあるの?」と聞かれると答えに窮してしまうんです。
まずは冬山の危険を見直しましょう。そうすればアイゼンとピッケルが要らない=チェーンスパイクとトレッキングポールで楽しめる冬山が見えてきます。
冬山に潜む3つの問題
冬山にはまず「寒さ・時間・雪の問題」があります。
1.寒さの問題
これはすべての冬山に関わることで、防寒対策が欠かせません。
2.時間の問題
冬山は、雪がある、地面が凍結しているなどの理由から、コースタイムが夏山の1.5倍以上はかかると思った方がいいでしょう。さらに冬は日が短いので、一度トラブルに陥ると明るいうちに下山できない可能性が高まります。
3.雪の問題
雪の上を歩くには相応の道具が必要で、雪上歩行のスキルが欠かせません。踏み跡がなければラッセルをする体力、さらに進路を誤らない読図技術なども必須です。
――やはり冬山は夏山以上に危険が多いですね。
ただし、冬山=危険でまとめるのは早計です。冬山といっても個々に条件が異なるので、ここでは雪の問題で冬山のレベルを別けて考えてみましょう。
冬山のレベルはおおむね3つに分けられる
1.雪の問題がない冬山
冬でも雪が降らない山です。地面の凍結は考えられるけど、もちろんアイゼンとピッケルは必要ない。こういった山は伊豆半島や東北地方の太平洋側にあって、これも冬山登山のひとつです。
2.雪上歩行の技術が多少は必要になる冬山
これがしばしば聞かれる、雪はあるけどアイゼンとピッケルがオーバースペックになるような山です。冬山初心者の方が登りやすい冬山と言えるでしょう。
3.雪上歩行の技術が必須になる冬山
これが多くの人がイメージする本格的な雪山です。ここではアイゼンとピッケルを用意して、それらを使いこなすスキルが必要。もっともハードルが高い冬山になります。
――こう考えると、①と②が冬山初心者でも計画しやすく、チェーンスパイクとトレッキングポールで楽しめる冬山になりますね。ただ②に該当する山が漠然としていて、ちょっとわかりづらいです。
森林限界以下から、さらに登りやすい山を絞る
雪があっても滑落の危険性が少ないという理由から、まずは森林限界以下の山に限定されます。関東だとおおむね標高2000m以下を目安に考えるといいでしょう。こういった山は風を避けることができて、標高が低いので低体温症に陥る心配も減ります。東京近郊では奥多摩、大菩薩、丹沢などに多いですね。
ただし森林限界以下の山でも雪が多い山域だと、ラッセルを強いられて予定以上に時間がかかる可能性が高く、道迷いの危険性も増すので、冬山初心者の方にはおすすめしません。とはいえ雪が少ない山域でも降雪直後に入山すれば踏み跡がない可能性はあるし、同じく道迷いの危険性が高くなります。
こういった危険を回避するためにさらに的を絞ると、チェーンスパイクとトレッキングポールで登れる冬山はこのようになります。
- 森林限界以下の標高(関東だと2000m以下)
- 雪が少ない山域
- 多くの人が歩く人気ルート
- もしくは、一度登ったことがあり夏道の状況を把握しているルート
(※初見のマイナールートなら、馴染みがあって山道の状況をイメージできる山域から選ぶ)
必要なウェアは?
――対象となる山が具体的にイメージできるようになりました。 次にウエアについて聞きたいのですが、そういった冬山を登る場合も、夏山用の服ではだめでしょうか?
最低限しっかりした雨具とダウンジャケットを準備すればOK
夏山の服しか持っていなければ、基本となるベース・ミドル・アウターレイヤーのレイヤリングで、ベースレイヤーの上に薄手のフリース、そしてしっかりしたレインジャケットを合わせるのがいいと思います。
――レインジャケットでもいいのですね。ハードシェルジャケットは要らないですか?
ハードシェルジャケットは生地に厚みがあって、ヘルメット対応フードやパウダースカート、グローブを収納できる大型ポケットなどを備えているのが一般的な特長といえます。でも森林限界以下の冬山ではそこまで必要ありません。天候判断さえ誤らなければ、しっかりしたレインジャケットで充分対応できます。
レインジャケットの“しっかり”具合は重量で見極める
――“しっかりした”というのを具体的に知りたいです。
市場にあるレインジャケットは300g以下のモデルが大半なので、300〜250gくらいの重さであれば“しっかりしている”と言えるでしょう。これよりも軽量で生地が薄いモデルは、風を受けて肌に触れると寒く感じてしまうのでおすすめしません。
さらに踏み込んで話をすると、透湿性が高いレインジャケットは内側に湿気がこもらず気化熱で体温も一緒に奪われてしまうので、避けた方がいいかもしれないですね。
ダウンジャケットの保温力も重量で見極める
しっかりしたレインジャケットに加えて、動かないで休憩しているときは誰でも体が相当冷えるので、温かいダウンジャケットも準備しましょう。
――ダウンジャケットもレインジャケットと同様に目安になる重さはありますか?
封入されているダウン量が100〜150gくらいで、トータルで300gくらいのモデルであれば保温性は充分だと思います。化繊綿のジャケットでも同様に300gくらいの重さがあるといいですね。
パンツは夏山用のトレッキングパンツ+タイツでOK!
――パンツには何をはいたらいいでしょう?
夏山で使っていたトレッキングパンツが使えます。そして寒さ対策のためにタイツをはきましょう。防寒を意識しすぎると行動中に熱くなり過ぎてしまうので、タイツは薄手か中厚手くらいがちょうどいいです。防水と防寒用にレインパンツも持っていきましょう。
もし寒かったら無理せず下山しよう
――ひとまず教えて頂いた服装で森林限界以下の冬山に登ってみて、寒さを感じたらどうしたらいいですか?
もし寒いと感じたら無理せずにダウンジャケットなどで体を温めてから下山しましょう。そして次回に向けて新しく冬山用のウエアを買ってください。このプロセスを積み重ねて必要なウエアにたどり着くのが理想的かなと思います。ここから先の話は歩くペースや寒さに対する感覚などに左右される部分が大きいので、専門店のスタッフに個別に相談した方がいいです。
このとき寒いと感じた当時の気温を計っておくとアドバイスしてもらうときに役立ちます。自分の寒さに対する感覚が客観的に分かるし、次回から服を選ぶときの参考にもなるので、日頃から気温を計って情報を蓄積しておくといいでしょう。
――冬山は莫大な初期投資が必要な山登りだと思っていましたが、これなら低予算ではじめられそうです。次回はチェーンスパイクやシューズ、手袋について教えてください!
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プロフィール
土屋智哉
1971年、埼玉県生まれ。古書店で手にした『バックパッキング入門』に魅了され、大学探検部で山を始め、のちに洞窟探検に没頭する。アウトドアショップバイヤー時代にアメリカでウルトラライトハイキングに出会う。このムーブメントに傾倒し、自らの原点でもある「山歩き」のすばらしさを再発見。2008年、John Muir Trailをスルーハイクしたのち、幼少期を過ごした三鷹にウルトラライトハイキングをテーマにしたショップ「ハイカーズデポ」をオープンした。シンプルなハイキングスタイルと奥多摩・奥秩父の魅力を伝えようと奮闘中。著書に『ウルトラライトハイキング』(山と溪谷社)。
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